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 晶は開を連れてあけのを探し回ったが丸一日近く休みなく歩き回っても収穫がなかった。

 つき合わされて疲れた開は弱音を吐いた。


「もう三時だぞ、いい加減休憩しないと持たないぞ」

「私は疲れてないから大丈夫、行きたかったら一人で行って」

「無理やりつれてきてそれはないだろ。それに一人だけ休むのもおまえに悪いだろ」


 二人が目をつけたのはネットカフェやカラオケボックスなどの夜間に営業している店である。しかしそういった店からあけのが昨夜利用したという情報は得られなかった。


「これだけ探しても手がかりがないんだから、野宿でもしたんじゃないか?」

「でもさすがに公園で寝泊りはしないと思うけど。女の子がそんなところに夜中に一人でいたら危ないもん」

「おまえなら返り討ちだろ」

「でも別に野外じゃなければ―――」


 中学校の前に差し掛かかった二人はあることを思い出した。


「旧校舎、あそこなら女の子一人でも野宿できるんじゃない?」

「そういわれてみれば……あそこは誰も来ないし、用具入れになっていて一応管理されているから不良も寄り付かない。野宿にはぴったりだな」

「とりあえず行ってみよう」


 思い付きではあったが二人は旧校舎へと向かった。


「とりあえずどこから探すか?」

「そうだね……ベッドがある保健室と火元がある家庭科室は見たほうがいいね」

「それなら場所的に家庭科室が先だな」


 二人が家庭科室を目指していたころ偵察に出ていたあけのは家庭科室に戻ってきていた。


「ハチ、ただいま」


 だがあけのの声に返事は帰ってこなかった。

 大きなくぼみや引きちぎられたロープの切れ端が撒き散らされ出かける前と比べてひどい荒れようにあけのは驚く。

 部屋の中にはハチの姿はなくこの場所で何かがあったのは明白な有様であった。


「ハチ、どこに行ったの……一体何があったの?」

「あけの!」


 晶が家庭科室の戸を開けると涙ぐんだあけのが立っていた。

 晶はあけのに駆け寄り静かに抱きついた。

 あけのは急に現れた晶に抱き着かれたことに驚く。


「晶、どうしてここに? それにいきなり抱きついて」

「それを言いたいのはこっちだよ。何で突然いなくなったのよ」

「わたし、そんなつもりじゃ」

「それにどうして泣いているのよ」


 再会のうれしさに晶も思わず目に涙を浮かべるがそんな二人を開は茶化す。


「はいはい、うれしいのはわかったから。昨日の今日なんだから、別に泣くほどじゃないだろ」

「お兄ちゃんはだまってて!」


 親友同士の再会に水を差し開は晶に怒られてしまった。

 二人の様子に「ついていけない」と家庭科室の様子を眺めていた開は床のくぼみを発見した。


「あけのって言ったっけ。聞きたいんだけど、このくぼみは昨日からあったの?」

「昼間はなかったよ。さっき戻ってきたら出来てたんだわ。それはそうと、あなたは誰ですか?」

「晶の兄貴だ。同じ学校の二年だから一応君の先輩だぞ」

「ああ、あなたがよく晶が話している開さんですか。そういえばどこかで見た気がします」


 開の質問に答えるあけのの目には涙はなかった。晶と会ったことで気持ちが落ち着いたようである。


「さすがに野宿は危ないよ。とりあえず家に来てよ」

「そういえばさっきも聞いたんだけど、何でここに?」

「くまの家の渡辺さんから、あけのがいなくなったって聞いてね」

「それじゃあ晶はわたしを先生に引き渡す気なの?」

「それはあけの次第だよ。昨日も言ったけど、あけのがよければ家に来てもいいんだよ」

「でもそれだと―――」

「大丈夫、来てくれればあけのをこき使ってやるんだから。その代わり私もあけのの力になる。頼るんじゃなくて助け合う、これなら立派な自立だよ」

「長話はこれくらいにして家に戻らないか? 話ならここじゃなくてもできるだろ」


 開の一言で三人は叢神の家に戻った。

 帰宅すると急に力が抜けたのか晶は腹を鳴らした。晶と開は昼食抜きであけのを探していたので当然といえば当然である。

 冷蔵庫を開けた開はだいぶ遅い昼食を作り始めた。


「昨日、あれからあけのはどうしてたの?」

「不動産屋に行ったんだけど受け入れ拒否されて、仕方ないから銭湯に行ったあと梅園池の小屋にいたよ」

「じゃあ何で今日は旧校舎に?」

「ちょっとした恩人がいてね。池で暴漢に襲われそうになったんだけど、その人が助けてくれて……ついでに旧校舎のほうが安全だって教えてくれたのよ」


 あけのはハチのことをオブラートに包む形で晶に説明した。

 いくら晶が親友とはいえ異人症のことや彼が組織に追われていることについては話にくいからだ。


「恩人かぁ、どんな人なの?」

「秋田八兵衛っていう名前ですごく背が高いの。助けてもらってから一緒に旧校舎に行ったんだけど、その人突然倒れちゃって看病してたのよ」

「看病までするなんて……あ! もしかして」

「別にそういうのじゃないよ。ただの恩返しよ」

「素直じゃないから」

「ホントに違うんだから」

「もしかしてさっき泣いてたのもその人がいなくなったからだったりして」

「メシができたぞ。友達いじりもそのくらいにしておけ」


 あけのを弄って遊ぶ晶を注意しながら開は台所から三人前の炒飯を持ってきた。

 二人がじゃれあっている最中に開は手早く炒飯を作っていた。


「君のも持ってきたぞ。いらなかったら残してもいいけど、遠慮なく食べてくれ」

「お兄ちゃんの料理はみんなおいしいから大丈夫だよ」

「そこまで言うなら―――ホントだ、おいしい」


 あけのは一口食べるとその味に殴られた錯覚を覚える。ガツンと舌に伝わる味は濃いが不思議と塩辛くは感じない。油も多いが昨夜から落ち着いて食事をとっていなかったこともあり、あけのの体にはその油味が染みた。


「だろ、特製のスープが利いてるんだよ」

「お兄ちゃんの料理好きは相当だよ。和洋中のあらゆる料理が作れるように調味料関係の材料は一通りそろえてるし、作るのに時間のかかる中華スープとデミグラスソースは常備しているほどだもん」

「ああいう煮込み料理は下ごしらえが肝心だからな。ちなみに隠し味に使ったスープも手を加えればそのままラーメンにも使える自慢の一品だから、飲んでみてよ」


 そういうと寸胴からくみ上げたスープをあけのにさしだした。


「おいしい、まるでプロの料理人みたい」

「今は学校にも通っているけど、いつか脱サラして料理で生きていきたいと思ってるぜ」

「そうなんだ。夢があるってうらやましいね。一度脱サラしてからって言うのが情けないけれど」

「仕方がないだろう。親父たちも家を空けていることが多いから、コイツの面倒も見なきゃいけなんだし」


 会話が弾む中、開が用意した料理は瞬く間になくなった。

 初めは遠慮がちだったあけのも終わってみれば全部平らげていた。


「腹も膨れたところで、君に聞きたい。くまの家に帰るか、それともここに住むのか」

「できればここに住みたいけど……」

「大丈夫、家出の経緯も一通り聞いてるから。晶も言ったけど、家に来るって事は俺たちにこき使われるって事だから、甘えている暇は無いぞ」

「でもくまの家の方は?」

「それも心配は無い。君しだいで家で引きとってもかまわないって話はつけてある。まあ君の方からも連絡するのが条件だけどね」


 叢神家で暮らすことを決めたあけのは叢神家の卓上電話を使用してくまの家に電話をかけた。


『はい、こちらくまの家です』

「……先生……」

『あけの、今どこ? 心配したんだから』

「ごめんなさい。今、晶の家にいます。自分でもわがままだと思うけど、わたし晶の家でお世話になろうと思います」

『あけのが出て行きたい理由、ちゃんとわかってるから……晶さんのところなら安心だわ』

「先生、今までお世話になりました」


 こうして叢神家に新しい住人が増えた。

 叢神の両親にも一応は確認を入れたが「すべて開に任せる」とだけ言い放った。

 彼らの父は不在が多く開を信用している。そのため居候が増えるという普通なら大事になる判断も開を信じて彼に任せていた。


「ちゃんといえたな。これで今日からおまえも家族の一員だ、よろしくなあけの」

「今日からあけのも家族だね」

「晶…開さん……ありがとう。早速なんだけど、ちょっと頼みたいことがあるんだけど」

「なんだ?」


 あけのの突然の頼みに二人は困惑した。


「探してほしい人がいるの」

「それってさっき言っていた恩人さん?」

「うん。あの人変な人たちに追われているって言ってたから心配なの」

「変な人?」


 あけのの発言に開は疑問をおぼえた。

 晶はそんな小首を傾げる開を無視して話を進める。


「……あけののためにもう人肌脱いであげますか。お兄ちゃんももちろん手伝うよね?」

「そんなこといっても今日は人探しばかりだな。でも家族の恩人は俺の恩人も同然だ。とりあえずどんなやつだ?」


 あけのは二人にハチについての詳しい特徴を教え、もうすぐ日も落ちようかという時間だが三人はハチを探し始めた。

 開らがハチを探していた頃、家に帰った美玲と翔も再度となるハチの捜索を始めていた。再び思気神を使った人海戦術を取ろうとするが、既に一回使っているため持続時間は残り二十分と短い。それでも目を皿にして探し回る美玲はギリギリでハチを見つけた。


「見つけたわ、南西部の雑木林よ。どうやら気絶しているみたいね。一体だけ思気神を残して追跡もかけるけど、バレたら追いつけないから急いで。起きだす前に倒すのよ」

「オーケー! 美玲さんが見つけたらそこからは俺の仕事、今回は殺す気で行くよ」

「やられないように気をつけてね」


 ハチを発見して翔が急行しているころ、開たちは手がかりもなくハチを探していた。手当たりしだい隠れるのに適していそうな場所を闇雲に巡る。とりあえず戻ってきている可能性を考えて最後に居た旧校舎に向かっていたが、その道中にある雑木林の前であけのは突然立ち止まった。


「ここにいる気がする」

「気がするって……そんなことわかるの?」

「いや、確証は無いんだけど―――」

「確かにあんまりここに入る人はいないからな。一応見ておこうか」

「それもそうね」


 開の一声で晶も納得し、三人は雑木林の中に入っていった。

 雑木林とはいえ巨木が多く木々の間も広めで、範囲も広大なためほとんど森といってもいいくらいの場所である。


「こっち」


 雑木林の中でも開の発案で、三人はあけののカンで道順を決めた。晶は多少理解に欠けるようであったが、開には何か考えがあると思い文句は言わなかった。


「お兄ちゃん、あそこ!」


 雑木林の中心近くに差し掛かったころ晶は何かを発見した。近寄ってみると木の根元に大男が倒れていた。


「ハチ!」

「それじゃあ、この人があけのが言ってた―――」

「気を失っているようだな。けれど家まで運ぶにはちと重過ぎるな」


 そのころハチを追っていた翔も雑木林に到着していた。


「なんだ、あいつら?」


 翔は先に開たちがその場に居て出て行きづらいため木の裏に隠れていた。

 翔の位置からでは暗さもあって開たちの顔までは確認できない。


「おい、しっかりしろ」


 開は声をかけながらハチの顔を平手でたたいた。


「そんな乱暴で大丈夫なの?」

「心配すんなって。見たところ寝てるだけだ」

「ん……」

「眼が覚めた!」


 開の平手打ちの痛みでハチは目を覚ました。


「ここは?」

「ハチ! さっきはどうして?」

「あけのか。そいつら誰だ?」

「はじめまして、秋田さん。あけのの友達の叢神晶です」

「俺はコイツの兄貴の叢神開。話は家でもできるから、とりあえず一緒に来てくれ」

「あんたらあけのの友達か。自己紹介をされたままで黙っているわけにはいかないな。あけのから聞いているかもしれないが、秋田八兵衛だ」

「とりあえず俺の家に行くから、俺の肩を使ってくれ」

「あんたらにそこまでされる理由が無い」

「理由ならある。あけのは俺の家族だ。そしてあんたは家族の恩人だからな」

「そこまでされるような恩は―――」


 初対面の二人に恩を売られてハチは困惑してしまう。

 その様子に二人は遠慮することはないと迷いを晴らそうとする。


「あけのはすごく心配してたんですよ。『変な人に追われてるから、速く見つけないと』って」

「あけの、おまえまさかやつらのことを?」

「やつら……って、もしかして秋田さんは追っている人のことを知ってるんですか?」

「いや、知らない」


 ハチは晶のリアクションから、あけのが二人に組織のことを話していないと察して口をつぐむ。その誤魔化しを兼ねてハチは開についていくことにした。


「まあそれは置いといて……そこまで言うならお世話になるか」


 あけのは仲間であり、その仲間が信頼する人なら信用できる。

 それに最悪の場合でも「自分を犠牲にすれば危害は無いだろう」とハチは考えていた。

 ハチは翔に敗北したことで、もし組織に見つかったら逃げ延びる可能性はほとんどないと思っていた。

 肩を貸して家まで歩き、四人が家の近くに差し掛かったところで開は小声でハチに話しかけた。


「秋田さん、気づいているか?」

「何のことだ?」

「隠さなくてもいい。さっきからつけているやつのことだ」

「つけているやつって、あんたいったい―――」

「殺気は上手く隠しているけど、まだまだ甘いぜ」

「そうか……匂いからして昼間に俺を襲ってきたやつだ。あいつは俺の問題、手出しはしないでもらいたい」

「さっきも言ったけどあんたはあけのの恩人、守ってやるのも恩返しだ。それにその体じゃ返り討ちだろ」

「そう言われても……まともに相手をしたら死ぬかもしれないんだぞ」

「それならなおのこと。心配するな、俺はあんたが思っているよりずっと強い」

「二人でなにをこそこそやってるの?」

「秋田さんに好き嫌いを聞いていただけだ」

「ホントに?」

「そうだよな」

「ああ」


 ハチと開の密談にあけのが気づいたが心配をかけたくなかった二人はとっさにごまかした。


「わかった。けれど、わたしにはそういうこと聞かなかったくせにハチには聞くんだ?」

「あけのは身内だけど、秋田さんはお客さんだろ。お客さんをもてなすのに嫌いなものがあっちゃ困るだろ」

「それはそうだけど―――」

「そういうことだから、ちょっと買出し言ってくる。晶とあけのは秋田さんを連れて先に帰ってくれ」

「お兄ちゃん、それなら私も行くよ」

「一人で十分だ。あけのは家に不慣れだからな、おまえがしっかり面倒見てやってくれ」

「それもそうだね、じゃあ先に帰ってるから」


 晶とあけのはハチをつれて家に帰っていった。

 三人が角を曲がって見えなくなったところで後をつける追手に開は語る。


「隠れてないで出てきたらどうだ。ここから大体二百メートル、尾行するには結構きつい距離だな」


 開は大声でだれもいない道路に話しかけるが誰も出て来はしない。

 そこで家の方向に歩き始めて角を曲がったところで突然振り向いた。


「黙って通れるとは思うな」


 振り向いた開は後ろの電信柱に手を伸ばす。伸ばした手には少年の肩が握られていた。

 つけていたのはハチを追っていた翔である。


「あんた、身内の恩人が世話になったそうだな」

「恩人? 何のことかは知らないが通してもらおうか」


 開の手を振りほどくと翔はそのまま開の横を通ろうとした。だが開は前に立ちはだかる。

 その行動に翔は苛立ち怒鳴る。


「さっきから邪魔して、なんのつもりだ?」

「秋田八兵衛……って知ってるよな? あんたがさっきからつけている男だ」

「言いがかりはやめてくれないか!」

「そうは言ってもあの人は鼻が利くから、あんたが昼間に襲ってきた相手だってわかるらしいんだよ」

「俺は秋田八兵衛なんて知らないし、そもそも匂いなんかで相手が誰かわかるわけないだろう。犬じゃあるまいし」

「あの人は異人症だ。因子次第でそれくらいできてもおかしくない」

「あんた、異人症のことを―――」

「知っているさ」


 見知らぬ男が異人症を知っていると言ったことに翔は驚く。だったらこの男はなぜ、ハチを保護しようとするのかと。

 ハチの症状が小康状態だから症状を侮っているのかと翔は思い問う。


「なら、なんで俺の邪魔をする。あいつはボールマンⅢの後期、暴走寸前の危険人物なんだぞ!」

「そうかもしれないが、俺が見た限りでは少なくても今日明日は大丈夫だろ」

「気づいていて庇うって言うのかよ。だからこそ今のうちに始末しないといけないんだぞ」

「必要ない。いざとなったら俺がやる」

「暴走した異人症患者を殺せると思っているのか?」

「俺にできないと思うなら、力づくでここを通るんだな」

「あんたは一体何者だ?」

「大それた者じゃない。ちょっと剣術を嗜んでいるだけだよ」

「思い上がった馬鹿か。だったらその鼻をへし折ってそうさせてもらう!」


 翔は駆け寄りながら滑らかに不可視の甲冑を纏い右ストレートで開の心臓を正確に狙う。

 だが開は右の掌で難なく受け止めた。


「この程度の攻撃でなんとかなると思ったか? ここを通りたかったら全力で来い!」

「言わせておけば……ライズワン!」


 開の挑発に翔もギアをあげて応戦する。

 連続して放たれる翔の左ジャブは一発の威力でさえ先ほどの右ストレートを超えている。


「甘い!」


 速さでは圧倒的に上回る翔であったがその拳は開には届かない。開は打点を反らし翔のパンチを無効化した。


「これなら!」


 左ジャブでは数が足らないと感じた翔は攻撃を両手でおこなうことで手数を増やす。単純に考えて二倍、もはや休みなく飛んでくる銃弾に等しい翔の攻撃だがそれでも開は攻撃を全て受け流した。


「もらった!」


 先に攻撃を当てたのは開だった。

 翔のパンチにカウンターで放たれた開の右のパンチは翔の顔面を見事に捕らえていた。

 だが翔は平然としている。


「この感触……そうか」


 触れた感触で開も不可視の装甲の存在に気が付く。

 不可視の甲冑に守られている限り並大抵の攻撃では翔には通用しない。当然、今の拳打もまるで効いていない。

 左肘突き、右ストレート、右ハイキックと翔は攻撃を数からコンビネーションに変化させる。見事な三段攻撃も開にかわされるがこれも翔の読みどおりである。

 右ハイキックを出した直後、翔はそのまま右アッパーを繰り出した。アッパーは開の顎を捕えて空に舞いあげる。

 地面に打ち付けられてもなお開は立ち上がるが、次々と繰り出される翔の連続攻撃に開も反撃の手をだす暇がない。


「これで終わりだ!」


 翔はトドメとばかりに不可視の装甲の拳に気を籠めた。

 思気神の一部を打撃と共に炸裂させることで大威力攻撃とする翔の必殺技『交差爆裂拳』が炸裂した。

 轟音が響き渡り開は弾き飛ばされる。翔はこれで眼前の男を倒したつもりでいた。

 だがそれを受けても開は平然と立ち上がる。まるで効いていない様子に翔は驚愕した。


「なに! 交差爆裂拳が決まったのに」

「さすがに今のは危なかったかな」

「この!」


 驚く翔には目の前の男が普通には思えなかった。

 思えば暴走した異人症患者を殺せると豪語している眼前の男は言うだけの実力があるのだろう。

 だが自分にも異能探偵補佐としての意地がある。美鈴のためにここで引き返すつもりはない。

 彼女は優秀な思気神使いの異能探偵だが戦う力は弱い。ならば俺は矛になろう。それが翔の気持ちである。

 ここで自分が折れるのは探偵新藤美鈴が折れたのと同じであり彼にはそんな選択肢は選べない。


「今度はこっちのターンだ」


 先ほどと入れ替わり今度は開が翔を攻め立てる。翔の拳を躱して懐に飛び込んだ開は四肢に気を籠める。

 右手の突きに左アッパー、右つま先で蹴り上げ、最後に渾身の右ストレート。

 開の連続攻撃は装甲越しに翔の生身を打ち付けた。

 全身を襲う痛みと脳震盪で翔は行動不能に打ちのめされる。


「まさか、不可視の甲冑の上から―――」

「おまえの負けだ。しばらくそこで寝ていろ」


 翔は気絶して地面に臥す。

 そんな彼を電信柱に寄りかかるように寝かせると、開はその場を立ち去りスーパーへと歩いて行った。

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