表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

森の中

 マーガレットはシェルフィス子爵家の三女である。


 シェルフィス家は海に面した領地を賜っていたが、どうも潮の流れに恵まれておらず漁業は芳しくない。採れるモノといえば最大でも赤子の手のひらサイズの白い貝くらいのモノ。

 だが、この貝が実は大きな財産だった。


 身ははっきり言って不味い。煮ても焼いても食べられたモノではない。それは畑の肥料や家畜の餌にでもするとして、大事なのは貝殻だ。

 ゴツゴツザラザラした白い貝殻は金槌でも無ければ割れない程に硬い。だがその内側はまるで真珠の様な光沢を持ち、比較的柔らかい。


 これを加工した宝飾品が大当たり。数代前の当主が国から認可を受けて商会を立ち上げ、今では国内に知らぬ者はいないと言われる程。貴族というよりも商家として知られる存在。

 そんなシェルフィス家の三女であるマーガレットは自身も宝飾デザイナーとして家業に貢献している。


 そんなマーガレットは王都の屋敷から避暑の為に領地へと向かう途中だった。のんびりと馬車に揺られながら新しいデザインに思いを馳せていたマーガレット。


 まさか、その直後に賊に襲撃されるとは考えもしなかった。


 馬車には特に家紋などは入れず、侍女と数人のメイド、使用人。最低限の護衛隊。その護衛隊も大仰な武装はせずに目立たずコッソリお忍び旅行のつもりだったのに。


 有無を言わさず街道筋から少し離れた森の中へと連れ去られた。何が何やら分からぬままに馬車ごと連れ去られたので状況が把握出来ていない。別の馬車に乗っていたはずのメイドや使用人達がどうなったのか。何もわからない。

 連れ去られた時点で護衛隊の人達がどうなったかは予測出来るけれども。


「とりあえず目的は身代金かしら……」


 小さな窓から見えたのは黒頭巾で眼だけを出した賊の一人。だが乗り込んでは来ずに「出たら殺す」とぶっきらぼうな口調でギラリと光る剣を見せつけただけだ。その剣が赤く染まっているのを見れば、令嬢と侍女の女二人に拒否権などあろうはずが無い。


 おそらくは馭者ぎょしゃも殺されたか捕縛されたかしたのだろう。先程までとは打って変わった乗り心地。ガタガタと揺れる馬車の中でマーガレットとデイジーはお互いを支え合い、震える。


 やがて馬車は更に揺れ出す。窓から見えるのは一面の緑。おそらく森に入ったのだろうとマーガレットは考えた。襲われる前に窓から見えた森だろうと。


 そうして床に転げて二人で抱き合い支え合ううちに馬車がようやく止まった。


「に、逃げましょう!」


 デイジーがマーガレットの腕を掴むが、そう言った瞬間にまた「出たら殺す」と言う声がした。黒頭巾は見えないが、赤く染まったままの剣先が窓の外でチラつく。


「無理そうね」


 ぺたりと床に座り込んだマーガレットが呟いて。


「お、お嬢様ぁ!」


 デイジーがしがみつい……盾とならんと覆い被さったのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ