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7日後に死なない  作者: さむお
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 朝になった。もうこの家に用はない。



「うーん……」


「考え事でしたら相談に乗りますわよ?」


「聞いてくれるか。実はお前があまりにも使えないから――」


「お役に立ちますわよ! だから見捨てないで欲しいですわ!」


「そう言うと思った。だからな、お前の良いところを考えていたんだ」


「うふふ、数え切れなくて、寝不足というわけですわね?」


「言葉が通じることと、美人だということくらいしかない。でもまぁ、ひとつを極めることだって難しいし、長所がふたつもあれば充分だよな」


「四郎……あなた、良い人ね」


「よせよ。こっそり逃げたらサクっと死なれそうだし、断っても付いてきそうだから頑張っただけさ」


「本心っぽいですわ……」



 くだらない話は止めて、生き残るために何かをしなければ。選択肢が多いから、悩んでしまう。



「わたくしに似合う服を探すのはどう!? 身を守れば生存確率も上がるのではなくって?」


「ばか言え。パンツ一丁でも当たらなければ問題ない。腹も減ったし、飯を探すべきか……いや、あれだな! 付いてこい」



 マリーとともに家を出て、廃墟となった町を走る。ゾンビが頭を抱えたまま、くねくねしながら歩いているが、気にしない。



「ひぃぃ、ゾンビですわ怖いですわ……」


「無視して進むぞ。倒しても旨味がない」


「賛成ですわ! 逃げますわよ~っ!」



 大きな旗が揺らめく建物に入ると、いかついおっさんが居た。



「おめぇが四郎か。噂は聞いてるぜ。で、後ろの嬢ちゃんは?」


「ただのお荷物だ。期待するな」


「せ、生存者ですわ! ごきげんよう!」


「何か買っていくかい? それとも、仕事を受けてくれるのかい?」


「仕事を――」


「買いますわ!」



 俺の話を遮り、マリーが商品を見る。最初は目を輝かせたものの、すぐに肩を落とした。



「お高すぎますわ……」


「こいつらボッタクリだからな。仕事を受けてコインを稼ぐんだよ」



 なるべく近場の回収クエストを受ける。これは物資を持ち帰るだけでいいから、楽な仕事だ。装備が整っていないうちは優先的に受けたい。



「ねぇ、四郎。『隠された補給品』クエストのほうが近いですわよ?」


「それ見つけるの大変だから時間の無駄だ。報酬もしょぼい。宝探しという名の、罠だと思ってる」


「ゾンビと戦わずに済むなら、悪くない条件だと思うのだけれど……」


「ゾンビをぶっ殺したほうが早いってことさ。ほら、行くぞ!」



 目的の家にやってきた。俺とマリーはパーティーを組んでいるから、俺が受けたクエストをマリーと共有できる。一度の労力で、二倍の報酬を得られるから、もうお荷物ではないな。



「役割分担をしよう。俺がゾンビをぶっ殺すから、マリーが物資を漁る」


「あなたって天才ね! 賛成ですわ!」


「念のために、この木製棍棒をやろう」


「四郎の武器がなくなってしまいますわよ?」


「俺は石槍を使う」


「いつの間にそんなものを!?」


「道すがら作った。槍は威力は低いが、リーチがあるから地味に便利だ」


「手作りですの!? 起用ですわねぇ……ねぇ、その石槍が欲しいですわ」


「お嬢様は、お下がりが嫌いか?」


「そうではなくってよ。少しでもゾンビから離れたいだけですわ!」



 結局、俺が木製棍棒を持ち、マリーが石槍を使うことになった。



「回収って、何を回収するんですの?」


「かばんに入った箱だ。隠されている場所は教えてもらってるから、大体の位置は分かる」


「じゃあ楽勝ですわね! さぁ、四郎! とっとと片付けてしまいなさい!」


「ただの回収クエストだから、別にゾンビを倒す必要はないんだけどな」


「わたくしが怖いから、お願いだから倒してくださる!?」



 箱を持ち帰ればいい回収クエストだが、探す過程でどうしてもゾンビに遭遇してしまう。無視して進むと囲まれて危ないから、倒すしかないわけだ。



「足元に気をつけろよ。たまに床が抜けて――」


「ひぎゃーですわ! どこですの!? 怖いですわゾンビですわ!」



 言ってるそばから床が抜け、マリーが地下室に落ちた。スリーパーゾンビも起きてしまい、マリーに襲いかかろうとしている。


 俺も飛び降りる。ゾンビとマリーに割って入り、木製棍棒でゾンビの頭をかち割った。



「えぐえぐっ、怖かったですわ。もっと早く言って欲しかったですわ!」


「悪かったよ。俺の服をやるから、早く着替えろ」


「昨日の今日でまた粗相を……うぅ、お嫁に行けませんわ……はっ!? 四郎、あなたの服はどうするつもりですの!?」


「言ったろ。パンツ一丁でも、当たらなければ問題ない。この家に服があるといいけどな」


「わたくし、頑張って見つけますわね!」



 ゾンビをかち割りながら家を探索する。ちょっとスースーする。ここが温かい土地で良かった。



「ちゃんと物資を漁ってるか?」


「ふふふ、怪盗・お嬢様ですわ!」



 こそ泥の間違いだと思うが、役割分担は楽でいいな。サクサク進む。



「うーん、この近くあるはずだが……」


「わたくしは二階のようですわ。もしかして、違う場所ですの?」


「人によって違う。近くにきたら手当り次第に探すしかない。お前も手伝ってくれ」


「うふふ、お役に立ちますわよ……あら? こんなところに肖像画がありますわ。久々の芸術にうっとりしますわね」


「そこか……ふんっ!」


「あぁぁ!? げ、芸術を叩き壊すなんて酷いですわ。あんまりですわ!」



 肖像画の裏にかばんが隠されていた。俺はクエスト完了だ。マリーのために、二階に上がる。



「この辺りのはずなのだけれど、見つかりませんわ……」


「いや、ある。床の板が違う……ふんっ!」


「ありましたわ! あなたって天才ですわね!」



 無事に箱を見つけた俺たちは、トレーダーの元に急ぐ。箱を渡すまでがクエストだ。遠足と一緒さ。



「ぜぇはぁ……お、お待ちになって……荷物が重くて。何が必要か分からなかったから、根こそぎ拾ってしまいましたの……」


「持つには持てるが、限界を超えると移動が遅くなる。半分こっちに渡せ」


「ありがとう……あなたって最高ですわね! さぁ、帰りますわよ~!」



 無事にトレーダーのもとに帰ってきた。さっそく報告をするつもりだったが……。



「お前、何でパンツ一丁なんだ? 服はどうした?」


「走ってたら熱くなった。どうせ人に見られないし気にするな」


「わしはよく『この人でなし』と言われるが、人だぞ?」


「この箱を投げ捨ててもいいんだが?」


「よく見つけてくれた。これは報酬のコインだ。それと、報酬のアイテムをどれかひとつだけあげよう」



 簡単なクエストだと、報酬も微妙だ。救急包帯を貰うことにした。



「わたくしは、9mm弾を貰いましたわ! 貰ったコインで銃を買えば……コインが足りませんわ!?」


「ふたり合わせても足りないな。もう一度、クエストを受けるか。今度は、回収&一掃クエストだ。さぁ、行くぞ!」


「あぁ、わたくしの銃が……」



 回収&一掃クエストは、ふたつの条件を達成してクリアとなる。回収はさっきと同じだが、一掃となると家のゾンビをすべてぶっ殺さないといけない。



「気合入れろよ。もう落ちるんじゃないぞ。別の建物だから、地下室があるとは限らないが」


「わたくし、学習しましたわ。もう四郎の三歩後ろしか歩きませんわ!」


「あぁ、うん……そうしてくれ……」



 戦闘は俺が担当するから、結局やることは変わらない。順調に掃除をこなし、家の行き止まりと思われる地下室にたどり着いた。



「うふふ、お宝部屋ですわ~っ!」


「あっ、待て。ここは――」


――ア゛アァ、ア゛ァァァ……。



 マリーが宝箱に飛びついたと同時に、薄い壁をぶち破ってゾンビが現れた。数は3体……やはり罠だったか。



「ひぎゃーっ!? たたた、助けて四郎~っ!?」


「お前が下がるんだよ! 戻ってこい!」


「腰が抜けてしまいましたわ!」



 マリーに近づくゾンビの頭に木製棍棒を振り下ろす。一体が転び、時間は稼げるが、残りの二体も迫っている。マリーは宝箱にしがみついて動けない。


 俺は自らゾンビに近づき、また木製棍棒を振り下ろす。片方は倒れたが、もう片方は肩にかすっただけ。衝撃が弱いと、少しよろけるだけで倒れてくれない。



「うぐ……っ!」



 ゾンビに殴られながらも、反撃する。立ち上がってきたゾンビどもに棍棒を振り下ろし、やっと掃除が終わり、道中で見つけていた箱をあわせて、クエストも完了だ。



「四郎! 怪我を……」


「大したことない。パンツ一丁だから、かなり痛かったが」


「どうして……わたくしを庇って感染してしまったのに……」


「いや? 感染してない。運が良かったな」


「えっ? ゾンビに噛まれたり、引っ掻かれたら、感染するのが常識ではなくって?」


「それは映画の常識だな。こいつらに攻撃されても、感染するかは運だと思ってる」


「良かったですわ~! 心配させて……怖かったですわぁ~!」


「……もう着替えはないぞ」


「しくしく……でも怖かったから仕方のない粗相ですわ……」


「まぁ、元気を出せよ。その宝箱から、何か出るかもしれん」


「そうですわ! 良いものが出ますように……銃がありましたわぁぁぁ!?」



 マリーが誇らしげに掲げた銃は、一丁のハンドガンだった。鈍い鉄の輝きは、薄暗い地下室の明かりに照らされて、とても頼もしく見えた……。



「これからどうしますの?」



 クエストをクリアしたが、もうすぐ夜になる。今日はこの地下室で朝を待つことになりそうだ。



「チラッ、チラ……ですわ!」


「何だ。こっち見るな」


「ねぇ、四郎……わたくし、この銃が欲しいですわ」


「やるよ。元からそのつもりだったし。使い方は分かるか? あぁ、本場の人間に聞くのは野暮だったか」


「わたくし、生まれて一度も銃を触ったことがないのが誇りですわ!」


「そ、そうか。あとで使い方を教えてやるよ……」


「この銃、ひょっとして壊れてるんじゃ――」



 マリーは何を思ったのか、いきなりハンドガンの引き金を引いた。



――パァン、パァン!!



「危ねぇぇぇ!?」


「ひぃぃ……間一髪でしたわ!」


「何してんの!? バカなの!? 死ぬぞ!?」


「四郎があっさりくれたから、てっきり壊れてるのかと思ったのですわ!」


「……はぁ?」


「だって銃ですわよ! 銃ですのよ!? 取り合いになるのが自然でしょう? それをあっさりくれるし、使い方まで教えるだなんて!」


「いや、後ろから撃たれたくなかったから。今まさに撃たれかけたけどさ。別の意味で危ないから、銃は取り上げたほうがいいかもな……」


「次から気をつけますわ!」



 この間抜けっぷりは、銃に触れたことがないせいなのか? それとも、触れさせなかった両親が天才だったか。今となっては知る術はない。


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