第20話 魔法の訓練
よし、今日はちゃんと起きれた。さすがに二日連続で寝坊する訳にはいかない。う~ん、マイルも気持ちよさそうに寝ていて起こすのが少しためらわれるがしょうがない。
マイルを起こし着替えを終え、シェアルさんとサリアを起こしに行く。今日はサリアがちゃんと起きられたようで2人ともちょうど着替え終わって準備を終えていた。
シェアルさんを除く3人で朝食の準備をする。シェアルさんは一人寂しそうに食堂でパンと飲み物などの準備をしてくれている。朝食の準備を終えるとエレナお嬢様、アルゼさん、リールさんを呼んで全員で朝食となる。ありがたいことに奴隷である俺やマイル達もエレナお嬢様と一緒の席で同じ食事をとらせてもらえている。
そのあと朝食の後片付けをマイル達と終わらせる。やっぱり朝食の準備も後片付けも3人ですると1人でやるよりもだいぶ早く終わるようだ。マイルとサリアは今日はシェアルさんと一緒に屋敷の掃除を行い、その後はリールさんの庭の手入れを手伝うようだ。俺はというと……
「いきなり実戦訓練ですか……」
「実戦というレベルでもないだろう。真剣でもないただの木剣だから大きな怪我もするまい」
俺は今屋敷の裏庭で木剣を構えてアルゼさんと対峙している。いよいよ今日から訓練が開始される。
アルゼさんとの訓練は木剣を持っての実践だ。いきなり木剣を渡され、かかってこいと言われた。元の世界での剣道部での部活では、準備運動から始まり、走りこみ、筋トレ、素振り、打ち込みを行ってからようやく実践訓練である練習試合を行っていたんだけどな。
「以前お前がエレナ様を襲いにきた奴を倒したところを見ていたが、ある程度の基礎はできているように見えた。今の木剣を持って構えている姿を見ても、お前が素人ではないことがわかる」
よく構えを見ただけでわかるものだ。やっぱりアルゼさんはすごいな。
「はい、確かに俺は剣術を習っていました。俺の故郷ではそこそこ強かったと思うのですが、このあたりではどれくらいの強さなのかはよくわかりません」
「それを知るためにも一度打ち込んでみろ。基礎のできているものには実戦を経験させることが一番良い訓練になる」
なるほど、一理あるな。剣道は武道というが、現代の高校生がやっているレベルではどちらかというとスポーツに近い。真剣で斬りあうことを考えるなら実戦を繰り返すほうがいい訓練になるのかもしれない。
「わかりました、いきます!」
「うむ、全力でかかって来い!」
「いやあああああああ!」
全力でアルゼさんに斬りこむ。元の世界では中学1年生のころから剣道部に入り、5年間もの間練習し続けてきた。努力の甲斐もあって県大会まで進めるようになり先輩達とも互角以上に戦えるようにまでなっていた。
だがその剣はアルゼさんにかすりもしない。全力で面、胴、こて、フェイントを含めた攻撃も試みるがすべてアルゼさんにさばききられてしまう。
「はあっ、はあっ」
「ふむ、今度はこちらから攻めるから防いでみろ」
「うおっと!」
今度はアルゼさんの方から攻め込んでくるがやはり速い!だがおそらく加減をしてくれているのだろう、黒の殺戮者と戦っていた時とは異なりギリギリ目で追える。
剣道では攻撃が重要と思われている節があるが、実際には防御こそが非常に重要となっている。有効打さえ打たれなければ最悪引き分けにまでもっていけるからだ。うちの部でも防御に重点を置いた練習を行っていた。そのおかげでなんとか今のアルゼさんの猛攻についていけている。
「防御はそこそこか。さて速度を上げていくぞ」
まじですか、すでにいっぱいいっぱいなんですけど!うおっ、確かに速度があがっていく。やばい、さすがにさばききれない。
バシッ!
「痛てっ!」
ついには左足に一撃をもらってしまう。しまった、上段への攻撃はフェイントだったか。
「防御はなかなかのものだ。基本的な型もできているし反応も悪くはない。だが下半身への対応が足りていないな。実戦では剣戟の隙間を縫って体術も併せた攻撃を仕掛けてくるものも少なくない」
さすがアルゼさん、あっさりと俺の欠点を指摘してきた。現代の剣道では武道というよりスポーツの面が強い。当然ながら実戦的な下半身への攻撃や蹴りなどの体術を含めた攻撃などは想定していない。
「攻撃の面に関して言えば素直すぎる。もっとフェイクや虚実を織り交ぜろ。蹴りなどを織り交ぜるのもいいだろう」
「なるほど、確かに俺が習っていた剣術では下半身の攻撃は禁じられていました。今度からは下半身への攻撃や防御も意識していきますね」
「だがまあこれだけ動けていれば、そのあたりの輩に遅れをとることはないだろう。思ったよりも動けるようで安心したぞ。これなら特に教える必要なく、しばらく私とリールで打ち合いをすれば問題ないだろう。さあ、続けるぞ」
「はい!」
よかった、元の世界の剣道はこちらの世界でも通用しそうだ。俺が5年間練習してきたことは無駄ではなかったんだな。
このあとも2時間ほどアルゼさんとひたすら打ち合いを続けた。
「よし、今日はここまでだ。私は先に屋敷に戻っているぞ」
「はあっ、はあっ。はい、ありがとうございました」
これだけ動いてまだ動けるとかさすがだな。俺は大の字になって庭に寝転がる。さすがに疲れきって動けない。この世界に来てここまで体を動かしたのは初めてだ。
結局アルゼさんにはまともに一太刀も加えることができなかった。ははっ、正直に言って少しは自信があったんだけどなあ。ここまで相手に手も足も出なかったのは剣道を始めたころ以来かもしれない。あのころは剣道部の先輩や顧問の先生に手も足もでなかったからな。
でもこの感覚は嫌いじゃない。目の前に高く高くそびえる目標がある!それだけでやる気がみなぎってくる。見ていろよ、すぐに追いついてみせるからな!
アルゼさんとの組み手のあと、しばらくしてようやく動けるようになった俺は屋敷で軽く汗を流してから再び屋敷の裏庭へ向かう。このあとはシェアルさんから魔法を教わる予定である。
「すみませんシェアル師匠、少し遅れてしまいました」
「ふふ、シェアル師匠、何度聞いてもいい響きですねえ。いえいえユウキくん、私も今来たばかりなので大丈夫ですよう」
「改めて、今日からよろしくお願いします!」
「はあい!それじゃあ早速魔法の修行を始めますよう。まずはユウキくん、君は魔法についてどれだけ知っていますかあ?」
「実は俺がいた国では魔法を使える人が全くいなかったので魔法の知識については本当に何にも知らないんですよね」
「ふむふむ、そうですねえ、魔法を自在に使える人は本当に少ないからですからねえ。この街になら100人くらいはいるでしょうけど、普通の村にはひとりいれば多い方なんですよう」
魔法を使える人は本当に少ないようだな。そもそも異世界からきた俺は魔法を使えるのだろうか?普通のネット小説とかだったらここで隠された力とかチートな能力が目覚めるはずなんだけど今までの事を考えるとあまり期待はできそうにない。
「魔法には火、水、土、風の4つの属性と無属性の魔法があります。無属性の魔法は誰にでも使えるけど属性がある魔法は適正のある人にしか使えませんねえ。私は火と水と風の3つの属性の魔法を使えるんですよう。ほとんどの人は一つしか魔法の属性を持っていないのでこう見えて結構すごいんですう」
ふむふむ、属性は全部で4つで普通の人は一つしかもっていないと。これでチート持ちの人だったら全部の属性を持っていて驚かれるんだろうな。
「さすがシェアル師匠ですね!」
「ふふん、すごいでしょう。それじゃあユウキくんの適正を見てみましょうか。この水晶に両手をかざしてみてください」
そういうとシェアルさんは小さくて透明な水晶を俺に差し出す。奴隷契約の時にも使っていた水晶のようだがその時の水晶よりも一回り小さい。属性を判別するための魔道具みたいなものだろうか。
「こうですか?」
水晶に両手をかざしてみる。すると突然水晶が光り輝き始めた。
「こっこれは……」
シェアルさんが息を呑む。果たして俺が使える属性は何なのだろうか。個人的には火か風とかが格好良くていいなあ。間違って二つくらいくらい持っていてくれないかなあ。
「……えっと、非常に言いにくいのですけれど、ユウキくんが適正のある属性はありません」
「………………」
嘘やん!まさかの適正属性なしやなんて!
思わずえせ関西弁になってしまうくらいにはショックなんだけど。これって俺って何にも魔法をつかえないってこと?
「確か何百人にひとりくらいの割合で何の属性も持っていない人がいると私の師匠に聞きましたね。えっとえっと、でも大丈夫ですよ、たぶん無属性の魔法は使えるはずですから。そっ、それに魔法を使える人自体とても少ないですから無属性の魔法を使えるだけでも便利ですよう」
シェアルさんが励ましてくれるが今はその優しさが逆につらい。魔法の才能がないと言い切られたようなもんだ。
「えっと無属性の魔法ってどんなことができるんですか?」
「身体能力強化、硬化、探知魔法やちょっとした回復魔法なんかも使えますよう」
地味!THE・地味って感じなんですけど!どんなに無属性魔法を極めても俺TUEEEになれる気がしないんですけど!
「……なんか地味ですね」
「で、でもでも、便利な魔法ですよう。他の属性魔法に比べて簡単ですし、消費魔力も少ないですし、応用が利きますよう!私も普通に使っていますからねえ」
正直に言って火魔法とかの派手なやつを期待していたんだけどなあ。いやいや、元の世界では魔法すらなかったんだ、無属性魔法が使えるだけでもありがたいと思おう。俺はぶんぶんと頭を振る。
「失礼しました。そうですよね、何事も使い方が大事ですよね。早速教えてください!」
「そうですよう、何事も使い方です!それじゃあまずは簡単な魔法からいきましょう。身体能力強化の魔法です、まずは私がやってみますので見ていてください」
そういうとシェアルさんは一歩下がる。メイド服のまま目を閉じ集中しているようだ。
「大気に溢れたる力よ我に纏いたまえ、フィジカルアップ」
なにやら呪文のような言葉を唱え始める。どうやらこの世界の魔法は呪文を唱えて発動させるようだ。
「それじゃあユウキくん、見ていてくださいねっ……と」
そういうとシェアルさんはしゃがみこみ、一気に空へと飛ぶ。
ザッ!
ってうわ、たっか!どう見ても3メートル以上は飛んでいる。確か元の世界の垂直とびの記録は1メートルちょっとだったな、単純に計算すると2〜3倍の身体能力がでるのか。いや、シェアル師匠が女性だことを考えると5倍くらいにはなっているかもしれん。
「って、きゃああああ~」
飛び上がるまではよかった。問題は降りてくる際に3メートルもの高さから落下してくるわけだから当然メイド服のスカートは重力によりめくれ上がり……
「……見ましたか?」
黒いメイド服のスカートからしっかりと見えておりました。純白の白でございます!この世界のパンツがそうなのか、メイド服だからかわからないが.いわゆるドロワーズとかいうかぼちゃパンツだった。
俺だって健全な男子高校生だ。元の世界では当然エロい本や動画などをたくさん見てきたわけだから露出の少ないかぼちゃパンツなんか見ても……ガッツポーズしたいくらい嬉しい!メイド服姿のスカートの中ならたとえジャージであろうとも見たいと思うのは俺だけではないはずだ!
シェアルさんもこういうドジなら毎日でも大歓迎なのに!
「すみません、少しだけ見えてしまいました」
「そうですかあ、こういうのって頭を殴れば記憶が飛ぶんでしたっけ?」
「ストップ!ストップ!身体強化魔法がかかっているんで今殴られたら死んじゃいますって!」
やばいやばい、目がマジだ!今殴られたら死んじゃうって!そういうドジは本気でいらないって!
「わっと、危ない危ない。しょうがないですねえ、今回は特別に許してあげましょう」
真っ赤な顔をして恥ずかしがっているシェアルさん。かわいいんだけど命の危険があった今はかわいいよりも怖いという気持ちのほうが勝る。
「今の魔法が身体能力強化ですよう。今の私の力は普段の何倍にもなっています。魔法の力が強ければ強いほど力が上昇していきますねえ」
ふむふむ、魔法の力が強ければ強いほど元の力が強くなるわけか。てかそんな力で間違っても俺の頭を殴ろうとしないでくれ。
「それじゃあユウキくんも試してみてください。魔法を発動するのに大事なのはイメージですう!体の中心から魔力を集め、体全体に魔力を巡らせるようにイメージしてみてください。そのあとに体全体に巡らせた魔力を自分の力に変えるイメージをしながらこう唱えてみてね。
大気に溢れたる力よ我に纏いたまえ、フィジカルアップと」
「わかりましたシェアル師匠、やってみます!」
なるほど大事なのはイメージか。確か神様は魔法のなかった世界にいた俺でもこの世界では魔法が使えると言っていたな。大丈夫、俺にもできる、神様を信じよう!
血液が体中を巡るように魔力を巡らせるイメージをする。いくぞ、身体能力強化のイメージならこれしかない!カラダもってくれよ、3倍界○拳だ!!
「大気に溢れたる力よ我に纏いたまえ、フィジカルアップ!」
呪文を唱えるとふっと体の中から何かが消える感覚がしていきなり体が軽くなった。手のひらをグーパー開いてみると普段より断然速く動かせている。これはもしかしていきなり成功できたのか?
「すごいじゃないですかユウキくん、一回目でちゃんと成功できていますよう!普通は魔法の感覚をつかむだけでものすごい時間がかかるものなのに!下手をするとそれだけで数年かかる人もいるくらいです!」
なるほどそれほど難しいなら魔法を使える人が少ないのも納得だ。魔法を使うためとは言え、こんなことを何年も繰り返すことはできない。
「本当ですか!正直俺にも信じられないです。ちょっと体を動かしてみますね」
少しの間屋敷の裏庭を走り回り、借りていた木剣を振ってみる。まだ体がついてこないが明らかに体や木剣が軽く感じ、動くスピードが上がっている。倍まではいかなくても1.5倍近くは動けているんじゃないか。すごいなこれが魔法か!
「すごいすごい!きっとユウキくんのイメージの仕方がよかったんですよう。普通の人は魔法ってイメージするのは難しいですから。
あっ、解除するときは心の中で巡らせていた魔力を切って体の中心に戻すイメージをしてみてくださいねえ」
「いえ、きっとシェアル師匠の教え方がうまかったんですよ。えっと体中に巡っている魔力を切って体の中心に戻すイメージと。本当だ、一気に体が重くなった」
元の世界ではそういう漫画やアニメがいっぱいあったからイメージしやすかったのかもしれない。それにしてもよかった、才能なくて魔法を使えるようになるまで数年とか言われるかと思ってちょっとびくびくしていたよ。
「えへへえ~そんなことないですよう。それじゃあ今日はもう少し今の魔法を練習してみましょうか。とはいえ何十回も使うと魔力がなくなって倒れちゃうからお仕事に支障が出ないくらいでやりましょうねえ」
「はい、よろしくお願いします!」
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誤字脱字、日本語のおかしいところがありましたら教えて頂けると非常に嬉しいです( ^ω^ )