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第29話 真の酒飲みによるテスト


 工場が稼働し始めてから3日がたった。リバーシと将棋に関してはすでに商品として販売できるレベルのものができ始めている。というのも子供2人が問題なく作業ができて、おじいちゃん二人とおばあちゃんの手先がものすごい器用であったおかげである。


 リバーシと将棋を作る上で一番難しいと思っていた作業は、将棋の駒に絵を描くことと形を細かいレベルで同じ形に均一にすることであった。こればっかりは練習を重ねることで上手くなってもらうしかないと思っていたが嬉しい誤算だった。


 今はおじいちゃん2人で木を切り出してもらい大まかな駒と台を作る。そのあと男の子がヤスリで削り形を整える。最後におばあちゃんと女の子で絵をつけてもらい仕上げにニスもどきを塗るといった流れだ。


 ある程度在庫がたまってきたらランディさんを通して商会で販売してもらう予定だ。


 そして蒸留器のほうはというと


「いかがでしょうか、アルゼ様?」


「……ふうむ、屋敷で作っていた試作品よりも僅かだが更に酒精が強くなっているようだな。何か構造を変えたのか?」


「いえ、構造的にはほとんど変えてないんですけどどうしてでしょうかね?試作品から変わったところといえば加熱部分をシェアル師匠の魔法から温度調節をできる装置に変えたくらいですかね」


「………………」


「………………」


 多分そこだろうな。シェアル師匠、細かな魔法の調整とか苦手だから。おっとやばいやばい、ちゃんとフォローしておこう。


「いえ、多分俺が作った試作品よりもロー二、モラムさん、ガラナさんが作ってくれた蒸留器が良かったんですよ!それに量を増やしたおかげで味が良くなったのかもしれませんし!」


「……まあいい。味が良くなっているなら問題などない。あとはこの蒸留器を大量に作り、どの酒をどれ程の温度でどれだけやるかを調べるだけだ」


「そうですね、とりあえずこの試作品は決定にしてもあと1〜2種類は欲しいですよね」


「何を言っている、少なくとも10種類は作るぞ!そうと決まれば早く増産体制に入れ。それと他にうまい酒の作り方は知らないのか?知っているのだろう?さっさとその作り方も教えろ!」


 またアルゼさんの暴走が始まった。相変わらず酒のことになるとだめだな、このじいさん……


「ストップ、ストーップ!落ち着いてくださいアルゼ様。いきなり10種類とかは無理です!蒸留器も人手もまだ全然足りませんよ。とりあえず2〜3種類を売り始めてその売れ行きを見てから種類や人手を増やしていきましょう。あとさすがにこれ以外のうまい酒の作り方なんてしりませんよ」


 さすがに酒の作り方なんて異世界もので知った蒸留酒くらいしか知らんぞ!日本酒とか焼酎ってどうやって作るんだっけなあ。米と麹が材料ってことくらいしか覚えてない。


 某発酵漫画をもっとよく読んでおけばよかった。酒の作り方よりもオリゼーとかアセチとかトリコイデスとか菌の名前しか覚えてない。


「……ふむ、やむなしか。ならば今の人数で回せるだけの蒸留器を作れ。何パターンかに分けて保存分も作らんといかんからな」


 今の人数で回せる分だと蒸留器が3台分くらいかな。実際に酒を蒸留器にセットして蒸留するのは3人でしかできないからそんものか。商品にするために樽に詰めるのも結構な重労働だもんな。


 ちなみに労力の中にはロー二もしっかりとカウントされている。見た目の小柄な外見とは異なりかなりの力持ちだ。本人に聞いたらドワーフという種族は女性であっても人族の男性と同じかそれ以上の力を持っているらしい。ドワーフおそるべし……


 こうして考えると犯罪奴隷であってもモラムさんとガラナさんを買ったのは正解だった。あんまり深く考えてなかったけど酒造りって結構な重労働なんだな。理科の実験レベルの試作品ではわかっていなかったようだ。


「わかりました。あわせて貯蔵分も作り始めていきますね。俺もよくは知らないんですけど蒸留酒は寝かせれば寝かせるほど強さだけでなく味に深みが出て香りが豊かになっていくらしいですよ」


「……ほう、これ以上の味が出るのか、待ち遠しいな」


 酒の味を想像しているのかアルゼさんが遠い目をしながら惚けている。確か蒸留酒は寝かせれば寝かせるほど熟成され、樽の木の香りが移り味が良くなるはずだ。というより元の世界の蒸留酒は基本的には何年か寝かせたものを飲むもので作ってすぐの蒸留酒はあまり飲まれないものだ。


 今回は香りの良いらしい木の樽を何種類か使い地下に作ってある貯蔵庫に保管しておく。こう考えると酒造りって金がかかりすぎるよな…


 しかも作ってもすぐに売れるわけではないし。ランディさんから初期投資分のお金をもらっていなかったらとてもじゃないができなかった。


「それでひとつ今後のことでご相談があります。これから蒸留酒を作っていくわけですが、俺には酒の味がわからないので味見係が必要です。


 さすがにアルゼ様に毎日工場に来てもらうわけにはいかないですし、この蒸留器を作ってくれたこの3人がお酒を飲めるそうなんでお願いしたいのですがよろしいですか?」


「別に毎日来ても良いのだがな。……それにしても奴隷にか」


 毎日来てもらっては困る。あなた俺より忙しいでしょうが。


「もちろん奴隷紋の力で必要以上の量は飲めないですし、お酒の管理もしっかりとさせます。それに自分たちがどのようなものを作っているか知ることでやる気も出るし、これ以上のものを作ることができる発見もあるかもしれません」


 実際にこの試作機を作るためにこの3人はとてつもなく熱心に働いていた。目の前にニンジンをぶら下げられた馬状態だった。まあ奴隷で酒が飲めるあるならアルゼさんは放っておいたら毎日試飲するために工場に来れるかもしれないが、その時間がもったいない。


 酒についてはダメなおっさんで忘れそうになるが、この人は物凄く有能な執事なのだ。


「……ふむ、ならばテストをしてみよう。おいそこの3人、こっちにこい」


「はいだ!」


「「………………」」


 あれ、ロー二の返事がいいのはいつものことだがモランさんとガラナさんが悪態をついてこない。そういえばこの2人はアルゼさんが物凄く強いことを知っているもんな。ガラナさんに至っては瞬殺でやられていたし……


 3人が前に出てくる。アルゼさんは3つの小さなコップに蒸留酒を少しずついれる。


「まずは3人ともこの酒を飲んでみてみろ。そして各々率直な感想をいってみろ」


 まずは試飲テストってわけか。う〜ん、率直な感想といっても俺にはまずい!くらいしか言えないからな。それにたとえうまいと感じたとしてもこの3人にそこまで細かな味の表現なんてできない気もするが…


「そっ、それではいただきますだ!」


「……いただきます」


「……いただくぜ」


 アルゼさんの圧もすごいし、3人ともだいぶ緊張している。まあこれから試飲とは言え酒が飲めるかどうかの瀬戸際だからわからんでもないが。……いやっ、やっぱりわからん。


 3人がゆっくりとコップに口をつける。


「っ!?こりゃうめえだ!」


「かあああ!効くぜい!」


「ぷはあ〜、これだぜ!」


 よく3人ともこんな強い酒をうまそうに飲めるな…さあ問題はこの後、3人がどんな感想を述べるかだが。


「よしっ!3人とも合格だ!」


「………………はい?」


 何いってるのこのおっさんは?まだ3人ともうまそうに飲んだだけで感想も言ってないし。あれか、これからの反応を見て決めるかんじか。


「やったべ〜!」


「しゃあ、これで酒が飲めるんだな!」


「はっ、俺様にかかりゃこんなもんだ!」


 ……こんなもんだも何もただ酒を飲んだだけじゃん。


「あのアルゼ様、3人ともうまいくらいしか感想を言ってないんですけど、これから本当の試験があるとかですか?」


「ふっ、わかってないなユウキ。この蒸留酒とやらは非常に酒精が強い酒だ。ランディ殿もそうであったが多少酒を飲める程度でこの酒を飲むと大抵の者はまずむせかえる。まずそれを普通の酒のように飲むことができただけで評価に値する」


「なっ、なるほど」


 一理ある。確かに俺にはまともに飲むことすらできなかったものを3人は普通に飲めている。それだけでも評価に値するのかもしれない。


 珍しく酒のことなのにアルゼさんがまともだ!いや、酒のことだからこそいつも以上に真剣なのかもしれない。酒のことだから何も考えてないんじゃないかと思ってしまった、反省せねば。


「そしてこれが最も重要なことだが……」


 なっ、なんだろう……蒸留酒を飲んだあの一瞬でアルゼさんは3人の何をみていたんだろう?


「3人の酒を飲む際の表情だ!これほど強い酒をあれほど幸せそうな表情で飲めるものはなかなかいない!演技ではなく心からの表情、真の酒飲みたる私にはわかる!そして酒を深く愛するものに真に悪い者はいない、よって3人とも合格だ!」


「………………」


 知らねーよ!なんだよ真の酒飲みって!?ただ単に蒸留酒をうまく飲めればいいってことじゃねえか!それに酒を深く愛するものの中に悪い者は大勢いるに決まってるわ!


 盗賊とか悪徳商人と悪代官とか全くいいイメージがわかねえぞ!ってかそもそもこの2人はチンピラでエレナお嬢様を襲ってきたやつだからね!アルゼさん、完全に忘れてるからね!


「ありがとうですだ旦那様!」


「さすが旦那、話がわかるじゃねえか!」


「はっ、俺達ほど酒を愛しているやつなんてそうもいねえだろ。わかってるじゃねえか、旦那!」


「ふっ、今日は気分がいい。そうだな、蒸留器完成の前祝いだ、こんなこともあろうかと持って来ていたこの酒とツマミで一杯やるか。お前達ももう少しだけなら飲んでいいぞ」


 どっから出したああああ!!あんたの執事服のどこにそんなボトルとつまみをいれるスペースがあんだよ!


 そしてどんなことがあると想定して酒とツマミを常に持ち歩いてるんだよ!だめだ、突っ込みが追いつかない……


「さっすが、旦那様だ!ありがてえべ!」


「よし決めた、俺は一生旦那についていくぜ!」


「ありがてえ!話がわかるじゃねえか、旦那!」




「………………」


 なんか俺そっちのけで完全に宴会モードに突入している…


 いや結果的に蒸留酒も量産体制に入れるし、3人の試飲も認められ、アルゼさんと3人の仲も良くなったからよかったはずなんだけどなんだろうな…


 とりあえず酒に関してはこの4人だけに任せるわけには絶対にいけない、ということだけは固く心に誓いました……まる。


最後まで読んで頂きまして誠にありがとうございます^ ^


【評価】と【ブックマーク】を何卒よろしくお願いしますm(_ _)m


誤字脱字、日本語のおかしいところがありましたら教えて頂けると非常に嬉しいです( ^ω^ )

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