魔王様、あらわる!③
魔王様は、カッコいい方が良いですよね。
次話は、21日UP予定です。
その次は、24日にはしたいな・・・。
『へぇ・・・あれが噂の魔王様かぁ』
王様の話を耳にしながら、私達より数段高い場所に
座する魔王様を、私は盗み見る様に観察した。
観察・・・って、まるで色気のある言葉じゃないけれど、
実際、私がしている事は『観察』。
ジッと見る事自体『不敬』に値する、
つまり礼儀知らずだという事は認識しているけど、
噂の相手を目の前にした私の好奇心を止める事は難しかった。
『魔王』と言う言葉を耳にしたら、人はどんな姿を思い浮かべるんだろう。
頭からネジネジの角が生えてる
背中から黒い翼が生えてる
牙が出てる
目が真っ赤
爬虫類の様な尻尾がついてる
爪が滅茶苦茶長い
そもそも、人の姿をしていない・・・
私の想像で生み出された『魔王様』ってこの程度。
馬車の中でリィドルフ兄様から『魔王様』の事を聞かされて
頭の中で作り上げた姿は、今、私の目の前で見ている姿とは
全く違った。
『ねじり巻きの様な角は・・・生えてないね。
牙も・・・出てない。
コウモリの様な翼は生えてないし・・・
もっと悪魔っぽいのかと思ってたけど全然違ったな。』
前評判が高すぎると、
現実を見て気分が勝手にダダ下がりするのは
自分が勝手に想像して期待した事が原因で、
相手の責任じゃない。
でも、悪魔や魔物の姿まで想像していた私の前に現れたのが
まるっきり反対の姿をしていたら、どう思う?
ちょっぴりガッカリ感をもってもしょうがないよね。
それどころか、目の前の『魔王様』は、
私が想像していた物語に出てくる悪魔の姿とはまるで反対の、
アニメの世界に出てくる様な『魔王様』の姿をしていた。
つまり、ヒーローに匹敵する様なカッコいい感じ。
カラスの羽の様に艶やな黒髪
切れ長な目
しかも、魔王様っぽく金色の瞳
長い手足に、鍛えられた(っぽい)身体
アニメのキャラだったら、絶対に人気の出るタイプだよ。
しかも、
如何にも王族って感じで偉そうだし、
雰囲気から強そうって分かるもんなぁ・・・
イイっ・・・・。
凄く、良いじゃんっ!!!というか、
『魔王様』・・・羨まし過ぎる。
私の顔には『鉄壁の微笑み』が張り付いたままだろうから
他の人には私の心情を読み解かれる事はないだろうけれど
私は今、目の前の『魔王様』に凄く嫉妬していた。
『こんな・・・・私が欲しいものを全部持ってる人っているんだ。
いいよなぁ・・・・筋肉・・・欲しい・・・』
多分、この世界の貴族のお嬢様と言われる人達の中で
私の様に【求む!筋肉!】って
切実に思っている人はいないだろう。
アードルベルグは、闘う領主と闘う領民があつまる土地。
辺境という事もあって、他国に攻め入られない為の兵力は
常に維持しておかなきゃならないし、
アードルベルグ領に隣接する森には、魔物が出る。
だから、普段から皆、いつでも戦える力をつける為の訓練として
筋力UPに励んでいる・・・という事が、
ここ3ヶ月の間に私が知った事だった。
屋敷の中にいた時は、全然興味も関心もなかったから
領の皆のこと見てはいたけど、
あまり認識はしていなかったみたいで
私がレイピア使いの魔法騎士の訓練を
し始めてから周りをみると、
普段から筋力トレーニングをしている人が
多くいる事がわかった。
そして、筋肉を育てていることも・・・。
「うわぁぁ・・・すごっ。どうしたら、こんな胸板に!」
ビックリする程のゴリゴリマッチョボディを持つ騎士の人達も
沢山いる。
私がレイピアの訓練をしてた時、
「やぁ!とぉう!でぇいぃ!」
私が一生懸命レイピアを振り回していて、
「お嬢様・・・声だけは威勢が良いのですが・・・。
声と剣の動きが、全く合っておりません。
ほら・・・・剣があちらに飛んで行きましたよ。
しっかり握っていないと、
そのうち、剣が自分に突き刺さりますよ」
と侍女のパティに呆れられているのを見ていたクリスベル姉様の旦那様で
アードルベルグ領騎士団長のドレイク義兄様も、ゴリマッチョ系の一人。
ドレイク義兄様は、剣を放り投げた私をチョイチョイと手招きする。
「いいかい、アリィ。
剣はしっかり握りしめておかないと危険だよ。
パトリシアの言う通り、自分に当たったら怪我をする。
まだ、剣を握るのは早いんじゃないか・・・」
心配そうに私を見るドレイク義兄に、私は
「大丈夫です・・・。ちょっと、力が抜けただけで。
平気ですよ!今回は、うっかりしただけですから!!!」
剣振りの練習を止められたくなくて、必死に言い訳をした。
すると、ドレイク義兄様は私に自分の手を力いっぱい握ってみろと
言って来た。
「う~~~~っ!くぅぅぅ」
私は、ドレイク義兄様の鍛えられた指を3本、
ギューッと握りこんだ。
それこそ、命一杯に。
ところが・・・
「・・・・アリィ・・・全力?」
なんだろう・・・ドレイク義兄様の
可哀想なものを見る様な声が聞こえてくるのは。
はぁはぁと荒い息を立てながら、どうですか?
得意げにドレイク義兄様を見上げると
「俺の指を、今、アリィは力一杯握ってみた?」
「はいっ!!私の渾身の力を込めて!!!痛かったですか?」
私の答えにドレイク義兄様は苦笑しながら
「握られてる感じが、全くしなかった・・・」
て言った。
はうぅぅ!
私、自分なりに力がいっぱい入れたのに!!!
ショックなんですけどぉぉ!!!
『そんなぁ~』と衝撃を受けた私の顔を見たドレイク義兄様が
「まぁ、今まで屋敷の中でジッとしていて
身体を動かす事も少なくて
筋力トレーニングもした事がない生活をしていたからな。
仕方ないというか、・・・当たり前だと思う。」
「でもぉぉ・・・・」
「うん・・・まぁ、ただ指を触っている感じだったのは本当だ」
「・・・・あぁぁぁ・・・」
がっかりと落ち込む私に、
ドレイク義兄様がゴメンゴメンと言いながら
私の頭にポンと手を置いた。
「すまない。
アリィをそんなにガッカリさせるつもりはなかったんだ。
ただ、クリスベルと比べてしまってな」
「クリスベル姉様と?」
「ああ。クリスベルが槍使いだって事知ってるか?」
「はい・・・最近まで知りませんでしたが・・・」
とても武器を持つ様に見えないクリスベル姉様が、
実は槍使いだって事を知ったのはつい最近の事だ。
「クリスベルの武器は、槍。
あいつ、ああ見えて、かなり凄いんだ。」
「凄いって・・・何がですか?」
「握力・・・・」
「握力が?」
「そう。アリィと同じ事をクリスベルがやったとするだろ。
すると、やられるんだ。」
「・・・?やられるって?」
「骨を2、3本はやられる」
なんと!クリスベル姉様・・・・・怪力!!!
あの社交界では『バラの貴婦人』なんて言われている
あのお姉様が。怪力無双!!
「だから、ちょっと警戒してた。
クリスベルまでとはいかなくてもってな。
それに、女性からしっかり手を握られる事なんてそうそうないし、
クリスベルを基準と考えていたから。
はははっ。
まぁ、貴族の令嬢としたらアリィが普通なんだろうな。多分・・・」
ドレイク義兄様の笑い声に、私はただただポカーンとするだけ。
「でも、そうだな・・・多分、それが原因なんだろう。
今のアリィは、剣を握る力が弱い。
だから、スピードが付いた剣を振り落とす力に対して
支える手の力が追い付かないから、飛んで行くんだと思う」
確かに・・・
ドレイク義兄様の言う通り、私の手は剣を制御しきれてない。
どちらかというと、振り回されている感がある。
「それと、剣を振り落とす時の身体の動きを見たけど、
まだ、体幹がしっかりしてないから、振り落とす度に
身体の軸がぶれる。
そうすると、剣に振り落とす力がダイレクトに伝わらないから
威力も半減するんだ。」
「・・・・確かに、ヨタヨタします・・」
回数が少ないうちは剣を真っすぐに振り落とす事が出来る。
でも、少しづつ前のめりになったり、ぐらついたりして
剣先の軌道が定まらないのは、自分でもわかってた。
「まぁ、筋力をつけるには、まず筋肉をつけることだ。
勿論、ただ筋肉をつければ良いって訳じゃない。
一番良い筋肉は、使いたい時に使いたい部分の筋肉に
瞬間的に力を籠める事が出来る瞬発力の出る筋肉だ。
ただ、筋肉を付けただけじゃ、
重くて動作が遅れて隙が出来るからね。」
「はぁ・・・・」
ドレイク義兄様が、自分の腕や足をパンっと叩く。
「アリィ・・・いいかい!
オレの様に良い筋肉をつけるんだ!そして筋力も!
そこからだな!」
ドンッと肉厚な胸を張られて・・・・私は目が点になった。
剣を振り回したり、弓を放ったりするには
体幹がしっかりしてなきゃ駄目だから、
騎士の皆は日頃から身体を鍛えている。
だから、鍛え過ぎじゃない・・・というか
筋肉トレーニングにハイな状態になってる人もいて
驚く程の肉体を持ってる人もいる。
ドレイク義兄様は、どちらかというと筋肉育てる派だ。
私の家族の中では、父様が結構肉厚の身体をしてる。
肉厚って、ステーキみたいな言い方だけど
どういう風に言うのが正しいのかは分からない。
父様の武器は大剣。
砲丸のついたロープをグルグル回すアスリートは、
300kgの負荷に耐えられる様に、身体を鍛えているって
情報をテレビでみた日本人の記憶が残っている。
それだけ、大きなものを振り回すには筋肉が必要なんだって
驚いたものだ。
確かに、自分の背丈以上の大きい剣をグルグル振り回すには、
外側に逃げて行こうとする力を押さえるだけのものが必要で、
剣を振り回していると、自然に筋肉が付くって
父様も言っていた。
片手剣を操るリィドルフ兄様は、
父様やドレイク義兄様とはちがい
鍛えられた身体はしているけど、
どちらかというと細マッチョ系。
妹の欲目かもしれないけれど、顔もイケメンだし、
何だか物語に出てくるエルフっぽいんだよね。
リィドルフ兄様に、筋肉の話をすると
「俺はね、大きくはしない様にしてる。
あまり重いと馬に負担がかかるし、素早さが落ちるからね」
だそうだ。
筋肉を大きくするって意味が良く分からないけれど、
手を加えていくと、筋肉は育っていくそうです。
私は・・・実は、筋肉隆々はちょっと苦手なんですよ。
だって、今まで本の世界で生きてきたでしょ?
物語に出てくるヒーローは、女の子が憧れそうな姿形で、
いかにも物語に出てくる様な
スラッとした王子様の姿しか描かれていなかったから
相手に壁ドンされたら、ヒーローの胸板と壁に挟まれて
押しつぶされる姿なんて考えていなかった。
でも、肉厚の身体・・・胸板・・・動く!
・・・騎士団の人達に筋肉を見せてと言った時、
意気揚々と嬉しそうに見せてくれた、動く筋肉を見た時
・・・・ひいた。
わかる、分かるよ。
私も、自分の身体に筋肉をつける為に
今、一生懸命訓練してるから、
筋肉を綺麗につけるのって、いかに大変なのかって事は。
でもね・・・・
鍛えられた筋肉って、なんだか綺麗についたら、
見せびらかしたくなるみたいで・・・。
無駄に上半身裸になってる人もいて
見て見てと言われて見せられた肉塊に私は
・・・・・めちゃくちゃ、引いたの。
そして、思ったわ。
クリスベル姉様とは、王子様の趣味が合わないんだって
心底感じた瞬間だったよ。
・・・話がずれたけど、
リィドルフ兄様が言っていた
『最強の武人』『悪魔の様な強さ』を持つ魔王様
っていうから、どんな肉塊を持った人なのかと思ったけど
リィドルフ兄様よりは少し身体が大きい感じがするけど、
ドレイク義兄様とは違って、筋肉・・・育ててない。
でも、闘ってる身体してる・・・。
くぅ・・・羨ましい・・・。
しかも、今、
スキル『王者の風格』を発動中ですかって思っちゃうくらい
座ってるだけで、『強そう』な雰囲気漂ってる。
魔法剣士を目指す私がここ3か月の間、
必死に剣の稽古やモロモロをしてきたけど
とても兄様に
「私も、魔物討伐に連れてってください!」
って言える程にはなってない。
勿論、最初に比べれば、
かなり上達はしたと自分目線では思うし、
いずれは『魔法少女セレス』に登場していた
レイピア使いの魔法剣士アリィシアに
なれる筈だとは思うけれど
もし、目の前に魔物が現れたら・・・
・・・・限りなく、吹っ飛ばされる可能性の方が高い。
アニメの世界では美しく、気高く、華麗に剣を振るってた
『アリィシア』。
闘っている姿の背景には薔薇の花が舞い踊っていたし、
魔法の腕も一流で魔法を繰り出した時のエフェクト映像が
もの凄くて
「はぁぁぁ・・・・美しいぃ。素敵ぃ。可愛い・・
アリィになりたいっ」
って、アニメの戦闘シーンを何度も繰り返し繰り返し見ていた
記憶から考えると、今の私は・・・・。
勿論、見た目がアニメキャラそっくりだから美しく・・・
というのは、自分で言うのもなんだけどそこはクリアしてるけど
華麗でもなく気高くもない。
それに、身体から発する気迫ってのが身についてない。
以前、兄様との戦闘対峙模擬訓練をしてもらった時
ただ立っている兄様の気迫に
『殺られる!・・・・ひゃあぁぁぁぁ』
私は命の危険を感じた。
そして思ったのよ、
華麗なるレイピア使いの魔法剣士アリィシアには
絶対に気迫・・・そう、闘気が必要だってこと!
私が身に付けたい気迫、闘気のイメージは、
記憶にある日本の極道映画に出てくる
立ってるだけなのに存在感のある姉さんの迫力。
あれが身に付けば・・・・
私・・・思い描く『魔法剣士アリィシア』に
近づけると思うんだよ!
だから、そんな私の憧れボディと風格を備える『魔王様』を見て
『私がもし男だったら、こんな風になりたい』
という意味で、憧れの『いいな・・・・』
って気持ちを持ってしまった。
それに、どことなく、私の好きだったアニメキャラの
『アリィシアの婚約者』だった、ヴァシュロンクルーザー、
つまり『ヴァロンさま』に雰囲気がなんとなく似てる感じがする。
顔は、全くの別人だけどね。
この良いなっていう気持ちが
『アリィシア』として、もともと持っていた好みなのか、それとも、
『アニメ好きの日本人だった記憶』の好みなのかは分からないけれど。
それにしても『魔王様』のこと、憧れ的にいいなと思う事はあっても、
リィドルフ兄様やご婦人方の言っていた『恐怖の対象』みたいには
全く思えないけど・・・どういう意味だろ。
分からないな・・・。
う~ん・・・。
でも・・・うん、いいね。『魔王様』、いいね。
そんな事を思いながら『魔王様』に意識を飛ばしていると
「アリィ・・・・ボーっとしてちゃ駄目だし、
ニヤニヤしてちゃ駄目だよ。
いいかい、王様や王妃様にご挨拶に行くよ。」
リィドルフ兄様の声でハッと我に返った私は、
「あっ・・・ごめんなさい」
いけない!と気を引き締めた。
リィドルフ兄様は、ヤレヤレと言いたげな顔をしていた。
ははっ・・・ごめんなさい。
王様の話が終わり、順番に王様や王妃様に挨拶をする為に並ぶ。
リィドルフ兄様と、私は諸侯貴族の皆様方よりも先に
王様達の前に辿りつくと臣下の礼をとる。
王様の側近くに、父様が立ってるのも見えた。
「陛下。
リィドルフ・フォン・アードルベルグ、御身の前に。」
「アリィシア・フォン・アードルベルグでございます。
本日はお招きいただきましてありがとうございます」
久しぶりの社交界で失敗しない様に、私はカーテシーをする。
お母様の地獄の特訓を受けた成果を、私はいかんなく発揮。
自分でも『よしっ!』って思える綺麗な礼が出来た。
・・・いや、出来たと思う。
「おお。リィドルフ、アリィシア。
良く参った。さぁ、顔を上げなさい」
ザルシュ王に促されて、
王様の前で垂れた頭を上げて視線を王様に合わせる。
「リィドルフ、変わりないか」
「はい、陛下。おかげ様で。この通りでございます。」
「そうか。リィドルフは暫く王都から離れて
自領に戻っておったのだったな。
いつ、こちらに戻ってくるのか?」
「はい。今暫くはアードルベルグ領にいようと思っております。
最近、魔物の活動が多く見られ、
領内に幾度となく現れておりますので、
今は数を減らすため、討伐を行っております。」
「うむ・・・そうか。
アードルベルグの東側にある森は
ヴァルディア王国と接する地域。
街道もある重要な場所だ。
その安全を図る事は、わが国にとっても必須。
大変だとは思うが、引き続き、しっかりやってくれ」
「はい・・・力ある限り、陛下の為、この国の為に
働きたいと思っております。」
「うむ・・・・アリィシア・・・」
「はい・・・」
「久しぶりだな。直接会うのはいつ以来か?」
「はい、陛下。
ビオラ王妃様がヴァルディア王国に旅立たれる前でございます。」
「そうか。・・・となると」
「もう・・・・5年も前になりますね」
王様との会話に、ビオラ王女、
今はヴァルディア王国王妃様が話に入ってきた。
「以前見たアリィシアは、まだ子供でしたのに、
暫く見ない間に、とても美しくなられましたね」
「・・・ありがとうございます。
ビオラ王妃様にそう言っていただけてとても嬉しいです。」
「ええ。それに、今日着ているドレスもとても良く似合っているわ」
綺麗ね、薔薇をモチーフにしてるの?と褒めてくれる。
「姉のクリスベルが、今日の日の為にデザインをしてくれました。」
「まぁ。クリスベルが作ったの?
彼女はとてもセンスが良いもの。
アリィシアの為に作られたデザインだって事が良く分かるわ。
とても素敵よ。」
「ありがとうございます。」
久しぶりにビオラ王女・・・
今は、隣の国、ヴァルディア王国の王妃様と成られた
姿を見たのは5年ぶり。
以前見た時は可愛くて綺麗な王女様という雰囲気だったけれど、
今は幸せそうなオーラを発してる、
美しくて素敵な王妃様になっていた。
ストロベリーブロンドの髪を結い上げて、
ヴァルディア王国の花を模したティアラを身に付けている。
『物語に出てくる王女さまみたい・・・・素敵・・』
王女様に王女様みたいって言うのは変な話だけど
本当に物語に出てきそうなくらいだったから、
私はポーっとしてしまった。
すると、そんな私を見てビオラ王妃様は
「アリィシアは、変わらないわね。」
と言って笑った。
「ギベオン、お前の子供達は良い子に育ったな」
王様の近くに立っている父様を見て、王様が言った。
「ありがとうございます。まだまだですが、実は
自慢の子供達です。」
「はははっ・・・子煩悩なところは、相変わらずだな」
王様が父様を見て笑った。
「ところで、今日は、ビオラの付き添いという形で
ヴァルディア王国の王兄殿下である
アルフレッド・エル・ヴァルディア殿がいらしている。」
王様が私とリィドルフ兄様に、アルフレッド王兄殿下を
紹介してくれたので、王様に向けていた目を
アルフレッド殿下に合わせた。
間近で魔王様を見れた。
『おおっ!
遠くで見ても整った顔してるなぁって思ったけど、
間近でも見ても、凄くイケメン・・・。
・・・あっ、耳がちょっと尖っている。
物語に出てくるエルフ族の特徴の耳だよ!
えっと・・・・つまりは・・・もしかして、
魔王様・・・エルフだったりする?
きっとそうだよ!
耳が尖ってるって、それしか考えられないよっ。
うわ~っ。え~~っ。
本当にファンタジーの世界だよ。
初めてみた~。
すっご~。異世界来たー!!!』
顔は『鉄壁の微笑み』を張り付けたままだったけれど
心の中は「うぉぉぉ!!!」と唸り声を上げていた。
私が、今の『アリィシア』になってからの3か月。
家の外で剣の訓練をしたり、屋敷の周りを走ったり
死のダンスレッスンを受けたりと、
結構アウトドア的な活動をしていたけれど、
そこで出会った人達や、アードルベルグの屋敷には、
耳が尖った人もいなければ
モフモフな獣人と呼ばれる存在いなかったから
この世界はそういう『人族』以外の種族って
いないのかと思っていた・・・・。
でも!
今、目の前にいる『魔王様』のお耳は尖ってるし、
物語りに出てくる『エルフ』の様に、めちゃくちゃ
顔が整ってるというか、イケメンだよ!
魔王様って・・・・凄い!
私が一人で頭の中でジタバタしているとき、私の隣では
兄様とアルフレッド王兄殿下が会話を交わし始めていた。
「・・・お久しぶりでございます。アルフレッド王兄殿下」
「久しぶりだな・・・リィドルフ卿」
うぉっ!
魔王様が喋った・・・・
『魔王様・・・人の言葉が通じるんだ。
いや、当たり前でしょ!』
自分でノリ突っ込みを入れてしまったけど、
恐怖の対象の魔王様は、ひょっとして言葉が通じないのかも・・・
と思ったけれど、兄様と普通に会話をしてる。
「アルフレッド殿とリィドルフは知り合いだったのか」
ザルシュ王が驚く素振りを見せた。
「知り合いという程のものではございませんが、
以前、魔物討伐の際にお見かけ致しまして、
そこでご挨拶を交わさせていただきました。」
「そうか、アードルベルグの魔物の出る森は、
ヴァルディア王国との国境と接していたな」
「はい。以前、ワイバーンの群れが出ました時に、
王兄殿下とお会い致しました。」
ワイバーン・・・・
ゲームや異世界物語で魔物として良く出てくる
翼をもつ龍・・・つまり、飛龍の事だね。
本当にいるんだ・・。
「そうか。して、アリィシアはアルフレッド殿とは?」
「はい・・・私は王兄殿下とは、初めてお会い致しました。」
アルフレッド『魔王様』の存在すら、知りませんでしたよ。
ここに来る道すがらで、初めて聞きましたよ。
「そうか・・・。
この方はビオラの夫である、
ヴァルディア王国のハロルド国王の
兄であるアルフレッド殿下だ。」
私は笑顔を崩さずに、
「初めまして。
ギベオン・ファン・アードルベルグ辺境公爵の娘、
アリィシア・フォン・アードルベルグでございます。
本日は、お目に書かれて光栄です。」
王様に促されて、魔王様にご挨拶をさせて頂く。
勿論、魔王様・・・とは言わないわよ。
「・・・・・アルフレッド・エル・ヴァルディアだ」
魔王様の声に、私は魔王様に視線を合わせる。
魔王様が、私をジッと見ていた。
私も魔王様をジッと見返した。
遠くからは見えなかったけれど、魔王様の金色の瞳って
すっごく綺麗・・・・
間近で見ると、本当に魔王様は整った顔をしてるよ。
声もいい声してるなぁ~。
アニメで言ったら、絶対に主役級を張った声だよ。
・・なんだっけ、どこかで聞いた声なんだよなぁ
えっと・・・・なんのアニメだったっけ・・・
う~~ん・・・こんないい声、思い出せない筈ないのに、
日本人の記憶は、私の直接の記憶じゃないから、
そこんとこは、曖昧で出て来ないかぁ
・・・・なんて、頭の中でグルグル考えていた私は、
その間、魔王様と見つめ合った状態だったけれど、
頭の中でグルグル考えていたから気が付かなかった。
気が付いたのは
ドサッ・・・ドサッ
ドサッ?
後ろで音がして、初めて自分が魔王様を見つめていた事に
気が付いた時だ。
私の後ろから、物が落ちた音がしたから、何だろうって
振り向くと、私達の次に挨拶しようと待っていた
クロムリード公爵夫人や、その後ろのご婦人方が
尻もちをつく様に床に座っていた?
えっ・・・・一体何が???
私がハテナマークを頭の上に一杯つけていると
「アルフレッドお兄様・・・・」
「すまない。」
ビオラ王妃様の声に、魔王様が短く答える。
一体、何が起きたの?
気分が悪そうな顔で尻もちをつくご婦人方を見る私に魔王様が
「君は、大丈夫なのか?」
と尋ねてきたので、
「はい?・・・・何がですか??」
思わず、普通に返答をしてしまった。
「はっ・・・大変失礼を致しました。
ええっ、別になにも・・・・・・。」
すると魔王様は
「そうか・・・」
と短く答えただけで、金色の瞳が私をジッと見る。
『・・・・うんと、えーっと見過ぎじゃない?』
針の穴を通す様に魔王様に見つめられて、
なんとなく居た堪れなくなった。
そわそわし始めた私を見て、
「アリィシア、今日は楽しんでいらしてね」
ビオラ王妃様が可愛く笑いながら場を変えてくれた。
「はい・・・ありがとうございます。」
「それでは王様、他の方もいらっしゃいますので私達はこの辺で・・」
「おおっ。ゆっくりして行くがいい」
王様が下がる事を許してくれたので、
私とリィドルフ兄様は臣下の礼を今一度取ると
ゆっくりとその場を離れて行った。
私の立ち去る姿を王兄殿下が見ている事も知らずに・・・。
「ふぅ・・・・兄様、これで一応お役目は終わりですよね」
「そうだね。王様にご挨拶っていう意味では終わりかな」
王様の前に長くならぶ貴族の列を見ながら、
リィドルフ兄様と私は壁の近くに立った。
壁際・・・と言えば、私の目の前には綺麗に盛り付けられた
凄く美味しそうな食べ物が並んでいる。
まだ、王様への挨拶が終わってないから食べる事は出来ないけれど・・・
もしかして、今日は念願が叶っちゃう・・・
いえ、叶える事が出来たりする?
口の中が食べものを欲してるわ・・・そんな思いが顔に出ていたのか
「アリィ・・・ダンスの音楽が鳴るまで、待たなきゃ駄目だよ」
リィドルフ兄様から、ストップがかかる。
うっ!そんなに物欲しそうな顔をしていたのかしら・・・。
可愛いアリィシアのイメージを崩しちゃだめだわっ・・・
気を付けよう。
リィドルフ兄様に言われて、ハッと気を引き締め直す。
そんな姿を見て、リィドルフ兄様が小さく笑った。
「それより、アリィは感じなかったの?」
「はっ?何をですか?」
なんの事でしょうか??
私がリィドルフ兄様の言葉に『意味が分からない』と
首を傾げていると
「ほら、アリィの後ろに並んでたご婦人方、
みんな尻もちついていただろう?」
「あぁ・・・・そう言えば、そうでしたね。
みなさん、どうしたんでしょうか?
後ろを振り返ったら、皆さん座られていて
ビックリしました。」
王様の前での失態。
普通は問題だ。
けど、一人や二人じゃなく、
多くの人達が尻もちをついていた。
だからなのか、王様もそれを問題にする事もなく
流してくれたんだと思うけれど・・・。
一体、どうしたんだろう・・・。
「・・・・・・そっか、アリィには分からなかったのか。
う~ん・・・それは、どっちだろう・・・・」
リィドルフ兄様が、考え込んでいる。
どっちって、どっち?
「それって、どういう意味ですか?」
「うん。つまり、王兄殿下の気迫に耐えられたのか、
それとも、気迫に全く気が付かなかったのか・・・って事」
「気迫?」
王兄殿下が何かしたって事?
「王兄殿下、結構な気を飛ばしたんだよね。
だから、ご婦人方とか、普段、戦場にはいかない人達は
王兄殿下の気に耐えられなくなって思わず尻もちついたんだよ」
「えっと・・・・・・まったく、何も分かりませんでした」
「ははっ・・・・そうなんだ」
「はい・・・・王兄殿下の瞳が金色だなぁ・・・って考えてました。」
本当に全然分からなかった。
王兄殿下、人が尻もちついちゃうくらいの
ガンを飛ばしてたって事なの??
初対面の人に??
何か、魔王様の気に障る様な事私・・・・してたか・・・。
ジロジロ見てたしね・・・。
気を悪くさせちゃってたのかな・・・。
「怒ってた訳じゃないんだ。
特に、何もしてない。
けれど、王兄殿下と対面すると、多くの人は
同じ様になってしまうらしい。」
いつも?
あ~、だから兄様が『顔を見ることも出来ない』とか言ってたのか。
・・・・私、鈍感なのかな・・・。
全然・・・・。
はっ!違うわよ。
私が鈍感なんじゃないわっ。
きっと3か月の訓練で、気迫に耐えられるだけの何かを
自然と身に付けたのよ!
お兄様やお母様・・・パティにセドリックの厳しい訓練に耐えて
私はいつの間にか「耐久性」を身に付けたに違いないわ!!!
そう・・・そうに違いないわ。
無駄じゃなかったんだ・・・・この地獄の3か月はっ!。
・・・・そんな風に感動をしている私の横でボソッと呟いた
「・・・・やっぱり、アリィシアには利かないか」
リィドルフ兄様の言葉は私の耳には届かなかった。
「それにしても、王兄殿下は何故『魔王様』なんて呼ばれて
いるんでしょうか?
私が見る限り、『魔王様』って恐れられる程の怖い感じは
全然しませんでしたけど・・・」
「うん・・・・アリィにはそうなのかもね。
でも、普通のご婦人方は、
王兄殿下が恐ろしい人という認識を持ってるし、
どんな姿でも、きっと変わらないと思う」
「そう・・・なんですか。
兄様が『魔王様』なんていうから、
てっきり角が生えたり、 翼が生えたりしているのかと
思ってましたけど、見た感じは私達と
全然変わらない感じでしたよね。
耳が尖ってたのが違う位で・・・。
そうだ!兄様、魔王様は、エルフだったりするんですか?」
そう。
魔王様が私達と違う事と言えば、耳が尖ってた事ぐらい。
他は、私がなりたい理想的な男性像って意外は、
普通だったからちょっと拍子抜けしたくらいだったし。
「エルフ・・・の血が混じってるんだよ。
ヴァルディア王国の始祖はエルフだったらしいからね」
ほうほう!
この世界にはエルフがいるんだっ!
とすると、私の記憶にあるファンタジーな世界が
広がってたりするんだっ!
「でも、今、ヴァルディア王国でエルフの様な形をしているのは
王兄殿下しかいない」
「えっ?ヴァルディア王国の人達って、
エルフじゃないんですか?」
「うん。エルフの様な姿をしているのは、
代々、一番目に生まれた子供だけなんだ。」
・・・・なんで?
国でたった一人だけ違う姿??
どうして??
「一番目に生まれた子供だけって事は、ヴァルディア国王様は?」
「私達とは殆ど変わりない姿だね。」
「・・・・・・・不思議ですね、それって」
「・・・・うん。だから、色々言われてるんだ。」
「言われているって、何をですか?」
「・・・・例えば、始祖の呪い・・・とか」
呪いぃ??
エルフって、すごく清らかなイメージがあったのに・・・
呪いって、なんでぇ?
意味わからん。
っていうか、たった一人のエルフの姿が
呪いって言われるのって、何だか凄く・・・う~ん。
「そういう言い伝えがあるヴァルディア王国では、
必ずと言って良い程、最初に生まれた子供は男子で
エルフの様な姿をしている。
だから、代々、2番目に生まれた子供が王位を継ぐんだって
聞いた事がある。
実際、それが理由なのかは分からないけれどね。」
なるほど・・・・エルフって聞いて、私、すっごく興奮したけど
色々あるんだなぁ・・・大変そうだ・・・。
だって、呪いの象徴的に言われるのって・・・
本人のせいじゃないのに・・・なんとも・・・
挨拶を受ける王兄殿下の姿を見て、私はちょっとだけ
何故だか心がチクっと針が刺したみたいになった。
「まぁ、俺達には関係ないけどね」
「・・・・そうですね。」
リィドルフ兄様の言葉に、私は頷いた。
アードルベルグの隣の国とはいえ、他国の王族。
この先、逢う事があるとは思えないし、
何だか色々大変そうな出来事に私が入ってはいけない気がして、
そこで話は終わりにした。
「ところで、兄様」
「うん?なに」
「何故、お父様が今日、王様の側にいらっしゃるのですか?」
「・・・・う~ん、そうだね。
多分、不測の事態に備えてじゃないかな?」
「不測の事態って?」
「まぁ、アリィが気にする事じゃないと思うよ」
不測の事態が起こるかわからないからね・・・とリィドルフ兄様は言う。
「そうですか・・・・お父様に後でご挨拶する事は出来ますか?」
「そうだね。多分、大丈夫じゃないかな?」
「じゃぁ、あとで、お父様の所に行きましょう。
父様、最近、アードルベルグには戻って来られなかったから
お話をしたいです。」
「わかった。じゃぁ、後で父さんの所に行こうか?」
「はいっ!それと・・・」
「何だ?」
「お兄様は、今日、私のエスコート専従でしたよね?
何処にもいかないですよね?」
「うん?まぁ、王子の所とか、
知り合いの所には、ちょっと挨拶をするけど・・・。
何かあるのかい?」
「はい・・・・・私、ここにあるお食事を頂きたいので、
一緒に付いていて欲しいのです。」
「食事?」
「私、夢だったんです。
美味しい食事を沢山食べたいって。
今日は王家主催だからアードルベルグでは見た事のない料理が
沢山並んでいるんですもの。
すごく、食べてみたい・・・。
でも、こういう会って、私が食事をとろうとすると、
色々な人が挨拶に来て全然食事がとれないので・・・
今日こそは頂きたいと思ってるんです」
目的はかなりズレてるけど、叶えたい。
でも、案の定、
「へぇ・・・そうなんだ・・・。
でも、アリィ、母さんの課題はどうするの?
食べてる暇、ないんじゃない?」
リィドルフ兄様が尋ねてきた。
「うっ・・・・で、でも、一人か二人踊れば、
後はいいんじゃないかと思うんです」
「いいの?それで??」
「私は、それで十分だと思うんです。
そうすると、時間が沢山あまるじゃないですか?
だから、ミッションクリアーしたら、私は私の念願
『社交界の美味しいものを沢山食べたい』
って野望を叶えても良いと思うんです。
頑張ってきたご褒美に!」
私が力強く言うと、リィドルフ兄様は笑って
「わかったよ。
アリィの言う通りになったらね。
俺がアリィの望みを叶える為に付き合ってあげるよ。
・・・・・うん、アリィの思う通りに行けばね」
「行きますよ!いえっ!行かせてみせますっ!!!」
「うん・・・・そうなると良いけどね。」
リィドルフ兄様が、何だか微妙な表情を浮かべているけど・・・。
なんだろ。
そんな会話を交わしているうちに、
会場の一角に控えていた楽団がワルツのメロディを弾き始めた。
「音楽が鳴り始めたね」
リィドルフ兄様の言葉に、心臓がドキンっとなる。
いよいよ、ミッションの始まりだわっ!!!
食事は・・・・あとにしとこう・・・。
私は大きく息を吸って、私にダンスの誘いが来るのを待った。
誰でもいいから、何曲かダンスを踊ればいい。
嫌な事は、先に済ましちゃいたい。
そうしたら、念願の美味しい食事にありつける。
兄様が防波堤になってくれるから、
今日は思う存分に食べられるに違いない。
・・・よし、それを目標にしよう。
・・・・めちゃくちゃ楽しみだわっ。
だから!
誰でもいいから、早く誘ってちょうだいっ!
今回の目的とは大きくズレている事は分かっているけど、
お母様のミッションをこなさないと家には戻れない。
だから・・・・今、死のダンスレッスンを耐えきった私を
見せる時なのよ!
私は『よしっ』と自分に気合いを入れると
その課題を一緒にこなしてくれる相手を待つ。
すると、間を置かず・・・
ザワザワザワ
ダンスフロアーが騒めきの音を立て始めた。
んっ?
どうしたんだろう??
そう不思議に思いながら見回すと、
王様の姿が目に入った。
あれ?
さっきまで王様の隣に座っていた魔王様の姿がいない??
何処に行ったんだろう?
そう思ってみていると、目の前に歩いている魔王様の姿が目に映り
・・・・あれ?何だか、だんだん近づい来てる??
もしかして・・・・こっちに来たり・・・
まさか・・・えっ・・でも、嘘でしょ・・・
と思っていたら、
「アードルベルグ嬢・・・・一曲、お相手願う」
私の目の前に、見上げる程の背丈の魔王様が立っていて、
私に手を差し伸べた。
次は、魔王様と接近。