表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オマエと俺 アナタと私    作者: 志多滝埼可
5/6

【その5 別離編 ・前篇】

15 国府台(こうのだい)谷津(やつ)志津(しづ)


国府台家(こうのだいけ)安倍晴明(あべのせいめい)の流れを組み、代々この地域の怨霊・悪霊の類を鎮めることを生業(なりわい)ととする司者(つかさりもの)を勤めていた。


先月、県の高校生空手大会で選手2名が謎の死を遂げた。医学的な調査では原因は解明できない。

そこで県警は警察庁にこの事を報告し、警察庁で協議した結果、総理大臣の許可の下、県知事を通じて国府台家に調査を命じた。


これは(いにしえ)の昔から時の国司・守護・国主・藩主が、その時の検非違使長官、探題、管領、老中首座などを通じて、当時の関白、太政大臣、征夷大将軍の許可を得て、その土地の鎮護司者(つかさりもの)に依頼してきたのと同じ流れを踏襲していた。


そして国府台家から谷津(やつ)志津(しづ)の姉妹が転校生として総南高校に派遣された。


そして佐倉実籾は今、その国府台谷津、志津の姉妹から「お茶」に誘われている。


「佐倉さん、もし宜しければ私たちとお友だちになって下さらないかしら?」

「私たち、佐倉さんのファンですの」

同じ顔で似たような口調で話しかけられる。


「先輩たちにそう言って頂けるはとても光栄です。でも今は練習が忙しくて・・・」

佐倉はモジモジしながらこう言うと


「それはもちろんのことですわ」

「練習が終わった(あと)で宜しいのです」


練習が終わった(あと)(あと)で後輩の面倒を見なければならないのだが・・・

「分かりました。ではいずれ・・・」


「今晩、お待ち致しますわ」

「とっておきの茶葉を用意しておりますの」


「今晩・・・ですか?」


「ええ、今晩です」

「早い方が宜しいのです」

姉妹の両顔がグイと迫って来たように感じた。


「わ、分かりました」

仕方なく佐倉は承諾した。


部活終了後、部室の前で国府台姉妹は本当に待っていた。

佐倉が恐縮して「お待たせしてすいません」と言うと、


「お気兼ねはご不要でしてよ、(かえ)って私たちが恐縮してしまいます」

「そうですわ、私たちがお願いしたのです」

「さぁ参りましょう」

「車を待たせてあります」


車・・・?えぇ~! 喫茶店とかに行くんじゃなかったのぉ~!

アッ、そう言えばとっておきの茶葉がどうだとか言ってたっけ。

うお! 校門の前には黒塗りの高級車のリムジンが本当に待っていたよ!!

いやリムジンだけで高級車になるんだっけか?


執事みたいな人がドアを開けてくれる。

佐倉が覚悟を決めて乗り込むと、国府台姉妹も続いて車内に入り佐倉の前のシートに座った。


「狭いところに押し込めてしまって申し訳ありません」

「でも30分もかかりませんから」


「・・・いえいえ・・・」

毎日満員電車で登下校している佐倉にはどう受け応えて良いのか分からない。


谷津さんか? 志津さんか? が車内の冷蔵庫のようなものを開けながら、

「もし宜しければお茶とビスゲットでも・・・」

(ねえ)さま、いけません。せっかくの茶葉の味がぼやけてしまいますわ」

「そうでしたね。ではミネラルウォーターでも」

「そうですわね」


佐倉は初めての体験に緊張マックス、どちらが何を言っているのか分からない状態だ。

「アノ・・・お構いなく・・・」

辛うじてこう言った。


リムジンは高い壁の横を暫く通過して大きな門の前で停止した。

門から十数メートルくらい向こうには、これまた大きな建物がある。

「お寺みたい・・・」


「はい、お寺です」

「私たちはここに住んでいます」


「先輩はお寺のお子さんだったのですか?」


「いえ仏教とはあまり関係ありませんが・・・」

「でも全くないという訳ではありませんが・・・」

「ここの家は仮住まいなのです」

「用事が済めば本家に戻ります」


そう言われても実籾には全く理解不能な話だ。


実籾が通されたの和室だった。しかもテレビの時代劇でしか見たことのないような茶室!

部屋中央には茶釜に茶道の道具一式、そして高級そうな座布団(・・・)が3枚用意されている。


姉妹は客人の座布団に実籾を座らせてから、

「これは静岡で我が家のために栽培された特別な茶葉ですの」

「どうか味と共に香りもお楽しみください」

とお持て成しの言葉を送る。


庶民では「お茶しましょう」っていうのは、「茶道」することじゃないだよッ!

心の中で大いにツッコミを入れる実籾。


「あら、お湯が良い加減に沸きましたよ」

「あら本当に、ありがとう、お姉さま」


お茶を立ててくれるのは、どうやら妹の志津さんのほうらしい。


志津は実籾が時代劇でしか見たことのないような作法でお茶を立てると「粗茶ですが・・・」と茶碗を実籾の前に置いた。


粗茶って言ったけど特別の茶葉だと言ってなかったっけ・・・心の中でまたもツッコミをいれながらも、

「不作法者で申し訳ありませんが、有難く頂戴致します」

三つ指をついてお辞儀をして茶碗を手にする。


三つ指を付いたら何気に姉妹が苦笑を(こら)えている感じがした。

ムカつく! こっちは庶民なんだよ! 細かい作法なんて知らないんだよ!

心の中で毒付きながら茶碗を口に近付ける。


あっイケナイ、茶碗を回してから飲むんだっけ!

そう思った時には、残念かな、既に茶碗に口を付けてしまっていた。

美味しい。

だけど正直言って、どの程度に美味しいのかは分からない。でも苦くないのはうれしかった。


「結構なお手前でした」

佐倉は以前何かのテレビで視た通りに茶碗を置いてお辞儀した。


「お粗末様でした」志津が応じる。


志津が茶碗を下げたとき、

「ねぇ佐倉さん、成田将也さんについて、どう思われますか」

佐倉から遠い方にいる谷津が尋ねてきた。


「佐倉さんは成田さんとは幼い頃からの知り合いとききましたので」

佐倉の直ぐ近くの志津が言う。


「どうって聞かれましても、空手は凄いなぁって思ってますけど、他は特に・・・」


谷津が志津の隣に座り直して、

「あの方は既に何名もの命を飛ばしてしまったのよ」


「でもあれは事故でしょう?」


「あなたはご存知ないようですね」

「仕方ありませんわ」


佐倉は、もうどちらがどちらだか、分からなくなった。


「我校の女生徒が暴走族に誘拐されたことはご存知ですか?」

「その女生徒を助け出したのが成田さんなのですよ」


「ニュースでナントカという暴走族が壊滅したというのは知りましたが・・・」


「そこで成田さんは6名の命を飛ばしました」

「まぁその6名は救いようのないワルモノではありますが」


「・・・・・・」

佐倉はどう反応していいかわからない。


「そしてつい先日、プロの殺し屋の命まで飛ばしてしまったのですよ」

「もう放っておけないのです」

「今は成田さんの理性が保たれています」

「でももう長くは持たないでしょう」


「あの~、何の話をしているのですか?」


国府台姉妹は再度座り直し姿勢を正した。


「あなたの力が必要なのです」

「私たちにあなたの力を貸してください」


姉妹はそろって手を付いて佐倉に頭を下げた。


「ちょっ、ちょっと待ってください。っというよりは先ずは頭を上げてください」


国府台姉妹は頭を下げ続けている。


「わかりました。私のどのような力が必要なのか、成田クンがそれにどう関わっているのか、私に分かるように説明してください。協力するしないは、その話次第で決めさせて頂きます。」


すると国府台姉妹を揃って頭を上げた。表情が困惑している。


「理由をお話しするのは構いませんが・・・」

「聞いてしまったからには後戻りはできませんよ・・・」

「私たちは日本国政府の命令で動いているのです」

「だから国家機密を知った以上はそれ相応の義務が生じます」


実籾もここで国府台姉妹がタダモノではないことは判ってきた。

だが要求はあまりにも不条理だ。頭に血が昇って来るのを制御できない。

「何よ! 私には最初から選択権がないってことじゃない!」


怒鳴ると姉妹の表情が消えたように感じた。

「だからこのように誠心誠意お願いをしているのです」

「それにこのままでは成田さんが滅んでしまいます」


「滅ぶ?」


「なくなるということです」

「なくなってしまうのです」


佐倉には言葉の意味が分からない。


佐倉は腹を(くく)った。「話を聞かせてもらいましょうか」



16 鬼と人


夕狩実李は最近気分が安定しない。


私は死んでしまった。だから将也クンと触れ合うことはもう出来ない。

私は将也クンを愛している。この気持ちは本当だ。


だから将也クンの将来が心配だ。一生ひとりで生きていくのは気の毒だ。

でも私がいつも将也クンの傍にいる。でも触れ合えない。


もし将也クンが他の女性に興味を持ったらどうしよう?

浮気は男の甲斐性だと言うけど私は耐えられるだろうか?

私と言う女がありながら別の女と!?

有り得ない!!


私なら将也クンの望むことは何でも応えてあげられる。

将也クンの笑顔や喜びが私の幸せなのだから。

でも私の身体はもう存在していない。


でも何か方法が有る筈だ。

私も将也クンもハッピーになれる上手い方法が。

その答えは頭のそこまで出て来ているのだが、


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


茶室には国府台姉妹と佐倉実籾しかいない。

ここは建物の端に在るせいかとても静かだった。外の虫の鳴き声しか聞こえない。


「夕狩実李という女性をご存知でしょう」

「新聞部に所属していた方です」


「はい、気の毒なことになりましたが・・・」


国府台姉妹の表情が少し緩む。


「それだけかしら?」

「あなたの恋敵でしょ?」


また頭に血が昇る。佐倉の性格は瞬間湯沸器のようだ。

「不愉快です。失礼します!」

佐倉は立ち上がろうとする。


「お待ちなさい!」

「勝手は許されません!」

「このままでは成田さんは滅んでしまうのですよ!」

「なくなってしまうのですよ!」

国府台姉妹の言葉は迫力と共に何か判らないが真実味が感じられる。


「さっきも似たようなこと言ってましたけど、それは成田クンが死んでしまうと言うことですか?」


「もう一度言います。それは違います」

「分りやすく言いましょう。成田さんの存在自体がなくなってしまうのです」


「存在がなくなるって?」


「成田君は自分の人格や記憶の全てを失います」

「そして鬼になってしまうのです」


「鬼になる?」


「鬼は自分の欲望のままに動きます」

「人の命もジャマならば雑草を引っこ抜くように取り去ります」


「さっき夕狩さんの名前がでたけど・・・」


「それが成田さんを鬼に変える因縁となっています」

「成田さんへの思いが歪んで進んでいるのです」

「佐倉さん、あなたは成田さんのことを愛していますね」

「だから佐倉さん、あなたしか成田さんを救えないのです」


私が成田クンを愛している・・・!!!

佐倉は自分の耳が熱くなっていくのを感じた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「・・・・!」

将也の周囲の景色が突然出現した。

足元にはヤンキー風の男たちが倒れている。


メガネをかけたモヤシのようなか細い男子学生が鞄を抱いて震えながら自分を見ている。


「どうした・・・・」

「ありがとうございましたぁ~!」

モヤシ少年は逃げるように駆け去っていく。


「うう・・・」

足元の男の呻き声を立てた。

将也の意識がまた遠のいて往く・・・


「ヤッちゃいなさいよ」実李の声がした。

「正義を守るのが将也クン。悪は徹底的にコラシメないと、ネ!」

将也の右拳が腰に構えられ男の顔面に留めを放とうとしたそのとき、


「やめろ。もう充分だろう!」


身体を羽交い絞めにされた。渡警部だった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

実李は悟った。「これだ。私も将也クンもハッピーになれる方法」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


成田は渡警部に連れられてパトカーに乗せられた。

「いったいどうしたんだ。カツアゲに遭っていた学生を助けるのは分からなくもない。

だが既に倒れている相手を殴るなんて過剰防衛になるぞ!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

これで「将也クンは自分のやりたい事が出来て、私はその将也クンを応援することができる」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


渡警部を見る成田の目付きが鋭くなっていく。両手の握る拳に力が入っていく。

「少し話し合わないか、成田君・・・」

渡警部の言葉に呼応するかのように、将也は拳を作ったまま両手を交差させていく。

このまま肘を突き出せば右肘で渡警部の脇腹を破壊できる。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「良いんだよ。将也クンは正義なんだから。何したって良いんだよ。"アナタと私"は一心同体なのだから。」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


ガァン!!!


突然2人は前後の衝撃を受けた。


「停まっているパトカーにオカマ掘るなんて、どこのバカだ?!」


2人の乗ったパトカーの後部に小型自動車が追突したのだ。

渡警部はパトカーを降りて運転手を確認すると酒臭い。

警部は直ちにその男を拘束して、将也には今日は帰るように言った。


「・・・?・・・」


将也も正気に戻った。なぜ自分はパトカーに乗っているのだろう?


・・・・・・・・・・・・・・・・



17 人と鬼


バシッ! バシッ!

佐倉実籾は自宅道場の巻藁を突いている。


「あなたしか成田さんを怨霊となった夕狩さんから取り戻せる人はいません」

「夕狩さんから成田さんを取り戻す唯一の方法はあなたが空手で成田さんを倒すのです」

「倒すといっても命を奪う必要はありません」

「成田さんに負けを認めさせれば良いのです」


そう言われても実籾には将也を倒す自信はない。

試合でのポイントの取り合いならともかく、成田クンの空手センスは天性のものだ。


実籾が彼との組手にガチンコスタイルをとりたがるのは形を応用することができるからだ。

彼が天性なら私は伝統から強さを学ぶ。


形は練れば練る程、いろいろな身体の使い方、同じ技でも様々な用法を教えてくれる。


実籾はパッサイの形を練ってみる。

抜塞(ばっさい)百十一(パッサァイィ)とも書かれ大技や細かい技も含まれた比較的長い形だ。


次に成田クンの得意形であるクーシャンク―を練ってみた。

蹴技や転身しながら掛ける技が多く含まれていて「ワープの成田」らしい形だ。


実籾はふと、パッサイでクーシャンク―を破るにはどうすれば良いか? という課題を自分に与えて再度パッサイの形を練ってみたら様々なイメージが湧いてくる。


試してみたい・・・


翌日、実籾は嫌がる将也を無理矢理自宅道場に連れ込んだ。


「私と組手をしてくれない?」

「・・・」


将也は黙って制服の上着と靴下を脱ぐと準備体操を始める。

実籾も将也に合わせて身体をほぐしていく。


「「御願いします」」


フットワークをしないガチの組手だ。


実籾は果敢に技を仕掛けていくが全て躱された挙句カウンターで攻撃された。

ただ将也は攻撃を寸止めしてくれた。


実籾の息が上がり始めた


「もういいだろう?」

「・・・・・・・・」


勝てない、実籾は改めて将也の強さを認めざるを得なかった。


やっぱり成田クンは凄いな。


実籾は尊敬とも憧れとも見える表情で将也を見た。


そのとき、将也の動きや表情が一瞬止まったように見えた。


そして将也は実籾に対して構えを取った。


「もう止めとくわ。まだまだ私では成田君には・・・?!」


ビュン! 将也の正拳突きを実籾は辛うじて躱す。


「もう止めようよ」


次々に技を繰り出して来る。

ひとつひとつの技が重い。当たればただでは済まない!


「成田クン、どうしちゃったの?」


『あの女は私たちの仲をジャマする悪だよ。倒すべき悪だよ!』

将也の頭の中で実李のヒステリックな声が響く。


実籾が壁まで追い詰められ進退窮まったそのとき、


「「オーン!」」

声と共に空気がビリビリと震え、将也の動きが停まった。


いつの間にか国府台姉妹が道場の中にいた。谷津と志津は素早く将也の左右に分かれて


「「(リン)(ピョウ)(トウ)(シャ)(カイ)(ジン)(レツ)(ザイ)(ゼン)」」

姉妹は両手で次々と印を結ぶ。最後の印の右手拳を左手掌前落とす・


パン!


この音と共に将也の動きは止まりその場で崩れるように倒れた。


「お話ししましたよね」

「彼は鬼に成りかかっているのですよ」


「2人だけで会うとはどういうつもりです!」

「死ぬところでしたよ!」


「これが鬼になつた成田クンなのですか?」


「そうです」

「ご覧なさい」


志津は倒れている将也のシャツをめくる。


「!!」


将也の身体は筋肉とは思えない別のモノに覆われていた。


「これが鬼の身体なのですか?」


姉妹は黙ってうなずいた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ