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悪役ヒロインは、そう簡単にはなれません。

家族が沢山出てきました。

私の名前は、アリィシア・フォン・アードルベルグ。


辺境公爵位である父ギベオン・フォン・アードルベルグと

母サフィーリア・フォン・アードルベルグとの間に生まれた

5人兄妹の末っ子だ。

一番上は長兄で跡継ぎのリィドルフ兄様、

二番目の兄は侯爵家へ養子へ行ったラルフ兄様、

三番目にして長女のクリスベル姉様、

四番目にして次女のトリフェリア姉様

そして、私が5番目で三女アリィシア。


年齢は・・・18歳。だから、私の身体も18歳。

ピチピチのムチムチ・・・とは言えないけれど

水も弾け飛ぶ肌を持つ、うら若き乙女よ。

って、自分を紹介するのに

『うら若き乙女』なんて

18歳の若い子が言うわけないわね。


今の私は、屋敷の階段から転げ落ちた時に

頭をしこたま打って、

前世なのか何なのかアラフォー手前の意識が残る

肉体年齢18歳、日常生活18歳で

時々アラフォー公爵令嬢っていう

どっかのアニメみたいな自己紹介状態なのだ。


アラフォーの記憶は、アードルベルグのものではなく

日本に住んでいたと思われる40歳前後の

OLだった記憶。

・・・とは言っても、

日本にいた記憶の方が途切れ途切れだから

今のところ、本当に日本に住んでいたのかは定かではない。


でも、アードルベルグとは全く違う環境。

今の世界には登場しない風景、日常。

見た事のないものは夢でも現れない・・・

という事を本で読んだ事があるから

『日本』という国での生活は、

私が何処かで体験した事なんだと思うけれど

良く分からない。


でも、その良く分からない記憶や体験が

昨日の出来事の様に思い出すので

混乱しまくりです。


日本にはアードルベルグにはないものが沢山ある。

テレビ

機械

アニメやラノベ。

私のアラフォー生活にあったものが

ここにはないのに

手元においていた記憶があるものだから

あるものがないって、

何だか不便というか変な感じなのだ。


階段から落ちてから暫くの間、

日本とここの生活とを、記憶がいったり来たりして

私を困らせていたけれど、今は大分おちついてきた。


多分、アードルベルグの記憶の方が

勝ってきたからだと思う。


それでも今でも不思議だけど嬉しいなぁ・・・・・・

と毎日思うものがある。


それは、私の顔だ。


私が好きだったアニメ「魔法少女セレス」の

悪役ヒロイン・アリィシアに

瓜二つの容姿。


ブルネットの髪に菫色の瞳って・・・

実物でみるとこんな感じかぁぁ・・・って

今でも、目覚めてから毎日思っている。


もう18年もこの顔やっている筈なのに、

初めて見る感覚だったし、

アニメと現実が混ざって、非現実と現実の境界線が

顔だけ見ていると崩れていったけれど

『これは、私の顔・・・』と思いながら

顔をナデナデ出来る様になってきた。


そう思える様になってくると、

アニメのアリィシアというよりも、

私、アリィシア・フォン・アードルベルグである

という認識が強くなってくる。


階段落ちで痛めた身体が自由に動くまで

ベッドに括りつけられていた私は、

もて余した時間で

今の私と、アニメのアリィとの

同一点と、異点を探り続けた。


結局、同じなのは『アリィシア』という名前と

『姿・形』だけ。あとは違う。

まず、年齢がかなり違う。

アニメのアリィは20代後半。

今の私は18歳で違うし、

生きてきた環境も違う。

それに、一番の違いは

私には婚約者『ヴァロン』の存在がない。

ここが大きくアニメと異なる点。


屋敷には、それらしい人物はいないし

パティにそれとなく婚約者の話を振ってみたけれど

『お嬢様には、まだいらっしゃいませんよ』

という返事しか帰って来なかった。


現実は厳しいなぁ・・・

顔が一緒でも、恋人設定は一緒じゃなかったか・・・。

ヴァロンの広い胸に憧れて、アニメのアリィみたいに

抱き着いてみたかったなぁ・・・・と

おばさん根性が出てきたけれど、

それは叶わないらしい。残念だ。


それに魔法剣士でもなかった。

魔法が使えるかは、まだ試していないけど

剣士ではない。確実に。

だって、4kg程度の本の重さに耐えかねて

階段落ちする剣士なんている筈ない。

アニメでみた、魔法剣士アリィの

あの美しい雄姿からはかけ離れている。


目が覚めた時、

自分の思考に以前とは違って日本の記憶が混じり

多分、階段から落ちる前の私と

何処かはっきりとは分からないけれど

違っているという事を自覚した。

けれど、その私を変える記憶や感覚を消せない以上、

それも受け入れる事にした。


いままでと同じではない何かをしてみよう!

という考えに至って、自分の姿が好きならば、

本来あるべき姿、つまり

『魔法剣士 アリィシア』になる事を

新たな自分に対する目標に掲げる事にしてみた。


目指せ!悪役ヒロイン!ってなもんよ!!!

まぁ、アニメとは違い、今のところ

敵役の正義のヒロインがいないから

何に対しての悪役なのかは別として、

とにかく「魔法剣士になる!」という目標を

私に課してみた。


身体がやっと動く様になって

『アリィである私』がこの姿に恥じない様に、

レイピア使いの魔法剣士を目指して

訓練を始めてみた・・・のは良いのだけれど・・・。


現実は残酷で・・・。

そうは簡単に悪役ヒロインにはなれないみたい・・・。


※ ※

父さんとお兄ちゃん・・・

いや、この国で生きている私の言葉でいうと、

お父様とお兄様・・・が、辺境視察から帰ってきた日の夜。


アードルベルグの屋敷では、

久しぶりに一家団欒の席が用意された。


辺境領地であるアードルベルグは、

端から端までぐる~っと見回るとおよそ1ヵ月半はかかる。

私が階段落ちしたのが、2ヶ月前。

私を心配して側にいてくれたお父様とお兄様が

私の容体がある程度落ち着いたのを確認してから

視察に出かけたのが、1ヶ月半前。


今日は、1ヵ月半ぶりに家族が揃う。

夕食の席は私も凄く楽しみにしていた。

体の回復具合も見せたかったし。

お父様とお兄様が帰って来たとの連絡を受けて、

私は身支度をし、ダイニングルームに向かった。

すぐにでも行きたかった。

そう思ってはいるのだけれど、

今日の私は逸る心とは裏腹に、

ダイニングルームに向かう足は重く

歩行も困難な状態。

ああ、こんな姿を見せたら

心配しちゃうかも・・と思いつつも

ままにならない。不甲斐ないわ。


パティに付き添われて

私が部屋に入った時には

既に、お父様、お母様、お兄様が席に座っていて

私が席に着くのを待っていてくれたのだけど

ふぅ・・ふぅ・・・ふぅ・・・と

一歩、足を進める度に痛みと共に荒い息が出る今の私は、

周りから見ると、まるでマリオネットが

糸で吊り下げられた様な

ぎこちない歩き方になっていて・・・


私のそんな姿を目で追うお父様とお兄様は

不思議な顔をしている。


お母様は、優雅にお茶を飲んでいた。


「おっ・・・・お待たせいたしました。」


なんとかテーブルまで辿りついた私に、

執事のセドリックがスゥッと

スマートに椅子を引いてくれた。


「ありがとう・・・」


にこやかな笑みを返した私だったけれど、

実はここからが戦いなのだ。


「ところで、アリィシアは何をしているのかね?」


いつまでも立ったままで椅子に座らない私を見て、

お父様が首を傾げる。

『怒れる獅子』という二つ名がある

戦う辺境公爵と言われる程、

父様は屈強な身体の持ち主で

戦う姿は、異名の通りらしいけれど

私には優しいお父様だ。獅子の様に吠える、

つまり、怒っているところを見た事がない。


父は私より少し明るめの焦げ茶色の髪を持ち、

私と同じ菫色の瞳をしている。

胸をバシンと叩いても、全く動じないだろう

と思える程、胸板が厚い。


アラフォーの記憶が混じっている今の私が見ると

50歳半ばのお父様の見た目は、40代に見えるし

日本では余りお目にかかれない感じの

精悍な顔つきと身体を持つ頼もしさ全開の男性だ。

このお父様を普段見ていたら、ナヨちっくな身体には

あまり興味がもてないだろうな・・・。

ヴァロンもそうだったし・・・・

と思ったりしている。


ちなみに、お父様の左隣に座っている

長兄のリィドルフお兄様は、

お父様とお母様を足して2で割った様な感じ。

お母様似の整った顔に、お父様と同じ屈強な体つき。

髪の色はお父様、瞳の色はお母様と同じブルーだ。


私の瞳も菫色で、あまり言えた義理じゃないけれど

ブルーの瞳だとか、菫色だとか

日本人じゃないなぁ~って、

こういう所でも感じたりする。


そんな事に一瞬気を取られたけれど

私は、実は悪戦苦闘している真っただ中だった。


普段はテーブルの側に近づくと

執事のセドリックがスッと椅子を引いてくれて

私が腰を下ろす瞬間にスッと戻してくれる。


けれど、昨日の私の失態を知っているセドリックは

私の様子を見て椅子をスッと引いてはくれたけれど

戻すタイミングを椅子に手をかけた状態で、

後ろで見守りながら見計らっている。


その様子を見てお父様が、

何時までも腰を下ろさない娘と

椅子を差し入れない執事を見て

不思議そうな顔で見ているのだ。


「アリィシア・・早く座ったらどうだね。」


お父様が催促する。


「ええっ・・・いま座るわ・・・」


と言いつつも、額に汗が出てくる。

何故、いつまでも立ったままでいるのかというと・・・


太ももがカチコチで、膝を曲げる事が出来ないからだ。


いつまでも椅子に座らない・・

もとい、座る事が出来ない私を見て

長机のお誕生日席に座ったお父様が

お父様の右隣、私とは向い側に座っているお母様を見るけれど

お母様は、チラリと私の方に目を配り、私の状態を見て

『まだまだかかりそうね」という顔で、一口、紅茶を口にした。


「サフィーリア、アリィはどうしたんだ?

具合でも悪いのかい?」


いつまでも座る事ない娘の姿に慌てる様子もないお母様に

どうしたのかと尋ねるお父様。


お父様、そんな風に心配しないで。

具合が悪い訳ではないのです・・・

と言いたいけれど、

思うままにならない足に

『うぅぅ』と唸る事しか返答できない。


「失礼ながら、旦那様。お嬢様に代わりまして申し上げます。」


私と共に部屋に入ったパティは、

他のメイドたちと同じ様に壁に沿って立っていたけれど、

いつまでもお父様に返答できない私を見るに見かねて

スッと一歩前に足を踏み出し、両手を前に揃えて頭を下げて

発言の許可を取っているのが見えた。


「なんだね、パトリシア」


お父様が、発言の許可を与えるとパティは頭を上げる。


「アリィシアお嬢様は、席にお着きにならないのではなく

 お座りになれないのです。」


私の状態を話す。

勿論、パティも私の状態は良く分かっている。

何故なら、こうなる原因が出来た状況を一緒に見ていたからだ。


「一体、何故だね」

「アリィシアお嬢様がお座りにならない、その理由は・・」

「それは?」

「・・・筋肉痛です。」

「筋肉痛?」


ううっ・・・お父様、その視線は痛いわ・・・。

パティの言葉に、お父様とお兄様の視線が私に向けられる。


「アリィシアは、筋肉痛になる様な事を何かしたのかね?」

「はい、旦那様。

 実はお嬢様は『魔法剣士』になると仰られて

 昨日から特訓を始められました。」

「魔法剣士?特訓?アリィシアが?」

「はい。」


パティはコクリと頭を頷いた。


「で、アリィはどんな特訓を始めたんだい?」


『へぇ』と声にしたリィドルフお兄様が

面白そうに私を見る。


「走り込みと腕立て伏せと腹筋、それに素振りです。」

「アリィが、そんなにやったのかい?」

「病み上がりで?そのメニューは無茶だねぇ」


パティの言葉を聞いて、お父様もお兄様も驚いた様子を見せた。


「はい。私も『ゆっくり始めてみては』と申し上げたのですが、

 お嬢様は頑として聞いて下さいませんで、

 今までの生活をされてきたお嬢様に、

 このメニューは難しいと申し上げたのですが

 『大丈夫よ・・』と仰られて、この様な事に。

 結果、食卓にもつけない程の筋肉痛を煩わせる事に

なってしまい、本当に旦那様や奥様に大変申し訳なく

 お嬢様付の侍女としていかような処分でもお受け致します。」


と頭を下げた。

いやいや、パティ。

そんなに深刻な問題ではないのよ。これ。

生死にかかわる訳でも、

まして怪我している訳でもないのよ。

ただ、筋肉痛で痛くて膝を折る事が出来ないだけ。

それだけよ。


パティは続ける。


「しかも筋肉痛は、昨日よりも更に痛みを増しているらしく、

 今日は歩くのも覚束ない程でございます。

 しかし、筋肉痛でも休むと駄目なのよ・・・と仰られ、

 今日も訓練をされて、その結果が昨日よりも

 更に筋肉痛が増してしまわれました。」


はい。パティの言う通りです。

でも、言われてみると情けない気がする。


「そうね。昨日もかなり痛みがあったみたいで、

 淑女としては見せられない行為もしたわね」


パティの説明を黙って聞いていたお母様が、

カップを置いて、のんびりとした声で言う。


「一体、どんな事をしたのかね?」


お父様が真剣な表情でお母様に問いかける。

一体、何があったのかと。

淑女にあるまじき行い・・・

男親からしてみれば、どんな不埒な事と想像したに

違いないけれど。

内容は本当に驚くほど情けなく、

お母様は笑顔を崩さずに・・・


「ひっくり返ったのです。」


とだけ言った。


「ひっくり返る?」


その思いもしない言葉に疑問符を浮かべる父と兄。

分かるよ・・・意味わかんないでしょ?

私も『まさかっ』だったんだもの。


「えっと、お母さん。

 ひっくり返るというのは、一体どういう意味ですか?」


リィドルフお兄様がお母様に尋ねると


「ええ。言葉通りですよ、リィドルフ。

 急激に運動したせいでしょうけれど

 すぐに筋肉に痛みが走るなんて若さゆえね。

 

 普段、運動不足の身体が突然運動を始めたらどうかしら?

 しかも、運動した後のケアをしたいと申し出たパティに

 『大丈夫だから』と断って・・・それがたたって、

 太ももの筋肉の張りで膝を曲げる事がままならなくなったの。

 昨日は椅子に上手く腰掛けられなかったみたいで

 勢いよくそのまま椅子に腰を掛けようとして、

 椅子ごと後ろにひっくり返ったのよ。

 足が天井に向いたわ。人形の様にひっくり返ってね。」


自分の事を人から改めて聞くと、なんと間抜けな・・・・。


「アリィシア・・・・なんと・・・・」


お父様とお兄様の目が痛い・・・。

その哀れみの眼差しを向けられて、私の心は

ビシビシ氷の刃が突き刺さっていますよ。

ええっ、情けなくって嫌になっちゃうくらいに・・。


確かに、昨日私はここでひっくり返った。

筋肉痛は・・・そう昔、ダイエットに良いと教えられ

テレビで真似てやったヒンズースクワットをやって、

次の日、足がロボットの様にガチガチになって

座る事すらままならぬ、そんな状態で。


この国には、文明の利器がないから、

ロボットって言っても分からないから

マリオネット・・・つまり、人形の様に

足がピンとはった状態で・・・と

お母様が説明したけれど・・・

つまりそういう状態だった訳。


「しかも、その原因となる訓練の内容・・・

 パトリシア、旦那様に教えて差し上げて」


「はい。奥様。」


パティはチラリと私の顔を見てから、お父様に説明を始めた。


「走り込み・・・つまり、戦闘には持久力が必要だからと、

 お嬢様は走る事で持久力をつけようと考えられました。

 最初から何週も・・・というのはさすがに無理だと

 お考えになられた様で、屋敷の周りを1週走る

 という予定でしたが、

 結果は1/4程でお倒れになられ、土の上に伏せられました。」

「1/4・・・・かぁ」


お兄様、可哀想な目で見るのはヤメテ。


「腕立て伏せは、1度も身体を持ち上げる事は出来ませんでした。

 ならばと腹筋もされましたが、こちらも同じでして。」


お父様まで・・・うぅぅ


「筋力はないと思われたお嬢様でしたが、

 さすがに素振りくらいは出来るだろうと棒をもたれ、

 1回振ったら飛んで行き、

 2度目には既に手まめが出来てしまい棒が持てず、

 昨日の訓練は終了となりました。」

「・・・・情けないぞ、アリィ」


お父様とお兄様の哀れみの目からそっと顔を背け、

「くぅ」と涙をこらえる私。

分かってる。

自分が一番、情けないって分かってるわ。

貧弱を通り越して、何ていう言葉を当てたらいいのか

自分自身で模索中よ。


「本日の訓練は、既に筋肉痛にて動きがままならない

様子でしたので、

 屋敷内での階段の上り下りをされていましたが・・・・

 降りるだけで30分程かかりました。」

「それで、この姿かい?」

「はははっ・・・そりゃ、面白い姿だったろだろうな」


お父様は呆れた顔で、お兄様は哀れみを通り越して、

今では面白いものを見る様に笑った。


「はい。一歩、足を踏み出すごとに

 『ぎゃぁ』と言われておりました。」


ふむ・・・と顎を押さえながらお父様は、

いまだに椅子に座る事すら出来ない私をみて


「・・・・・普段高い靴を履いているんだろうに。

 その筋肉はうまく使えなかったのかい?

 走る事は出来ないにしろ、多少なりとは筋力もつくだろ?

 あんなに踵の高い靴で歩けるならば・・・・」

「はい。確かに最近のお嬢様は

 踵の高い靴を御履きになっていました。

 トリフェリア様から、都で流行っている靴だからと

お土産に頂き、アリィシアお嬢様も、

 しまっておくのも勿体ないと

お召しになってはいたのですが、

 普段からジッとされている事が多かった為、

筋肉が付く程歩いてはおりません。」

「まぁな、あの靴が原因で本を持ったぐらいで

 バランスを崩したんだからな。

 本持ったぐらいで普通、階段から落ちないだろうし」


いえ、お兄様。

階段から落ちたのは、腕の痺れが原因です。

まぁ、踵の高い靴を履いていてよろけた事も

ありますけれど・・。


「アリィだって、わかっていただろう?

 走ったり腹筋だなんて、初日にしては無茶しすぎだよ」


分かってます、お兄様。

だから、もの凄く軽い運動メニューにしたつもりなんです。


OL時代、ハイヒールを履いて階段から階段、

駅のホームからホームへと走り回っていた私からしてみたら、

この程度は楽勝と思ったのに・・・

まったくポンコツ過ぎる身体になってます、私は。


「ところで、なぜ、突然『魔法剣士』になる

 なんて言い出したんだい?

 アリィは戦闘訓練には、まるで興味がなかったと思ったけど」


立ったままの私にリィドルフお兄様が質問を投げかける。

テーブルに両手をついた私は、片手を胸の前に持って行き

決意表明の様にギュッと握りしめて


「お兄様・・・私、目覚めたのですわ。」


と力強く宣言してみた。


「ん?何にだい?」

「私、戦える女になろうって」


私の宣言に、リィドルフお兄様は『へぇ』って顔を見せて


「でもアリィは、戦闘訓練は「もうやらない!」って言って

 やめた筈じゃなかったっけ?5歳の時に」


んっ?・・・・5歳って・・・

戦闘訓練をした事があったの私?

覚えてないけど・・・。


「うちは辺境にあるからね。

 男も女も、取りあえず戦える様には皆しているのさ。

 アリィも知っているだろ?」


「えっと、・・・この間、階段から落ちた時に、

 まだ記憶が飛び飛びで思い出せないところもあってですね

 ・・・私、そんな訓練してましたか?」


頭の打ちどころが悪かったんだと思う。

戦闘訓練をした記憶はない。全然ない。

まだ、蘇っていない記憶があるらしい・・・

と思っていたら


「ああっ。そっか、アリィ・・・・

 君が戦闘訓練をしていた事を忘れているのは

 多分、階段のせいじゃないね」

「えっ?」

「・・・・ちょっとさ。厳しかったんだよね、

 訓練が。だから、そのトラウマでじゃないかな?」

「・・・・トラウマって、そんなに厳しい訓練だったのですか?」

「まぁ、大した事はなかったんだけど。本当に。

 だって、お母さんの訓練だったしね」

「お母様の?」


目の前にで優雅にお茶を楽しんでいるお母様は、

日本の言葉で

「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿はユリの花」って

美人を現す言葉があったけど、まさに地でそれを行く人だ。

もう、40も半ばなのに、見た目は30そこそこ。

29歳って言っても、もしかしたら通用するかもって

くらいだ。ほんと、何をどうしたら、

若さと美貌を保てるんだろうって、

自分の親ながら、感心する。

日本でも、かつては美魔女なんて言われている人が

テレビに出ていたけれど、若さを保つために

様々な努力していて、感心したものだけど、

お母様が、そう言う努力をしている姿を

見たことがないから、ホントに不思議だ。


今も私と同じブルネットの髪を綺麗に結い上げ、

青い瞳に、白い肌、美しい手の持ち主の・・・

つまり私のお母様が、

そんなトラウマを起こす様な訓練をするとは思えない。

それに、お母様の訓練って何?戦闘訓練って?

お父様とお兄様が訓練している様子は見た事あるけれど・・・


「お兄様。お母様の訓練って・・・えっと、どんな・・・」

「ああ・・・お母さんの鞭を避ける訓練だったんだよね・・・。」

「むっ・・・・ムチ?」


鞭って、牛とか豚・・・

時には痛みを好みとする人間とかを追い立てる様に使う

あの、ヒュンってしなった音のする、アレですか?


「あれ?それも覚えてないの?お母さんは鞭使いなんだよ」


・・・・なんとっ!

覚えていないし、初めて知った様な気がする。


「その様子だと、本当に全然覚えていないみたいだね?」


・・・・はい。すみません。

私は机に両手をついた状態でお兄様に答えた。


「お母さんが繰り出す鞭に対応して、アリィは右に左にって

 避ける訓練してたんだ。

 敵の攻撃から逃げる・・・って、戦う以前の覚える

 まぁ、初歩の初なんだけどね。アリィは

 『右に鞭が飛ぶからね、こういう時は左に逃げるのよ』って

 あらかじめ言ってても、鞭と同じ方に逃げちゃって

 沢山ムチ打ちにあったね。

 最終的には、足がもつれてゴンって床とお友達。

 それでワァワァ泣き出してさ。」


右にいくよ・・・と言われて右にいくなんて、

あっちむいてホイの指の動きをみていたら、

つい顔が向いてしまったみたいだね。それじゃ・・・


「という事は、もしかして、クリスベルやトリフェの事も?」

「えっ?お姉さま達も、何か扱えるのですか?」

「勿論だよ、ここは辺境なんだよ?」


何をいっているんだい?と言わんばかりに聞き返すお兄様・・・。

パティ・・・・

確か、パティはお姉さま達と私はあまり変わりないとか

言わなかったっけ?

パティを見ると、私の情けない姿を見たパティが

悲し気な表情を浮かべている。


いや違う。


今の話を考えてみると、痛みに唸っている私が

可哀想なんじゃなくて、

痛みに唸らなければならない程、鈍った身体を持つ私が

情けなくて悲しい顔をしているって事なのかしら・・・。


「クリスベルは、ああ見えても槍の扱いには長けているよ。

 彼女の夫は、我が領の騎士団長だからね。

 魔獣狩りの時に一緒に馬に乗って倒しにいっている間に、

 いつの間にか恋人になったって訳。」


えっ?あの花にたとえたら、

まるで桔梗の花の様な一番上のお姉さまが?槍の使い手??


「・・・・じゃ、トリフェ姉さまも?」

「トリフェは、あんまり武器の扱いが得意じゃないからね。

 一応、弓の使い手だけど」


・・・弓ですかぁ。お嬢様っぽい


「トリフェは、火薬武器を仕掛けたり放ったりするのが

得意なんだよ。

 だから、弓の先に火薬武器を取り付けて放つってわけ。

 だから、主に後方支援部隊かな?

 戦略立てるのも好きだしね・・・。」


お嬢様じゃなかった・・・。

爆弾??飛び道具係ですか??


「父さんは大剣使い。

 俺は片手剣、

 ラルフは双剣、

 母さんは鞭、

 クリスベルは槍、

 トリフェは・・まぁ弓と火薬武器。

 それで、アリィはね・・」


「私は・・・なんですの?」


「アリィは、本当はレイピア使い・・の

予定だったんだ」


やっぱり!

アリィはやっぱり、アリィなのね?


「俺達が使う武器はね、自分で選ぶんだよ。

 自分に一番相性の良い武器っていうのが、

自ずと分かるんだ。

 アリィにも、ちゃんと相性の良い武器が

あったんだけどねぇ」


私にも、ちゃんと私専用の武器があったんだ。

しかもレイピア!アニメのアリィと一緒!!

テンション上がるぅ!!!

ん?でも、なら何故私は4kgごときの重さで

バランスを崩す程のヤワな女に??


「何故、私はレイピア使いにならなかったの?」

「・・・・それはね、さっきも言ったろ?」

「・・・?」

「母さんの鞭から逃げる練習をしている時に

 転んで頭をぶつけちゃって・・・

 それから、『痛いから、練習はしない』『武器もいらない』

 『私は、もうやらないっ』って部屋に籠っちゃって・・・

 だから、しょうがないって諦めたんだ。訓練するの。


 勿論、母さんは反対したよ。

 ここは辺境だから武器が使えないんじゃ、

 いざって時困るからって。

 でも、アリィは末っ子だかね、父さんが甘くてさ・・。

 そんなに泣くぐらい嫌なら、いいぞっ・・・て、

 無理はさせなかった。

 さっきも言ったけど、ここは辺境地だ。

 つまり、他国との隣地にある国の防波堤だ。

 いつ隣国が攻め入って来るか分からないから、

 いつでも有事にそなえなければならない。

 勿論、戦わないのが一番だよ。

 でも、戦いたくないからって訓練を怠っていたら、

 いざっていう時は、目も当てられない。

 アードルベルグの領主一家は、男でも女でも

 いざという時の準備しているんだよ。

 女も城や領民をいざという時に守る為に立ち上がる。

 まぁ、アリィが特別なんだ・・・。」


つまり、戦闘訓練を途中で放棄した私は、

今、アードルベルグで使えない女って訳??

なんてこった・・・・。


「・・・でも、お母様やお姉さま達が訓練している所って

 見た事がありません」


「だってアリィは、今までやってる事と言えば、

 刺繍と読書だろ?

 母さん達が訓練している時はたいてい屋敷の中にいたし。

 まぁ、時間が合わないと見ないだろうね。

 クリスベルは騎士団にいたし、

 トリフェは火薬武器の練習だって、

 鉱山地域で訓練してたからね。爆破の訓練かねて」


・・・・ショックだ。私だけが貧弱だったなんて。


「そんな訳で、アリィは特別。

 まぁ、俺達もそれでいいかと思ってね。

 普通の領地のお嬢様は、戦闘訓練はしないから、

 アリィも他の領地の女の子と同じにしてみようって

 事になったんだ。

 その代わり、アリィの周りは手練れを付けているわけさ。

 そこにいるパトリシアもタガーの使い手だし、

 アリィの側にいる、この屋敷を守るセドリックも、

 元はルードルベルグ辺境騎士団長だよ。」


ギギギッと首を回してパティを見ると、

何処から取り出したのかスチャっとタガーを

扇形に広げてみせた。


セドリックは元騎士団長とは思えない

綺麗な執事らしいお辞儀を私に見せた。

けど、なんだろう・・・そのマッチョなポージングは。


「えっ・・・と、つまり、

 今現在、この屋敷で情けない程に動けないのって」

「うん、アリィだけだね・・・」

「えっ~~~~~っ!はぅぅ」


やっぱりそうなのか・・・・

駄目じゃん、私。

どうした、私。

何、さぼってたんだ私ぃぃぃ。

アリィのくせに、何してんだよ私ぃぃぃぃぃ。


「アリィシア・・・・

 食事の前に大声を張り上げるなんて、

お行儀が悪いですよ」


お母様が、カップを持ちながら私に注意をするけれど、

驚いた瞬間、太ももに電気が走る様な痛みで

「ぐぉぉぉ」って変な唸り声をあげてしまった。


「アリィは何だか頭を打ってから変わったね。」


お父様が大丈夫かい?と労わりの目でみてくれるけれど、

今の話を聞く限り、私は今の状況が相当ヤバいと理解した。


アニメのアリィシアは、

登場シーンからレイピア使いの魔法剣士だったけれど

現実は、訓練しなければ武器を振り回す事が出来ない。

普通の家なら、武器を振り回す家族なんてありえないけれど、

辺境を治めるこの家人達は、

それぞれ武器の扱いになれたツワモノ達だった。

つまり、アニメと同じ環境が整えられていたのに、

私は自らそれを放棄していた。


そして今、筋肉痛と戦っている。

華麗なる悪役ヒロインには到底おいつかない。

勿論、家族にも全く追いつけない。

あんなにたおやかで、

『虫も殺しません』という顔をしていたお姉さま達ですら

武器を扱い、なおかつ、上品にほほ笑むお母様は鞭使い・・・。


よし・・・筋肉痛で椅子が座れないとか言っている場合じゃない。

私が『アリィ』になれる環境は、こんなに揃ってる。

ならば、やるしかないでしょ!

この姿に相応しい私に!!!


でもまずは・・・目の前の難敵から倒さなきゃ。

椅子に座る!

それからよ!

・・・やるぞ!よし、座ってやる!!


「お父様、お兄様。

 私、もう挫けません。

 私は今日からレイピア使いになるために努力致します。

 辺境に住まう者の役目ですも。

 ええ、筋肉だってつけてやりますわ。

 だから・・・だから。えいっ・・・きゃっ」


「失礼します」


案の定、

足はまっすぐ伸びたままで椅子ごとひっくり返りそうになって

・・・・途中でセドリックが受け止めてくれて

今日はなんとかひっくり返らなくて済んだけど、

皆の視線が痛いなぁ・・・


「私・・・・頑張りますので、

 皆さまのお力添えをお願い致します。」


セドリックに机の側まで椅子を寄せて貰って

私は何事もなかったかの様に微笑みながら

心に決めた姿を見せたら


「あまり無理しなくていいぞ・・・。」

「そうだね、まずは普通に椅子に座れる様になってからじゃないと、

 武器を持つのは禁止」

「・・・アリィシア、良い心がけですよ。

 では、レイピアを扱う前に筋肉をつける為、

 今までさぼっていたダンスの練習をなさい。

 3ヵ月後に、王都で社交舞踏会があります。

 あなたの参加は強制ですから」

「えっ」


様々な声が飛び交って・・・

私は筋肉痛とは違う汗をダラダラとかいた。


次は今週中に・・・。出来たらいいな。

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