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とんだ事になりました ②

少し動きを付けました。


誤字脱字。また、ちょこちょこ修正するかも知れません(T□T)


追記:次話は6月6日か7日にUPします。

   目指せ、週1更新・・・・。出来るかなっ!・・微妙・・。

魔王様が私の手を取り誘ったのは、王座に座る王様の前。

魔王様は王様に軽く会釈をし、私は王様の前で

臣下の礼をとった。


「ザルシュ王よ。許可を頂き感謝する」


王族とはいえ他国の臣下や民、物を

勝手気ままに扱う事は出来ない。

自分のテリトリーの中、自分が所有しているものを

他人が許可なく勝手に使っていたら、

誰だって気分が悪くなるでしょ?

それは地球だけの常識じゃなく、ここでも一緒だ。

所有する者に対する礼儀を通すのは、最低限のマナーだ。


私はザルシュ王の臣下アードルベルグ公爵家の娘だから、

魔王様はザルシュ王の許可を願い出たという訳だ。


王様は魔王様の言葉を聞くと右手を上げて


「いやいや、アルフレッド殿よ。

 貴殿がパートナーを望むとは珍しい話だ。

 楽しい時間を過ごしてくれ。

 なぁ、ギベオン。アルフレッド殿とアリィシアは、

 こうしてみると、なかなか似合いの二人ではないか」


私と魔王様の様子を見ると王様は、

興味深いと言わんばかりの笑みを自分の隣に立っている

父様に向けると


「はははは・・・陛下、御冗談を・・・」


父様は何だか複雑な顔をして私を見た。

笑う声にも、感情が籠った感じがしない。

そういえば、魔王様に手を差し伸べられた時、

後ろに立っている筈のリィドリフ兄様に

「どうしよう・・・」

という意味で一瞬顔を向けたら

兄様、感情を隠した様な嘘っぽい笑顔を浮かべていたなって

思い返していた。


王座の前に立つ魔王様は、

それはもう威風堂々としていたけれど、私は違った。


「アリィシア。

 他国の王族と踊る機会など滅多に経験出来ないからな、

 アルフレッド殿とのダンスを楽しんでくるがいい」


頭を垂れて王様の言葉を聞いた私はすっと顔を上げ、

スカートの裾を抓んで持ち上げると、


「はい、王様。

 ヴァルディア王国 王兄殿下のダンスのお相手を

 務めさせて頂けます事、光栄の極みでございます。」


なんて、自分なりの完璧所作で、社交辞令を

出来るだけ嘘っぽくない笑顔で答えてたけれど、

『鉄壁の微笑み』の下、頭の中では


『なんで、こういう事になったのよぉぉぉ。

 出来るだけ目立たずにフロアの隅っこの方で

 ちゃっちゃっと踊って終わらせようと思ったのにぃぃ。

 目立っちゃうじゃない!うぉぉぉ・・・・』


唸り声をあげながら、

ドレス姿で床を右へ左へとゴロゴロと転がりまくっている姿を

妄想しているなんて、誰にも想像出来ないだろう。

でも、魔王様にダンスを誘われた事は、私にとっては

そのぐらいの衝撃があったのだ。


お母様に課せられた今日のミッションは


『壁の花で良いなんて言う情けない考えを止めて、

 誰かとダンスを1、2曲踊ってくること!』。


つまり、


『誰か良い人を探してこい!』だった。


今日の舞踏会に参加する為にあたって、

家族や領のみんながたくさん協力をしてくれた。


例えばクリスベル姉さまは、


「アリィの為の特別なドレスをデザインしたわ。

 アリィの魅力が十分に発揮できて、

 流行に敏感な貴族のお嬢様達が歯ぎしりしながら

 すっごく悔しがる姿が目に浮かぶ

 そんな誰にも絶対に負けたりしない、

 アリィの為のドレスよ。

 安心して。

 舞踏会中の視線を、全部アリィのものにしてあげる」


なんて、高笑いをしながらナゾの宣言をしてくれたし

 

トリフェ姉さまは、


「アリィ、これをあげる。必ず身につけていてね。

 いい?もし何か危険な目に合いそうになったら、

 私が作った、この【特製匂い玉】を

 相手めがけて思いっきり投げつけてやればいいわ。

 何かにあたって弾ける迄は、

 中の匂いは一切漏れないけれど、

 ぶつかった衝撃が玉に加えられたら

 匂い玉の本領発揮。

 涙が出て止まらなくなる代物よ。


 アリィは、相手がその場で蹲っている間に

 逃げること!

 大丈夫よ、速度と衝撃を計算して作ったから、

 万が一床に落としたり踏んづけても

 破裂しないから。

 ぶつけた相手がどうなるかって?

 そんな輩の事なんか、アリィは心配する事ないわよ。

 婦女子の敵なんて

 思いっきり、泣かせてやればいいんだわ。

 ふふふふっ。・・・」


黒い笑みを浮かべながら

変質者撃退守り【特性匂い玉】をくれた。


リィドルフ兄様は、私のエスコート役を勝手出てくれた。


本来は、王様主催の舞踏会だもの。

国中の貴族の方々があつまるこの場、

リィドルフ兄様にとっては自分の婚約者をエスコートして、

多くの人に紹介するチャンスだったのに

私の為に自分の事を後回しにしてくれた。


それに今日の『アリィシア』は、

自分で言うのもなんだけど、すっごく可愛い。


「このドレス姿、アニメで見たアリィに似てるぅ・・」


鏡に映る自分に見惚れちゃうぐらいの仕上がり具合。

パティや王都の屋敷のみんなが

一生懸命「アリィシア」をお姫様にしてくれた。


たった一つ、

『パートナー』に関して以外は。


事前にパートナーを決める事は、他家の様に

色々な思惑が重なってしまうから敢えてしない、

勿論、本人が望んで相手の家との結びつきをと願った場合は

その限りではないけれど・・・恋愛結婚、自由結婚を

貴族の家では珍しく認めているアードルベルグの方針らしい。


だから、今日、誰かに誘われる保証なんて何処にもいない。

私の頑張り次第の状況だ。


とはいえ、お母様の『だれか良い人を見つけて来い』は、

かなりハードルが高い。

だって、1曲踊って出来る事といえば、

ダンスの相手の名前と顔を覚えて、知り合いになる程度よ。


『出会った瞬間、稲妻の様な・・・』なんて、

夢物語の様な運命出会いなんて、早々あるわけない。

だって、もし見つかるなら、

今までの舞踏会で1人や2人、ビビッと感じる人に出会えた筈。

・・・・でも、過去を振り返っても、思い当たる出会いは

全くないし。


だけど、私の為にみんなが努力してくれた事無駄にしたくないから

お母様のものよりかなり大分緩い感じだけど

自分なりの目標を設定してみた。


それは、今までの様に

『愛想笑いで、ハイ、さようなら』じゃなくて、

『また、次の舞踏会でお会いしましょう』って、

次につなげる約束をとること。


だから、その約束を果たす為には大人数はいらないわ。

一人か、二人でも十分よ・・・・って事にした。


だって、何人も踊ったり話したりしたら、

疲れちゃって、誰と話したのかも忘れそうだし。

始めないで何だかんだいうよりも、

とりあえず、始めの一歩は飛んでみようと思った・


千里の道も一歩よりって言うじゃない・・・。

んっ?これって、この国の格言じゃない気が・・・

まぁ、いいか・・。

とにかく頑張ろう!!!


・・・って自分を奮い立たせたけれど

でも・・・それは、決して


他国の王族と知り合いになってダンスに誘われ、

会場中の視線を一身に浴びながら

ステップを踏むことじゃない筈よ。


それが・・・・どうよ!この状況。


万年『壁の花』の名声を欲しいままにしていた私が

今日の主役級に大抜擢。

今、集中砲火を浴びる様に、

フロア中の視線を欲しいままにしてる。


悪のヒロインは、影でこっそり暗躍するものなのに、

こんな公衆の面前に晒されるって、ゲームで言ったら

主人公ヒロインルート』じゃない?

絶対に何処かで間違ったわっ。


でも・・・・

王様の隣に座っているビオラ王妃様が


「義兄様は、国でも女性の方と踊る姿を見たことありませんし、

 そもそも自ら声を掛ることもありません。

 それなのに、アリィシアに・・・・。

 ふふっ。私、王様にお土産話が出来ましたわ!!!」


何て言って喜んでる。

ビオラ王妃様の、キラッキラな笑顔が眩し過ぎて


「やっぱり辞退させていただきたく・・・・」


なんて口が裂けても言えなくなった。


『あぁぁ・・・・ほんと、勘弁して・・・。

 こんなに注目されるなんて全然望んでいないんだけどなぁ。』


って、心の中で叫んだところで何も変わることはない。


「では・・・・アードルベルグ嬢」


「はい・・・・」


心の葛藤とは裏腹に、私はニコやかな笑顔で

魔王様の左手に右手を重ねると、

私は王様に一礼をして、魔王様とダンスフロアーに足を進めた。


        ※    ※


『それにしても・・・・・・ダンスフロアにいるの

 私と魔王様だけって・・・一体、どんな状況!!!』


間もなく演奏が始まるというのに、ダンスフロアにいるのは

私と魔王様だけ。


他の貴族の方々は、いつもの私の様に壁際にたって

口元を扇で隠したり、

顔を寄せ合ってコソコソひそひそ話をしている。


魔王様と謁見した時、

魔王様の気に当てられて腰が抜けた人達が多かったから

ビビっちゃってるのかしら。


まぁ、仕方がない事なのかも知れないけれど・・・・

義理とは言えビオラ王妃様にとったらお兄様でしょ?


その方に対してこういう態度って、

いくら何でも余り良い態度ではないんじゃない?


「ヴァルディア王国王兄殿下と同じフロアで踊るなど恐れ多くて・・・」


なんて、もっともらしい言い訳を言いそう。でも・・・


『見世物みたいなこういう感じ、私は好きじゃないな』


って思ってた。


「どうした、何か具合でも悪いのか?」


そんな思いを巡らせていた為か

いつの間にか私の顔はムムっと口を締めた顔になっていたみたいで

魔王様が気になったみたい。


『はっ!しまった、『鉄壁の微笑み』が崩れてた!』


私は、魔王様に声をかけられるまで自分の考えの中に

埋没していた事に気がつかなくて


「いえ・・・・大丈夫です。ちょっと緊張をしてしまって」


慌てて答えを返す。


「そうか・・・なら良い。」


魔王様は言葉少なく私に返事を返した。


私が魔王様を見ると、自分が見世物になってジロジロと見られている

この状況にも魔王様はどこ吹く風って感じで、

何も気にしていないようだった。


私は魔王様の、その顔を見た時に


『あぁ・・・そうか・・・』


ふと、気が付いてしまった。


『魔王の様な強大な力を持つ、恐怖の対象だ』

というリィドルフ兄様の言葉。


ヴァルディア王国でも、ただ一人エルフの様な容姿。

何処に行っても、いつだって魔王様は好奇な目に晒されていて

この場の雰囲気も気にならない程、魔王様にとって

この状況が『特別なことではない』という事に。



ジッと、私を探る様に見る魔王様の瞳に

自分の瞳を合わせた。


何の感情も浮かんでいない様に見える魔王様の瞳。

間近で見ると本当に凄く綺麗な黄金色だった。

その色をじっと見ていたら、なんだか

ハチミツ色だなぁって思った。


魔王様の金色の瞳には、恐れも、憤りもなにもない。

凪いだ海の様に、ただ静かな瞳の煌めきがあった。


魔王様みたいな黄金色の瞳って、

アニメの世界でしか見た事がないけど、

こっちの世界では現実にあるんだね。

魔王様の目を真っ暗闇の中みたら、猫の目にも見えかも。

ビカーッて光ったりして。

ふふっ・・・大きい黒猫かぁ。

そう考えると、面白いな。


それに、こうやって改めてマジマジ見ると

本当に顔もすごく整ってる。

ダンスでも踊らなきゃ、こんなに至近距離で見る機会もなかったよ。

エルフ独特の尖った耳も魔王様には凄く合ってる。


アードルベルグ領もエルフ族の様な美形が多いなんて

言われているらしいけれど・・・・

でも、物語に出てくるエルフ独特の耳の尖った人は見た事ない。

美形集団エルフ族なんて、現実にいるわけないよね、

物語の中だけだよって本を読みながらいつも思ってた。


でも、魔王様を見ていると、

もし他にもエルフの様な人がいるなら確実に美形に違いないって

確信した。

しかも魔王様って背も高いんだよね。

向かい合って立ってみると、私の頭、

魔王様の胸元あたりまでしかないし、体躯もしっかりしてる。

ドレイク義兄様みたいな変にマッチョ体系じゃないところが

凄く好感度高いよ。


魔王様って言われるくらいだから、戦闘力も凄いんだろうし・・・

くぅ・・・羨ましい。

私に、少し魔王様の筋肉を分けて貰いたい!


はぁ・・・世の中、二物、三物与えられる人っているんだね。


間近で見て着ている服も、もの凄い高級品だって、

衣裳に興味があまりない私だってすぐ分かる。

黒のフロックコートに手の込んだ金糸の刺繍が刺してあって

めちゃくちゃオシャレじゃん!


もう・・・魔王様・・・・完璧!!


私は暫く魔王様を観察したあと、

『よしっ』と自分の心に気合いを入れた。


『人に見られる事には、すっごく抵抗ある。

 こんな【私が主役です】みたいな状況は

 出来れば走って逃げだしたい・・・けど、

 今更、やっぱりヤメタっていったら

 魔王様に恥じを欠かせる事になるわよね。


 うん・・・・それは、出来るだけ避けたい。

 こんなにカッコいいキャラをカッコ悪く見せたくないわ。

 それに、『アリィシア』の可憐で華麗なイメージ、

 どんな敵にも悠然と構えていた悪役ヒロイン。

 そんな「アリィシア」を、アリィシアLoveだった私自身が

 イメージを崩すなんて許せない!

 『アリィシア』なら、絶対、敵前逃亡するなんてありえないよ。

 

 だから、もう、こうなったら魔王様のダンスと

 命一杯楽しむしかないわよ!

 誰とでもダンスが踊れる様に、この3か月死ぬ気で

 レッスンしてきたんだもの。

 私、やれるわよ!・・・いや、やって見せる!

 恥ずかしいけど逃げる事出来ないんだものっ!

 よし・・・。

 よ~っし、やるわ~っ!』


フンスと、心の中で拳を握りしめたとき、

意気込む私は、ふと気が付いた。


『そうだ、音楽が鳴る前に魔王様に言っておかなきゃ

 いけない事があった。』

って。


「あの・・・王兄殿下・・・」


「なんだ、アードルベルグ嬢」


私の声かけに、魔王様がジッと私を見る。

私も魔王様の目を見て、小声で呟いた・・・。



「・・・・・・・・あの、お恥ずかしい話なのですが」


「・・・ああ」


「・・・・・・私のダンス、実は付け焼刃です。」


「・・・・・・・?」


「えっと、出来るだけお相手の方に負担を掛けない様な

 ダンスが踊れる様に、私、3か月間、みっちり

 死ぬ思いで練習は積んだつもりです。でも・・・」


「・・・・・」


「・・・・もし、足を間違って踏んじゃったりしたら

 私・・・・不敬に問われたりしますか?」


「・・・・・不敬?」


「・・・・間違いとはいえ、王兄殿下の足を・・・

 ですから・・・。」


そう・・・・多くの人の目にさらされて踊る事は、

なけなしの勇気を振り絞って平気なフリして踊る事は出来る。

・・・多分。

スキル『鉄壁の微笑み』を身に付けたんだもの・・・。

大丈夫なハズよ。


でも、足さばきは・・・・どうだろう・・。

何十回かに1回は、ダンス相手だった執事のセドリックの足を

間違って、これでもかって踏んずけた。


「ごっ、ごめんセドリック・・・。」


「大丈夫ですよ、お嬢様。

 お嬢様に踏まれても、全く痛みを感じませんから。

 それよりもお嬢様。

 本番は、どんな失敗をしても

 何事もなかったかの様な振る舞いが大事です。

 そうすれば、なかった事になります。」


って言ってけれど、今、私の目の前にいるのは魔王様、

ヴァルディア王国 王兄殿下よ。

足を踏んずけた時、

セドリックと同じ様に許してくれるかなんて分からないわ。


そもそも、何十回かに1回が、

魔王様とのダンスになる可能性だって十分考えられる。

緊張しないつもりでも、思わず・・・って事あるじゃない?


足を踏んだ事が原因で、ギロチン・・・なんて絶対に避けたい。

となれば、もう、最初っから自己申告して

先に謝っちゃうに限るでしょ?


私の言葉を聞いていた王兄殿下は、フッと口元を動かすと


「安心するがいい。足を踏まれたぐらいで不敬に問う事はしない」


「本当ですか?」


「ああっ、本当だ。我が神に誓って約束しよう」


魔王様の表情が、ちょっと柔らかくなった様に見えた。


「良かったです。・・・ホッとしました」


「そうか。君は気にしないで踊ればいい。」


例え足を踏んでも、ギロチンはない!

そう思ったら急に気が楽になって・・・・

私は自然と笑みを浮かべて、魔王様の手を取った。


      ※  ※  ※


『・・・・なにこれ、すっごく踊りやすい・・・。

 魔王様・・・踊りが凄く上手なんだわ・・・』


ワルツのメロディに合わせて、ステップを踏む。


魔王様の左手に私の右手を合わせ、軽く握られた。

そして、魔王様の右手は私の腰あたりを支えてる。

左の胸元のポケットには、

『独身』を現す白い花が刺してある。


私の右手は魔王様の左手の中、

私の左手は白い花とスカートの裾を持ってスカートを広げた状態で

魔王様のリードに合わせ、フロアでクルクルと蒼薔薇を咲かせていた。


魔王様のリードは、とても優しくて踊りやすく

私の様な付け焼刃なダンスを、

とても上質なものへと代えてくれていた。


それに大きな手・・・

剣を扱う人独特の、分厚くて固い手だけど、

私の手をそっと握ってるところにも、

気を使ってくれているのがわかって、

ますます魔王様の好感度があがる。


「王兄殿下は、とてもダンスが上手なのですね。

 踊ったところを見た事がないって

 ビオラ王妃様がおっしゃっていましたけれど・・・

 とても、そう思えません。」


「・・・そうか。」


「はい・・・・。私、ダンスのレッスンを

 ずっとサボっていて、

 この王宮での舞踏会に出る事が決まってから、

 急いでダンスのレッスンを始めたんです。


 でも、長い間練習されている方には、当然追いつきませんから

 最後の手段、

 『笑顔で乗り切れ』って家族にも言われるくらいで・・・。

 ですから、こうやって多くの方々の前でダンスを踊る事、

 本当は凄く不安だったんです・・・

 でも、王兄殿下のお蔭でダンスが上手に踊れる女性に見えて、

 私、とても嬉しいです。」


ゆっくり目のテンポって結構難しいのに、

問題なく音楽に乗れてるから気持ちよく踊る。

すごく楽しい。

初めてペアを組んだとは思えないくらいに踊れるなんて、

私の力じゃない。魔王様の技量によるものよ。


それに、魔王様の顔を見て踊っていれば、

周りの視線も気にならずに済んでるし、

魔王様である王兄殿下とダンスで

お母様の「誰かと踊るミッション」もクリアで

一石二鳥よ。


私の中で、完結したわっ。

うん、お母様にも自慢話出来るわよ。


そうだ・・・・・このダンスだけで十分だし

時間はたくさん残ってるから、終わったら

リィドルフ兄様に宣言した通り、

今日こそ、美味しい料理を食べるわよ!

絶対に・・・・。

フフフフっ


私の『鉄壁の微笑み』は、料理の妄想の前に

いとも簡単に崩れ果てていた。

気が付かなかったけれど・・・・。


私の様子をじっと見ていた魔王様が


「何を考えている・・・?」


と声を掛けてくるまで。


「へっ?」


「・・・とても楽しそうな顔をしていた。

 何を考えていたんだ?」


マズイ!

お母様にあれだけ、


「笑顔を崩さないっ!」


って言われてたのに・・・。

私の馬鹿ぁ・・・・と言ったところで、仕方がない。



「えっと・・・・・料理の事を?」


「料理?」


「はい・・・・実は私、こういう会で出る食事を

 いつか沢山食べてみたいと思っていまして・・・」


「・・・・・・」


「・・・・今日、王兄殿下と踊った後は、

 何を食べてみようかなぁ~とか考えてました」


「食事・・・・・食事か・・・」


「あっ!別に、大ぐらいって訳じゃない・・はずです。

 私は、あまりこういう会は出る事がなくて・・・

 この舞踏会も、凄く久しぶりに参加したんです。」


「なるほど・・・・」


「今日は王様主催の舞踏会ですから、

 並べられた料理もとても綺麗で素晴らしくて

 良い匂いがして、とっても美味しそうだなって。

 私、昔からの夢で、舞踏会会場で並んでいる

 珍しく美味しそうな料理を沢山食べてみたいな

 ・・・・って思っているんです。そして、

 今日、その夢を叶えようかなぁ・・・って」


「ふっ、そうか・・・・・その夢が叶うといいな」


魔王様・・・・最初にあった時とは全然違って、

すっごく雰囲気が違うし、私の料理を食す

っていう夢を聞いても、笑わなかった・・・。

良い人だ・・・。

リィドルフ兄様なら

「アリィは食いしん坊だな・・・」

ってたくさんお皿に料理とりながら

笑うだろうけど。


初めてあったけど、魔王様って凄く感じがいい人だな。

なんで恐怖の対象みたく言われてるのかな?

全然、そういう感じじゃない・・様に見えるけど・・・?


そう思いながら魔王様の顔をジッと見つめ返すと、


『あれ?魔王様の瞳の色が・・・・』


先程まで金色だった瞳が、日本人には見慣れた黒色に変わっていた。


「あの・・・・瞳の色が・・・」


「ああっ・・・・魔力を押さえたんだ」


「魔力を押さえる?」


・・・・どういう事?

私がハテナ印を浮かべた顔をしていると、

魔王様が私をクルクルまわした後、ポジションを戻して、

ゆっくりと身体を揺らしながら言葉を紡いだ。


「今日、君をダンスに誘ったのは、君に興味があったからだ」


「興味・・・・ですか?」


・・・・・魔王様の興味を引く様な事、私したっけ?


「ああ、何の防御も張っていない状態で私と相対して

 腰を抜かさなかった女性は、君が初めてだからな。」


「へっ?・・・・そうなんですか?」


「ああっ・・・・君も見ただろう?」


そう言えば、私の後ろに並んでいたご婦人方は、

皆が揃いも揃って腰を抜かしてたっけ?


「そう言えば、そうでしたね。

 兄も、王兄殿下の気に当てられた・・・

 みたいな事を言っていました。」


「リィドルフ卿が・・・」


「はい・・・・でも・・・」


「でも・・・なんだ?」


「・・・・兄は、私は腰を抜かす事はない・・・

 みたいな事も言っていました。

 意味は分かりませんが・・・。

 実際、王兄殿下の気迫・・・私、全然感じとれなかったんです。

 多分、私の家が、周りの方々から言われる

 戦闘民ばかりの領ですから、もしかしたら、

 知らず知らず、そういう気に慣れていたのかも知れません。」


「そうだな。アードルベルグの魔法剣士達の噂は、

 この国だけでなく、我が国でも有名だからな」


「そうなんですか・・・・・・」


他国まで有名なんだ。私は最近まで、全然知らなかったよ。


「君も、魔法剣士なのか?」


「私ですか?」


魔王様の黒い瞳が私を写している。


「はい・・・・というか、なる予定です。」


「なる予定・・・とは?」


「私はつい最近まで家の中に籠りっきりで

 体を動かすことを全然してなくて

 この間は、持った本の重さに耐えられなくて

 階段を踏み外して、転げ落ちて頭を打つくらいの

 軟弱さだったんです。」


「・・・・・・・」


「その時、一時的に意識を失ってしまって、

 家族みんなを心配させてしまったので

 もう心配をさせない様にと思って運動を初めまして・・・。

 今は、レイピア使いの魔法剣士になろうと特訓中です。」


「レイピアか・・・・武器としては、

 あまり殺傷能力があるものではないな」


「そうですね。私も実際に使うまでは知りませんでした。」


そうだ。レイピアの剣先では突き刺す事は出来ても、

留めを刺す程の威力があるとは思えない。


「でも、もう、私の武器は『レイピア』って決めているんです。

 そして、魔法を繰り出して戦う

 魔法剣士になるって夢もあります。

 今、魔法の訓練も初めてみました。

 ・・・上手くいってませんけど」


「なるほど・・・だからか。

 君の手に薄っすらと手豆を感じたのは。

 貴族令嬢では、剣を持つ手は珍しいからな」


・・・・凄い・・というより、

やっぱり手袋の上からでも分かっちゃうか・・・


「貴族令嬢が剣を持つって、珍しいですから。

 まぁ、アードルベルグは当たり前なんですけれど」


「そうだな。アードルベルグは、

 老若男女関係なく誰もが闘う戦闘民族と言われてるな」


「そうなんです・・・そうなんですけれど、

 私・・・実は最近まで知らなかったんです。」


「知らなかった?」


「はい・・・・私も闘う事が出来る様にって

 小さい頃に戦闘訓練を受けていたらしいんですけど、

 トラウマになる事があったらしくて。

 それ以来、ずっと闘う事から離れていました。

 父や兄が闘う人である事は知っていましたが、

 母や姉達までもが武器を手にとって闘う人達だって、

 最近まで知らなかったんですよ。」


しかも、綺麗なお母様やお姉様達が、

マッチョなドレイク義兄が怯える程の実力を兼ね備えた力を持つなんてね。


「今、私は戦う訓練を始めました。

 パティが・・・・

 パティというのは私の侍女なんですけれど、

 彼女もダガー使いで彼女の特訓を受けているんですが、

 なかなか上達しないんです。

 魔法の訓練も・・・・」


「そうか・・・・・だが、焦る必要はない。

 誰もが、自分の武器に慣れる為に地道な努力を重ねている。

 君が挫けることなくひたむきに続けたら、

 きっと、その武器は君のものになる。

 君が望む闘いも出来る様になるだろう」


「そう・・・・・思いますか?」


「ああっ・・・・・そう思う」


魔王様・・・・なんて嬉しい事を言ってくれるんだろう。

アードルベルグにいる皆も、

私のへっぴり腰や、体力の無さに苦笑しながらも


『頑張れっ。続ければ、いつかは出来ますよ!』


そう言って、いつも私を励ましてくれる。

でも、最近、ちょっぴり不安を感じ始めてもいた。


だって、私の頭の中にいる『レイピア使いのアリィシア』は

華麗な剣さばき、凄腕の魔法使いで、

正義のヒロインに、もの凄い技を繰り出していた。

派手なエフェクト、翻す白い戦闘服。

綺麗で、凄く憧れたわよ・・・・。アニメの話だけど。


でも、現実は厳しい。

私の剣さばきと言ったら、

剣を振ったら明後日方向へ飛んでいってしまうし、

魔法もまだまだ。

炎の魔法なんかは、マッチの火程度しかつかない。


いつ、目標の私に届くんだろう・・・。

積み重ねが大事だって事は分かってるけれど、

自分なりに、よしっ!と思える事が沢山ないと

私のやり方があってるのか、不安になる・・・・。


そんな風に思っていた矢先、

私の事を全然知らない魔王様が、

『大丈夫だよっ』て言ってくれた。


初めて逢う人の言葉に喜んでいる自分も情けないけど

でも、身内以外の人にそう言って貰えると、

何となく出来そうな気分になって来る。


目の前にいる魔王様。

アルフレッド・エル・ヴァルディア殿下。

魔王と呼ばれる程、色々な人の恐怖の対象となっているけれど

それって、魔王様の本当の姿じゃないんじゃないかなって思った。


だって、初めて逢う私に、こんなに親切にしてくれるんだよ。

もちろん、親切な顔して寄ってきて、優しい言葉をかけて、

騙そうって言う悪人がいることは知ってる。


でも、この人は魔王なんて言われているけど、

本当の悪人じゃない・・・

なんとなく、そんな感じがした。


「ありがとうございます。

 最近、成果があがらなくて、ちょっとめげていましたが

 何だか元気が出ました。

 明日からも、頑張れる気がします。」


「そうか・・・・・それは良かった」


目元が優しくなった。

あ~、なんなのこの人。

もう、アニメキャラで言ったら絶対にヒーローだよね。

キャラだったら、絶対に押しキャラにしちゃうよ!

現実王兄殿下だから、押し萌え!なんて言えないけど、

私は、魔王様を怖がったりしないよ!


そう思いながらワルツを踊っていると、

静かに音楽が鳴りやんだ。


私と魔王様は手を放し、お互いに一礼する。


「とても素敵な体験をさせて頂きまして

 ありがとうございました。

 それに、とても楽しかったです。

 王兄殿下とは今日初めてお会いしましたが、

 初めてお会いした方とは思えない程でした。

 王族の方と踊れた事。良い思い出に致します。」


「こちらこそ。私も女性と踊る事は殆どない。

 そして、この様に話しをする事も。

 有意義な時間を過ごさせて頂いた。感謝する」


私は魔王様とたった一組だけがフロアにいる事を忘れていた。

そして、魔王様を見て自然と笑みが出た。


魔王様はダンスの終わりに、胸にさしていた白い花を

私の髪に刺してくれた。

その意味は、『楽しかったよ』を現すシルシ。


私は自分が持っていた白い花の茎を折って

魔王様のポケットに、私が持っていた花を挿した。


『また、お話しをしたいです』

という気持ちを表すシルシ。


何だろう・・・・

私って、こういう事をやるタイプの人間だった筈じゃないのに

自然にしてしまった。


私が刺した花を見て、魔王様が


「ありがとう・・・・」


小さく笑ったのをみて、ドキッと胸が鳴ったその瞬間


「あら、この会場に相応しくない方がいらっしゃるわね」


舞踏会会場の入り口から、鈴を転がす様な声が聞こえ

その声の主を探す様に視線を合わせると、そこには

金色の髪に水色の瞳を持つ、絶世の美女が立っていた。



次は敵役登場?

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