01 宝くじ
「当たってますよ」
「え?」
一方的に顔なじみになったおばさんが小声で透明な板越しに囁く。
宝くじ売り場の機械に小さく赤いランプがついている。
おばさんは顔をぎりぎりまで窓口に寄せ、益々小さな声で囁いた。
「お客さん、高額当選ですよ」
「は?」
「だから、高額当選です」
頭の中がパンっとはじけて真っ白になった。
おばさんの小さな声を聞こうと新奈も窓口に顔を寄せる。
「この宝くじは今すぐ財布に戻して、すぐに銀行に行ってください」
おばさんが窓口の隙間から差し出した宝くじを新奈は震える手で受け取る。
高額当選。
高額当選。
私が?
本当に?
嘘でしょ?
呆然としている新奈におばさんが心配そうな顔つきになった。
「いいですか?少しお金を持ってるなら、今すぐタクシーを捕まえて、一番近くの銀行に行ってもらいなさい。さあ、しっかりして」
「は……はい。あの、ありがとうございます」
新奈は恐る恐る財布に宝くじをしまうと、おばさんに一礼した。
心配気なおばさんの表情を見ていると、なぜだか涙が出そうになった。
宝くじを入れた財布を通勤鞄にしまうと、新奈は鞄を胸に抱きしめ、大通りに向かって歩き出した。
足元がなんだかふわふわして、車の音もなんだか膜を一枚通したみたいに遠く聞こえる。
道路から身を乗り出し、通りを伺うと黒いタクシーが目に入った。
鞄をきつく抱きしめたまま片腕を上げ、新奈はタクシーを呼んだ。
空車だったタクシーはすぐに新奈の前に横付けされ、自動で開いた扉の中に新奈は飛び込んだ。
「一番近い銀行までお願いします」
おばさんに教えられた通りの言葉をタクシーの運転手に伝え、タクシーが動き出した。
座席に座っても新奈は背をもたれさせる事もなく、カチカチのまま鞄を抱きしめていた。
宝くじが当たった……。
信じられない幸運に新奈は目眩を感じていた。