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第14話 予期せぬ襲撃者


 市場を三人でまわってから一時間ほど過ぎた。味噌を手に入れた後も店を少しまわり、唐辛子のような赤く辛みのある香辛料とシナモンのような香りがし、少し甘みのある香辛料を購入させてもらった。すでに俺の両手は荷物でいっぱいだ。


 エレナお嬢様も露店にでていたお店で可愛らしい髪留めを購入されてご機嫌なようだ。エレナお嬢様は領主であるから、もっと金ピカのお高い装飾品をつけると思っていたのだが無駄な浪費はしないようだ。ますますもって立派である。


「これでお買い物は終わりね!さあ最後に美味しいものを食べて帰りましょう!」


 少し歩いて市場を抜けると少し街並みの様子が変わってきた。今までは乱雑に家や店が並び、その建物の高さや大きさ、色までもがバラバラであった。だがこの通りは大通りの両側に同じ大きさで同じ白色の建物がきっちりと並んでいる。これまでの街の通りを見てきた分、この通りは更に美しく見える。


 道を通る人々もこれまでの通りとは異なっていた。行きかう人は少なく、冒険者のような格好のものはおらず、身なりのいい人しかいないように見えた。そして他の通りではよく見かけた馬車がこの通りには一台もいなかった。


「この通りにはこの街の高級店が集まっているの。だからここだけすごい綺麗でしょう。ここだけは危ないから馬車の通りも禁止されているの。もう少し歩いた先に美味しいお菓子を出してくれるお店があるのよ!」


 どうやらこの通りは高級店が並ぶ通りらしい。元の世界で言うと銀座通りみたいなものか。馬車が禁止ということは歩行者天国になっているのかもな。


「さあ早く行きましょう!」

 

 エレナお嬢様は太陽のようなまぶしい笑顔で俺とアルゼさんを急かす。よっぽどそのお菓子が楽しみなのだろう。こちらの世界での美味しいお菓子ってなんだろうな。ケーキみたいなものだろうか。




「おい奴隷、さっさと歩け!」


 通りを歩いていると前から怒号が聞こえてきた。


「本当に使えない奴隷だな!屋敷に戻ったらたっぷりと鞭をくれてやるから覚悟しておけよ!」


 目の前にはどっぷりと豚のように肥え太った40~50代くらいの男がいた。男は派手な黄色の服を着ており、両手と胸には金ピカで派手な指輪とネックレスをつけている。


 男はみこしのような乗り物に乗っており、その乗り物を4人の奴隷らしき人が担いでいた。奴隷の男達は全員30代くらいの男性で、数年以上着ていたと思われるボロボロの服を着ている。そしてその右手には俺と同じ黒い六芒星の奴隷紋が浮かび上がっている。乗り物のまわりには護衛と思われる鎧に身を包んだ男が2人とアルゼさんと同じような服装をしたおつきの者が1人いた。豚のような男はおそらく貴族だろうか。


「おや、これはこれはアルガン様、ご機嫌麗しゅう存じます。今日はおつきの者とお出かけですかな?」


 豚貴族がみこしの上からエレナお嬢様を見つけ話しかけてきた。この豚貴族はエレナお嬢様の知り合いのようだ。


「……これはドルネル様、おかげさまで息災ですわ。はい、今日は三人でお買い物です。ドルネル様もお買い物ですか?」


「ええ、わしの行きつけの店に新しい服と装飾品が入ったので買いに来ております。最近新しく出した商店の売り上げが好調でしてな。また新たな商店を出そうか検討しておるところですよ、がっはっはっはっ!


 そういえばご両親のことは残念でしたな、お悔やみを申し上げます。お父上の領主の仕事を引き継がれたとお聞きしましたがまだ幼いのに大変でしょう?いかがですかな、この際に領主の仕事も他の有能なものに譲ってゆっくりと過ごしてはどうでしょう?わしでよければいつでもお引き受け致しますよ」


 ……やはりそうか、薄々予想はしていたがやはりエレナお嬢様のご両親はすでにお亡くなりになっていたらしい。そして父親の領主の仕事をエレナお嬢様が継いだというわけか。


 そういえばさっきの市場でも領主様が市場に来ているのに誰も騒いだりしていなかったな。領主の仕事を引き継いでまだ日が浅く、領主だったエレナお嬢様の父親の顔は知っていても、その娘の顔までは知らなかったというわけか。


「お気遣いありがとうございます、ドルネル様。ですが大丈夫ですわ、まだ若輩者の身になりますが領主の仕事を精一杯努めさせていただきたいと思います」


「……そうですか、もし無理だと思われましたらいつでもわしに声をかけてくだされ。それではアルガン様、わしはこちらで失礼します。おい奴隷ども、さっさと馬車のある場所まで戻れ!」


 そういうとドルネルとかいう豚貴族は奴隷達が担ぐ乗り物に乗って去っていった。


 すれ違う際に奴隷の人たちを見たがひどい様子だった。ボロボロの服の間からみえるその身体はまともな食べ物も与えられていないのか、ガリガリであばら骨が浮き出ていた。背中も見えたが鞭で打たれていたのか赤青く腫れ上がっていた。何より目が完全に死んでいた。夢も希望もないただ死なないでそこにいるだけの存在。


 あれがこの世界の奴隷の扱いなのか?あまりにも酷すぎる。俺もエレナお嬢様に買われていなければあんな扱いを受け、あの人達のような目をするようになっていたのかもしれない。


「……エレナ様、大丈夫でしょうか?屋敷にお戻られなさいますか?」


「大丈夫よ、じい。さあ、早くお店に行きましょう」


 その後はエレナお嬢様のお気に入りのお菓子のお店へいき、ホイップのたっぷりのったパンを買った。俺も少しだけいただいたが、先ほどの出来事があったせいかあまり美味しく感じられなかった。この世界にきてからはじめての甘味だったのだが、気が沈んでいるとどんなものでも美味しく感じないというのは本当だったんだな。




「エレナ様、そろそろお時間です。リールとの待ち合わせ場所に戻りましょう」


「もうそんな時間かあ。ユウキ、また来ましょうね!」


「はい、エレナお嬢様!」


 そろそろ街をまわり始めてから3時間になる。リールさんとの待ち合わせ場所へ戻り、屋敷へ帰る時間だ。俺達は高級店が並ぶ通りを抜け最初に馬車から降りた場所へ向かっている。俺の両手は市場やお店で買ったものでいっぱいだ。


 最後にちょっと嫌な気分にはなったが、はじめての街の中の散策はとても楽しかった。ぜひともまた来たいものだ。


「……エレナ様、私の後ろへ!おい奴隷、エレナ様の後ろに周り背後を警戒しろ!」


「えっ?じい、何かあったの?」


 いきなりアルゼさんの様子が変わり周囲を警戒し始める。俺はアルゼさんに言われたとおりにエレナお嬢様の後ろにつき背後を見渡す。特に何も異変は見受けられないようだがどうしたというのだろう。


「……何者か悪意のある視線を感じます。このまま大通りを通り、早急にリールと合流し、屋敷に戻りましょう」


「ええ、わかったわ、急ぎましょう!」


 なんだなんだ、何が起こっているんだ?もしかしてエレナお嬢様が誰かに狙われていたりするのか。


 俺達は駆け足で先を急ぐ。とはいえエレナお嬢様はまだ幼い、急いでいるとはいえそのスピードには限界がある。


「ちっ!」


「きゃあ!」


 突如アルゼさんがどこからか剣を抜きエレナお嬢様の右側から飛んできた飛来物を弾く。


 キンッ、キンッ、キンッ


 すさまじいな、ただ単に弾くだけではなく周りの人に危害を与えないように全て下に叩き落している。とても50代の男性の動きとは思えないような動きだ。剣を振るう速度があまりに速すぎてとても俺の目では追うことができない。もしかしたら肉体強化のような魔法を使っているのかもしれない。


 弾かれたものが地面に突き刺さる。マジかよ、ナイフじゃないか!しかも全てのナイフに不気味な色の液体が塗られている。まさか毒か!冗談じゃない、誘拐どころではない、明らかにエレナお嬢様を殺そうとしている。


「キャアアアアア~~!!」


「おい、こんな場所で剣を抜いているやつがいるぞ!逃げろ~!」


「早く憲兵を呼んでこい!!」


 剣を抜いたアルゼさんに気付いた市民が声を上げると一気に大通りがパニックになる。周りにいた人々がいっせいに逃げ出し、人を押しのけながらこの場から離れていく。おいおいおいっ!こんな街中で襲撃とか正気かよ!


 アルゼさんは剣を構えたまま動かず、ナイフが飛んできた路地の方をじっと見つめている。エレナお嬢様はアルゼさんの後ろに隠れながら小さく震えている。


 俺はというとエレナお嬢様の後ろにつき、何も武器がないことに気付き、今日買った麺を伸ばすための長い木の麺棒構えた。こんなもの相手が真剣で切りかかってきたらなんの役にもたたなそうだが、素手よりはまだましだろう。


「そこにいる者、姿を見せたらどうだ!!」


「……さすがは老騎士のアルゼ様、やはり暗殺は難しいようですね」


 薄暗い路地裏から全身黒ずくめの怪しげな男が出てきた。黒い靴、黒いズボン、黒い服、黒いローブを身に纏い黒いドクロの仮面を付けている。その両手には漆黒のナイフを2本携えている。暗闇に身を隠すための黒色なのだろうが、こんな真昼間に街中にいると目立っていてしょうがない。


「……黒の殺戮者がこんなところに何のようだ?」


「これはこれはわかりきったことを!私が行う仕事はただ一つです。そちらのお嬢さんをの命をいただきに参りました。残念ながらあなた方のお屋敷は守りが堅すぎるのでね、わざわざこんな昼間に出向いたというわけです。それとあなたと戦えることも非常に楽しみにしていましたよ」


「あらかたどこぞの貴族にでも頼まれのであろう。薄汚いネズミどもが!」


「私にとっては褒め言葉ですね。ネズミほど生に貪欲な生き物を私は他に知りません。泥にまみれ汚水にまみれながらも生き抜くあの様は非常に美しいといわざるを得ませんね。生まれ変われるのなら私は喜んでネズミになりたいですよ」


 まじかよ殺戮者とかいっていたぞ。しかも二つ名まで持っているっぽいがアルゼさんは大丈夫なのか、勝てるのか?


「それでは憲兵がこられても面倒ですからね。せっかくの戦闘を邪魔されないようにさっさと始めましょうか?」


「……この戦闘狂が。おい、奴隷!」


「はい!」


「私でもエレナ様をかばいながらあいつを相手にするのは難しい。お前はエレナ様と共にリールの下へ向かえ!この通りをまっすぐに行けばすぐだ。


 そこからは衛兵の詰め所も近いからすぐに助けが来

るはずだ。いいな!なんとしてもだ、お前の命に替えてでもエレナ様をお守りしろ!」


「はい!!」


 まじかまじかまじか!この状況でそんな役を任せられても困るぞ!確かにここから5分もかからずに元いた場所に戻れるが、他に刺客でもいたらエレナお嬢様を守りきれる自信はないぞ。


「いい判断ですが、そろそろ私との死合に集中していただけませんかね……っと」


 敵がナイフをアルゼさんに向かって投げてくるがアルゼさんはそれを弾く。


「……ちっ、おい奴隷、さっさと行け!」


「はいいぃ!」


 行くしかないのかよ。頼む神様、盗賊の時にも助けてくれなかっただろう、今回は助けてくれよ!


「エレナお嬢様、失礼します!」


「えっ、きゃあ!」


 俺はエレナお嬢様を抱きかかえてリールさんとの待ち合わせ場所へ走り出した。もちろん物語の主人公のようにお姫様抱っこなどではない。文字通り適当に抱きかかえてだ。少なくともエレナお嬢様と一緒に走るよりはこっちのほうが速い。問題は俺の体力がもつかということだけだ。


「じい~、じい~!」


 後ろから金属音が響く。敵とアルゼさんの戦いが始まったのかもしれない。だが俺にはその戦いを見ている余裕もないし、アルゼさんの戦いに助力することもできない。ちくしょう、俺は本当に無力だ!


最後まで読んで頂きまして誠にありがとうございます^ ^


【評価】と【ブックマーク】を何卒よろしくお願いしますm(_ _)m


誤字脱字、日本語のおかしいところがありましたら教えて頂けると非常に嬉しいです( ^ω^ )

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