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第30話 初めての休日


 みなさんは労働基準法というものをご存知だろうか?日本では労働をさせる際に時間あたりの最低限の賃金、月あたりの最大労働時間および残業時間が定められている。これらに違反した場合、雇う側の企業が罰を受けることとなる。


 さて、今の俺の労働時間は以下の通りである。朝の5時ごろに屋敷にて起床し、サリアとマイルと一緒に朝食を作る。食事をみんなでとり、片付けをした後は屋敷の仕事を手伝った後に午前中の鍛錬(職業上必要な訓練や学習は労働時間に含まれる)、午後は工場の様子を見に行きそのまま工場の作業を手伝う。


 夕方ごろに屋敷に戻り屋敷の仕事の手伝いと午後の鍛錬。全ての仕事や鍛錬が終わるのが21時、そこから2〜3時間ほどが自分の時間でのんびりと過ごして遅くとも23時までには就寝といった流れだ。


 ……ブラック企業なんてものじゃない、漆黒企業である。一日あたりの労働時間16時間、一日の基本労働時間を9時間とすると一日あたり7時間の残業で30日休みなしなので一月あたり210時間の残業時間である。


 ……いや待て、まだあわてるような時間じゃない!なにせ衣食住が保証されている。執事服や作業服は全て雇い主から支給されている。


 食事は日に2回で昼には軽食、しかも雇い主と同じで普通に暮らしているよりも豪華な食事である。部屋は小学生ほどの男の子と2人で一部屋だがそこそこ広い上に贅沢にも1人1台のベッドがある。


 それに何と言っても可愛らしくて優しい雇い主、厳しくも頼りになる上司達、幼くもしっかりと仕事をこなす後輩達、あといろいろと仕事を増やしてくれるが魔法だけは頼りになるメイドさん。なんだ、いい職場じゃないか!

 

 それにですよ、これだけ働いてなんと給料は0円、残業200時間超で給料0円なんですよ、これが!


 ……試合終了である。だが驚くことなかれ、今の職場はこの奴隷業界ではトップクラスのホワイト企業らしい。他の企業ではぼろぼろの服にひどい食事、眠るのは当然のように地べた、睡眠時間以外は全て労働という地獄そのもののような職場がほとんどらしい。


 みなさんは絶対にこの奴隷業界には入ってはいけませんよ。




 閑話休題。


 とまあなんだかんだ言ってはみたが、俺は今の生活を気に入っている。


 確かに元の世界の高校生の時の生活と比べれば遥かに忙しいが、やりがいのある仕事だし、身体もかなり鍛えられてきた。物を作ったり自分で新しい料理を作ったりと充実した生活を送れている。


 そしてついに今日はエレナお嬢様の屋敷に暮らし始めてから初の休日をいただいた。……普通に考えれば3〜4ヶ月ではじめての休みとかおかしいんだけどね。まあ何度か優しいエレナお嬢様は気遣って休むように言ってくれたんだけど仕事も鍛錬もいい感じだったから自分から無理して頑張ったんだよな。


 今は工場も俺がいなくてもみんなちゃんと働いてくれるし、鍛錬も慣れてきてそれほど辛くはなくなってきた。ある程度生活のリズムが落ち着いたのでこのタイミングで休みをもらうことにした。


 とはいえ休みをもらってもすることないんだよな〜とりあえず外出の許可ももらったので一人で街に来ていた。




「お姉さん、やっぱり今日も醤油はないですか?」


「あら、ユウキちゃんじゃない。珍しいわね、今日は一人?一応探してるけどまだ見つからないわね、そもそもあんまり出回ってるものでまないし」


 街ではじめての味噌を買ったお店に来ている。あれから何度かアルゼさんとこの店に買い物に来ており今では結構な常連さんだ。味噌だけではなく珍しい調味料をいろいろと扱っている。


 今日も看板娘の獣人のお姉さん(40歳過ぎ)は元気に店番をしている。


「やっぱり今日も醤油はないですか、そろそろ見つかるといいんだけど。今日は初めて休みをもらいましてね、一人で街をぶらぶらしています」


「へえ〜、買われてからこんなに早く奴隷に休みをくれるなんていいご主人様じゃあないかい!」


 まあやっぱりこれがこの世界の普通の反応なんだよなあ。普通の奴隷にまともな人権なんてなさそうだし。


「ええ、俺にはもったいないくらい素晴らしい主人です。でも逆に休みの日にしたいことも無いんで何をしようか悩んでます」


「ははっ、そりゃ贅沢な悩みだね。そしたらこの街をいろいろと回ってみるのはどうだい?この街はものすごく広いからまだあまり回れてないでしょう?なにせ一つの街に領主が3人もいるくらいだからね!」


 その領主のうちの一人の奴隷です、とは言い難い雰囲気だな。一度会っているんだけどエレナお嬢様はまだ領主になったばっかりなので街の人たちにまだあまり顔を覚えられていないんだよね。


「確かにまだあまり街をまわれてないですね。よし、今日はいろいろと街を回ってみます!」


「あいよ、最近治安はいいけど気いつけなよ」


「ありがとうございます、また来ますね!」




 おお〜こっちはのほうはまた賑やかだな。

 

 俺は今、この街のエレナお嬢様の領地のとは別の領地に来ている。この街はあまりに大きいので3つの大きなエリアに分かれている。エリアの境目には広い道があり、治めている領主が違うせいか、道を挟んで街並の雰囲気もガラッと変わっている。


 建物の造りなんかは例えるならこっちのエリアは洋風、こっちのエリアは和風みたいな感じだ。この分ならもうひとつの領地の街並みもふたつの領地と別物なんだろうか。


 ちょっと小腹が空いたので広場にあった屋台に寄ってみた。この店では串焼きを出しているらしい。


「串焼き一本お願いします」


「あいよ、串焼き一本ね。おっと、珍しいなにいちゃん、奴隷のくせにそんないい格好しているのか?」


 やっぱり奴隷でちゃんとした執事服って珍しいのか。ここにくるまでに結構な数の人にジロジロとみられていたのは執事服だからというよりそっちが原因だろう。


「主人がとても優しいかたですので。俺以外の奴隷にも綺麗な服を着せてくれるんですよ。そういえばここ最近の景気はどうですか?」


「今時珍しくいい主人じゃねえか、しっかりと仕えてやれよ。あいよ、串焼き一本おまち!


 景気ねえ、なんでも隣の領地に新しい屋台ができたみてえでちっと売り上げが落ちてんなあ。俺も一度食いに行ったが確かにありゃあうまかったわ。


 うちも負けてらんねえからな、今まで串焼き一筋だったが今新しい料理を作ってんだ。もう少ししたら売り出すからよ、にいちゃんもまた食いに来てくれよな」


「ええ、また来ますよ、ありがとうございました!」


 広場の隅の椅子に座って串焼きを食べてみる。うん、こりゃうまい!シンプルに塩のみの味付けだが肉自体が相当うまいのだろう。やはり肉の味は元の世界よりもこっちの方が上のようだ。これなら新作の味も期待していいかもしれない。


 それにしても店の売り上げが下がっているかあ。あまり深く考えていなかったけど当然同じ業種の店は売り上げは少し落ちるよなあ。


 調子に乗ってトンカツ、コロッケ、天ぷらとか揚げ物を連発しないでよかった。お金を稼ぐのも大事だが、敵を作ったり利益を独占するのは本意じゃない。あくまで街全体の景気を上げることを考えていかないとな。


 ……てか休みの日にも仕事のことばっか考えているな。社畜街道まっしぐらな気がする。いかんいかん、せっかく久しぶりの休みだ、もっと楽しいことを考えよう。よし、このままもうひとつの領地にも行ってみるか。




 この街は大きな円型で円の周りに高い城壁が街をぐるりと囲んでいる。円の中心へ行けば行くほど身分の高いものが暮らしており、反対に円の外へ行けば行くほど身分の低いものが暮らしている。街の外側の大通りを少し外れればスラム街のような治安の悪い場所となっている。


 この街の領主の1人であるエレナお嬢様のお屋敷は当然この街のほぼ中心部にある。ちなみに工場はやや外側よりに位置している。今日はやや中心部よりに来ているので道を歩いている人もそれとなく良い身なりの人が多い。


「なるほど、やっぱりこっちの領地の方が少し賑わっている気もするなあ」


 もうひとつの領地に行く前に今いる領地で一番でかいと聞いている市場に俺は来ている。エレナお嬢様の領地よりも店や人が多く活気がある気がする。いろいろと新しいものを売り出し始めてきたものの、まだそれほど時間は経っていないからな。


 それにしてもこれはすごい、華やかな街並みと様々な格好をした人達、見ているだけで楽しくなるな。初めて海外とかに行ったらこんな気持ちになるんだろうか?


「……てかここどこだ?」


 あまりに賑やかな雰囲気で気分がハイになっていた。知らず知らずのうちに大通りを外れていたようだ。ちょっと路地裏の方へ行ってみようかと更に一本道を外れただけで一人も通らない道に出てしまった。


 やべ、一気に冷静になってきた。誰かに絡まれても面倒だしさっさと大通りへ戻ろう。さすがに来た道くらいは覚えているので引き返して元の大通りへ戻ろうとする。


「ああん、てめえ今なんつった?」


 いきなり野太い怒号が少し先の路地から聞こえてきた。やべえな、チンピラ同士の喧嘩か何かか?巻き込まれたくないんだけど気にはなる。路地の角から様子を伺ってやばそうなら即離脱だなこれは。


 路地の角から様子を伺ってみると、どう見てもチンピラ風な男3人がこんな路地裏に似合わない身なりをした女性1人を囲んでいる。そもそもこんな路地裏で宝石の散りばめられたドレスを来ている時点で絡んでくれと言っているようなものである。


 これはあれだな、どう見てもここで女性を助けに入ってフラグを建てるやつですね、わかります。




 女性は俺よりも少し年上だろうか。女性にしては背が高くすらっとした綺麗な足が長いドレスの下から見えている。シャンプーもリンスもないこの世界でも美しく輝く金髪のロングヘア。


 そしてシェアルさんほどではないが大きな胸、かなりスタイルの良い女性である。そしてなんといってもその美しさたることや、元の世界のトップアイドルやトップモデルと言われても信じられるくらいの美しさだ。


 それにしてもあんなあからさまな悪党みたいなやつら3人を前にして凛とした態度を崩さないなんてもしかしてすごく強かったりするのか?いや違う、よく見たら足が震えている。これは早く助けに行かないとまずいな。


「お嬢様〜、大変遅くなってしまい申し訳ありません!おつかれでしょう、早く屋敷へ戻りましょう」


「ああん?」


「なんだお前?」


「これは大変失礼致しました。私お嬢様のお世話をさせていただいておりますリールと申します。この度はお嬢様が大変なご迷惑をおかけしたご様子で。お嬢様に代わりまして謝罪致します、どうか許していただけないでしょうか?」


 とりあえず思いっきり下手に出てみて相手がどうくるか様子を見てみよう。俺が持っている程度の金銭で収めてくれるならそれでいい。世の中暴力だけで解決するのは良くない。決して俺がこの3人にビビっているわけではないからな! 決してだからな!


「はっ、世話係とか本当にいいご身分じゃねえか。こんな路地裏で身なりのいい格好してたらあぶねえぞって忠告してやって、大通りまで案内してやろうかと聞いただけなんだけどよ。そしたらこのくそ女、散々俺らのことを馬鹿にしやがって。


 あんたも世話係ならちゃんとしつけておけ!ああもういい、世話係が来たんなら道はもう大丈夫だろ、お前らとっとと行こうぜ」


「ったくよお」


「もっとちゃんと躾けておけよ!」


 あれっ、金とか理不尽な要求とかしてこないぞ。いろいろと因縁つけられて最終的には暴力で来るかなと思っていたけど意外と良い人達なのかもな。この女性も見た目でこの3人を判断してしまって必要以上に怖がっていただけなのかもな。


 やっぱり暴力は良くないよね。世の中ラブアンドピースだよ。


「はい、大変失礼致しました。お嬢様にはこちらからきつく言っておきます。本当にありがとうございました」


「こっちのやつはまともじゃねえか。ここらはあまり治安も良くねえからよ、てめえらもさっさと移動しとけ。こっちの道をまっすぐに行きゃすぐに大通りに出れるからよ、じゃあな」


 おおっ、道まで教えてくれた。なんだやっぱりいい人達じゃないか。さあ、この人達が行ったらとりあえずこの女の人を連れて大通りに戻ろう。


「さっきから何をごちゃごちゃと話しているのじゃ!奴隷ごときと平民が妾を無視するでない!そこの平民、道を知ってるならさっさと教えんか!」


「……………」


 ……ええ〜今の話の流れでそういうこと言いますかね?


「ああっ!?」


「てめえ、今なんつった?」


 いやそりゃ怒るよね、せっかく親切にしてくれたのにこんな言われ方されたら。


「はっ、薄汚い平民風情が妾に話しかけるでないわ!さっさと道だけ言えばいいものを!」


「てめえ、女だと思って我慢してりゃあ、いい加減にしておけよ!」


「ふん、平民ごときが妾に少しでも触れてみよ、この街から追放してくれる!おいそこの奴隷、さっさとこいつらを罰を与えよ!」


 うわあ典型的な高慢な貴族ってやつか。外見は綺麗でも性格はマジで最悪だな。しかも俺がこいつの奴隷だと本気で思っていやがる。自分の奴隷の顔すらも覚えていないような主人かよ。


「………………」


「何をしておる、さっさとせんか!早くせんとお前にも奴隷紋の罰を与えるぞ!」


 しかも簡単に奴隷紋による罰を与えるなんて言いやがって。どこかのキラさんじゃないけど女を殴りたいと本気で思ってしまうな。


 どうするかな。心情的にはこっちの男3人を味方したいんだけどさすがに暴力はまずいよなあ。どこかの貴族っぽいし、最悪エレナお嬢様に迷惑がかかるなんてこともあるかもしれないし。


 よし、ここはなんとか平和的に終わらしてもらおう。


「……お嬢様、失礼致します」


「何をしてるのじゃ、なぜ妾の頭に手を乗せる?早くこいつらに罰を与えんか!」


 俺はこの女の頭に手のひらを乗せる。サラサラとした綺麗な髪だがそんなことはどうでもいい。頭ぽんぽんのとか女の人にするのは初めてだな。そしてそこからの……


「いたたたたた!痛い、痛いのじゃ!」


 強制的に頭を下げせる。んっ、暴力反対?いやこれはただの躾で暴力じゃないから。


「この度はお嬢様が大変失礼なことを申し上げてしまいすみません!お嬢様もこの通り頭を下げております。どうかお許し下さい!」


「はあ!?何を言っておる、妾がこんなやつらに頭など下げるわけが……って痛い、痛いのじゃ!」


 更に手に力を込める。いや女の子に相手に暴力なんて振ってないよ、ただの躾だよ。


「何ならもっと頭を下げさせますのでどうかお許しを」


 俺は更に頭を下げさせる。これだけ頭を下げさせても倒れずに立てているなんて無駄にプライドだけは高いな、このお嬢様様は。


「おっ、おう。もう分かったから手え離してやれや」


「まっ、まあこれからは気をつけろや」


 あれっ、なんか物凄く引かれてるんだけど。まあ普通は貴族とかにこんなことしたらまずいよな。どうせこの女の人にはもう二度会うことなんてなさそうだし大丈夫だろ?


「本当ですか!ありがとうございます。ほら、お嬢様もお礼を言って下さい」


「なぜじゃ、なぜ奴隷紋の力が効かぬ?こんな奴らに妾が礼など言うわけが……のわ〜やめるのじゃ〜」


 ぶんぶんと頭を振らせて感謝の気持ちを表現してみる。あれ、なんか少し楽しくなってきたぞ。


「あんた本当に後で大丈夫かよ……それじゃあ俺達はもう行くからよ。あんたもいろいろ大変そうだけど頑張れよ」


 俺の心配までしてくれている。うん、やっぱり3人とも見かけによらずいい人達じゃないか。


「はい、道まで教えていただいてありがとうございました。ほら、お嬢様も頭を下げて!」


「………………」


 返事がない、ただの屍のようだ。頭をシェイクしすぎたせいかぐったりとしている。まあまたいろいろとわめかれるよりはマシか。


「お嬢様も感謝しすぎて言葉も無いようですね、本当にありがとうございました!」


「……まああんたがそれで押し通すんならそれでいいけどよ。じゃあな、あんま無茶すんじゃねえぞ」


「うっし、さっさと酒でも飲みに行くべ!」


「兄ちゃんも気をつけろよ、じゃあな!」


 そう言うと3人は大通りの方へ去っていった。


最後まで読んで頂きまして誠にありがとうございます^ ^


【評価】と【ブックマーク】を何卒よろしくお願いしますm(_ _)m


誤字脱字、日本語のおかしいところがありましたら教えて頂けると非常に嬉しいです( ^ω^ )

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