魔王様、あらわる!②
更新が滞っていたので、
続けざまにあげてみました。
訂正:ハーディス王国となっていましたが、
魔王様の国は、ヴァルディア王国です。うっかりでした。
次話UP予定は、4/17の予定です。・・・たぶん・・・大丈夫なハズ
そして、間に合いませんでした。明日になります。18日UPです。
もし、私がゲームが主体の異世界に転生をしていたら、
「スキル『鉄壁の微笑み』を発動しました。
つづけて『イノセント チャイルド』『大人の嗜み』を
発動しました。」
きっと、こんなメッセージ的な音声が、大々的に頭の中で
鳴り響いていたに違いない。
『鉄壁の微笑み』は、どんなに苦しい状況下に置かれても
微笑みの表情を崩さず、心の内を相手に悟らせないもので、
『イノセント・チャイルド』は、
純真無垢を体現させることで
「私は貴方に対して敵意はありません、害はありません」
と印象を与えるもの。(油断させるとも言うね)
そして、『大人の嗜み』は、処世術を駆使して
難局をそつなく乗り切る
・・・という、まぁ、貴族だったら
誰でも当たり前の様にこなしているものを、
ゲームに出てくるスキル風に例えてみました。
私はその3つのスキルを今、いかんなく発動させている。
ふと横をみれば、リィドルフ兄様も感情の読み取れない
涼しげな顔で笑顔を浮かべて
近寄ってくるご婦人方を見ているのを見て、
兄様も『鉄壁の微笑み』発動中なんだなって思った。
沢山の人で混雑している会場で、誰にぶつかる事もなく
私達に向かって真っすぐに歩いて来れるのは、
貴婦人方の進む方向にいる人達が、
自然と人並みが割れる様にして道が作られるから。
人の波を押しのけて、
ゾロゾロと御婦人方が近寄ってくる姿って
日本人だった記憶の片隅にある、
某医療ドラマの中で描かれていた
病室の回診シーンに良く似てる。
頭の中で映像化されるドラマで先頭を歩いていたのは
男性だったけれど、今、私達に近寄ってくる集団を
引き連れているのは艶やかな深紅のドレスを
扇情的に身に纏う貴婦人だけどね。
先頭を歩く彼女の名前は、クロムリード公爵夫人。
『社交界の花』とお母様が呼ばれているのに対して、
クロムリード公爵夫人は、
『社交界の真珠』とも『社交界のスピカ』とも呼ばれている。
スピカって、何処にいても光り輝く一等星の事で、
まぁ、つまりは、社交界の女ボスを比喩して
言っているんだよね。
こういう場に余り顔を出さない私でさえ、
クロムリード公爵夫人の事は少し知ってる。
アードルベルグ家とクロムリード家は同じ公爵位だけど、
公爵位の中ではアードルベルグが上位に
位置づけられているから
本来だったら、社交場で王族の方々以外だったら、
お母様やお姉様達が場を仕切っていても
おかしくはないんだろうけれど
王都から3日も離れた領地である事が原因なのか、
はたまた魔物討伐に出掛けている事の方が多い事が原因なのか
社交場の話を姉様達から良く聞いていた気がしたけれど、
実際はたまにしか参加してないらしくて
たまに顔を出す人達より、
常に顔を出す人の方が顔が広くなるのは当然で
クロムリード公爵夫人がいつのまにか、
社交場の『女ボス』の地位を獲得したらしい。
クロムリード公爵夫人は、上位貴族であるお母様や姉様達に
あからさまにその威光を発揮する事はないけれど、
常は公爵家の第一夫人の彼女。嗜める人の方が少ないんだもの。
『女ボス』化してても、しょうがないと思う。
社交の場は自分の目的の為に利用すると言っている姉様達も
「アリィ、社交界って色んな人がいてね、
ほんと、放っておいても良い人達の方が多いけど、
クロムリード公爵夫人にだけは、気を付けるのよ。
取り巻きのご婦人方は・・・・まぁ、そこそこで」
と口を揃えて言っているほどの注目すべき人物なのだ。
クロムリード公爵の領地は、
アードルベルグとは反対の西側にあって
普段からそれ程交流がないから、クロムリード公爵の事も、
公爵夫人の事も、社交場で見かけたり、噂で聞くくらいしか
私は知らない。
でも、こうやって団体様の頂点に君臨し、
多くの人達を引き連れて歩いてくる姿を見ると
何となく、その人となりが分かる。
それにしても、本当に社交場ってつくづく大変だなって思う。
だって社交場での失敗は、自分の夫や子供の将来に
影響していくんだから、貴婦人方の気の使いようは半端ない。
社交の場をジッと見ていると、
色々な派閥ごとに集まっている事良く分かる。
父様は、
「私は、ザルシュ王以外に仕える事は、決してあり得ぬ」
と公言していて、常に王様の側にいるし、
リィドルフ兄様も、次代王になる第一王子と懇意にしているから、
王様に目通りを願いたいという貴族たちが、
父様や兄様に繋がりを持とうと画策しているみたいだけど
あまり相手にしていない。
父様達がよく話をしている人達って、王様派を公言している人達
ばかりだからね。
でも、権威を持っている人と繋がりを持ちたいって思っている
諸侯貴族は社交場を利用して、一生懸命に繋がりを持とうと
色々画策しているらしい。
トリフェ姉様が
「いい、アリィ。
アリィは「壁の花」に徹しているらしいけど、
ボーっとしてるだけだと、時間が長くて苦痛じゃない?
そういう時はね、とっておきの時間潰しがあるから、
教えてあげる」
といって教えてくれたのは、『人間観察』だ。
誰が、誰と繋がっているのか、
その人間関係が、どういうものなのかを知るのは
社交場での行動を見るのが、打ってつけらしく
「貴族って言ってもね、人それぞれ思惑が違ったりするし、
自分が、今よりも、もっと良いポジションを取りたい
って思ってる人多いからね。
そういう、人間の欲望が透けて見えるから面白いわよ。
時間を持て余す暇なんてないわ」
という事らしい。そして私は、
トリフェ姉様が教えてくれる事を実践している。
本当は、社交場に並ぶ沢山の美味しそうな食べ物を取に行きたい。
でも、私が父様や兄様達から離れてテーブルに向かうと、
「アードルベルグ公爵令嬢ではありませんか?」
って、余計な邪魔が引っ切り無しに
私に寄ってくるものだから、
追っ払うのが面倒な私は一人にはならない様に
いつも父様や兄様に一緒にいるか、
『壁の花』として、笑顔で近寄るな
オーラを出しているわけ。
だから、小さい頃からの夢
「社交場の美味しい料理をたらふく食べたい」
という夢は、未だに叶えていない。
そんな事を考えていたら
「あら、リィドルフ様、アリィシア様ではなくて?」
偶然ね、気が付かなかったわ・・・
と言わんばかりの台詞を、クロムリード公爵夫人が
私達に投げかけてきた。
「これは、クロムリード公爵夫人。本日もご機嫌麗しく。」
「お久しぶりでございます。クロムリード公爵夫人」
私と兄様は、クロムリード公爵夫人と、
その取り巻きの御婦人方に挨拶をする。
それにしても、いつも思う事だけれど、
クロムリード公爵夫人って、一体、何歳なんだろうな。
私は名前は知ってはいるけれど、
人となりは殆ど知らない『遠くの有名人枠』の彼女。
確か、お母様とそんなに年が離れていないって
聞いた気がするけれど、
彼女は、見た目では年齢が図れない美魔女。
つまり年齢不詳の人物だ。
身にまとっている深紅のドレスは、
本当に驚くほど彼女のイメージにピッタリで、
さすが、女ボスと唸ってしまいたくなる程の
貫禄さを放っている。
それに、白い肌と深紅のドレスがマッチングしていて、
本当に目を引くのよ。
今日はマーメイドラインのドレスを着ているから、
彼女のスタイルの良さを前面にアピールしてるし、何よりも
「見せてるんですか?それ、見せすぎじゃないんですかっ!」
と思わず突っ込みたくなる程の深い襟ぐりで露わになっている
豊かな胸元が、女の私の目にも滅茶苦茶目突き刺さる。
貴族の女性の夜会服って、結構そういうの多いし、
決して彼女が露出狂という訳ではないけれど、
こんなにアピールされちゃったら、
男性方はどこに視線を置くんだろう・・・。
胸元に視線を落として、ジーッと見るのも悪いし、
かと言って、貴女には魅力がないです。
興味がないですよ、と言わんばかりに見ないふりをするのも
・・・難しいんですよ。
でも、今、目の前の水を弾く様な弾力のある胸元を見ると・・・・
お母様もそうだけど、この世界の一部のご婦人は、
一体、どういう風に老いていくんだろうって不思議に思っちゃう。
異世界ものの本に出てくる様なエルフみたいに
いつまでも歳を取らない人っているのかな?
でも一部というのは、
クロムリード公爵夫人の周りにいるご婦人方は、
年相応の感じの人もいるからね。
多分、お母様やクロムリード公爵夫人が特殊なんだと思う。
それにしても・・・。
白い胸元も気になるけれど、それを飾る大きなエメラルドっぽい
宝石のネックレス・・・凄い!何カラットあるんだろう・・・。
宝石が喋ってるよ。
『クロムリード家は、潤沢な資金がありますわよ』って。
クリスベル姉様が言ってたけど、
社交界で着飾る事も家のため・・・って言ってたけど
こういうのを見ると分かる気がする。
流行に後れた服装だったり、
身に付けたりするものが貧相だったりしたら、
それを見ただけで家の財政状況が悪いんじゃないかって、
他の諸侯貴族に宣伝する様なものよね。
そう考えたら、社交場に行くたびに新しいドレスを
新調する人達が多い中、
『もったいないから、リメイク』
と言って、デザインを変えたり色を染め直したりして
『戦場よ!』
と言いながら堂々と社交場に出ていくクリスベル姉様は、
本当に特殊な人だと思う。
だって、一歩間違えたら
「あら?その素敵なお召し物、本当にお好きなデザインなのね。
この間も着ていらしたものでしょ」
・・・って、遠まわしに
『可哀想ね。ドレスも作れないなんて』
って言われる可能性があるんだもの。
今までの私だったら綺麗な服を着て笑っているだけで、
ご婦人方の言葉を、言葉の通りにしか
受け取らなかっただろうけど・・・
でも、今の私はね、年齢は18だけど頭の中は
アラフォー間近の思考も混じっている。
だから、何となく感じ取れちゃうわけ。
言葉や動作の端々で
『マウンティング』
・・・つまり、どっちがよりボスなのかを、
豪華な衣装に身を包ませて
静かなる闘いをしているのが。
前は、誰かの出世欲の為に自分を使われたくないし、
貴族同士の面倒な事には出来るだけ関わりたくない・・・
と思っていたけれど
今日は、逃げられそうになかった。
私と兄様が、顔に張り付けた『鉄壁の微笑み』で
心の内を隠してクロムリード公爵夫人に向き合うと
クロムリード公爵夫人は余裕の笑みを浮かべ
「リィドルフ様は、いつもと変わらず素敵ね。それに・・・」
リィドルフ兄様に向けていた視線をグリンと私に向けると
「アリィシア様。
暫く、社交場ではお見かけしなかったけれど・・・・
お元気な様でほっとしましたわ。」
「ありがとうございます。」
・・・本当に心配してくれたんじゃないんだろうけど、
とにかく、こういう時は相手に合わせて返事を返した。
「それに、遠くから見ていたけれど、
今日の装いはとても素敵だわ。
今まで見た事がないデザインのドレスね。
青のグラデーションがとても綺麗。そのドレスを身に纏う
アリィシア様は、まるで、蒼薔薇の妖精のようね」
その目が私を舐める様に見ている。
視線でマウンティングしてるよ・・・・あぁぁ、怖い怖い。
「どちらのお店でお作りになられたの?」
ドレスは女の武器って、姉様が言っていたけれど
今日の『蒼薔薇のアリィシア』ドレスは、
オシャレ番長のクロムリード公爵夫人の目に適った様だ。
「えっ・・・と」
私が失礼にならない様に、どう答えを返そうかと
グルグル頭の中で考えていると、
「アリィシアのドレスは、クリスベルの作品なのですよ」
リィドルフ兄様が、助け船を出してくれた。
「まぁ、クリスベル様の・・・」
リィドルフ兄様の言葉に、
キラリとクロムリード公爵夫人の目が光ったよ。
「ええっ。アリィシアも今年で18歳になりましたし
そろそろ大人の装いをさせてみたいと、今日の日あわせて
クリスベルがアリィシアの為に作り上げたものです。」
そうなのよ。クリスベル姉様が、
私の為に素敵なドレスを作ってくれたのよ。
本当は、クルクルとドレスの裾を広げて回って、
「皆に見せびらかせたい程、素敵なものなんですぅぅ」
って、大きな声で言いたいけど、さすがにこの場では難しい。
「クリスベル様は本当にセンスが良いから・・・。
今日の衣装は、本当にアリィシア様に良くに似合っていますわ」
クロムリード公爵夫人は、
手に持っていた扇を優雅に口元に持っていきながら
「本当に・・・素晴らしいわ」
とジィッとドレスを値踏みしながら言った。
それにしても、扱い方ひとつで、その人の品格が暴かれるという
扇の扱い、クロムリード公爵夫人、流石と言わせて頂きます。
「皆様にお褒めいただいた様に、我が妹ながら
蒼薔薇の妖精のようだと、実は自慢なのです。」
「まぁ・・・」
リィドルフ兄様が私を褒める。
実は、この身内自慢は、加減が結構難しい。
あまりほめ過ぎると角が立つし卑下し過ぎると嫌がられるし。
だから、必ず
「ですが、アリィシアは兄の欲目も入りますが
クロムリード公爵夫人は、アリィシアを上回る美しさです。
いつも会の中で光輝く女神の様な貴女の美しさには
感服致します。
本当にクロムリード公爵が羨ましいです。
いずれ私の妻になる女性も、いつも貴女を見習って欲しいと、
思っているのです。」
という、相手を褒めたたえる言葉がセットになる。
日本人には考えられない様な歯の浮く様なセリフだけど、
この程度の褒め言葉は当たり前の社交界。
リィドルフお兄様も場慣れしているからなのか、
相手が気分が良くなる様なセリフが
スラスラと口をついて出てくる。
流石です。
私はその隣で『鉄壁の微笑み』継続中です。
クロムリード公爵夫人は、リィドルフ兄様の言葉に
赤く塗られた唇に笑みを浮かべ
「ふふふっ、リィドルフ様はとても口がお上手でいらっしゃるわ。
アードルベルグ公爵家は、側室を持たない家系で有名ですが
憧れる貴婦人も多いのです。
リィドルフ様の姿形だけでなく、貴方の様に女性をスマートに
褒める姿は、とても素敵ですもの」
凄い・・・。クロムリード公爵夫人も負けてなかった。
こういう大人の応酬話法・・・私は苦手だよ。
リィドルフ兄様は、そんな私の心を知ってから知らずか、
「いえいえ、私は本当の事しか申し上げません。
事実を申し上げたまで。
我が妹も、クロムリード公爵夫人を見習って
貴婦人の美しさの何たるかを勉強させたいと思っています」
ここで、「ねっ」と、リィドルフ兄様笑顔で私に振ってきたから
「えっ?・・・ええっ、勿論、兄の言う通りです。
私はあまり会には出席していないので、
今日はドレスの力を借りて何とか皆さま方に見て頂ける様に
整えておりますが、
まだ淑女としての力は足りておりません。
クロムリード公爵夫人や皆さま方をお手本として、
勉強させて頂きたいと思います。」
よし!いきなり振られたから焦っちゃったけど
私なりにスキル『大人の嗜み』を駆使して、
自分なりに最高の褒め言葉が言えたわ。
伊達に頭の中身がアラフォーじゃないわよ!
18歳の私からしてみると、
ちょっと世間慣れしている返答だったかも知れないけれど
OKでしょ。
「ふふふっ。まぁ、リィドルフ卿に似て、
アリィシア様も口がお上手な事。
ありがとう。私に出来る事でしたら、お手伝いさせて頂きますわ」
よしっ。クロムリード公爵夫人の微笑みゲット!
相手を気持ちよくさせる事には成功したみたいだ。
心の中で、『よっしゃー!』と拳を握りしめたけれど
「ありがとうございます・・・・。よろしくお願い致します。」
私はスカートを抓んで、優雅にお辞儀をした。
「ところで、リィドルフ様。今日は御婚約者のエミリア様は?」
いきなり話題が変わった。
どうしてここでエミリア様の話?と私は思った。
エミリア様は、リィドルフ兄様の婚約者の伯爵令嬢だ。
社交場や夜会には、常にリィドルフ兄様がエスコートして
参加していたけれど、今日は、リィドリフ兄様が
私のエスコートをしてくれたから、この場には来ていない。
「今日は、妹のエスコート役を母から申し遣っておりますので
エミリアと一緒ではありません。」
「あら、そうなの。
いつも一緒なのにお姿を見かけなかったから、
どうなさったのかと心配していましたのよ。」
「ご心配頂きまして、ありがとうございます。」
「本当ですわ。アードルベルグのリィドルフ様と言えば、
社交界でも輝く程の人気をお持ちですもの。
いつでもエミリア様に代わってという方が
多くいらっしゃいますのよ。」
「そうよね。エミリア様も素晴らしい方ですけれど・・・
でも、私達、リィドルフ様の御相手には
クロムリード公爵夫人の二人目のお嬢様が
良いと思っていましたのよ。」
クロムリード公爵夫人の取り巻き。
モルドバ伯爵夫人とダウニー伯爵夫人が言う。
あ・・・・なるほど。
つまり、リィドルフ兄様の相手が
エミリア様だと不足でしょ・・・と遠まわしに言ってるんだね・・。
本人がいないからって・・・・失礼じゃない?
心の中で静かに『コンニャロウ』と思っていたら
「いえいえ、皆様に過分なる言葉を頂きましたが、
私はまだまだ若輩者です。
エミリアは、私と同じ学び舎で学び、
私を公私に渡ってずっとサポートしてくれていまして
実は、私がまだまだという事を知って叱咤してくれる
とても代えがたい女性なのです。
クロムリード公爵夫人の素晴らしい御息女には、
私の情けない姿はとても恥ずかしてて見せられません。
私がもっと精進をし、エミリアと婚儀を交わした後は
皆さまに改めてご紹介させて頂きますので、私ともども
その時はよろしくご指導ください。」
リィドルフ兄様・・・・凄いわ。
遠まわしで『貴女の娘は結構です』って言いきった。
クリスベル姉様達が好戦的だと思っていたけれど・・・
やっぱり兄妹。似てるわね。
クロムリード公爵夫人が、兄様の遠まわしの言い方に
気が付かない筈はない。
この話はここまでと悟ったのか、突然、私に話題が回ってきた。
「それにしても、アリィシア様。
本当に暫く振りですわね。
少し見ない間にお綺麗になられて・・・。
今、お幾つになられたのかしら」
「はい、18になりました。」
「まぁ、もうすっかり大人になられたのね。」
「大きくなられたわね」
クロムリード公爵夫人の言葉に合わせて、
取り巻きの貴婦人たちが口々に言う。
それから・・これが言いたかったのね!
「御婚約はお決まりになったのかしら・・・・」
ニコリと笑うクロムリード公爵夫人。
・・・・目が怖いです。
笑ってるのに、その視線を浴びると
私の身体がゾゾッと震える気がします。
「いえ・・・・残念ながら・・・」
「まぁ、もう18になられたのに。それは大変ね」
大げさに言わなくても良いわよ。
自分でもわかってるわ。
貴族の子女として18になっても婚約者の一人もいないのは
珍しい・・・というか、遅いっていうのがね。
でも、地球で言ったらまだ18歳よ。
結婚なんて、早すぎるでしょうよ!
と声に出して言いたかったけれど出来ない。
「はい・・・・。
私は普段、屋敷に閉じこもってばかりいて
お声を掛けて頂くチャンスを逃してしましたが・・・
これから頑張っていこうと思っています。」
だから、前向き発言を返してみた。
「そうね・・・アードルベルグ家は、私達とは少し違う形で
婚姻を結ぶ家系ですもの。
私達の様に、同じ貴族同士の中でしかお相手を探す事が出来ない
のとは違って、多くの方の中から見つける事が出来ますものね。
18歳と言えば、私達にしてみたら少し遅いですけれど、
アードルベルグであれば大丈夫でしょう。
貴女の様な可愛い方だったら、幾らでも探す事が出来るわ。
貴女のお姉様達の様にね」
・・・・うわっ。また出た、嫌味がっ。
やだねぇ。もう、貴族の奥様方は。
そんなに一生懸命マウンティンぐしなくてもいいわよ・・・と
私は思っていたけれど、『鉄壁の微笑み』に心を隠して
「はい。そうですね。
姉達にはとても素敵な旦那様がいて、
私も大事にしてくれます。
とても仲が良くて、本当に姉達を見ると
私も早くお相手を見つけたいなと、憧れます。
皆さまの言われる通り、私はちょっと出遅れてしまいました。
でも、皆様の振る舞いを勉強させて頂き、
お相手の方に、私を見つけて頂ける様に頑張りたいと思います。
どうぞ、ご教授下さい。よろしくお願い致します。」
精一杯の強がりを「鉄壁な微笑み」の下に隠して
クロムリード公爵夫人方に淑女の礼をとると、
フンッと鼻で笑う様な音が聞こえたけれど・・・
私は完璧に無視した。
言われたい放題言われたけれど、
『大人の嗜み』を駆使して私も言いたい事を言ったから、
まぁ、結構スッキリした。
リィドルフ兄様のフフッとした笑い声、私の耳に届きましたよ!
「そうね。アリィシア様にお似合いになる方がいらしたら
声を掛けてみますわ」
・・・どうやら、この会話の応酬は終わりを迎えた様だ。
良かった。
ホッと一息ついていた所に、クロムリード公爵夫人が
「ところで、リィドルフ様。
今日は、隣の国からゲストがいらっしゃる事をご存じかしら」
「ええ。」
話題を投げかけてきた。
私は静かに、クロムリード公爵夫人とリィドルフ兄様の話を黙って聞く。
「隣の国の王妃になられたビオラ王女様と一緒に、
あの方もいらした様ですわ」
「そうですね。存じております。」
「・・・・あの『魔王』と呼ばれている方よね。」
「・・・魔王の様な力の強いという褒め言葉で使われているだけです。
とても素晴らしい方です。
我が国にとって、とても重要な同盟国の方です。」
「でも・・・・その姿を見たら、気を失ってしまう方が
多くいらっしゃると聞きましたわ。」
「怖いですわよね」
「本当ですわ・・・・」
口々に、クロムリード公爵夫人の取り巻き貴婦人方が言う。
人の噂って怖いわよね。
だって、相手の人を見た事がないのに、
こんな風に言われちゃうんだよ。
まぁ・・・確かに『魔王』って言葉を聞いて
私も、角が生えた姿や
人間じゃない姿を想像しちゃったりしたから、
ここにいるご婦人方の事を悪くは言えないけどね。
でも、こういう噂話を聞いていると、
自分の目で見ていない人の事を
悪く思ったり言うのって、
何だかよくないな・・・って思った。
「それにね、リィドルフ様。今日は、『魔王』様だけではなくて
セレスティア王国の女王陛下もいらっしゃってるのよ」
「・・・・それは・・なるほど。だから父なのですね」
・・・・セレスティア王国?
・・・何だか、すごく耳に馴染む国の名前だわ。
そうだ!
確か、アニメ『魔法少女セレス』に出てきた主人公がいた国が
確かそんな名前だった気が・・・。
えーっ!
そんな偶然あるのっ!
凄い・・・不思議!!!
嫌味を言われた事なんか、その国の名前を聞いた途端に
何処かへ吹き飛んじゃったわ。
女王陛下?
って事は、『魔法少女セレス』のアニメの設定通りの
女王陛下の治める国なの?
うぅ・・・すっごく気になる。
私が心の中で『はぁぁぁっ』と声にならない感嘆声を上げ、
ひとしきり興奮が冷めていくと、
いつの間にか、クロムリード公爵夫人とその取り巻きの貴婦人方が
私の目の前からいなくなっている事に気が付いた。
「あれ?兄様・・・クロムリード公爵夫人は?」
「うん・・・・アリィが色々考えている時に、いなくなったよ」
・・・人が目の前からいなくなる事すら分からないぐらい、
私、自分の中に入り込んでたの??
・・・・ちょっとビックリした。
「でも、アリィ・・・今日は、結構言ったね」
「何をですか?」
「いや、クロムリード公爵夫人が結構言っただろ。
嫌味をさ」
「えっ・・・あははは、やっぱり嫌味でした・・・?」
「そうだね。」
「・・・でも、失礼だなって思っちゃったんです。
私の事は良いけれど、エミリア様の事まで。
だから、ちょっと言いたくなったというか・・・・」
モゴモゴ言うと、リィドルフ兄様は左腕を差し出して
「アリィがエミリアの事で怒ってくれて、嬉しかったよ。
本当に、こういう社交の場の懐の探り合いっていうのは
面倒だよね。特に、女性同士はさ。
あういう事を言われると・・・・つい、魔物の前に、
彼女達を差し出したくなるよね・・・。」
リィドルフ兄様が笑いながら私にそういうけど・・・
魔物の前に差し出すって・・・
えっ?
魔物のエサとしてって事??
・・・・リィドルフ兄様、笑いながら言うの怖いんで、
止めて貰えますか?という気持ちが顔に出ていたみたい。
「まぁ・・・そういう気持ちにもなるって例えだよ」
キラキラな顔で言うけど・・・本心だろうな・・・。
「ところで兄様、セレスティア王国が来ると問題があるのですか?」
「んっ?まぁ、問題があるというか・・・
俺達の国は、王国の西側にあるセレスティア王国と、東側にある
ヴァルディア王国とは同盟関係を結んではいるけれど、
セレスティア王国とヴァルディア王国は・・・
まぁ、昔から仲が悪くてね。
この国を仲介してじゃなければ、話も出来ない位の間柄なんだよ。」
「へぇ・・・そうなんですか」
「だから、その王族が集まる会は、ザルシュ王も大変気を使われる。
今回の舞踏会は、ヴァルディア王国だけが参加される筈だから
問題ないとは思うんだけど・・・どうかな。
あの女王陛下のやる事は分からないから・・・・。」
「・・・・大変なんですね・・・。
でも、そんな大きな事は私にはよく分からないというか・・・。」
「そうだね。アリィには二つの国の事よりも
まずは母さんのミッションをクリアする事の方が大変だよね」
「ゔっ・・・・せっかく少~し忘れて、
気を紛らわせていたのに・・・・」
「はははっ、しょうがないよ。
だって、俺はそのアリィのお目付け役として
今日、ここにいるんだから」
「まぁ、そうなんですけど」
「それに、大丈夫だよ。
さっきも言ったけれど、今日のアリィはとても素敵だよ。
自信をもって、ど~んと構えてれば、
ダンスの誘いが、向うからやってくるさ。
だから、大きな気持ちで待ってればいいんだ。
素敵な出会いがあるといいね」
ニコニコ笑っているけどね、兄様。
「・・・・・なんだか、楽しんでません?」
「そりゃ・・・他人事だからね」
酷い・・・。兄様、酷いよぉ。
え~っという顔を浮かべた私を見て、
「冗談だよ、冗談。」
と笑った。すると、入り口がざわつき始め
「国王陛下、王妃殿下、ヴァルディア王国ビオラ王妃殿下。
そして、ヴァルディア王兄殿下の御成りです。」
フロアに呼び出しの声がかかる。
「ほら、アリィ。こっちに並んで」
「はい・・・」
リィドルフ兄様に促されて、私達は大きく二つに分かれ、
道を作り、臣下の礼をとる。
王族の方々が会場に入られる時のスタイルだ。
人垣で作られた道の真ん中を、王様や王妃様達が通る。
その間、私達は顔を上げてはいけない。
頭を下げて、王様からの声がかかるのを待つのだ。
「よい、皆の者。面を上げてくれ」
王様の声がかかり、私達は顔を上げ、正面の席に座られた
王様や王妃様方を見た。
「今日は、ヴァルディア王国の王妃となったが
ビオラが戻った。
久しぶりの再会だ。大いに楽しんで欲しい」
王様の隣でにこやかに笑うビオラ様。
数年ぶりにいたけど、綺麗な王妃様になったなぁ・・・。
そんな風に思ってみていたら、
「それと、今日はヴァルディア王国より、
王兄殿下もいらしている。
初めての者もいるだろう。我が国の大切な同盟国である
ヴァルディア王国を守っている御人だ。
歓迎してくれ」
王様に言われて目をそらすと、王座の隣に設けられた席に
威風堂々と座る人が見えた。
「あれが、「魔王」と呼ばれる王兄殿下・・・」
「凄い・・・ここにいても恐ろしさが伝わる」
そんな声が耳に届いたけれど
私はリィドルフ兄様から聞いていた『魔王』様を初めてみて
その姿に、視線が釘付けになってしまった。
やっと、登場。
まだ、一言も発していませんが・・・。