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とんだ事になりました①

続きは・・・出来れば早いうちに。

出来てはいますが、付けたしたい。

舞踏会会場から王都にあるアードルベルグの

屋敷に戻った私は、一目散に自室に戻り


「疲れた~。あ~、もう本当に疲れたよぉ・・・」


ボスっと音をたてて、倒れ込む様にベッドに飛び込んだ。


今の私の状態を絵に現したら、

きっと、頭の上に魂の抜け殻が描かれるに違いない。

精も魂も尽き果てて灰になった状態って、まさにこの事よ。


『あ~、なんでこんな事になったんだろう。

母様から言われたダンスに誘われて

踊るっていうミッションは何とかクリア出来て、

終わったら念願の美味しい食事をとるって

心に決めていたのに、新たなミッションが

発生するなんて・・・。

しかも、魔王様だけじゃなく女王様の登場って・・・・

何で私が巻き込まれる事になっちゃったんだろう。

起き上がりたくない・・・。

ふかふかのベッドの中に、このまま沈み込んで、

ついでに、明日一日眠っていたい・・・。

 ・・・・・無理だって、わかってるけどさぁ・・・』


そんな気持ちを乗せた「はあぁぁぁぁ」と深いため息をつくと


「お嬢様、まずベッドに飛び込む前にお召し物を

脱いで頂かないと折角のドレスがシワになりますよ。」


私の背中に、パティの冷静な声が追いかけてきた。


「うぅぅ・・・だってぇ・・・」


「だって、じゃありません。

 そんな声をだしても、やる事は変わりません。

 寝る前に服を脱ぐ。

 脱いだら、湯につかって身体を清める。

 その後、寝間着に着替えてお休みになる。

 いつものローテーションですよ。

 今休んだら、きっともっと動くのが嫌になりますよ。

 はい、手伝いますから起きて下さい。」


パティはベッドに寝転んでいる私に手を差し伸べると、

どこにそんな力があるんだろうと思うくらいに、

私の身体をヒョイとを起こして

目にもとまらぬ勢いで私の着ている蒼薔薇ドレスを脱がした。


「はい、準備が整いましたから、

 このまま湯につかって下さい。

 お嬢様の今日のお話、ちゃんと聞かせてもらいますから。」


「・・・・はぁぁい、わかりましたぁ・・・。

 ありがとう、パティ・・・・・」


「良い返事ですね、お嬢様。」


私はパティに急かされる様に、風呂場へと追いやられた。


    ※  ※


「はぁぁぁぁ・・・くぅぅ・・・沁みるねぇ・・・」


18歳のお嬢様が呟く声じゃないかも知れないけれど

疲れた身体に、お湯のぬくもりが心地よい。

備え付けられたバスタブは、外国映画に出てくる様な

一人用の、陶器のバスタブ。


脚を動かしたり、身体を動いたら、

お湯がバスタブの外に溢れ出ちゃう。


映画に描かれていたのは、このバスタブのお湯が

ザバーンと、トイレの所まで水浸しにする場面だったけれど、

映画と違うのは、このバスタブが、

ちゃんとお風呂場に設置されているという事。

だから、私がどんなに動いてお湯が

ジャージャー流れても問題ない。


さらに王都にあるこの屋敷の風呂場には

外に繋がる扉がついていて、

扉を開けると満点の星空の下でも入れる様な、

露天風呂が設置されていた。


中世ヨーロッパの様相漂うこの世界に、

何故か風呂場が日本風っていうのが、不思議なんだけど

日本人の記憶が混在する私が、このお風呂を見た時は

驚きよりも懐かさに思わず、


「をををっ!!!最高じゃない!!!」


と叫んでしまった。


アードルベルグの屋敷にも風呂場はあるけれど

露天風呂はついていない。


滅多に訪れない王都の屋敷が、

何故本宅であるアードルベルグの屋敷より

贅沢仕様の風呂が作られているのかと聞いてみたら、

王都の屋敷に、お金を掛けた風呂場を設置するのは

一種のステイタスと、自領の豊かさをアピールするという

目的があるらしい。

お湯を潤沢に使う為には、お湯を作り出す魔石が必要らしく、

魔石は小さくてもかなり高価。

それを手に入れられて使う事が出来るのは、

力のある貴族や豪商に限られる。


王都には、国中の貴族が屋敷を構える。

その屋敷に、他人に見せる事がそもそもあり得ない部分に

高価な魔石を備える無駄をあえて作るのは、

自領の力、豊かさを見せつけるという事らしい。


それぞれの領の内情って分からないでしょ?

だから、舞踏会のドレスだとか、こういう風呂場を作る事で

アピールするわけよ。


「我が領土に手を出しても、返り討ちにするだけの力はあるぞ!」


ってね。

まぁ、見栄ってやつだけど、実はこれが凄く大切な事らしく

力が弱ってる、力が落ちている領は、

他の領から経済的に攻められたり、

属領扱いにされてしまう事もあるから

無駄な事にも手がかけられる程の余裕があるって

アピールする事はもの凄く大切な事なんだって、

リィドルフ兄様やクリスベル姉様が教えてくれた。


それに、魔石って・・・知らなかったけど、

めちゃくちゃ高価な代物だった。


パティが私が右手につけていたグランツ入りの魔石をつけた

金色のバングルを見た時、


「お嬢様・・・・この魔石はどちらで手にいれたのですか?

 お嬢様のお小遣いでは、この様な大きさのものを手に入れる事は

 難しいと思われるのですが・・・」


とマジマジと眺めながら、

もしこれが市場に出回ったら、この位・・・

という想定金額を教えてくれて、

私はその金額に顎が外れちゃうんじゃないかってぐらい

あんぐりとした口を開けた。

だって、パティが示した桁の多さは見た事がないし、

価値が凄すぎて分からないって言ったら、

アードルベルグの屋敷と同じものを、

もう一棟建てられるぐらいですねって言うんだもの。


元手がタダ。

どうやって作ったかは分からないけど、私が作ったものだよ?

でも、だからこそ逆に怖くなった。

そんなに価値があるものを、私が作る事が出来るって事に。


この世界で魔石を手に入れる方法は2つ。


人の手にも余る様な魔物を倒して手に入れるか、

この世界に既にあるものを手に入れるかしかない。


つまり、それ以外の方法で魔石を手に入れるのは

不可能だそうだ。


地球でいうところの『金』の様だなって思った。

『金』を人工的に作ったり、生み出す事って出来ないから、

世の中で取引されている量や世情によって、

価値があったり下がったりする。

少ないものを手に入れたいって人が多ければ多い程

価値があがるって事。


この世界には魔法はある。

父様も兄様も魔法は使える。

でも、魔力を人は生み出せないから、

魔力の籠った魔石を媒介にして魔法を発動させているらしい。


父様達の武器には魔石が嵌め込まれている。

闘いの場では、その力を利用して魔法を使って戦う

魔法戦士になるって言ってた。


父様の『怒れる獅子』というのも、

大剣に炎を纏いながら振り落とす父様の姿から

つけられたって言ってた。


闘いの場で使えるだけの魔法力を生み出す魔石は、

希少中の希少らしくて、今の世界では手に入れる事が

殆ど皆無に近いって言われている。


世の中に出回っている『魔石』は、

魔物の体内から出てきたものが殆ど。

でも、父様達の様に、それを武器につけて強大な魔法を使う

事は出来ないんだって。

魔石の強度に問題があるんだそうだ。


でも、小さく砕かれた魔石は

水を生み出したり、火を放ったり・・・

生活魔法って言われる程度の力はあって、

このお風呂に使われている魔石も、その一種らしい。

小指の第一関節ぐらいの大きさでも、生活に使う分なら

十分に間に合うらしいけれど、価格が・・・。


冒険者でも凄腕の人達は、持っている人もいるらしいけれど

自分で倒した魔物から取り出して手に入れたものが殆どで

庶民の手にはなかなか手に入らないそうだ。

一般的に出回っていたら、人の暮らしは

もっと豊かになるのに残念だなぁって思う。


『魔石』は『宝石』に似ている。

でも、根本的に違うのは、『魔石』には、

魔力が封じ込められているってこと。


魔力のない世界なのに、

どうして魔力を封じ込めるた魔石があるのかな。

誰が力を石に込めたんだろう・・・。


魔物から取り出した魔石は生活魔法には使えるけれど、

戦闘の為の魔法の媒介としては強度が足りない。

つまり、一時的には使えるけど、繰り返しは使えないって事。

高価な魔石を使い捨ての様に使う事なんてありえないんだって。


だからこそ、戦闘に仕える魔石は、金に換えられない価値がある。


そして、その魔石を父様や兄様、私の家族は持っている。

戦闘に使えるっていう事は、父様や兄様が持っている魔石は、

魔物がもっていたものじゃないって事になるよね。


魔物の身体の中から出てくるもの以外の殆どは

魔法王国と言われる、隣国のセレスティア王国産。

父様や兄様が持っているものがセレスティア王国産のものかは

分からないらしいけれど、他の国では魔石は取れないらしい。


この世界にある『魔石』の発掘地が

セレスティア王国にあるっていう噂があるらしいけれど、

実際、見た事があるっていう人はいないから、

噂だけって事もある。


でも、あったら便利な魔石。

私の目の前で、絶え間なく溢れてくるお湯を生み出せる様に

大地を豊かにしたり、色々な用途に用いる事が出来て

生活を豊かにしてくれる魔石は、この世界のどこの国も欲してる。


セレスティア王国に、本当にあるかどうかもわからない発掘地が

『あるかも』って噂だけでも、他国を引き寄せるには十分で

それが理由で多くの国から狙われて、

沢山の戦争をしていた歴史があるんだって

リィドルフ兄様が言ってた。


魔王様の住むヴァルディア王国と

女王様が治めるセレスティア王国の争いも、その魔石が原因らしい。

その戦いのお蔭で、仲が悪いんだよね・・・。

仲の悪さは・・・・実際に見たから分かったけど・・・。


ただ、何故、魔石がセレスティア王国からだけ生み出されるのかは

謎らしく


「何か、人に言えない秘密があるのかもね・・・」


ってリィドルフ兄様が言ってたから、

もの凄い秘密が隠されているのかも。


私は、壁にくっついているライオン顔の蛇口の

ライオンの鼻の部分を触る。

すると、ライオンの口からお湯がバーッと出てきた。


ここには、水の魔石と火の魔石が備え付けられていて

お湯を作り出しているんだってパティが言ってた。


お湯加減も、念じて触れば希望通りの温度で出てくるなんて

本当に魔法だよ。


難しい魔法の仕組みをパティが教えてくれたけど

パティの話は、私の右耳から左耳へ抜けていった。

まぁ、お湯が作られる原理を私が知る必要は

全く感じないから良いのよ。


だって、風呂が好きだからっていって、

お湯を沸かすボイラーの仕組みまで知っている人って

少ないでしょ?

私も『風呂に入れればそれで良い』タイプですから。


「今日は、『薔薇風呂』にしてみました。

 王都には、とても匂いの良い薔薇が多くありますから。

 疲れた身体を暖めるだけでなく、美容効果もあり

 薔薇の匂いがリラックス効果も与えてくれますから、

 疲れ果てた今日のお嬢様には、ピッタリだと思います」


今日の湯船の中には、薔薇の花びらが浮いてた。

『プリンセス・ビオラ』という王女様の名前のついた

ピンクの花びらがお湯にいっぱいに浮かんでる。

久しぶりの帰国に合わせて多くのお店で売れていたこの薔薇は

匂いがもの凄く良い。


みぐるみ剥がされる様にしてパティにドレスを脱がされた後、

パティが急かす様に私をお風呂に案内したのは、

この薔薇風呂を早く私に見せたかったに違いないと思う。


ありがとう、パティ。

最高よ!!出来る侍女を持って、私は幸せよ!


湯気の中に、ホワンと匂い薔薇の花の匂いが漂ってる。

最高に幸せだわ・・・

疲れた私を癒してくれるわ、すっごく良い匂い・・・。


「はぁぁ・・・・ふぅぅ」


さっきから、変な声ばかりが漏れちゃうけど

パティ以外この場にはいないから、まぁいいや。


それにしても、ほんと、この湯量・・・。

魔石の力って凄いわよね。

日本で見ていたアニメの世界や、ラノベの世界では

当たり前の様に魔法だとか魔石だとかは

空想上には存在していたけれど

それはあくまでも空想上の話で現在していた訳じゃない。


だからこの世界にそれが実在しているのを知って、

リィドルフ兄様の魔石を見せてもらった時は本当に驚いた。

本当に魔石って不思議。


それと、もう一つ不思議だなって思う事がある。


それは、アードルベルグの書庫にもあったけど

「魔法の使い方」の本があることだ。


読んでみると、最初に書いてあるのは


「魔法を使うためには、まずは自らの魔力を認識する事から」


なんて書いてあったけど、なんで?

だって魔力ないんだよね、この世界の人。

それなのに『魔法の使い方』の本があるって、

どういう事だろう。

本当はこの世界の人、

魔力があるんじゃないのかなって思っちゃうよ。

あ~、でも、日本にもアニメで見る様な魔法が使えなくても

『魔法大全』とかあるしね・・・。そういう事なのかな?


全然分からない・・・・。


この国で一番大きい魔石を持っているのは国王様。


今日見た王様の王冠にくっついてたダイヤモンドに似た石。

魔石だってリィドルフ兄様が言ってたけど・・・・

拳大の大きさはあったよ。

・・・・金額の事を考えると・・・恐ろしい・・・。

金では買えない価値なんだろうな。


あれ?

でも、そう考えると、アードルベルグって凄くない?

だって、父様やリィドルフ兄様や・・・

姉様達の武器にもみんな魔石がくっついてる。

しかも、魔物から出てきたものじゃない

戦闘に耐えられる、魔力を込めて作った魔石だよ?


アードルベルグに魔石が沢山ある理由は

良く分からないけれど、やっぱり公爵家だからなのかな?


リィドルフ兄様が持ってる、『氷の魔石』。

剣についてるのを見たけど、王様の拳大程じゃないにしても

結構大きかったし、キラキラビカビカ光っててビックリした。


更に、その孫石にあたる魔石が、

兄様の耳にピアスみたいにくっついる事も驚いたよ。


アードルベルグにある魔石達は、

本石と孫石があって対になっているらしく

闘いに向く魔石は、石に選ばれないと

その力を完全に使いこなす事が出来ないらしい。


魔石に選ばれると、その所有の証として

孫石を耳に付けるんだって言ってたけど、

その後が怖いと思ったのよ。


魔石は、針で耳に穴をあけないのに耳に食い込み

その力は血液が全身を巡る様に体中を巡り、

ピアスの様にくっついて、所有者が死ぬまで

絶対に離れないらしい。


本人が死ぬと、コロンと落ちて次の持ち主を待つって・・・

なんだか、寄生生物みたいで怖っ・・・って

密かに思ってしまった。


以前、リィドルフ兄様に魔物対峙の模擬実戦をしてもらった時、

リィドルフ兄様の身体の周りに渦をつくっていた氷の息吹。

剣がないのに、なんで・・・と思っていたけれど

耳にくっついていた孫石の力を利用してのものだって、

パティが教えてくれた・・・。


ちなみに、


父様は、『炎と風の魔石』

母様は『植物と風の魔石』

リィドルフ兄様が『氷と風の魔石』で、

ラルフ兄様は『水と風の魔石』

クリスベル姉様は『大地と風の魔石』で、

トリフェ姉さまが父様と同じ『炎と風の魔石』なんだそうだ。


その力が込められた武器で闘う姿は・・・

人間とは思えない、ハンパないそうです。

筋肉マッチョなドレイク義兄様が


「力を放つ時のクリスベルは、危ないから近づかないように

 気を付けてるんだ」


って言ってたな・・・。


アードルベルグが所有する全ての魔石に風が付与されているのが、

アードルベルグにある魔石の特徴なんだって。

出何処が一緒なのかな?


私が作った魔石にも・・・何か力があるのかな?

グランツが入ってる事は分かるけど・・・どんな力があるのか

全然わからないし・・・。


パチャンと音をたてて、薔薇の花びらごと湯を掬い、

その水たまりに自分の顔を写し込んだ。


私の魔石は・・・・自分が生み出した。

グランツに言われて、うーんうーん言っていたら、

何だか知らないうちに、コロンと生まれてた。


私の身体は、父様達とは違い魔力を持っているって

グランツが言ってた。

この世界では、魔力を持つ人間なんて殆どいないし

生み出す事が出来るなんて知られたら危ないから

誰にも言っちゃだめだよってグランツが言ってたけど

パティに魔石の価値を聞いて、その意味が分かった。


だって、魔石がなくても、自分の魔力で魔法が使えて

しかも、この世界が欲してる魔石を作り出す事が出来る、

つまり、私が魔石製造機になり得るって知られたら・・・・・

私、どうなる?


水に映る自分が、じっと私を見つめ返す。

うすら寒い考えが浮かんで、私は気分を変える様い

パシャッと顔に水を掛けた。


「お嬢様、頭をこちらに・・・・」


そんな考えに捕らわれていた私に、パティが声を掛ける。

バスタブの淵に、湯で暖められたタオルが置かれた。


私はパティの言葉に従って、頭を乗せる。

暖かなタオルのぬくもりが、湯冷めした肩に

暖かみを与えてくれて、ホッと息をついた。


「髪を洗いますからね。水が目に入ったら教えて下さい。」


「うん・・・」


パティが私の髪を洗い始めた。


薔薇の匂いにつつまれて人に髪を洗って貰うなんて、

一体どこのお金持ちのお嬢様・・・って

私、この世界ではお嬢様だったなぁ・・・って

この瞬間、いつも思う。


頭を打って日本人の記憶が目覚めてからの私が

最初にお風呂に入ろうとした時、当然とばかりに

パティが一緒に入ってきた事に


「何ごと!!何で、パティ、どうしたのっ!」


きゃぁぁと脱いだ服を手繰り寄せて叫んでしまう程驚いた私に、


「はい?どうか、されましたか?」


パティが訝し気な表情を浮かべたのを見た瞬間、

今までの「アリィシア」の日常が頭の中に浮かんできた。


お風呂に入る時は、いつでも侍女が・・・

つまり、パティが一緒に入ってきて、

私の身体にお湯をかけたり

髪の毛を洗ってくれていた記憶が。


アリィシアは、生れた時からお風呂で甲斐甲斐しく

お世話される事に慣れていたけど、

日本人の記憶のあるアリィシアは違った。


はい、服を脱いで下さい。

はい、身体を洗いますよ・・・・。

そういう言われて頭を過ぎるのは、羞恥心。

慣れなくて、暫くは凄く恥ずかしかった。


でも、パティは常日頃の事だから

私のクネクネと姿を隠そうとする姿を見て


「どう、されたのですか?どこか痒いところでも?」


と逆に不思議そうな顔を向けた。


この世界の貴族階級のお嬢様がお風呂に入る時は

大抵お世話されての入浴だ。

侍女だけじゃなくて、乳母がしている家もあるみたい。

私の場合は、記憶の中にはパティしかいない。


十数年間、ずっとやってもらっているのに、

突然の私の行動は、パティには奇妙に映ったみたいで


「変ですね。何か悪いものでも食べたんですか?」


なんて失礼な事を言ってきたけど。

でも、3ヵ月も経つとね・・・・さすがに慣れますよ。


だって相手は私の裸を見た所で何とも思っていないから

逆に、恥ずかしがっている事が恥ずかしい雰囲気になって

私は羞恥心を押さえる為に、


『温泉にある、垢すりだと思えばいいのよ』


と、記憶にあった垢すりを思った。

身体の垢をプロが落としてくれる垢すり。

日本人の私も一度だけ利用した記憶がある。


同じ女性とはいえ、裸の自分を見られる事は

恥ずかしいと思ったけれど、

相手はプロで、仕事として身体をみているから、

何をどうと考えていない。

私一人が恥ずかしかっただけ。


『そうよ、これもそういう風に考えよう!』

 

恥ずかしさを捨てる訓練を毎回していくうちに、

ある日すっかり、手入れをして貰う事に慣れた自分がいることに

気が付いた。

繰り返す事の重要性って、こういう時にも認識するわよ。


そして今では・・・疲れている時に頭を洗って貰えるのは

凄く楽でいいなぁと思っているし、

頭を触られていると、何だか凄く眠くなる。

なんで頭を洗って貰うと、眠くなっちゃうのかねぇ・・。


今日も薔薇の香につつまれて、頭を洗って貰っていると

さっきまで


「はぁぁぁ・・・明日の事、どうしよう」


って思っていたこと、一瞬だけど忘れて・・・・

気分が浮上してきた。


パティが慣れた手で、髪を洗ってくれる。

凄く気持ちいいなぁ・・・。


「痒いところはありますか?」


「ううん、大丈夫。痒いところはないわ」


「そうですか・・・・でも、首とか肩とか結構張ってますね」


「・・・・・・・分かる?」


「ええ・・・結構、凝ってます」


デコルテ部分をマッサージしてくれるパティの指は

魔法の指だわ、本当。


「そうなのよ・・・・今日は、滅茶苦茶疲れたわ。

 気疲れってやつかなぁ・・・」


「気疲れ・・・ですか?」


「そう。お母様に言われたミッションをクリアしようと

 頑張ったの」


「はい・・・・」


「もうね。本当に・・・・驚く様な展開が沢山あって。

 『とにかく笑顔で乗り切れっ!』って言うから、

 私、頑張ったんだよ。

 お姉様に作ってもらった蒼薔薇ドレス素敵だったから、

 誰と踊ってもいいや、綺麗にヒラヒラ回る事を

 楽しもうって思って・・・」


「奥様の意図としている事と、ズレている気がしますが・・・」


「まぁ、そこは置いといて。

 でも、あのドレス、本当にクルクル回ると綺麗でしょ?

 だから、凄く気が乗らなかったけど、

 踊る事は別に嫌いじゃないから

 そういう意味で楽しもう・・・って思ったのよ。

 それなのに・・・」


「それなのに?」


「私のダンスのパートナーが、魔王様になって

 魔王様と踊っていたら女王様が登場して、もう険悪なムードで

 間に挟まれた私は『鉄壁の微笑み』で動揺をなんとか隠そうと

 努力したの。

 もう、早くその場から立ち去りたいっっ思いながら。

 今だけよ、この場だけ無難にやる過ごせばOKだって

 必死に自分に言い聞かせてね。

 顔が引き攣りそうになるのを、一生懸命こらえた。

 それなのに私の思惑は大外れ。

 今日だけじゃなくて明日、

 魔王様達と狩りに行く事になっちゃったんだよぉぉ。

 はぁ・・・どうしよう」


「明日は狩り・・・ですか?どうして、そんな事に・・・」


「そうなのよ!・・・。聞いてよ、パティ!」


私はヌクヌクと湯に浸り、頭を洗われながら、

今日あった事をパティに話し始めた。



話に動きをつけたいです。

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