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第二話 サイバースーツ

千歳さんに案内されながら足を進める。


「どこに向かってるんですか?」


なにも聞かされずに来た俺は今更ながら少し心配になってきた。


「もうすぐ着くからちょっと待ってて。」


質問に対する答えになってない。まったく、千歳さんは天然なのか馬鹿なのかよくわからない人だ。

二人ぐらいしか通れない狭い通路は薄暗く、壁は金属でできた配管が施されているがところどころサビついていた。察するにそこそこ年季の入った建物なのだろう。

そんなことを考えているうちに到着したようだ。


「よし着いた。 ここが管制室だよ!」


そこには見たことがない機械が並んでいた。恐らく一昔前の設備だと思われる。

今時、網膜に直接映像を映し出すのが主流でモニターを使ったパソコンなんて一切見ないが、ここにあるパソコンは全てモニター付きだった。そして正面の壁にはさらに大きなモニターが付いていた。技術の授業で習ったことがあるが実物を見るのは初めてだ。


「じゃあ自己紹介からしてもらおっか。」


今考えると、先輩とは学校で顔を見たことはあるが一度も喋った事なんてない。ましてやこちらから一方的知っているだけで、先輩からしたら同じ高校の後輩という情報以外知らない。当然、姉である千歳さんもおなじである。


「えっと、名前は東雲伊吹っていいます。先輩と同じ高校の二年生です。」


変に緊張してしまった。そう俺は初クラスでの自己紹介が苦手なタイプの人間なのだ。


「そっかそっか。東雲伊吹っていうのか。じゃあ、伊吹で! いいよね!」


異性に下の名前で呼ばれるのは妹ぐらいで、初めて呼ばれたため少しドキッとしてしまった。


「い、いいですよ。」


「で、いつまでそのゴーグル着けてるの?」


先輩にも下の名前で呼んでもらえるのかと期待してしまったが違ったらしい。先輩の一言でその時初めて気が付いた。外ならまだしも車のなかでも着けていたのである。


「あ、ほんとだ。気付いてたならもっと早く教えてくださいよ。恥ずかしいじゃないですか。」

「花粉症か何かなのだろうと思って何も言ってなかったのよ。でも、室内に入っても着けてるから流石にね。」


自分は花粉症ではないので分からないが、先輩の言う通り流石に室内までは着用しないだろう。そう思いながら、着けていたゴーグルをいつも通り首にかけなおした。


「え? 千歳さんの顔がういてる!」


驚きを隠せなかった。俺から見れば首から上だけが浮いているように見えるのだ。こんなものホラー以外の何物でもない。


「もしかして、あなた元は見えない体質なの?」


「え? 体質と言われましても……」


体質と言われても見えないものは見えないじゃないか。そんな体質があるものか。千尋先輩は見えるのに千歳さんだけ見えないはずがない。ここで、車に乗る前の千歳さんとの会話を思い出した。


「もしかして、千歳さんってあの怪獣の仲間だったりして……」


俺はそんな馬鹿げたことを言い出したのである。見た目はかけ離れているので無いだろうとは思いつつもおもむろに聞いてみた。


「そうだよ。本当はあいつらの仲間だったんだ。隠しててごめんね。」


「そうなんですね。」


流石の俺も今更驚かなかった。今日ここまでで起きたことを考えればどうってことない。


「驚かないの?」


「今日起きたことを考えると今更そんな事聞かされたって驚きませんよ。」


「そっか……」


すこし変な間が開いた。


「ま、嘘なんだけどね!」


「え? どういうことですか?」


状況をまだ整理している途中なのにさらに思考が追いつかなくなる。


「お姉ちゃんもう良いでしょ。困ってるじゃない。早く上を脱いで。」


戸惑ってる俺の様子を見て先輩が千歳さんに話しかける。先輩はその様子を見かねて助けてくれたんだろう。


「わかったよ~。脱げば良いんでしょ! 脱げば!」


なぜだか投げやりだ。女性が着替えるのだ。俺は見たいという気持ちはあったが何とか理性で押し殺し後ろを向き見ないよう努力した。


「もう振りむいてもいいよ!」


どうやら着替え終わったらしいのでほっとため息らしい振りむいた。


「じゃーん! これで見えた?」


腕を胸の上で組み仁王立ちをしている千歳さん。よく見るとなにも着ていないのである。余りに堂々としているためこちらも普通に見てしまった。上半身だけを脱いだため下は見えないが上半身は確実に裸だ。


「ま、まずいですよ千歳さん……そ、その上半身が、その……」


言葉を慎重に選びすぎたせいなのか、初めて見る異性の裸に動揺してしまったせいなのか、上手く伝えることが出来なかった。まあ、原因はどちらもだろう。


「あ、ごめん! いつも着替える時は千尋しかいないからついその癖で……他の部屋で着替えてくるね!」


そそくさと隣の部屋へ向かう千歳さん。

流石に鈍感な千歳さんも恥ずかしがっていた様子だった。その時はっと先輩の存在を思い出しすぐに先輩の方を見た。

さっきまで立っていた場所にはいなかった。先輩は着替えている間に他の所へ行っていたようだ。正直、さっきまでの状況を見られたらどんな誤解を受けるか分からない。


「先輩に見られてなくて良かった……」


おれはそうつぶやくと小さくため息を着いた。


「何を見られなくてよかったのよ。」


先輩の声が急に聞こえ思わず驚いてしまった。千歳さんが服を着替えている間お茶を入れに行ってくれていたらい。動揺してしまっていたがなんとかその場をしのごうととっさに思いついた嘘をついた。


「そ、そのですね、制服のボタンが掛け違えててですね。それを先輩に見られなくて良かったなーと思ってですね。」


その時の俺は気付かれまいと必死だった。しかし戸惑いを隠せず、自分でも分かるぐらいにぎこちない喋りになってしまっていた。


「そう。そんなに恥ずかしがること? 別にいいけど。」


恥ずかしがり屋だと勘違いされたらしい。姉妹で全く違う性格だと思っていたが、どうやら鈍感である点は同じようだ。その時の俺は姉妹揃って鈍感であることに感謝した。

そうこうしているうちに千歳さんが着替え終わり戻ってきた。


「おまたせー!」


さっきまでの恥じらいの顔は何処へ行ったんだと言わんばかりの切り替え。会ったときから思ってはいたが本当大雑把な人である。


「じゃ、気を取り直して、もっかいさっきの続き話そうか。」


千歳さんは落ち着いてそういうとその服のことについて説明を始めた。


「さっきの服はサイバースーツって言って、普通周りの人間からは視認できないように作られてるの。あいつらと同じようにね。なぜだか君には見えるようだけど。まあつまり簡単にいうとあいつらと似たような作りで出来てるのがこのスーツってわけ。」


腑に落ちないことが二つあった。一つは千歳さんたちがいつも着ているであろうスーツにも関わらず、作りについての説明が曖昧な点。もう一つは組織の名前を聞いていた時から思っていたのだが、あえて言おう、そのダサいネーミングセンスである。


「その、質問してもいいですか?」


「いいよ! なんでもウチに聞いちゃって!」


千歳さんは誇らしそうに返事をした。


「なんでさっきのスーツもあの生物みたいに見えなくなるんですか?」


「わからん!」


即答であった。さっき、自分が作ったかのように誇らしげにしていたのは何だったんだ。


「先輩たちが作ったんじゃないんですか?」


「ちがうよ!」


またもや即答であった。じゃあ一体さっきのスーツはなんなんだ。あの謎の生物とおなじように視認できなくなる点しか分からない。


「じゃあ、あのスーツは一体何なんですか?」

「さっきの服はサイバースーツって言って、普通まわりの……」


「あんたは壊れたロボットか!」


千歳さんが再び同じ説明を繰り返し始めたので思わずツッコミを入れてしまった。

千歳さんは肩を沈めて悲しそうにしょんぼりしていた。少し言い過ぎてしまったと思った俺はすぐさま先輩にフォローの声をかけた。


「す、すみません。さっきのは何というか言葉のあやといますか……千歳さんの説明は分かりやすかったですし……その……」


「そうだよね……分かってる。私の説明がおかしいよね……」


ダメだ。この人完全に落ち込んでいる。さっきまでの元気はどうしたんだ。必死でフォローしようと思ったがこれ以上慰めの言葉が思いつかなかった。助けを求めるように先輩の方を見つめた。


「しょうがないわねぇ。さっきの説明で大体合っているわ。実際私たちが作った物ではないもの。」


千尋先輩言うと、今度は千歳さんが水を得た魚のようにぷんすかぷんすかと怒り始めた。


「だよねだよね !ウチの説明で合ってるよね! それを壊れたロボットとはなにか!ほんとに……ブツブツ……」


さっきまでの落ち込みようが嘘かのようだった。俺の気遣いを返してほしい。先輩は千歳さんがぶつぶつ言っているのを無視し、そのまま説明を続けた


「正しく言うと、ここに元から置いてあったものなの。だから仕組みもわからない。」


「なるほど。」


たしかにそれなら作ったのでもないし仕組みがわからないというのも納得できる。というかせざる負えない。先輩のいう通り千歳さんの説明で合っていたため、「ごめんと内心思ってはいたが、また調子に乗られると困るので口には出さないことにした。


「じゃあ、その名前のサイバースーツっていうのはもとからある名前なんですね。ダサいなと思ってたんですよ。しかも組織の名前まで似てるもんだから先輩たちが付けた名前じゃなくて安心しましたよ。」


その場の空気が凍りつく。俗に言う地雷を踏んだというやつだ。流石の俺でもその名前を誰がつけたのが察しがついてしまった。


「ネーミングセンスの欠片も無くて悪かったわね!」


そう千尋先輩なのである。顔を真っ赤にしながら大きな声で謝ってきた。そして、足音をあからさまにドカドカ音を立てながら他の部屋へと行ってしまったのである。

やってしまった。俺の初恋はどうやらここで終ってしまうらしい。さようなら俺の青春。


「俺、欠片も無いなんてそこまでは言ってないのに……」



「ド~ンマイ!」


千歳さんが慰めの言葉を掛けてくれた。しかし、その顔は今まで見た中で一番楽しそうな顔をしていた。

第二話読んでいただきありがとうございます。

やっぱりなぜか面白路線に走ってしまう今日この頃です。

自分がギャグアニメばかり見ているからでしょうか。やはりシリアスには程遠い気がします。

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