第27話 工場の始動
「これが工場だべか~物凄くおっきいんだべな」
奴隷商を出て馬車で工場まで送ってもらった。リールさんとアルゼさんは先に屋敷に帰っている。この工場は街の外れにあるので屋敷から馬車で30分近くはかかる。まあ俺だけなら身体能力強化魔法を使って走ればもっと早く帰れるんだけどな。
「ええっ、もともとはこの街の領主様が使っていた工場ですけどしばらく稼動していなかったらしいです。このたび稼動が再開されることになって中も綺麗にされてますよ。従業員用の部屋もありますのでここが工場であると共に家でもありますね、ローニさん」
「敬語はやめてくんろ、名前も呼び捨てにして欲しいべ。ユウキ様はオラ達の雇い主だ、歳は上でもそこらへんはきちんとして欲しいだ」
おっと可愛らしい少女のような外見をしていてもそこはやはり25歳の女性だけある。一応年上ということで気を使ったのだが逆に気を使われてしまった。それにしてもこの人は他のみんなと比べて元気だな。もしかしたら奴隷として売られてまだ日が浅かったのかもしれない。
「う~ん、俺の周りは年上で先輩ばかりだからたまに敬語が出ちゃうかもしれないけれど努力するよ、改めてよろしくねローニ!」
「こちらこそよろしくお願いしますだ!」
「それではみなさん、まずは女性と男性に分かれて順番に水を浴びてください。服は用意してありますからそれに着替えてご飯にしましょう。仕事は明日からなのでご飯を食べたら今日はゆっくりと休んでください」
俺やマイルやサリア達が迎えられたときと同じように身体を洗ってもらう。長い間奴隷商にいたこともあるせいかかなり時間がかかったが、その間に温かい食事の準備もオッケーである。そしてみんなが揃ったところで乾杯となる。
「俺はユウキといいます。この街の領主であるアルガン家の奴隷として仕えています。ですが主であるエレナお嬢様はとても優しい方なので皆さんも安心してください。今日はしっかりと食べてしっかりと休んでくださいね。それじゃあこれからよろしくお願いしますね、乾杯!」
「乾杯!」
乾杯と言ってくれたのはローニだけだったが、それでもみんな少しずつだがご飯を食べはじめてくれた。やはり俺も同じ奴隷という立場だからそれほど警戒されていないのかもしれない。
「おいしいねえ~」
「うわっ、すっごく美味しい!」
「こんなに美味しいご飯久しぶり!」
みんな俺達と同じような反応をするな。気持ちは痛いほどわかる。いや、奴隷商に長期間ろくな食事を与えられていないか、ら俺達以上に美味しく感じてるんだろうな。当然食事は前以上に身体に優しくて栄養があるものにしてある。
「今日の料理は俺が作ったけど、明日からはみんなで当番を決めて作ってもらうことになるからよろしくね」
さすがに屋敷と工場の食事を全部作るのは無理なので工場の食事はみんなに任せたい。一応奴隷商で話を聞いたところ3人ほど料理ができるものがいたので交代で任せて大丈夫だろう。
「ユウキ様が作ってくれたのですね、とても美味しいです」
「ユウキ様、とってもうめえべ!」
「それはよかった。身体が弱っているところで食べ過ぎると逆に身体に悪いから今日のごはんは量が少ないけれど明日からは少しずつ量も増やしていくから我慢してね。
それとできればユウキ様はやめて欲しいかな。俺もみんなと同じ奴隷だし、実際のみんなの雇い主は俺の主のエレナお嬢様だから俺にまで様付けする必要はないし、敬語もいらないよ」
元の世界では高校生だった俺に様付けはちょっと微妙なんだよな。ただでさえ誰かの上に立つ立場になるのは初めてなのに。
「明日からもこんなに食べさせてもらえるのですね!それではなんとお呼びすれば?」
「そのままユウキでいいし、呼びづらければさん付けで大丈夫だよ。まあそこらへんはなんでもいいよ」
「わかりました、それではユウキさんと呼ばせていただきますね、これからよろしくお願いしますね」
「オラもユウキさんだべかな」
「ユウキ兄ちゃんでもいい?」
「もちろん自由に呼んでくれ、みんなよろしくね!」
「「「はい!」」」
「それじゃあ食べ終わったら部屋に案内するから今日はゆっくり休むように。明日はお昼くらいから仕事の説明をするからそれくらいの時間に食堂に集合でよろしくね」
食事のあとは8人を部屋に案内した。この工場には従業員用の5人部屋がいくつかあるのでそこに女性3人と男性5人に別れて暮らしてもらうことになる。女性部屋のほうはローニと女の子が1人とおばあちゃんが1人、男性部屋のほうは犯罪奴隷であった2人の男と男の子が1人とおじいちゃんが2人となる。
「おい、一体どういうつもりだ?」
みんなを部屋に案内し、食事の後片付けをしようと食堂に向かうところで髭面の男から呼び止められた。
「どういうつもりというと?」
「なんでてめえの主人を殺そうとした俺らをわざわざ買ったんだ?金もあるみてえだしわざわざ俺らなんかを買う必要なんてねえだろうが!」
ああそういうことか。まあ普通はあえて犯罪奴隷は買わないだろうな。正直に言って、俺もこの人がいなければあえて買おうとはしなかったと思う。
「なんでかといわれたら……なんででしょうね?あなたの境遇に対しての同情というべきか、あの時俺を本気で助けようとしてくれたお礼というべきか、いやたぶんその両方ですね」
「……ふざけやがって。てめえなんざ助けようとしなけりゃよかったぜ」
「うっ、そういえばあの時はすみませんでした。必死だったとはいえ卑怯なことをしてしまって」
「……ちっ、知るか!てめえと話してると調子が狂う。いつかぜってえにここから逃げ出して見せるからな」
主人である俺の目の前なのに逃げ出す宣言をするとは。まあ舐められているんだろうな。そういうと髭面の男は踵を返し寝室へ戻ろうとする。
「ああ、ちょっと待ってください!」
髭面の男はビクッとして立ち止まる。もしかして俺から奴隷紋による罰を与えられるのかと思っているのかもしれない。流石にまだ信用なんてないに決まっているよな。
「そういえばまだ名前を聞いてませんでしたね。あなたのお名前教えてください」
食事の際に全員の自己紹介をする予定だったがみんながあまりも幸せそうに食べていたで明日の仕事を始める時に後回しにしようと思っていたのだが、せっかくの機会だし今聞いておこう。
「……モラムだ」
「モラムさんですね、改めまして明日からよろしくお願いします。安心してください。俺の主人であるエレナお嬢様は間違いなくモラムさんの前の主人より優しくて思いやりのある人ですから」
「……けっ、知ったことかよ!」
そう言うとモラムさんは寝室へと戻っていった。あの人はエレナお嬢様を殺そうとしていたが、性根はそれほど腐ってないと思うんだよなあ。さあ有言実行、工場のみんなにあまり不自由をかけさせないように頑張っていこう!
最後まで読んで頂きまして誠にありがとうございます^ ^
【評価】と【ブックマーク】を何卒よろしくお願いしますm(_ _)m
誤字脱字、日本語のおかしいところがありましたら教えて頂けると非常に嬉しいです( ^ω^ )