第10話 神様との再会
うし、今日はなんとか早く起きれた。正確な時刻はわからないが、窓の外を見るとまだ日が昇ったばかりらしく少し空が暗い。もともと朝はかなり早く起きるタイプだったのと昨日早く寝たこともあってちゃんと起きれたようだ。
あまり音を立てずに服を着替えて食堂へ向かう。そうだ、先にシェアルさんを呼びにいかないといけなかったんだ。しばらく食事はシェアルさんと作らなければいけないのと、どちらかが寝坊しないようにするためである。朝早く起きたほうが相手の部屋へ行きもう一人を起こさないといけないのだ。
シェアルさんの部屋の前でドアをノックする。返事がない、ただの屍のようだ。というわけではなく、ただ単にまだ寝ているだけなんだろう。大丈夫、ここで勝手に部屋に入って裸で寝ているシェアルさんを見てきゃーのび太さんのエッチ~みたいなことは起こさないぞ。そういうのは漫画の主人公だけで十分だ。
てかこの屋敷に入って2日目の奴隷がそんな問題を起こしたら普通に一発でクビだと思う。エレナお嬢様は優しいから一発アウトはないかもしれないが余計なリスクを侵さないようにしなければ。何度かドアを叩くとシェアルさんも起きたようで返事があったので先に食堂へ向かった。
さて今日の朝食はパン、ポテトサラダ、ビーカクックの卵のオムレツ、ミーンサモンという魚のムニエルだ。ポテトサラダは茹でたジャガイモとキュウリと昨日作ったマヨネーズをあえるだけ。オムレツは卵白を泡立ててメレンゲにしてから焼き上げスフレ風に。魚は小麦粉とバターを使いムニエルにする。個人的にムニエルは簡単にできるし普通に焼くよりおいしいから結構好きなんだよね。
「うわあ~このオムレツふわふわ~!ねえユウキ、これってどうやって作ったの?」
「はい、エレナお嬢様。これは卵の卵黄と卵白を分けて卵白を泡立ててから卵黄とあわせて焼き上げるとこのような食感になるんですよ。私の国ではこれに砂糖やチーズなどを混ぜて焼き上げてお菓子としても売られておりました」
「ふむ、このミーンサモン、皮の部分がパリパリとして香ばしいな。これはどう作ったのだ?」
「はい、アルゼ様。こちらは焼き上げる直前に小麦粉をまぶし、バターで焼くとこのようにパリパリに焼き上げることができます。こちらのレモンの果汁などをかけてもさっぱりとして美味しいですよ」
「このサラダは芋に昨日のマヨネーズをかけてあるのかい?」
「はい、リール様。茹でたジャガイモにキュウリの輪切りを加えマヨネーズであえたものでございます」
みんな朝食についていろいろと質問してくる。こちらの世界の人はそれほど食事に興味がないと思っていたがどうやら違うようだ。シェアルさんから聞いた話によるとこの世界の調理法は基本的には焼いたり茹でたりするだけのシンプルなものが多いらしい。食事に気を使う余裕があまりないせいだろうか。
それにしても自分が作った料理を美味しいと食べてもらえ、興味を持ってくれるというのはうれしいことなんだな。このままこの屋敷の料理長を目指すのも悪くないかもしれない。
「それではこの後はシェアルと共に屋敷の掃除を任せる」
「はい、了解しました」
朝食の後片付けをした後、アルゼさんに次の仕事をうかがったところシェアルさんの手伝いをするように申し付けられた。
「……おまえもいろいろと大変だと思うが頑張れ。あとは常に周囲に気を配るんだぞ」
なんで!?掃除するだけだよね!?なんでこれから死線に向かう人を元気付けるように言うわけ?俺アルゼさんに優しい言葉をかけられたのこれが初めてなんだけど……
「はい、頑張ります。えっと普通に掃除を手伝うだけですよね?」
「まあ、そうだが。……行けばわかる」
なんかすごく怖いんですけど。とはいえ俺に拒否権などない。シェアルさんは今屋敷の2階を掃除しているとアルゼさんが言っていたので2階へあがって探してみる。ああ、掃除道具が廊下に出ているからたぶんあそこの部屋かな。
コンコンッ
「シェアル様、アルゼ様よりシェアル様の掃除の手伝いをするように言われたのですが部屋に入ってもよろしいでしょうか?」
「ああユウキ君、ありがとうねえ。うん、入ってきても大丈夫だよう」
「失礼します」
ヒュンッ
「えっ!?」
べチャッ
ドアを開けた瞬間に部屋の中から俺の顔面めがけて何かが飛んできた。あまりにとっさのことなので回避することもできずクリーンヒットする。痛くはなかったけどなんだろう。顔に付いたものを確認してみると雑巾だった。うわっ汚っ。
「えっとシェアル様、俺に何かうらみでもあるんでしょうか?」
「ごごご、ごめんなさい~ドアに向かってる途中でつまずいちゃいましたあ」
なんだつまずいただけか。よかった、新人いびりみたいなことをされているのかとちょっと不安になっちゃったぜ。
大きな胸をぶるんぶるんと揺らしぺこぺこと謝るシェアルさん。目の保養になったので雑巾をぶつけられるくらい全然オッケーです。
「大丈夫ですよ。でもちょっと汚れちゃったんで顔だけ洗ってきますね」
「はい~、本当にすみません!」
お手洗いにいってさっと顔を洗ってくる。不幸中の幸いで雑巾は服には当たらなかったのでよかった。
「シェアル様、戻りました」
「はい~、すみませんでしたあ。それじゃあユウキ君はこっちの机を濡れた布巾で拭いてくださあい。私はこっちの方の棚のホコリを落としてますね」
「はい、了解です」
ふむ、屋敷の掃除といっても学校の掃除とあまり変わらないらしい。ホコリを落とし、布巾でふいて最後に雑巾をかけるんだな。よかった、専門的な掃除の仕方とかよくわからないもんな。
「きゃっ!」
ゴンッ!
「痛っ!!」
机を拭いているといきなり後頭部に衝撃が走る。何か硬いものが思いっきり俺の後頭部に当たった。床に転がった後頭部に当たったらしきものをみてみると先ほどシェアルさんが持っていたホコリはたきだった。
「ごごご、ごめんなさい~すっぽぬけちゃいましたあ」
「……いえ、ちょっと痛かったけど全然大丈夫ですよ」
「うう~ごめんなさい。実は私ちょっぴり他の人よりドジでよく失敗しちゃうんですう」
正直結構痛かったけどそこは男としてのプライドというものがある。というかどれだけフルスイングですっぽ抜けたらこんな威力になるんだ?もしかしてやっぱりわざとだったりする?
「そうなんですか。母親からの受け売りですが、何事もゆっくりと落ち着いてやれば失敗はだいぶ減るそうですよ」
「なるほどです。気をつけますねえ」
この部屋は終わりと。ふうっ、ちゃんと掃除すると一部屋でも結構時間がかかるな。この屋敷はかなり広いからすべての部屋を掃除するとなると大変だ。
「この部屋は終わりですねえ。次の部屋にいきましょうかあ」
「はい」
その後も2人で2階の部屋を掃除していった。シェアルさんはその間もバケツの水をこぼしたり、磨いた廊下ですべって転んだりとドジを連発していた。俺のほうにも箒やチリトリが後ろから飛んできたりもした。
最初はリアルドジッ子メイドのシェアルさんは可愛いなあなんて思っていたが、ここまでのレベルだとさすがにそんなことを言ってられない。正直に言って俺1人で掃除したほうが早いかもしれない。
「2階だけでも結構な数の部屋があるんですね」
「そうですねえ。さすがにこの数の部屋を毎日全部掃除するのは難しいから3~4日おきに掃除しているんですよう。今日は2階、明日は1階、明後日は厨房とトイレと水浴びの部屋みたいにねえ」
「なるほど、では今日の分の掃除は終わりということですね」
「ええ、ご苦労さまですう。ユウキ君がいてくれたおかげでいつもよりずっと早く終わりましたよう。これからもよろしくですう!」
「はい、こちらこそお願いします!」
シェアルさんもエレナお嬢様と同じでそれほど奴隷に対する偏見はないようだ。アルゼさんやリールさんと違い、ちゃんと俺の名前で呼んでくれる。それだけでもとてもありがたいことだ。
「キャッ!」
2階から1階へ降りる階段の途中で背後からシェアルさんの悲鳴があがる。振り向くとそこには階段を踏み外し落ちてくるシェアルさんが。
これはあれかシェアルさんのドジっ子が発動して階段を転がりながら俺ともみくちゃになりながら胸にさわってしまうというラッキースケベが発動しそうな予感!
「危ない!」
ってあれ。一瞬くだらないことを考えてる間にシェアルさんが視界から消えた!どこにいったんだ?
「どいてどいて~!!」
なぜかシェアルさんの声が俺の頭上から聞こえた。上を向くとそこにはシェアルさんのスカートの中が……
「がはっ!!」
なんてうれしい展開はなく、上を向いた先にはシェアルさんの硬い靴が俺の顔面にめりこんだ。そしてそのまま俺は階段を転がり落ちて意識を失った。
目を開けると真っ白な空間にいた。あたりを見回しても本当に何もなく、ただひたすらに真っ白な空間が広がっている。
なんだこれ?夢か?確かさっきまでシェアルさんと一緒に掃除の手伝いをしていたはずだが。
てかなんだか物凄いデジャブ感があるんだけど。
「やあやあこれで二度目だね向井勇樹くん、気持ちはわかるけどここは夢の中じゃないよ」
突然背後から声をかけられる。ふりむくとそこにはちゃぶ台とその前に座る幼女がいた。さっきまで何もない空間、そこに突如として現れたちゃぶ台と幼女。
「……ってあれ、もしかして神様ですか?」
目の前にいるのは見た目はただの可愛らしい金髪碧眼の幼女、ではなく俺をこの世界に連れてきた張本人のこの世界の神様。初めて会った時と同じ清楚な白のワンピースを着ている。
「もしかしなくても神様だよ。さすがの僕もここまで早く再会できるとは思ってもいなかったけどね」
「えっ!?俺がここにいるってことはもしかしてまた死んでしまったんですか?」
嘘だろ?まだこっちの世界に来て全然経ってないぞ!この世界に来てあれだけつらい思いをしてようやくエレナお嬢様に仕えることができてこれからっていう時なんだけど。
「ああ、まずは安心していいよ。君はまだ死んでいないからね」
「本当ですか、良かったあ。でもそしたら何で俺はもう一度ここにきているんですか?」
「別の世界から来た者が生死をさまようくらいな大怪我を負ったり、僕から何か伝えたいことがあったら、ここに意識だけ転送されるような仕組みになっているんだ。それで少しだけ僕からのアドバイスをあげるってわけ。どうアフターケア万全でしょ!」
「なっ、なるほど」
異世界にもこんなアフターケアがあるとは驚きだ。
「それじゃあ早速、君にあげるアドバイスは……ぷっ、ははは、ダメだ、もうこらえられない!まさかメイドのドジで生死をさまようやつがいるなんて思わなかったよ。魔物とかさ人間同士の戦いとかならわかるけどメイドのドジって!
すごいよ、今まで何人も生死をさまよってここに来たけどそんな理由でここに来たのは君が初めてだよ、本当に笑わしてくれるね、ははは!」
「………………」
腹を抱えて悶絶してる幼女、可愛いけれどぶん殴りたい。
「そうだね、一応アドバイスをあげないと!……っぷぷ、あのメイドのドジには気をつけるんだね。今までにも結構なドジをやらかしてるから。まあさすがにそのドジで死にかけたのは君くらいだろうけど、あははははは!」
「………………」
この幼女一応神様なんだっけ?一度本気でぶん殴っても罰はあたらないよね?夜○月くんも許してくれるよね?
「しかも仕事の合間にちらちら見ていたけど、いきなり盗賊の近くからスタートで奴隷として売られるとか、君運なさ過ぎるでしょ!スタートの場所はいろいろと条件があるんだけど、盗賊の集団の近くからスタートしたのは君が初めてだよ。さすがにあれはかわいそうだから、今度魂を移動することがあったら少しスタートの条件をいじらなくちゃね」
「そうだ神様、さすがにあれはひどいじゃないですか!いきなり奴隷として売られたんですよ!助けてくれてもいいじゃないですか!神のご加護はどこにいったんですか!?」
「いやいや、こればっかりはどうしようもないね。一度世界を渡ったら神である僕も不干渉のルールがあるからね。面白かっ……かわいそうだったけど助けてあげられないんだよ」
……今絶対面白かったっていいかけたよね?
「まあでもよかったじゃないか?おかげでいいご主人様に巡り合えたようだし。この世界に来れたのも不幸中の幸い、奴隷としてつかまってもいいご主人に買われたのも不幸中の幸い、っぷぷ、メイドのドジで死にかけたのにぎりぎり生きていたのも不幸中の幸い。いよっ、ミスター不幸中の幸い男!」
「全然嬉しくないんですけど!!」
それ不幸前提ありきじゃん!そんな称号いらない、普通にラッキーボーイがいいよ!
「おっと残念だけどそろそろ時間だ、アドバイスもあげたしそろそろお別れだね」
「いや笑われただけでアドバイスらしいアドバイスはまだ何ももらってないんですけど!?」
シェアルさんのドジに気をつけろって、さすがにもう俺でもわかるよ。なにかもっと役に立つアドバイスが欲しいんだけど!ゲームみたいにどこどこに行けとか、このアイテムを手に入れろとかないの。
「なんてね、冗談冗談。君と一緒に捕まった子供達だけど、まだ奴隷商にいるよ。この世界で奴隷はそこそこ高い買い物だからね。君みたいに珍しい奴隷はすぐに買い手がつくけど普通の奴隷は買われるまでに1~2月はかかるから可能ならそれまでに助けてあげて欲しいな。
さっきも言ったように世界のことには不干渉だから僕は助けてあげることはできないけれど、その二人の場所くらいなら教えてあげられるからね!」
「ありがとうございます!!」
そうか、マイルとサリアはまだ最初の奴隷商にいるのか!散々笑われたけど最後にありがたい情報をもらうことができた。
「いやいや、二人ともいい子だったからね。不干渉とはいえ何とかして欲しい気持ちもあるさ。それじゃあ勇樹君、僕に会いたければ生死をさまようくらいの大怪我をしてくれればまた来れるから。また気軽に僕に会いに来てくれていいからね!」
「来るかあっ!!」
そんな気軽に生死をさまようような大怪我をしてたまるか!できればもう二度とここには来たくはない。
「はは、その意気だよ。それじゃあ元気でね、今度こそ神のご加護がありますように!!」
「ありがとうございます、今度こそ信じていますよ!もうここには来ないと思いますけど、神様もお元気で!!」
目の前の真っ白な空間が暗転していく。どうやら元の世界へ戻れるようだ。さすがにもう死にかけるようなことは勘弁してほしい。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!!」
目が覚めるとそこは俺が使用させてもらっている使用人室で隣にはシェアルさんとアルゼさんがいた。どうやら少しの間気絶していたらしい。
「よかったあ、目が覚めたあ。ユウキ君、大丈夫ですかあ?」
「えっと……そうですね、体もちゃんと動くし問題なさそうです。大丈夫です、シェアル様、そんなに謝らなくてもわざとじゃないのはわかってますから。それよりシェアル様のほうは大丈夫でしたか?」
というか一瞬くだらないことを考えた俺のせいでもある。そんなに謝られると罪悪感がいっぱいになるから勘弁して欲しい。
「私は大丈夫ですう。ユウキくんにちょうど着地したので怪我もありません~。うう~本当にごめんなさい」
「いえいえ、俺も少し不注意でした。あまり気にしないでください」
「うう~次からはもっと気をつけますう!」
「……災難だったな。今日はもう夕食を作る時まで休んでおけ」
「はい、ありがとうございます」
アルゼさんが優しい。そしてすごい同情の目で見られている。朝の言い方からしてもアルゼさんもなにかシェアルさんにやられたんだな。アルゼさんが言っていた命に関わるってこういうことなのか。
少なくともこの人は絶対に厨房に立たせてはいけないな。砂糖や塩を間違えるとか言うレベルでなく、後ろから包丁が飛んできそうである。火を使わせたらこの屋敷が火事になりそうだ。悪気がないのは本気で謝ってくれていることからわかるのだが、こちらの命にも関わることなので、この人には絶対に料理をさせないことを心に誓った。
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