無自覚な強能力者が常に歓迎されるとは限らない
王都に位置する名門の魔術学校では、新入生の入学式とその後片付けが終わると緊急の職員会議が開かれていた。そこに居並ぶ職員の顔は非常に暗いものかまたは厄介ごとに直面したかのようなものだった。
事務職員などを除外すれば全員が優れた実技の腕を持ち、各々が専門分野で高い評価を受けている優れた魔術師であるにも関わらずである。
勿論魔術分野ではなく経営分野などであれば如何に有能な魔術師だろうと頭を悩ませることはあるだろうが、彼らが頭を抱えているのは専門分野の魔術、それも一人の新入生についてだった。
その一人の新入生の何が問題なのかと言えば、それは魔力量が桁外れであるということに尽きる。
この魔術学園では、新入生に対するオリエンテーリングとして基礎的な魔術の行使を実技としてやるのだが、その際に焚き火などに火をつける用途で用いられる初級火魔術を行使させたのたが、件の新入生は攻撃魔術とみまごうばかりの炎を初級火魔術で発生させるという快挙または暴挙を成し遂げている。
幸にして教師の迅速な対応で怪我人や火災が発生してこそいないものの、下手をすれば最低で重度の火傷、最悪は死人が出ていてもおかしくなかった。
しかもそれを前にして問題の新入生は、これくらい当たり前という態度をとってみせている。新入生にしてみれば当たり前なのだろうが、死人がでかねない自体を当たり前と捉えるのは常識の違いというには異常すぎなくもない。
何故このような事態が起きたかといえば、話題の新入生の魔力量が膨大すぎるためだ。通常魔力は、個人に寡多こそあっても魔術を駆使していく過程で魔力量を増強していくのが普通だ。
なのに何が原因かわからないが、この新入生は莫大な魔力を先天的に持つという例外的な存在だ。恐らく魔術学園に入学する前から、莫大な魔力の主であったために、初級魔術を自分一人で行使するさいに異常な威力をみせたとしてもそれが当たり前という認識なのだろう。
周囲の誰一人指摘しなかったというのは不自然に過ぎる気もするが、あの威力を当たり前と思う人間がいるなら見てみたい者だと魔術学園の職員は総出で思う。
はっきりいって無自覚に危険な事態を引き起こしかねないこの新入生は、可能なら退学処分にしたいところだ。魔術の実技を行うたびに、人的・物的被害を出しかねない相手など相手をしたくないのが本音だ。
かといって、下手に退学させるわけにもいかない。
絶大な魔力を持つゆえに無自覚に危険を誘発しかねない相手を放置するわけにはいかず、万が一退学後何らかの騒動を引き起こされたら魔術学園にも責任が飛び火する恐れがある。
面倒な対応をしなければならないが、新入生には実際には莫大な魔力の主であり、魔術行使を行うたびに大惨事を引き起こしかねない自覚を持たせ、莫大すぎる魔力の制御を教えるために魔術学園は否応なしに新入生を抱えこむ必要がある。
かくして魔術学園は、無自覚なトラブルメーカーの莫大な魔力持ち新入生を爆弾として迎え入れることになる。
全ての作品がそうでないにせよ、なろう系にでてくるイメージのある無自覚強能力者が確実に肯定的に捉えられるかなという視点で書いています。
無自覚な強能力者なら、周囲に被害をもたらしかねないと警戒されたり、敬遠されたりするのではという発想です。
まあたんになろう系叩いてかっこいいやりたいだけかもしれませんが。
書いた理由は一番上の理由を思いついたからですけど・・・。
主人公は転生者ではありません。