グランツの告白(3)
グランツの告白は、これで終了。
次は、舞踏会準備ですね。
思いがけない事が発端となって
問題が起きる・・・なんて、よくある話。
だけど、自分の事となると話は別だったりする。
最初の発端は
私が階段を踏み外して転げ落ちる・・・
という、思いがけない事から発生した。
頭を打って気を失った私が、ベッドの中で目が覚めたとき、
私は階段から落ちる前の私ではなくなっていた。
どのくらい変わったのかというと
私が階段から落ちた後、鏡で自分の容姿を見て
ビックリして、声をあげてしまったくらい・・・。
自分の顔を見て、声を上げるっておかしいけれど
その時の私の頭の中は、
「日本」の記憶が再生されていて、
なぜ、目の前に『悪役令嬢アリィシア』がいるのかわからず
まずそれに驚き、更に、その姿が自分だと知った時、
とても現実の世界での出来事だとは思えなかった。
それから暫くの間、私の頭の中は
日本とアードルベルグとの記憶が行ったり来たりして
ある日の午後のお茶の時間に、側にいるパティに
「今日のおやつは、ホットケーキが食べたいな。」
なんて言ったら、
「・・・お嬢様?ホットケーキとは、どういうものでしょうか?」
なんて言われて、不思議な顔をされる度に、
あれ?これってないんだっけ?
というのを繰り返し、体の痛みが消える1ヵ月半。
ほぼ毎日混乱しまくっていた。
そして、寝ている間、自分なりに
あれこれと考えていたんだけど、
結局いろいろ考えても、この状況が何故発生したのか
理由にたどり着けない。
自分の顔を見て、
「これって・・・・本当に私の顔・・だよね?
うん・・・・私の顔だわ・・・・」
と一人自問自答して・・・疲れる。
そんな事を繰り返している内に、ハタと思った。
下手な考え休むに似たり・・・もういいやって。
幾ら考えても訳の分からない状況だけど、
それでもいいや・・・割り切ろう・・・と。
だから身体の傷みが消え
ベッドから起き上がれる様になった時、
私は決めた。新たな目標を決めてやって行こうと!
夢や幻や、それこそ二次元キャラクターではなく
生身の人間として、私自身が
『悪役令嬢アリィシア』になるという事を。
そして、その為の訓練をやっていこうと
気持ちに折り合いをつけて、行くぞ!と思った矢先、
次の問題が発生した。
グランツの登場だ。
片手に乗り切れる、コップに入る大きさ程度しかない
見た目が犬のヌイグルミみたいな未知なる生物は、
自分を”グランツ”と名乗り、『私の守り手』だと言った。
私の守り手?はっ?なにそれ・・・
頭の理解処理能力が追い付かない内に、
”グランツ”の口から、次から次に衝撃的な話が出てきた。
私の『日本』の記憶は私のものじゃなくて、
実は、地球人のものです。私の体験談じゃないんです・・とか
私の命は、誰かに狙われていて危機が迫ってます・・・とか
私の魂の元の持ち主が、この世界の何処かにつかまってるとか
なんとか、かんとか・・・
何ですか?それ??って、
私の頭の中の二つの記憶の事なんか大した事がない
・・・くらいの出来事に、何だか笑うしかなかった。
そんな浮世離れした話の中でも、一番の衝撃的だったのが、
グランツ登場から先の出来事が
私が階段から落ちた事が起因ではなくて
アニメで使われていた魔法詠唱を
私が唱えた事が原因だったなんて・・・・。
何でっ!!!としか思えないでしょ?
グランツも
『まさかのアニメ好きだった日本人の魂の記憶が、
アリィの”魂”を形作るきっかけを与えるなんて
ほんと、オレ、思っても見なかったよ』
なんて呟く気持ちは、本当にそうね。
私も同じ気持ちだよ。
「えっと・・・・一体、何がいけなかったのかな?」
私はグランツに尋ねてみた。
魔法詠唱・・・・ってアニメのセリフだよ?
しかも効果なし・・・そんな状態で
色んな要素てんこ盛りのサスペンス劇場の入り口に
私が立たされる事なんてあるの?
『信じられない・・・』と思ったから。
命が狙われてる?大げさでしょ?と思いたいし、
何かの間違いじゃないかと思いたい・・・・けれど、
目の前にこうしてグランツが現れた事を考えると、
絶対にありえないと言い切れない。
某テレビ番組のお決まりのクライマックス一歩手前、
崖の上で犯人に追い詰められ、断崖絶壁の間際で
犯人と対峙する・・・そんな状況に向かっているらしい
この展開の切っ掛けが、羞恥に身悶えた
あの魔法詠唱にあるなんて・・・
嘘でしょ?と思っちゃうよ。
するとグランツが、私に言った。
『魔法詠唱って、日本のアニメに登場する魔法使いたちが
魔法繰り出す時に良く言ってたよね。
アニメのアリィシアも言ってたけど。
アリィがそれを真似て、呪文を唱えた瞬間、
アリィシアになりきったでしょ?
それが、一番の原因だとオレは思うんだ。』
「はっ?・・・・どういう事?」
私が、アリィシアになりきって、
その・・・魔法を放つ呪文を口にした事が、
なんで色々な事の切っ掛けになんてなるの?
グランツの言っている意味が分からない。
『アリィはただ、アニメの真似をしただけの事と
思ってるんでしょ?
確かに、へんてこな呪文を唱えた、
たったそれだけの事だよ。
でも、最初に呪文を唱えた後、
ただ言うだけじゃ駄目だ。
自分の中で魔力の源イメージしなきゃって思ったでしょ?』
「・・・うん、口だけじゃ駄目だって。心の中から
魔法を使うって思わなきゃ駄目だって・・・」
『そう。そして、それが”魂”を形造る切っ掛けを生んで、
オレの形も造られた。』
「でも・・・・心から想った事が、なんで問題になるの?」
『それはね、心から願うって事は、
身体の内側に気持ちを集中させる事に繋がったんだ。
そして、アリィの魔力が溜め込まれて行った。
それと、この世界の人達は、魔力が自分の身体の中で
作られ、溜め込まれるなんて事を想像する人なんて
いないんだよ』
グランツの言葉に、私の頭の中は疑問符が浮かんだ。
だって、家の書庫にあった「初めての魔法」
というタイトルの本に書いてあったものをやっただけだよ?
この世界の人間は思わないって言うなら、
だとしたら、あの本は一体誰の為にあるの?
『あの本は、多分、この世界に住む
異世界人に向けて書かれたものだと思う。』
「ええっ!!」
『さっきも言ったけど、この国の人達は
魔法を自分で生み出して使おうなんて考えている人、
いない。
なぜなら、この世界の人達は、自分達が魔法を生みだす
魔力を持ってないし、そもそも魔力を生み出せるなんて
考えている人はいないからだよ。
いたとしても、それはこの世界ではない、
外の世界の話だと理解しているんだと思う』
「じゃぁ・・・あの本は、この世界の人達からすると」
『ただの、絵空事・・・ただの夢物語だと
思っていたんじゃないかな?』
「えっ~!?」
そうだったのか!
本があるから、てっきり誰もが、そう思っているものだと
勝手に思ってた・・・。
グランツの言葉が正しいならば、その本を真似て
それを真剣にやってたところを、もし家の人に見られたら、
私は不思議ちゃんに見られたかも知れないな・・・。
危なかった~。
「そうなんだ・・・。この世界で魔法を使う人達の間での
共通認識の話なのかと思ってたんだけど・・・
違ったんだね・・・・。」
『そう。この世界の人達も、魔法は使えるよ。
でも、魔法は媒介を利用して使っている人ばかりだから
自分の身体の中に媒介に宿る魔力と同じものを生み出して
使うなんて人いないんだよ。』
「・・・・そうなの?」
『うん。皆、何かに頼って使ってる。
魔力は使う時、体の中には膨大なエネルギーが作られる。
そのエネルギーの塊が身体から放たれた時、
大気や色々なものに干渉して、”魔法”
と呼ばれる現象を起こさせるんだ。
勿論、身体の中から放たれた魔力のエネルギーは
目には見えないよ。
けど、エネルギーを発したら、
大気が震えたり、何か音が聞こえたり、
身体で感じる事もある。
魔法を使う為に魔力を溜め込んだ媒介を利用しても、
媒介がエネルギーを発するけど、
身体の中から生み出した魔力のエネルギーとは、
伝わり方が違うんだ。
だから、アリィが自分の内側に魔力を溜め込んで行った時
その内側から、この世界にはないエネルギーが放たれたから、
アリィの存在がバレたんだ。
でもなぁ、そのエネルギーを生み出した原因が
まさかアニメになるとはね・・・。
はははっ。長い間、アリィの側にいたけどさ
まさか、アニメが原因で生み出されて、
しかも、それが魔力の源と繋がっちゃうとは・・・
オレも考えつかなかったよ・・・
油断してたなぁ・・・・』
グランツは乾いた笑い声を出す。
口は動いてないのに、声に表情が出てる。
凄い。
『そして、それがこの世界だったのがマズかった。
地球だったら、危険度は今よりは
かなり低かったんだけど・・・』
「地球にいたら危険が低いって・・・
アードルベルグだったら駄目で、
地球だったらよかったって言うの?」
グランツは、うんと首を縦に振る。
『そうだよ。
アードルベルグが駄目というのではなく、
この世界では・・・という事。
地球にはさ、今のアリィみたいに
”魔法が使えたらいいな”とか
”魔法の力は、身体の中から沸いて出てくる”とか
そういう、ここにはない魔法に対する考えや
思いを持っている人間が沢山いる。
けど、この世界にはいない。殆どね。
それに、地球にはアリィの他にも
魔力持ちがいたからね。
だから、オレはそれを上手く利用してた。
ヤツラは魔力持ちを探しているんじゃなくて、
アリィを探しているんだ。
だから、もし、追跡の手が伸ばされたら
魔力のエネルギーを出してる他の奴に手が伸びる様にして
追跡を免れた事も何度もあるよ。
ヤツラが、この世界から異世界に何とか手を伸ばして
辿って行った先はアリィじゃない。
そのガッカリ感は、次の攻撃までの時間を作る。
そして、魔力をもってるって思い込んでる地球人が
沢山いたから、意識をトレースして
追跡しようとしたヤツラに対して
ダミーが沢山つくれた。
まぁ、オレ、上手くカモフラージュしたし・・・。』
「えっ?
それって、つまり、地球には
魔法が使える人間がいるっていう事?
私とは逆バージョンの人達が地球にはいるって事なの?」
『そうだよ。』
グランツは、サラッと凄い事を言ってる。
『まぁ、そんなに沢山はいないけどね。
彼らは地球からみれば異世界と言われている世界から
転移者、転生者として渡ってる。
地球からこっちに来れるのに、
こっち側から地球に行けない訳がないじゃん。
相互通行だよ』
「・・・・・考えても見なかった」
『世界はね、ここの世界だけじゃない。
いろんな世界がある。
その世界には、最初のアリィが生れた世界の様に
誰もが魔法を使える世界もあるんだ。』
へぇ・・・・。と驚きの声しか出せないけど
地球にも本物の魔法使いがいたとは・・・。
「だったら、尚更、聞きたい!
なんで、地球人の魂の中に
『始まりのアリィ』さんの魂を隠したの?」
私にも重要な事だ。
『それはね、地球人の魂が一番適してた。
都合が良かったからなんだよ』
「えっと・・・・それって、どういうこと?」
都合がいいって、どういう意味だろうか。
『アリィの”魂”には魔力がある。
だから、封印を施したりしただけじゃ、
真剣に追ってくるヤツラに、
探し出されてしまう可能性が高かった。
だからマスターは、一生懸命考えた。
アリィーの”魂”をどこに隠すかって。
そして、考えて探した先に、異世界人である
地球人の魂に辿りついたんだ。
そして、それがマスターの探していたものだった』
「探していたものって・・・・ここの人達と、
何かが違うの?」
『うん。地球人の魂はね、厚みがあるんだ・・・』
「厚み?」
『うん。マスターは知ったんだ。
地球人は身体が滅んでも、魂は消えないんだってこと。
地球人の魂はね、人としての寿命が尽きると、
次の人生が始まるまで魂が待機する。
そしてを魂に合った身体が生れたら、
その身体の中で新たな人生を生きていく。
グルグルと回るんだ。
何を最終目的として繰り返すのかは分からないけれど、
だいたい100年周期で新たな人生を歩み始める。
そして、1つの生の周期が終わると、地球人の魂の周りに
見えない層が重なると言うか、魂に厚みが増していくんだ。』
「厚み・・・・。」
『うん。そして、それが都合が良かった』
「都合が良かった?」
『そう。考えて見てよ。厚みが増すって事は
厚みのある魂の中に隠されたアリィの魂を
外側から探る事は、ずっと難しくなる。
う~ん、例えるならさ
防音装置がしっかりしている部屋の中で
大きな声を出しても、周りに声は殆ど届かない。
けど、青空の下で大声で叫んだら、
周りにいる人達は振り向くだろ?
そんな感じだよ』
「ふ~ん・・・・・。」
防音装置の部屋なんて、アードルベルグにはないから
グランツの説明をパティが聞いても分からないだろうな・・・
と思いながら、私はグランツの言葉に耳を傾ける。
きちんと理解しているかは怪しいけれど。
『でも今のアリィの魂は、
地球人の魂にいた時から比べると裸の状態。
包まっていたものがなくなったから、
アリィの魂が魔力のエネルギーを発すると
当然、ダイレクトに外へと伝わっていく。
今回口ずさんだもので生まれたエネルギーは、
見えないものを形造らせる力も備えてた。
そして、オレは、アリィの魂が形造られたのと同時に
アリィの魂の器であるオレも形が造られたんだ。』
あの、適当な呪文を呟いて身悶えた時、
私の身体の中で、そんな大それた事態になっていたなんて
考えてもみなかった。
「・・・そんなに凄い事になるとは思ってなかったよ」
色々な出来事が絡みあっていて、
これを解決するには、問題が多すぎて
結局、何からどう対応しなければならないのか
私には分からなかった。
だから・・・
「それで、グランツ先生。
結局、私はどうしたらいいの?」
これから、何をすればいいのかと。
グランツは、私の質問に
う~んと頭を悩ませた様子を見せた後
考えながら言葉を紡いだ。その答えは・・・
『そうだね。一番は、死なないこと・・かな。』
思いがけない言葉に、目がテンになる。
「・・・それだけでいいの?」
『それだけって言うけど、今の状況だと
アリィにとっては、一番難しいと思うけどね・・・・
だから、アリィの命が危ないって警告を
あらかじめしようと思ったんだし・・・・・』
グランツの目線が、私の筋肉痛の足に落ちた気がした。
確かに・・・・という気持ちを読んだのか
うんうんとグランツは頷く。
『いいかい?約束だよ?
アリィの魂は、今のアリィの身体を失ったら
『始まるのアリィ』の身体に戻っちゃうからね。
今はまだ駄目だからね。気を付けてよね』
「わっ・・・・分かったわ」
自分の命を大事にせよ!という課題、
しかと承りました。
『次は・・・そうだな、体力をもっと付けること。
今の身体の状況じゃ、本当にいざという時に
頼りにならないから・・・。
さっき言ってたみたいに、訓練して。
せめて、走って逃げれるくらいにはなってもらいたい』
「はいっ!グランツ先生!」
『それと、魔力の源・・・出来ちゃったからさ。
魔法を使う練習も、して欲しいんだ』
「えっ?」
グランツの言葉に、私は聞き返した。
「でも、グランツ先生。
魔力を使ったら、エネルギーが爆発して、
私の魂を狙っている人達に居所を教えることに
なっちゃうんじゃないの?」
さっき、グランツが言った事を考えると
何だか、話が矛盾している気がする。
『うん。使えば、ヤツラとの接点が増えるから、
危険も増えるだろうね』
「・・・そうでしょ?じゃぁ、何故?」
『アリィが『魔力を生む方法』を思い出さなきゃ
こんな事を言ったりはしなかったよ。でも、
相手に、アリィがこの世界で生きている事は
バレちゃったって言ったでしょ?
勿論、まだ、ここ、アードルベルグにまでは
目が向いていないと思う。
オレも、今まで以上の力を使って、
アリィの居所を掴めない様にする。
けど、多分、オレの魔力だけじゃ
完全に防ぎれないと思う。
時間を稼ぐ事は出来るとは思うけど、
いずれは、どうにもならない時が来るかも
知れない・・・・。
マスターも、多分、アリィの魔力を感知したとは思う。
けど、アリィがこの世界で地球の事を思い出した頃から
マスターと連絡が取れなくなった。
だから、今は何処にいるのかは分からない。
ヤツラの手が届く前に、アリィをマスターに
逢わせることが出来ればいいけど・・・
でも、何処にいるか分からないし・・。
だからと言って、マスターに逢えない間、
何もしないでいるなんて時間がもったいないよ。
いざって言う時に相手に捕まえられるより、
少しでも抗える様になって欲しいと思うんだ。
魔力を使うリスクは高い、けど・・・・。
攻撃は、最大の防御にもなるからね。
バレちゃってるなら、
なおさら、練習しない手はないかなって。』
「という事は、・・私、魔法が使える様になるの??」
『・・・・・多分・・・。
最初のアリィの様にはいかないかも知れないけど、
この世界の追っ手であるヤツラに対抗する程度には、
使える様になるかも知れない。
・・・確約は出来ないけどね。
勿論、オレも最大限に手を貸すよ!』
魔法が使える?
何だろ・・・
命が狙われているというシリアスな展開なのに
私の中に無性にワクワクする感情が産まれてくるのは。
この感情は、アリィシアのもの?
それとも、地球人だった私の器の心?
ううん、どっちでもいい。
今の私自身が、
『ワクワク』『ドキドキ』してるんだから。
今ここにいる、私のものだ!
ふふふっ。
今も、記憶の混乱が続いているし
理由がなんとなくわかったからと言って、
モヤモヤする感じがなくなったりはしないけど
でも、何時までも悩んでいたってしょうがない
って思った。
だって、今の私の状況を思い悩んで、
苦しんで、嘆き続けていれば問題が劇的に改善する、
っていうのであれば、ずっとその状態を保ってもいい。
でも、きっと変わらないと思う。
多分、何もなかった、知らなかった時に戻れる訳ではない。
だとしたら・・・。
やっぱり、気持ちを新たに決めるしかないでしょ!
『何を決めたの?』
グランツが私に問いかける。
「何をって、魔法剣士になることよっ!」
そう、記憶が混乱した時に定めた目標。
私の大好きだったアニメ
「魔法少女セレス」に登場する悪役ヒロイン
アリィシアになる・・・ということ。
高らかに「アリィシアになるわっ」って宣言した時は、
魔法は、使えたらいいな・・・もしかしたら、私も・・・
と希望的に思っていたけど
グランツの言葉をなぞると、
使える可能性が高い・・・・というか、私は使える!
だとしたら、この混乱した記憶もプラスにして
アリィシア・フォン・アードルベルグとして
魔法剣士になってみせるしか、ないよね!
この世界の公爵令嬢として、闘う魔法剣士になる。
そうよ、なってみせるしかないと思うのよっ!
くよくよしたり、嘆き落ち込むなんて、
私らしくないわよ!
前の私・・・・は、どうだったか
今の私には、もう思い出せないけれど
今の私が、そう決めた。
だから、やるっ!のだと心に強く決めたのだ。
『まぁ・・・・アニメのアリィになるには
今の状態だと、かなり訓練が必要だけどね・・・』
レイピアを華麗に振り回す姿を思い浮かべ
フフフフっと悦に入った笑い声を聞いたグランツの
皮肉めいた声が聞こえたけど
『まぁ、でも・・・・前向きなアリィなら、きっと
思う様な魔法剣士になれる・・・・と思うよ。
たぶん・・・・うん、きっと・・・特訓すれば
なれる・・・・筈だよ・・・』
グランツが肯定してくれた。
誰かが肯定してくれた!
それだけで、気分が上昇していく。
だから、きっと大丈夫な気がする!
フフフっ。
口からどうしても笑いが零れていく・・・
ニヤリと口元を歪めた瞬間、
ハタッと思い出した。聞きたい事があった事を。
「・・・ところでさ」
『なに・・・?』
突然の切り返しに、目の前のグランツが聞き返す。
「さっき、途中になったけど、
私の記憶の混乱状態は何で起きてるの?」
『あっ、そうだったね。それが聞きたかったんだっけ?』
とグランツは言葉をつづけた。
『地球人はね。一つの生を終えて次の身体に宿る前に、
前の生で体験し魂に焼き付いた記憶を一
度リセットするんだ。
新しい人生を生きる時、
生まれる前の人生の記憶をずっと引きずってちゃ、
住みにくいでしょ?
だから、新しい身体が出来た時点で、
魂に刻まれた記憶を一度、真っ新な状態、
リセットするんだ。
勿論、リセットするって言っても、
消滅させるわけじゃない。
魂に刻まれた記憶を、魂の中に眠らせるんだ。
アリィと一緒に、地球人の魂の中にオレもいたから
分かる。
地球人の魂の記憶は、決して消えたりはしない。
でも、他で生きた人生を思い出す事は普通ない。
思い出せないなら、古い記憶なんか、
消しちゃえばいいのにとは思うけど
魂の記憶に保管されたままになるんだ。
まぁ、たまに、その魂の記憶が甦ったりする人達も
いるみたいだけど、でも、大抵の人間は思い出せない。
アリィの魂は、地球人の魂の中にいる時は
眠った状態だった。
でも、睡眠学習みたいに、アリィ自身が体験したみたいに
地球人の生活を学習しちゃったり覚えちゃったり、
感じちゃったり・・・してたみたい。』
「睡眠学習ね・・・・」
多分、この世界では聞く事がない勉強方法だけど
日本では睡眠学習法というものが、
利くかどうかは分からないけれど
ちゃんと存在してた。
魂だけの状態は、その睡眠学習と同じ状態っていうのは
面白いなと思うけど・・・。
『始まりのアリィの身体を取り戻した時、
マスターがアリィをこの世界に戻す時は、
地球人の魂の内側から見ていた
地球人の生活の記憶、思い出、その記憶全てを
アリィの中から消して、この世界に戻そうと思ってたんだ。
けどね、地球人に思わぬ出来事が突発的に発生して、
予想外のタイミングで引き戻されてしまったから、
アリィの魂から、地球人の記憶を消去することが
出来なかったんだ。
もっとも、アリィがこの世界の人間として転生しても
地球人の記憶は蘇らなかったから、
マスターもオレも安心してたんだけど、
アリィが階段から落ちたら、まさか記憶が甦るなんて
思ってもみなかったんだ。
これが記憶の混乱の原因なんだよ。』
「・・・・つまり、私が日本の記憶は持っているけど、
日本人としての記憶が曖昧な訳は・・・」
『アリィ自身が体験した記憶じゃないからだね。
テレビで見ていた記憶って感じかな。』
アリィの中にある日本の記憶は
地球人が実際に生活してた時の記憶なんだよって
グランツが言う。
「じゃぁ、私が好きだと感じているこの感情も、
その地球人っていうか、日本人のものなの?」
『う~ん・・・それは・・・・良く分からない。
今のアリィは日本人の時の記憶が
この世界の記憶と混じってる状態だから
地球人のものかも知れないけれど、
でもそれだけで、その異常なまでの
アリィシアへの感情が発生するものなのかは、
オレにも分からない。
まぁ、アリィの魂の器として選んだ
地球人の魂との相性がもの凄く良かったから
アリィ自身が
体験を通して感じていたものではないけれど、
感情は・・・もしかしたら
共有しちゃっていたのかもしれないね』
「感情の共有・・・・?」
『うん・・・。アリィが魂の内側から見て、
好きだと思っていたものが
地球人の感情に作用したのか
その逆なのかは分からないけど、
今のアリィを見ていると、
もしかしたら『アリィの魂』が希んだものが
地球人の好みを左右させていたのかも知れない。
だって・・・・』
「だって・・・・?」
『地球人の好みが、最初のアリィと良く似てたから・・・・』
「・・・・・・・・・。」
グランツの言葉を聞くと、
このアニメが大好きだった感情も、
アリィシアに憧れる気持ちも
アリィシアとヴァロンの恋愛に浮かれていたことすら
私自身の気持ちから出ているものではなくて
地球人のものだっていう。
アニメの『アリィシア』が好きだった私が、
自分の姿がアニメのアリィに似た姿だと気が付いた時
今までには感じた事がなかった、
自分の姿に憧れを抱いてしまった。
考えようによってはナルシストの様にみえるけど
自分が大好きという気持ちより、
この大好きな姿に見合った私になりたい、
ならなきゃいけないって思った。
だから、魔法だって使えるかもって期待をしてしまったの。
だって、今の私にとっては、
今の私も、地球人の気持ちも
どちらも”私自身”の本当の気持ちだったから・・・
どれも、私。区別する事は難しい。
『うん、あの娘は・・・
アリィは本当に”アリィシア”好きだったからね』
グランツの言葉に
「・・・まぁ、アニメと違って
今、自分の姿を考えると、微妙な気持ちではあるけどね。」
苦笑しか出来なかったけど。
『それに、アリィが好きだったアニメの多くもね、
あれ、実際にあった話もあったんだよ。
まぁ、異世界からの転生者や転移者が、
地球で色々やってたから、当然と言えば
当然なのかも知れないけど・・・・』
「・・・・どういう事?」
グランツはサラッと凄い事を言ってる。
『世界はね、ここの世界だけじゃないって言ったでしょ?
本当に、沢山の世界が平行に走ってる。
その世界には、最初のアリィが生れた世界の様に
魔法を使える世界もあるけど、
地球には目に見える魔法を使うなんて事ないだろ?
もし、そんな世界に、
魔法の力をもったままの異世界人が降り立ったら
どうなると思う?』
「・・・・・どうなるの?」
『・・・・・火を見るよりも明らかだよ。
異端者としか取られ兼ねない。
そして、恐怖の対象となる』
確かに、自分とは違う形や存在に
恐怖心を持つ事は十分考えられる。
それ故の迫害の歴史が地球にはある訳だし・・・。
『だから、地球に降り立った異世界人はやったんだ』
「やったって、何を?」
『魔法はあって、
魔法を使える人達も実はいるんだよって、
本や映画、テレビを通してね、
ゆっくりゆっくり世の中に浸透させて行ったんだ。
夢物語の様に・・・抵抗が起きない様に・・・』
何百年もかけてゆっくりね・・・とグランツが言う。
昔の童話でも魔法を使う物語は、
地球の記憶を辿ってみると、世界中、至る所にあった。
子供の読み聞かせの物語の中にも、
大人が好む映画の中にも。
『そうでしょ?
アリィの魂の器だった最期の地球人は日本人だったけど
日本も当然地球の中にある国だから、
魔法を使える人間なんていない。
でも、アリィの記憶に強く焼き付いている様な
”魔法少女セレス”みたいなアニメが沢山あるでしょ?』
「そう言えば、そうだね・・・
確かに、魔法少女の番組とか沢山あるね」
今の私の記憶にも、魔法を使う沢山のアニメ番組や
漫画が思い浮かんだ。
『地球には魔法を使える人間はいないんだよ?
それなのに、何故、魔法を使える人間の話が
沢山あるんだと思う?』
「えっ!・・・・もしかして、それが・・」
『そう、地球に渡った異世界人が
魔法の存在を広めていった結果なんだ。
アリィの記憶に残っている日本人が生活していた
時期には、様々な媒体を通して
”魔法はあるかも。あったらいいな・・・”って
普通に思う、アニメを見て育った世代が、
物語を作っていた。当たり前のようにね。
地球に、魔法の話が出てきた時なんて
そもそも、そういう物語自体がないんだよ。
それなのに、
人間が魔法を使って戦うなんて発想、
どうして出てくるの?
魔法がない世界で?って思わない?』
「たっ・・・・確かに・・・」
ということは、私が見ていたアニメも・・・・
『「魔法少女セレス」は
実際にあった話に似てる部分がある。
『始まりのアリィ』に話に良く似てる。
もしかしたら、アリィの国の人か、
マスターの国の人か・・・・。
アリィを捕まえたヤツラの国の誰かが
そういう場面をみたか、聞いたかして
地球に転移者か、転生者として地球に降り立って
作品の何かに関与してるのかも。
もっとも、全部が全部正しいって訳じゃない。
善悪を変えたり、設定を少しいじったり
してる。アリィは知ってる?
昔話はさ、『戦で勝った者の話』だけど、
言い伝えは『戦で負けた者の話』だって聞いた事ない?
人や設定はかなり変わっていても、
昔話って、結構、本当にあった事だったりするんだよ?』
「・・・考えようによると、
ちょっと怖い気がするね。
無意識のうちに刷り込まされるっていうか、
・・・・意識を植え込まれるという・・・・」
『まぁ、怖いと言ったらそうなんだけど、
でも、地球人たちは、
「そういうのがあったら良いのにな」
「面白いな。使ってみたいな」・・・という
負の感情以上の、楽しみ要素として魔法の存在を
受け入れていったんだ。
アリィの最期の器だった日本人の女の人も同じだよ。
魔法少女っていうアニメが大好きで、
自分でも使えたらいいのになって、いつも思ってた。
勿論、実際には使えない事は分かっていたけれど、
でも、もしかしたら、いつかは・・・・
という部分を失くす事は出来なかったんだよ。』
「なるほど・・・・
確かに、その記憶を持っていたんなら、
今の私の使えるかも・・・という
期待する気持ちも、おかしくないよね」
『そうだね・・・。』
「それと、グランツ先生は「アリィを守るもの」
なんだよね?それは、どういう意味なの?」
『言葉通りだよ・・・・
オレは、「アリィを守るもの」として
マスターに使命を与えられて、
アリィの魂が人間の身体の中にいる間に、
誰かから攻撃を受けて傷つかない様に、
アリィの魂が消えてなくならない様に、
”アリィの魂を守る器”として、
一緒に地球へ行ったんだ』
「・・・・・・魂の器?」
『うん・・・地球人の魂の中に隠したといっても
長い間その魂の中にいたら、もしかしたら
地球人の魂と同化する可能性も捨てきれないからね。
だから、地球人の魂の中にあるアリィの魂が
同化して消えてなくならない様に
アリィの魂を抱える器として
アリィの側にずっといたんだ』
「魂の守る器・・・・?」
『う~ん、袋みたいというか、箱というか・・・。
そうだよ、今、アリィが頭の中で
想像していた通りだよ』
私の頭の中では、
光の玉が巾着袋の中に入っている姿が浮かんだ。
そして、その巾着袋は、
更に大きな箱の中に入っている。
そんなイメージを思い浮かべていたのだ。
『オレはマスターに言われてアリィの魂を守ってきた。
ずっと、ずーっと。
地球人として、何度も何度も繰り返し生まれてきても、
その魂が失われない様に・・・。
いつかマスターの下に帰れる様に・・・。』
「・・・・・・うん」
『今から20年前、アリィの異世界での
最後の器だった日本人が階段落ちた時、
アリィに強制的にココに戻る力が発動したんだ。』
本当にビックリしたんだとグランツは言う。
『でも、アリィは今18歳だろ?』
「・・・うん、そうだね。
グランツ先生の言う計算でいうと
地球での生活を追えて、こっちの世界の人間として
生れる直前に魂が入ったら20歳、
お母様のお腹に宿ったら19歳だね。」
『そう・・・・引き寄せの魔法が発動して、
アリィの魂が地球からこの世界にある
アリィの身体に引き寄せられて・・・
そのままで生まれたりしたら、
アリィは20歳か、19歳になってるでしょ。
でも、今18歳。そこが、ポイントって言うか
マスターとオレの努力したところなんだけど・・・・。』
「どういうこと?」
『アリィの魂を引き寄せた相手に
捕まえられない様にする必要があった。
20年前、この世界にアリィの魂が引き寄せられ
戻ってきた事をマスターだけじゃくて、
ヤツらにも知った。
ヤツらは20歳とか19歳で生まれた子達を
見つけてアリィかどうかを調べてる。
今もね。でも見つからない・・・。
それは、相手の手の内からアリィを守る為、
撹乱する為にマスターが放った魔法の力なんだ。
この世界で出来る最大の防御策だったんだよ。』
「最大の防御策って・・・・?」
『うん。アリィの魂がこの世界に引き寄せられた事を
知ったマスターが魔法を掛けた。
マスターには、アリィをもう一度、異世界へ
転移させる力は残ってなかった。
そして、魂は、誰かの身体の中にいないと
強制的に元の身体に引き寄せられる。
だから、マスターがその時持っていた、
最大限のパワーをもって、引き寄せる力から
アリィの魂を守って、そして、
アリィの生れる時期をずらす事にしたんだよ。』
「生れた時期をずらす?」
グランツは、そう、と首を振る。
『アリィを狙っていたヤツラは、
アリィの魂が、身体に引き寄せられて
この世界に戻ってきた事はわかった。
けど、オレも邪魔したし、マスターの力も加わって
ヤツラに何処に戻って来たのかまでは分からせなかった。
だから、ヤツラも追う事出来なかった。
マスターの力は弱っていても、
まだ相手の力よりは上だしね。
だから、もっと撹乱させるには・・・
と考えた時、一番いいのは』
「私の生れの時期をずらす事なのね」
『アリィの魂を奪われない為にした事だった。
そして生まれる場所も選ばなきゃならなかった。
アリィの身体が魂を求めるという力と、
相手の奪おうとする力の前に、
為す術を持たない場所になんて生まれたら、
すぐに相手に良いようにされちゃうよ。
今まで、マスターやオレがやってきた事が、
無意味になる。
だからアリィが生れて誰かがアリィを奪いに来ても
そう簡単には奪われないところに
転生させる事にしたんだ。
最大限引き延ばせたのは2年だった。
そして、その間にオレが探し出せた場所が、
このアードルベルグだったんだ』
「・・・・という事は、私は、
マスターさんやグランツ先生のおかげで
アードルベルグに生まれたってわけ?」
『まぁ・・・そういう事になるかな。』
「・・・そんな事が出来るの?」
『特別な事だよ。簡単じゃない。
あっ、でも、オレ達が出来たのは、
生まれる時期と場所を決めただけ。
アリィの家族は強いから、
もしアリィが狙われても敵から
実質的に守ってくれるって思ったし、
そしてそれは思った通りだった。
実際、アリィの家族は化け物みたいだしね。』
アリィは知らなかったんだよね・・・とグランツが言う。
確かに、お父様やお兄様が強い事は知っていたけど、
お母様やお姉様達までが強いなんて事は、
私、知らなかったのよ。
今日までね。
『アリィの側にオレはいたから、
今のアリィの家族の力は、オレにも分からないけれど、
アリィが小さい時に見たアリィの家族は、
そりゃもう、凄いよ』
「・・・・すっ・・・すごいって・・・」
『強いって意味さ。』
聞きたい?と首を傾げるグランツだったけど
止めて置いた方が良い気がして、
プルプルと首を横に振った。
『そう?魔法を使っての攻撃も、そりゃ凄いよ。
とても、媒体を使って攻撃をしてるなんて
思えない程だよ。
まぁ、性格もぶっ飛んでるけどさ・・・
アリィもその血は受け継いでるから、そのうち、
そういうぶっ飛んでるところ、出てくるかもね?』
「ぶっ・・・・ぶっ飛んでる?」
マズイ・・・お母様がギュッとムチを握ってる姿や
お姉様が薄笑いを浮かべて敵に突進している姿が
脳裏を横切ってしまった。
お父様やお兄様の事は、
『怒れる獅子』なんて二つ名が付けられる位だから、
ちょっとは想像出来るけど、
ぶっ飛んでるって、どの程度の事を言うんだろう・・・。
『大丈夫だよ。他の家族と比べたら、
かなり・・・なぐらい・・だけだから』
「いや・・・かなりって所が、
どういう事なのか気になっちゃうけど!!」
大丈夫、その位が丁度いいんだって!とグランツが言う。
『アリィの狙うヤツラが来ても、そう簡単には奪えないよ。
そして、アリィの家族は、アリィを溺愛している。
アリィ付きの侍女だっけ?
あの眼鏡の子もアリィを大事に思ってる。
多分、アリィの為なら
平気で敵の中に突進し一人や二人は簡単に
・・・だろうね?』
「ぱっ・・・パティが!!!」
確かに特殊工作部隊にいたって事は今日知ったけど
パティがタガーをビュッと投げつけて・・・って姿、
・・・・暗闇に、眼鏡が光ってる姿を想像しちゃったよ。
『でも、安心して。
アリィを思う人間の愛情は、
マスターやオレが作ったものじゃないよ。
ちゃんとアリィの家族の間に育まれたものだから。』
アリィは、皆に愛されてるよとグランツが言うもんだから
・・・・考えない事にした。
ぶっ飛んでる姿を。
「・・・そっか、私が大事にされてるのは偽物・・・
とか言われたらショックだけど、
私が家族が大事な様に、
みんなが私の事を好きでいてくれるなら
・・・偽物じゃないんなら・・・まぁ、いっか。」
『そうそう。愛情は偽物じゃないよ。』
「・・・・・・うん」
『でも、良い事ばかりじゃない。今日、
アリィの魂に魔力が戻った事に敵が気が付いた。
アリィの存在も知られた。
だから、アリィに警告しに現れたんだ。オレは』
「そうなんだ。でもさ、例えば私の
例えば、魔力が使えるかもと思う気持ちだとか
自分には魔力がある・・・
という記憶を消したりしたら、
魔力はなくなったりしないの?」
『・・・・出来ないよ。
記憶は忘れても、魂の中の魔力の輝きは、
一度甦ったら、もう消えない。
簡単に出来ないから、地球人の魂にまでいれて
隠してたんだよ。
簡単に出し入れ出来たり、
何度もホイホイ封印できます~っていったら、
そんな解除も簡単んなものなんか、
隠す必要も、封印の価値なしじゃない?
アリィ・・・ちょっと考えれば、
分かる事だと思うけど・・・』
呆れてるな・・・
そんな雰囲気が漂ってるぞ、グランツ!
「・・・・そうなんだ・・・
じゃぁ、やっぱりアニメの真似して呪文とか
・・・本当にまずかったね?」
『まぁ・・・・そうだけど。
やっちゃった事はしょうがないよ。』
「そうだよね、うん。私、色々頑張るよ!」
『オレも、色々頑張る!!』
グランツがグッと拳を握りしめる。
誓いを立てる様に。
私がその姿をジッと見つめていると、
『ごめん・・・・』
とグランツがポツリと呟いた。
「ん?何が?」
さっきまで、あんなに自信にあふれた様子で喋っていたのに
突然、『ごめん』と呟くグランツは
『本当は、アリィが頑張らなくても良い様にしたかった。
勿論、普段の生活でじゃないよ。
命を狙われる・・・っていう状況だけは避けたかった。
でも、オレの力が足りなくて、
アリィの魔力が外に漏れる事
を完全に塞ぎきる事が出来なかった。
マスターに言われてたのに・・。
アリィの事、守れって・・・・。
でも、オレ・・・守り切れなくて・・・・』
本当に『ごめん』と呟いて項垂れていく姿を見て
私は焦ってしまった。
でも、その小さな姿に私は、両手でそっと
グランツを掬い上げて、自分の目線に合わせた。
「グランツ先生。あのね、正直なことを言うと、
実は私、イマイチまだ深刻な事とか
本当には分かっていないのかもしれない。
敵がどういう人達なのかも分からないし、
グランツ先生がマスターと呼んでいる人だって
誰なのかも知らない。
本当に、分からない事ばかりだけど、でも、
こんな可愛い、黒い毛玉モップのワンコ姿の
グランツ先生に会う事が出来て、私はラッキーでしょ?
最初は、お化けか何かと思って、本当に怖かったけど
今は怖くないし・・・
逆に、ぎゅーって手のひらで握りしめてみたい!」
頭の中で、人形のグランツを
ギュッと思いっきり握り潰している映像が浮かんだ。
『うわっ!怖い事言う・・。
握りしめるって、
アリィの頭の中で、オレの身体、潰れちゃってるじゃん!』
「えっ?でも、私の握力ぐらいなら耐えられるでしょ?
姿は可愛いんだもん。
ぎゅっうぅぅっとしてみたいよ。
姿は、間違いなく私の好みにドンピシャです!」
『姿だけ・・・っていうのが、なんだかね』
「勿論、こうやってお話してたら、
グランツ先生の少しわかってきて
可愛いなって思ってるよ。
出会ってまだ時間は経ってないけど、
好きなものって、好きじゃない?
グランツ先生のこと、私は好き。
・・・・それに」
『それに?』
グランツが私を見ている。
私は笑顔を作って
「今まで、私を守ってくれて・・・・
助けてくれてありがとう」
私の気持ちを伝えた。
私の言葉を聞いたグランツは、一瞬えっと
驚いた様子を浮かべた後、急に大人しくなって
何だか、泣いている感じがした。
目の前のグランツは、ヌイグルミ仕様だから
当然涙を流してはいない。
けど、見えない涙が流れている気がした。
『ほん・・・本当は、オレ・・・
アリィと合うつもりも、話をするつもりもなかったんだ。
マスターが『始まりのアリィ』を取り戻すまで、
大事に守るって決めたのに・・・
マスターとの約束も守れなかったし・・
アリィも危険にさらす事になっちゃった・・・。
オレが弱いから・・・』
グランツの、苦しい胸の内が聞こえる様だ。
でも・・・
「私は、グランツ先生と出会えて嬉しいって思ってるよ
確かに、グランツ先生が言っている話って
すごく現実離れしているし、
命狙われちゃってるみたいだし
記憶も混じってて、大変だし・・・
これから、どうなるのかなぁ~って思わなくもないけど」
『・・・・・・・・』
「でも、今の私は恐怖よりワクワクが勝ってる。
魔法剣士に、本当になれるかも知れないって
ドキドキしかないよ。
これって、グランツ先生が教えてくれなきゃ
知らない感情だよ。」
『アリィ・・・・』
「グランツ先生と、まだ出会って1時間も経ってないけど
でも、今までとは違う生活が始まるのかも?って
勿論、今までだって十分幸せだったけど、
それに、ワクワクのエッセンスもくれたんだよ。」
グランツに微笑みかけた。
「私に悪い事したみたいに、落ち込まないで。
落ち込むんなら、私と一緒に楽しむ方法を考えて。
魔法の使い方、私、全然分からないよ。
だから、グランツ先生が教えてくれなきゃ。
ねっ?
グランツ先生は私に悪い事をしたっていうけど
違うよ。
新しい世界のドアを開けてくれたんだよ。
だから・・・そんなに自分を責めないで。
折角知り合ったんだから、悲しくて苦しい出会いじゃなく
楽しい出会いに変えようよ。
一緒に困難を乗り越える、仲間になろ?」
そうよ、もうここまで来たら後戻りは出来ないし
過去を振り返って悩んだって、時間が遡りする訳でもない。
だから、物事はポジティブに考えよう!
だから・・・・ねっ、グランツという私の気持ちが
グランツに伝わったのか
『ア・・・・アリィィィィ』
グランツの人形の様な姿からは
涙のかけらも流れていないけど
ズビズビズビと鼻をすする音がする。
『オレ・・・・アリィと喋れて、嬉しい。
けど、マスターの言いつけ通り
アリィが狙われない様に最後まで守れなかった。
だから・・・アリィに嫌われちゃうかもって・・・』
「そんな事で嫌ったりしないよ・・・
むしろ、頑張ってくれたんだなって思ってるよ?
アードルベルグに生まれさせてくれたのだって、
嬉しかったよ。」
『・・・・うん』
「それに、私の記憶が戻ったのも、何か意味があるかも
じゃない?
今、足が筋肉痛で階段の上り下りだって大変な状況で・・・
正直、戦うというよりも、日常生活だって
マズイじゃない?と思える程のへたれだけどさ
魔法剣士になろうって、今、凄く思ってるし
周りもみんな協力をしてくれる。
だから、悪いことばかり考えてもしょうがない。
グランツ先生に会えた、嬉しい!
魔法少女になれるかも、嬉しい!
そういう、ポジティブシンキングで行きたいよ!
ねっ、グランツ先生も、そう思って。
これからの努力で、私、きっと何とか出来る。
私を狙っている敵を倒す事が出来る!
そう、アニメ『魔法使いセレス』の悪役ヒロイン
アリィシアの様にね。どう?私、なれるよね?」
私の力強い宣言に
『アリィは・・・・アリィだね。』
グランツは私の人差し指を
グランツの小さな両手でぎゅっとつかんだ。
「それに・・・『アリィ』さんの事だけど
正直いって私は、グランツ先生の言う
『始まりのアリィ』さんっていう自覚は
全然ないし、そもそも、私にとっては知らない人だし、
やっぱり自分の事だとは思えない。
18年生きてきた記憶が、今の私を形作っているから
今さら、今の私以外になれ!っていっても、
グランツ先生、私、絶対無理だよ。
魂の事は良くわからないけれど、
そのグランツ先生の言う、アリィさんと私の魂が
同じだとしても、私はアリィさんじゃない。
だから、私は今のアリィシアとして、
自分の命を守れる様に頑張るよ。
でもさ、私を狙っている相手は私であろうが、
『アリィさん』であろうが、、どっちでもいいんでしょ?」
『・・・・うん』
「それって、凄く失礼だよね。
私は、グランツ先生も知ってる通り、
本をもったくらいで階段から落ちちゃうし、
運動もヘタレだし
今も筋肉痛で痛すぎて本当に情けないけれど
アリィシア・フォン・アードルベルグなの。
それ以外の、何者でもないの。
だから、アードルベルグの一員として頑張って訓練すれば、
そう簡単に連れ去られたりししないはず。
それに、私の家族以上に
私を守ってくれる所なんて何処にもないでしょ?
だから大丈夫!
グランツ先生も、これからも私を守ってくれるんでしょ?
やっぱり、昔のアリィさんじゃなきゃ、駄目?」
グランツが守ってきたのは、『始まりのアリィ』さん。
マスターさんから使命を受けて、命をかけて守ってきたのは
『アリィシア・フォン・アードルベルグ』の姿を持つ
私じゃない。
魂が同じでも、生れた身体は別人だし
記憶だって、生きてきた人生だって、同じじゃない。
そう考えると、グランツが命を懸けて守りたい相手は
本当は、私じゃないんだと思う。
それでも私は、『今の私』の側にいて欲しいと思った。
だから、聞いてみたかったんだ。
グランツは私の問いかけに、間を置かずに
『駄目じゃないよ!全然、駄目じゃない!
オレにとってはアリィはアリィしかない。
例え、どんな姿になっても。
オレの事を覚えてなくても。
オレの姿が見えなくても・・・。
アリィを守るのは、オレの使命だから!
アリィシアがアードルベルグに生まれてからも
ずっと側にいたんだ。』
グランツが、小さな手で胸をドンと叩いて見せる。
『だから、オレはアリィを守るよ!』
私は嬉しかった。
今の私をグランツは認めてくれたから。
アリィさんじゃなくても良いって、言ってくれたから。
だから・・・
「じゃぁ、もう自分を責めるのは終わり。いい?」
そういうと、感極まったグランツが
また、ズビビビっと鼻をすする。
わんこも鼻をすすれんるんだと、ちょっと驚いたけど
小さな声で『わかった』というグランツの声が
聞こえた。
「でも・・・・・一つ、疑問があるんだけど・・・」
そう、最後の質問。
考えてみると、
これが、実は一番知りたかった事かも・・・。
『何?・・・・』
「なんで、私の姿は『魔法少女セレス』に出てくる
悪役ヒロイン”アリィシア”に瓜二つなの?」
好きな顔だから最高に嬉しいけれど、
でも、こんなに似るなんて普通ではありえない。
『・・・その事?』
私の問いかけに、グランツ先生は
『簡単な話だよ』と言った。
『普通、容姿なんて自分の想い通りになんてならないけど、
アリィの場合は特殊な過程でこの世に生まれてきたでしょ?
アリィは自分の身体を、アリィの魂が一番強く
魂に刻んだ姿をモデルに体が作っていったんだ。
その姿は、
たまたま、このの人たちが持っていた遺伝子から、
アリィが求めている姿を形作る要素をもっていたから
似せることができたんだよ。
勿論、マスターの力も入っているけどね・・・。』
「・・・という事は、私が死ぬ間際まで思い浮かべていた
アニメのキャラクターの姿を、私は選んだって事?」
『まぁ、そういう事になるね。
日本人の時の姿を、一番強く思い浮かべていたら、
きっと日本人だった時の姿に似たんだと思う。
アリィの頭の中は『アリィシア』のイメージが
いっぱい詰まってたから・・・まぁ、良かったでしょ?』
「えっ・・・・うん、あははは」
偶然だったにしては、ラッキーだったな・・・。
私は自分が何故アリィシアと瓜二つだったのか、
その理由がオタクな生活が起因していたんだとはっきりして
スッキリしたのと同時に
『好きな顔を思い浮かべておいて良かった』と
・・・・グランツにはバレバレだけど、心底思った。
「・・・という事は、始まりの『アリィ』さんは、
今の私とは、全然違う姿なの?」
『そうだね・・・・。
勿論、名前も違うよ。アリィシアじゃない。
アリィに分かりやすく言う為に、
『始まりのアリィ』って言ってたけど、
本当の名前も、姿も全然違う。
髪の色も、瞳の色も違う。
白い肌は・・・同じだけどね。
だから、姿しか知らない人が見たら、
「アリィ」=「始まりのアリィ」だとは
分からないと思う』
「そうなんだ・・・」
オレは魂の色が分かるから、同じだって事は分かるけどね
と、さっきまで、あんなにショボンとしていたのに
フフンと自慢げに腰に手を当ててお腹を突き出してみせた。
それとね・・・・とグランツは
『オレが何でアリィの事を良く知ってるかっていうとね、
アリィの魂の器だったオレは、アリィと同じものを
アリィと同じ様に見てたんだ。
だから、オレもアリィと同じもの好きだったんだよ』
と笑ってる。
魂の生まれ変わりみたいな話を聞いても、
正直なところピンとあまり来ないし、
私の中に蘇った、日本人の記憶が
実は他人が経験した内容を見ていただけのもの
だったって言われてもイマイチピンと来ない。
グランツが言う、マスターさんに合わせるって言われても
私にとって、そのマスターさんっていうのは知らない人だし
逢ったから、どうするって分からないけれど・・・・
もう、全部ひっくるめて、
分からない事ばかりだから、取りあえず
”アリィシアの姿で生れた私、ぐっじょぶ!”
と自分を褒めてみた。
早く相手役を・・・出したいけど・・・。
出来るかっ!
ライバル・・も早く出したい・・・。出来るかっ!