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オマエと俺 アナタと私    作者: 志多滝埼可
3/6

【その3 修羅編・前篇】

9 「忌侮煮愚(イブニング)」事件


総南高校校門に同校の制服を着た女性2人。

2人とも腰まで届く長い髪、同じ背丈、切れ長の目、鼻筋が通り唇は薄い、同じ顔をしている。

その眼差しは遠くを見ているよう。


禍々(まがまが)しい気配がしますわ」

「えぇ、特に武道場の方から」

「気当りだけで人の命を飛ばすそうよ」

「怨霊の類を感じますね」


国府台(こうのだい)谷津(やつ)志津(しづ)、双子の姉妹はそろって校門をくぐり校内に入る。


県大会を制した総南高校空手道部は熱心に練習を重ねていた。

2名死亡という事故は起きたが、大会の翌日、全空連の幹部が直々学校に来られて

「彼らたちの分まで活躍してほしい」

とのゲキを受けていた。


インターハイまで残り2ヶ月、成田将也の実力は誰もが知るところとなった。

だからこそ同年の2年生はこれ以上の遅れを取らないよう前向きに頑張っている。


「成田、何か変わったよな」今井が言う。

「あぁ、カノジョさんがあんな事になっちまったのは気の毒としか言えないけど・・」と坂木。

「坂木の言うことには同感だが、俺たちはインターハイで出来る限りの結果を出すように練習するしかないじゃないか」吉田がその場をまとめた。


成田はと言えば巻藁を突いている。十数発突いてはボーッとし、また十数発突いてはボーッとする。


『調子はどうかしら、将也クン』

「まぁまぁってとこかな」

『お弁当作れなくなっちゃってごめんなさい』

「いやいや気にしないでくれよ」

成田自身の心の中は充実している。


実李と融合してから複眼的に相手を見れるようになったのは、どうやら将也の周囲にいる”実李の視たもの”が将也の頭の中に入って来るのが理由らしい。

ただ時々自分の力がコントロールできない感じがしている。

渾身の突きや蹴りを放つと身体から何かの力が飛び出ていくような気がするのだ。


成田も気付いている。この力が2名の命を吹き飛ばしてしまったらしいことに。

だから成田は部員との組手練習は避けるようになった。


「成田クン、何ボーッとしているのよ」

「んん?」

「やる気がないなら帰って頂戴!!」

佐倉実籾だけは以前と変わらず成田と接している。


そんなとき、事件が起こった。


総南高校の偏差値は県内では中の上くらい。

だから極端なヘアースタイルやメイクして(イキ)がる生徒はいない。

しかし中には好奇心から盛り場のワルっぽい雰囲気に浸りたくて、そういった場所に出入りする生徒もいる。

その中から冒険心で不良のナンパに付いて行ってしまった女子生徒が出てしまった。

全く”おバカ”な考えなのだが、"1人ではない。5人いるから大丈夫だ"と思ってしまったらしい。

だがそのナンパしてきた不良は暴走族のメンバーだった。

アジトに行けば数十人の仲間がいることを彼女らは知らなかった。


この暴走族のチーム名は「忌侮煮愚(イブニング)」という。

この辺りに勢力を張る一団で族のリーダーはそのスジの息子だという。

彼らは誘拐した5人のそれぞれのスマホを取り上げ、アジトの遥か遠くからそのスマホを使って各々の親に身代金を要求した。

「警察にチクった時点でお前の娘は重し付きで海に沈むことになるぞ!」

脅すことも忘れていなかった。


この異変に最初に気付いたのは新聞部部長 榊原琴里だった。

榊原の交友関係は広い、というより、3年生全員が友だちみたいなものだ。

その友達の親5人から同日夜に娘のことは知らないか? との問い合わせを受けていた。

そしてその翌日5人とも登校して来なかった。

榊原は直ぐに新聞部顧問の木下教諭に相談した。

木下教諭は直ちに校長、教頭に報告し、その親たちに来校するよう手配した。


やはり誘拐事件だった。

校長が警察に通報するように親たちに勧めるが、親たちは娘たちの身を心配するあまりに同意してくれない。

木下教諭は親たちに言った。

「お嬢さんたちを一刻も早く誘拐犯から救い出さなければなりません。殺害するようなことは彼らにとっても最後の手段であるはずです。」

すると親の1人から、

「万が一の時にあなたに責任が取れるの!? 」

と言われた。木下教諭は返す言葉はなかった。


『将也クン!、将也クン!、事件です!!』

「何だ、実李、何が起こった?」

『誘拐事件です!』


実李は終始将也と一緒にいる訳ではない。

たまに散歩と称して自分の行きたいところに出掛けることもある。

つまりは実李は憑依霊でもあり浮遊霊でもあるのだ。

この浮遊霊は校長室での出来事を見聞した。

次に実李は榊原の心を覗いて誘拐された女子生徒たちの氏名を知る。

そしてその女子生徒たちの気配を手繰(さぐ)って忌侮煮愚(イブニング)のアジトの場所を感じ取った。


校長室では未だ警察に通報するか否かの決断が決まっていないようだった。


「吉田ぁ、ちょっとこれ預かってくんねぇーか?」

「何だよ? !ってオマエ!!」

「日付、ブランクにしてあるから、あとは新藤先生(顧問)と相談して決めてくれ」

「オマエ、いったい何をする気なんだよ!」

吉田はまだ事件のことは知らない。

成田は吉田の問いかけをスルーして校外に出て行った。

そして吉田の手元には成田名義の「退部届」だけが残った。



10 修羅 ソノ1


湾岸の外れにある今は廃棄された倉庫が忌侮煮愚(イブニング)のアジトとして使われていた。

夕方、成田将也はそのアジトの入口に向かって歩いている。

表情に緊張感の"き"の字もない。むしろ楽しそうな表情にさえ見える。


『ふたりで知らない(ところ)にお出かけなんて久し振りだね』

『あ、カモメが飛んでる!』

『夕日がきれいだから明日もきっと良い天気だよ』

将也の頭の中に実李が盛んに話しかけてくる。


「あっ、あそこだ」

将也はまるで探していたお店でも見つけたかのようにアジトの入口に近づいて行く。


入口の前には見張りだろうか、人相の悪い男が2人立っていた。

2人ともスキンヘッドで眉毛まで剃っている。

怪訝な目付きで将也を見ている。

『ヘンな顔、プー、クスクス』

「そうだな」られて将也の顔も緩む。

2人はバカにされたと思ったらしい。

「ナメとんか! クォ~ラー!」大声で叫ぶ。

「ここを忌侮煮愚(イブニング)の基地と知ってんのかぁ?、ボケー!」

それでも将也は歩みを止めない。

2人の目の前まで来た。


「入れてくれませんか」

すると左側に立っていた1人が顔を斜めにして将也の顔に近づけて来た。

「ドコの組の(モン)じゃ~! オンドレェー!」

「2年A組です」

「オトナをバカにすんじゃねぇ!!」

将也の左手で胸ぐらを掴み右パンチで殴ろうとする。

将也は左膝で相手の股座(またぐら)を蹴り上げると

「グボォ!」と股を抑えて屈みこんだ。

右側に立っていたもう1人が地を這うような声で

「これだけのこと仕出かしててタダで帰れると思うなよ!」

と言った瞬間、将也は右足で地を蹴って左足で屈んでいる1人の顔面を蹴り上げ、そのまま右足で立っているもう1人の顎を蹴り上げた。二段蹴りだ。


2人は翻筋斗(もんどり)を打って倒れた。


将也はドアを開けた。鍵はかかっていなかった。

中に入ると変なデコレーションが不自然に取り付けられたバイクが多数停めてあった。

マフラーがやたらに大きかったり、ハンドルが不自然に曲げられていたり。


『こんな形のバイクでスピード出せるのかな』

「と言うより臭いな、ここ」

『ほんとに』

ガソリンの臭いにアルコールの臭い、つまり酒臭(さけくさ)い。


バイク群を通り抜けると十数人のスキンヘッドの一群が缶ビールやらウイスキーの小瓶を飲んでいた。

将也が傍に行くと一群はギョッとしたように

「見張りはどうした?」

「テメェー、何者だ!」

傍らに置いてある各々の得物(えもの)(凶器)を手に取りながら立ち上がり、将也を取り囲んだ。


「うちの女子生徒を返してもらいに来ました」

将也が答えると一群は一斉に笑い出した。

「ヒャッヒャッヒャッ、来ました、だってよ~」

「ヒィー笑わしてくれやがる、どこのボンボンなんだよ~」

チェーンを持った1人が突如笑いをやめ、

「そういうボンボンには世間というものを教えてやらなきゃなぁー!」

いきなりチェーンをムチのように将也に振り放ってきた。


将也は左足を横に下げて半身になるとチェーンは将也の鼻先2~3センチ向こうを過ぎて行った。

ガシャーン!

チェーンと床のコンクリートがぶつかる音が倉庫内に響く。

将也はそのチェーンを右足で踏んで押さえ、左手でチェーンを掴んで"グン!"と引っ張った。

意表を突かれたチェーン男はその勢いでタタラを踏んでチェーンを放してしまった。

将也はジャラジャラと左腕の手首から肘までそのチェーンを巻き付けていく。


「やれぇー、生きて返すな!」


(元)チェーン男が激を飛ばすと他の十数名が一斉に将也に殴りかかってくる。


ある者は金属バット、ある者は釘を打ち付けた棍棒、そして木刀、鉄パイプ、ヌンチャク、メリケンサック等々、まるで凶器の博覧会だ。

だが突きや蹴りと同じで凶器も当たらなければどうと言うことはない。

将也は襲い掛かって来た者を順番に攻撃を避けて突きや蹴りを喰らわす。

どうしても(かわ)しきれないときは左腕に巻いたチェーンで凶器を受けて攻撃を加える。


将也は次々と一撃で倒していく。顔面や上半身に攻撃を受けて倒れた者はピクリとも動かなくなる。

大腿部に蹴りを喰らった者は"ベキ!"と気味の悪い音を発してコンクリートの床にのたうちまわり悶絶した後に白目を向いて失神する。


「何やってんだ、オメェーら! 一度に掛かるんだよぉ!」

(元)チェーン男が叫んだが、将也はある者には手刀打ち、ある者には竜巻蹴り、ある者には裏拳顔面打ちと小刻みに動いて技を繰り出すので誰も将也を捕まえることができない。

とうとう残るは3人のみとなった。

よく見ると3人ともスキンヘッドではあるが眉毛はある。


「何かの階級みたいなもので毛のあるところが決まるのかな?」

『変な人たちね』


将也は両手を下げると左腕に巻かれたチェーンは自重でジャラジャラと床に落ちいていく。

「テメェー何者だ?」

3人はポケットからタガーナイフを取り出した。

『・・・ナイフ・・・』実李の怒りが将也に伝わる。

「うちの女子生徒を返してくれませんか」

「あのメスガキどもは、今、総長や族長、組長にご奉仕させてんだよ!」

「今なら見なかったことにしてやる。帰んな」


『あんなこと言って、後ろ見せたら絶対刺してくるよ』

「あぁー、判っているさ」


将也は夫婦手(めおとで)の構えをとる。

チャッ、チャッ、チャッ、

1人が宙で左右の手にナイフを持ち替えながら近付いて来る。

将也は思わず苦笑してしまう。


ナイフが左手を離れ右手に届く寸前に

「ハッ!」将也の上段追い突きがナイフ男の眉間にクリーンヒットする。

カチャン・・・ナイフが床に落ちた後、その男は膝から崩れるように倒れていった。

2人の顔色が変わる。


「「ドリャー~!!」」

2人はナイフを両手に握り直し腰に添えて将也に同時に突進してきた。

いわゆる「テッポーダマ刺し」というヤツだ。

将也はまたしても苦笑してしまう。

「ヤッ!」

タイミングを測って彼らのナイフよりも高く跳んで左右同時前飛び蹴り。将也のスニーカーの踵が2人の顎を蹴り上げる。

2人の両足が同時に跳ね上がり、両者ともに後頭部をコンクリート床にゴツンと打ち付けて白目を向いた。


「ナントカ長さんたちはどこだろう?」

『アソコじゃない?』


倉庫奥の右角に部屋が有った。元は倉庫の管理室か何かだったのだろう。

そのドアを開けると・・・中から異臭がした。

「ナマ臭い、何の臭いだ?」


「ヒィ、ヒィ、ヒィ・・・」

むせび泣く少女の声、見るとシャツの前が(はだ)けた少女が座り込んで両手で顔を抑えて泣いていた。

その直ぐ横には体育座りをした特大リーゼントの男がタバコを吹かしていた。

気怠そうに煙を吐いた男は将也を見た途端に顔色が変わる。

将也は反射的にその男の顔面真ん中に踵を()り込ませて振り返り室内を見渡す。


部屋の中央では1人のスポーツ刈りの頭に何やら文字らしい剃り込みを入れた男が嫌がる女子のスカートの中に手を入れてショーツを下ろそうとしていた。

その脇にはやはりスキンヘッドに何かの刺青をしている男がニヤニヤしながらその光景を見ていた。


部屋の隅には3人の女子が呆けたように横たわっていた。

どの女生徒も着ているものはボロボロだった。

スカートは切られたのか裂けている。

シャツのボタンも殆んど取れて失くなっている。

「『・・・・・・!!!』」

将也の心に二人分の怒りの炎が噴き出した。


将也は横でニヤついていた男に近寄って行く。

その男はギョッとしたように立ち上がり懐から黒色の何かを取り出して将也に向ける。

だが将也と歩みを止めない。

チカッ

男が手にした何かが火を放った時には将也の手刀がその男の頚動脈を粉砕していた。

パン!

と音が聞こえたとき、その男は首を有り得ない方向に曲げて倒れた。


「オイ、何だテメェーは!!」

銃声に気付いた最後の男は自分の拳銃を女子の頭に当てこちらを見ていた。

『ピストル・・・!』

「女を盾にする・・・!」

将也と実李の怒りがまた頂点に達した。

将也をユックリと左前屈立ちにして右足に体重を乗せると右拳を右腰に据える。


男との距離は2メートル少しある。

男は将也が素手であることに気付いた。

銃と素手では圧倒的に銃を持っている方が有利だ。

男はすっかり余裕ぶって

「クタバリな!」

銃口をゆっくり女子から将也の方に向ける。


将也は構わず全身全霊を自らの丹田に集約させ、

「ハッ!」

その場で中段逆突きをその男に目掛けて放った。

「ングッ?」

男の身体は一瞬硬直し、あらぬ方向に発泡した後、力が抜けたように拳銃を落としそのまま崩れるように倒れていった。

将也は思った。この前の大会1回戦で感じた手応えだ。



11 信じられないこと


『あなたたち、怪我とかしてない』

将也の頭の中に響いた実李のこの声は5人の女子にも聞こえたらしい。

5人はいそいそと出来る限りに衣服を整え、そして再び泣き出した。


将也はゴロツキ3人の遺体を部屋の外に放り出し、自分のスマホで警察に通報した。

警察が来るまでの間、将也は実李のアドバイスを聞きながら5人のために出来るだけのことをした。

幸い元事務所にはシャワー室があり、何枚かのバスタオルがあった。

5人全員に1枚ずつ渡し、自分のブレザーやワイシャツを被せてやった。

何もないよりマシだろう。

将也の上半身はランニングシャツ1枚になったが構うことはない。

陸上の選手の格好と似たようなものだ。


警察が到着した。

県警第4課・渡警部は自分の目を疑った。

入口付近には如何にもゴロツキと分かる2人がころがっている。

一応武装させた警官を中に進入させる。

「抵抗勢力なし」の報告と共に自らも中に入ると、あちらこちらにゴロツキが横たわっている。


「何が起こったんだ?」

「解りません」

機動隊員も戸惑いを隠せない。

「こっちです!」

建物の奥の方から少年の声がした。

奥にある部屋に入るとランニングシャツの少年に、バスタオルなどに(くる)まって座っている女子5人がいた。


「県警に連絡。直ちに救急車と少年係の婦警を寄こすように。君はその場にじっとしていなさい。」

将也は言われた通りにした。

「コイツらはみんな君がやったのか?」

「はい」

「信じられないな」


到着した救急車に女子生徒は婦警と共に病院に運ばれ、将也は「任意同行」ということで警察署に連れられた。

将也は有りの(まま)を話したが、渡警部はどうしても納得がいかない。それはそうだ。実李の件については将也自身もどう説明して良いか分からない。


「どうしてアジトが分かったのか」の問いには「ただ何となく」としか答えられない。


県警が少年や少女たちが通っている総南高校に連絡をとると「誘拐事件」が発生していたことが確認された。

倒れていたゴロツキどもは全員暴走族集団「忌侮煮愚(イブニング)」のメンバー。

このリーダーの父親は貿易会社を表看板とする暴力団事務所を経営しており、公安からの資料では海外への人身売買にまで手を染めているような組織だった。


確かに彼らは「誘拐した事」は伝えたが、「身代金」や「受取場所」の連絡はしていない。

これは時間稼ぎが目的だ。

そして誘拐者をあのように乱暴していたことから元から返す気はなかったと考える方が自然だ。

学校や保護者がモタモタしている間に彼女たちが治外法権の効く外国行きタンカー内にでも押し込まれていたら絶望的なことになっていた。


しかし成田将也という少年は、あれだけの人数、しかも凶器を持ったゴロツキを相手にしてどうして無傷でいられたのか?

顔はもちろんのこと、ランニングシャツから見える両腕に擦り傷ひとつさえなかった。

拳銃まで発射されていたことが確認されている。

どうやって躱したのか?


しかも死者6名、重傷者18名、その中には重度後遺症となる者が8名もいるのだ。

渡警部は思う。奴らは人間のクズだ。どんな酷い目に遭っても自業自得というやつだ。

しかし1人の少年がこれだけの人数に壊滅的打撃を与えることが出来るだろうか。

警察だったら機動隊50人は必要だ。


「死者2名・・・」2週間前に開催された高校空手道県大会の情報だ。

「成田将也との組手試合で2名が原因不明の事故で死亡したのか」

渡警部にまさかの考えが浮かぶ。だがあり得ない。しかしこの考えでしかこの事態を説明できない。

「一撃必殺」

伝説的な武道の極意だ。


成田将也君は17歳の未成年だがゴロツキは全員成人だ。

渡警部は家庭裁判所と連絡を取り、一旦彼を両親のもとに返す合意を得た。


渡警部は成田将也は迎えにきた両親に「しばらく外出は控えさせて下さい」と伝えたうえで引き渡した。

マスコミには「暴走族組織、謎の壊滅。誘拐された女子生徒5名全員保護」との情報だけを公開し、どうして壊滅したのかは現在調査中ということにした。


将也の両親は渡警部から言われた通り翌日学校を休ませた。

その旨、母親が学校に伝えると、30分もしないうちに、空手道部顧問の新藤先生が家庭訪問に来るという連絡がきた。


「成田君、今回は大変だったね」

「愚息がご迷惑をおかけしました。」

将也の父親が両膝に手を付いて頭を下げる。

「いえ、何の迷惑もかかっていませんから、どうか頭をお上げください。」


将也は新藤先生から「空手道部」への「退部届」が受理されたことを伝えられた。

しかし救出された女子生徒の保護者からは大変に感謝されていること。

空手道部内でも「退部届」の受理には部員全員からの猛反対があったこと。

学校も世間が落ち着いたら処分を再考する意思はあること。

ただ今年のインターハイ出場は諦めてほしいこと。


以上が伝えられた。


将也は「分かりました。それでいつから登校して良いのでしょうか」と聞いた。


新藤教諭は真剣な表情で言葉を選びながら答える。

「そうだな。暫く、としか言えないな。

ここに来る間に記者らしい人たち数人からインタビューされそうになった。

私は何も答える気はないし記者は校内に()れることはないが、彼らはどんな手段を使って君から情報を引き出そうとするか分からない。

だから世間が落ち着くまで、としか言えないんだ。」


暫く登校は出来なくなったが、将也のスマホには毎日友人達からのメールが届いた。

またA組のクラスからは当番制で毎日その日の授業のノートが届けられた。


「こんなに勉強したのは受験勉強以来だな」


将也は毎日届けられたノートを見ながら教科書をチェックする毎日が続いた。

実李はさすがに毎日部屋にいるのは退屈なようで、最近よく将也から離れて浮遊するようになった。


「成田クン、身体、ナマってない?」


佐倉が毎週土曜日に家に来て庭で空手の相手をしてくれる。

そのとき実李は将也の周囲から消えてしまう。

実際、将也の空手の相手ができるのは学校では佐倉実籾くらいしかいなくなっていた。


こんな毎日が1ヶ月程続いた後、成田将也は復学を許された。


もともと将也はマイペースだがお調子者の一面もあり、みんなのムードメーカー的な存在だったからか、クラスや空手道部のみんなは以前と変わらず将也に接してくれた。


2年A組の前の廊下に立つ2人の女子生徒。3年生のバッヂを付けている。

国府台谷津と志津の姉妹だ。


「姉さま、また禍々しさが出てきましたわ」

「志津、根源はあの男性で決定ですね」


将也を見る眼差しは冷たく口元に浮かべた笑みは更に冷たかった。


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