Karute.1
十月になり、夏の暑さにも終わりが訪れていた。
その日の彼女はいつもと様子が違っていた。普段は男子生徒であろうとも分け隔てることのない彼女が、朝から誰も寄せ付ける様子がなかったからだ。
実際に拒絶しているわけではないものの、普段と違って近寄りがたい雰囲気を出していた。
県立梅園高校に通う女子高生、川澄あけのはあることで思い詰めていた。
「あけの、なんだかみんながあけのから引いちゃってるけど、昨日何かあったの?」
沈黙を破ったのは彼女の友人の叢神晶、あけのと晶は梅園高校に入ってすぐからの親友である。
「別にたいしたことじゃないんだけどね」
「そのわりにいつもと違って声かけずらいじゃない」
「……晶になら言ってもいいかな。わたし、家を出ようと思うんだ」
「どうして? 先生と喧嘩でもしたの」
幼いころ両親を失ったあけのはボランティア団体が運営する孤児院『くまの家』で暮らしている。
人付き合いのよい彼女ではあるが晶以外に彼女が孤児院暮らしであることを教えるのは中学生以前からの友人のみに留めている。
彼女は友として認めた人間以外がこのことを知るのを嫌い極力隠すようにしていた。
「別に晶が心配するような理由じゃないんだよ」
「じゃあどんな?」
「自立したくて……先生のところがいやだからじゃないの。わたしはただこれ以上、誰かにおんぶにだっこの暮らしじゃなく、自分の力で生きていきたいのよ」
「そうは言っても行くあてはあるの? なんならウチに来ても……」
「それじゃ意味がない、それだと晶に頼っちゃうもん」
「でも……」
「バイトしてためたお金もあるし、新しい家も決まっているから大丈夫だよ。だから晶は心配しないで、引越しが終わったら遊びに来てよ」
押し切られた晶はこれ以上彼女を言及することができなかった。
しかし、彼女の自信とは裏腹に晶はいやな予感を感じていた。
晶はカンが鋭いことが自慢である。
だからこそ彼女から感じた「いやな予感」が心配でならなかった。
「まさか、ここまで手が回っているなんて」
不動産屋をあとにしたあけのは気が沈んでいた。
彼女の目的は敷金礼金なし、家賃一万五千円の1K、風呂、トイレ付の格安物件であった。
前日、彼女は寮長に自立してくまの家を出たいと相談したものの反対されていた。そこで彼女が考えたのは先に家を確保して力押しでくまの家から出ることだった。
しかし彼女の考えは甘かった。家を借りようとした彼女に対し不動産屋は保護者であるくまの家側の反対を理由に受け入れを拒否したのだ。仮押さえ済みだったのにも関わらず入居直前での掌返しにあけのは肩を落とした。
この裏にはくまの家の根回しがあった。反対されていても黙っていれば問題ないと思っていた彼女の考えなどすでにお見通しというわけである。
「これからどうしようかな、今更くまの家に戻るのも癪だし―――」
泊まるあてもなく街をさまよった彼女が行き着いたのは近隣ではダンナ沼と呼ばれている公園にある小屋であった。
――――
一人の男が暗い夜道を駆け抜けている。
その後ろからはスーツを着込んだ一団が男の跡を追っている。『組織』と名乗る彼らは皆その手に拳銃のようなものを持っている。それにひきかえ男のほうは武器を持っている様子はない。
男の異常なまでの足の速さを抜きにすれば、彼らは悪者で男は悪党に追跡される弱者にしか見えない。
沼に追い詰められた男は辺りの小屋に逃げ込んだ。この小屋は夜間は人が寄り付くことがめったにない、普段は東屋代わりとして使われている建物である。
「きゃあ」
小屋に逃げ込んだ男の耳に悲鳴が入り込んだ。その小屋の中には服を着替える途中であろうか服を脱ぎかけた一人の少女が立っていた。
「驚かせてすまない。別にそういうつもりじゃなかったんだ」
「そういうつもりってどういうことよ」
「それにここは公園の休憩所、別に君の家じゃないだろう」
男の一言に少女は言いかけた言葉を口につぐんだ。男に図星を突かれたことで我に返ったからだ。
「ごめんなさい。誰も来ないと思っていたのに、突然押しかけてきたから気が動転して」
「分かってくれれば別にいいんだ」
我に返った少女は男の登場で中断していた着替えを終えると男に歩み寄った。
「ここであったのも何かの縁だね。わたしは川澄あけの……あなたは?」
「秋田八兵衛だ」
「八兵衛か。じゃあハチって呼んでいいかな?」
「好きにすればいい」
「それじゃあハチはどうしてここに? 私は家出みたいなもんね。泊まるあてがなくなくて困ってたんだけど、ここに小屋があったことを思い出して来たってわけ」
あけのの親しげな態度に驚きながらもハチは経緯を語りだした。
「俺も同じようなもんだが、追っ手に追われている。俺がここに来てから十五分、そろそろ追いつかれてもいい頃合だな」
「追われているって、警察とかに?」
ハチの発言に、彼が「犯罪を犯して警察に追われる危険人物」なのではという考えがあけのの頭をよぎった。それによく見れば彼の体躯は野獣というほどにたくましい。
あけのは恐怖して冷や汗をかくがその汗は不思議とすぐに引いた。なぜだか判らないがあけのはハチから暖かいものを感じたからだ。
「いや違う。だが似たような……いやたぶんもっとしつこいやつらだ」
「じゃあハチは犯罪者ってわけじゃないんだよね?」
「世間的にはな」
ハチはあけのの質問答えると、急に何かに気がついた様子で窓際の壁に立ち外の様子を窺った。沼の前には彼を追う組織の人間が集まっていた。
「邪魔したな」
「待って」
あけのは小屋の外に出ようとしたハチを呼び止めた。
「ハチを追っているのってあの人たちでしょ。それじゃあ今出てったら危ないよ」
「そう言っても、これ以上あんたに迷惑はかけられん」
「べつにいいのよ。わたしには親も兄弟もいないから他に迷惑かける人いないし」
「それって、お前……」
「わたしは今日育ててもらった施設を出て独立したの。多少のお金はあったけど先生には反対されて……だから勝手に出てきたのよ。身勝手だとは思うけど、これ以上あそこに迷惑をかけたくはないのよ」
孤児であること、そして孤児院で世話になっていることをむやみに他人に知られることをよしとしないあけのが、ハチにはなぜか自身の身の上を話した。彼女自身理由などわかってはいないがあけのは何かハチに惹かれるものを感じていた。
「……そこまで言うなら協力してもらう。何も難しいことじゃない。外に出てやつらに何食わぬ顔で『どうかしましたか?』とでもたずねてくれ。もし俺の事を聞かれたら、適当にごまかしてくれればいい」
「わかったわ。早速行ってくるから、期待して待っててね」
そういうとあけのは小屋の外に出て組織の人間に近寄った。
「こんな夜中に大勢で、何かあったのですか?」
あけのは打ち合わせどおり何食わぬ顔でそのうちの一人に尋ねた。その人物は夜中にもかかわらずサングラスをかけていた。だがよく見るとその場の職員すべてが同じ型のスーツで服装をそろえていると共にサングラスをかけていた。
「ちょっと人を探していまして。すみませんが身長百八十センチ位の大柄な男を見かけませんでしたか?」
あけのの問いかけに対し、スーツの青年は予想どうりにハチについて尋ねてきた。彼が尋ね返すまで一瞬の間があったのだが、あけのはそれに気づいた様子はなかった。
「その人だったら……さっき池に飛び込んで向こう岸まで泳いでいきましたよ」
打ち合わせ通りにあけのはハチについて嘘の証言をした。
「あの子、因子保有者ですが……状況が状況ですし確保しますか?」
「ホルダーならそこまで珍しくはないが……異人症は同じ感染者やホルダーと何かで惹かれあうことがある。一応用心は怠るな」
「では、あの子が出てきた小屋のほうは気づかれないように調べておきます」
そのころほかの職員はなにやら小声で相談をしていた。あけのは近くにいたのだが彼らの会話は彼女の耳には届いてはいない。
「ホルダーだと。意味はよく分からないが、まさかあいつも俺と同類だというのか?」
近くにいるあけのでさえ気がつかない職員の密談をハチは小屋の中にいながら聞き及んでいた。
常人を超えた能力を発揮するハチであったがそもそも彼が追われていること自体この力と関係していた。
ハチこと秋田八兵衛、彼は自衛官だった。
事の始まりは二ヶ月前、自衛隊の海外支援活動中に起こった。
復興支援で中東を訪れていたハチは仲間の自衛官と共に十人組のテロリストに拘束された。
マシンガンを突きつけられ一人づつロープで後ろ手に縛られていく中、緊張がピークに達したハチにある異変が起こった。五感……特に聴覚と嗅覚が異様に活発になったのだ。
さらに体の内側からあふれんばかりの躍動を感じたハチは縛られるのが自分の番になったところで行動を開始した。
「お前たちの中に英語が分かるやつはいるか? 話がある」
英語でのハチの問いかけにテロリストの中の一人が反応した。
「私がリーダーのラシードだ。話とは何だ?」
「さすがにリーダーなだけある……ちょうどいい。あんたたちの目的は外国人を人質に大国に内政干渉をやめさせる事だと思うが……違うか?」
「いかにも。わが国は大国に仕掛けられた侵略戦争になすすべもなく敗れ、以来奴らの言いなりだ。だがお前も我々の目的を知っているようだし、いまさら聞いてどうする気だというのだ」
「俺を殺せ! そうすれば見せしめになる。その代わり俺の仲間を解放するんだ!」
「面白いことを言う。おぬし名はなんと言う?」
「秋田八兵衛だ」
ハチの交渉は周りから見れば彼が死に急いでいるようにしか見えなかった。仲間たちは日本語でしきりに彼に交渉をやめるように説得するも彼は聞き入れる様子ではなかった。
しばらくするとテロリスト側はハチの要求を受け入れ彼を廃墟の壁の前に立たせた。さらに見張り一人を残して残り全てが彼に銃口を向けた。
「それだと俺が無駄死になる。せめて見張りには銃を下に向けさせろ」
「どうせ貴様は今から死ぬんだ、それくらいは引き受けよう」
ハチとラシードのやり取りが終わり、見張りの男の銃口が下がるとラシードは右腕で銃を構えながら左腕を上げた。それに連なるようにテロリストたちは引き金に指をかけ今にもハチを撃とうと狙いをさだめた。
そして、ラシードの左腕が振り下ろされた。
一斉にテロリストたちが引き金を引き轟音と共に無数の銃弾が彼に襲い掛かる。
それに反応したハチは素早く壁に向かって飛び上がり三角とびの要領で壁をける。勢いそのままにラシードを目指して襲い掛かった。
ハチの跳躍はテロリストたちを驚愕させた。その速さは人のものではなく言うなれば獣、それも獲物を狩る肉食獣のようであった。
ハチの人間離れした動きに一瞬気をとられたテロリストたちであったが彼にはその一瞬で事足りていた。
跳躍の勢いそのままに着地しラシードに駆け寄ったハチは彼の胸元にラリアートを炸裂させた。ハチの右腕に振りぬかれラシードの体が空中で回転する。
ハチは回転するラシードが地面に着くまでの数秒間に見張りの前に移動し殴りかかった。
ラリアートと地面への激突の衝撃でラシードは気絶し見張りもハチの一撃で意識がほとんどなくなっていた。ハチはすぐさま見張りを肩の上に持ち上げ残りのテロリスト目掛けて投げつけた。その距離は約十五メートル、力任せに投げたところで普通なら届きようがない距離である。
だがハチの投擲は到達した。
さすがにテロリストたちもこの攻撃は難なくかわしたが、常識離れの距離を投げ飛ばされた仲間に驚愕している隙にハチはすでに彼らに接近していた。
そのままテロリストはなすすべもなく全員がハチによって倒される。生死は問わず全員が行動不能になりハチたちは解放された。
こうして事件はハチ一人の活躍で解決した。この件は世論への反響を心配した政府側の思惑により公には発表されることはなかった。しかし、その後に帰国したハチを待ち受けていたのは『組織』と名乗る男たちだった。
ハチは未婚である。したがって帰国後も本来なら所属基地に帰らねばならないのであるが、長期出張明けということもあり休暇を言い渡され実家を目指して電車に乗ろうとした。
切符を買い改札を通ろうとしたところで、スーツ姿の二人組の男に呼び止められた。
「秋田八兵衛さんですね。我々はこういうものです」
二人はお互いに名札を差し出した。そのどちらにも『ブレイバー第四班』との肩書きがあった。
「ええ。そうですが、おたくらは私に一体何の用ですか?」
「あなたの中東でのご活躍を耳にして……ちょっと我々の事務所まで来ていただきたいのですが」
「確かに私は中東での出張から帰国したばかりですが、別に向こうでたいした活躍はしていませんよ」
「そんな謙遜なさらずとも。マシンガンを持ったテロリストの一団に囲まれた状態からお仲間を救出した上で、怪我一つなく返り討ちにしたそうではありませんか」
男の発言にハチは驚いた。帰国前、テロリストとの一件は国内では公表されていないことを聞き及んでいたからであった。
「どうしてそれを」
「我々には独自の情報網があるのです」
「悪いようにはいたしません。遠慮なさらずについてきてください」
ハチが二人に案内された場所は山奥にある山荘であった。人里はなれた場所につれてこられてハチはさらに警戒心を強めた。
「わざわざこんなとこまで連れ出して、一体何のつもりですか?」
「すぐにわかりますよ」
そういわれてハチは山荘の中へと案内された。通された部屋はその広さに不釣合いに小数の椅子がまばらに置かれただけの殺風景な部屋でその中央には一人の男性が座っていた。
指示されたとおり男性の正面の椅子に座ったハチにその男性が話しかけた。
「秋田さん、はじめまして。私は名雲と言います。部下の無礼は私から謝らせていただきます」
「これはご丁寧に」
「早速ですが、あなたには我々の管理下に入っていただきます」
「なんだと?」
「組織の一員になるか、死んでいただくかです」
名雲と名乗る眼前の男は丁寧な口調をしていた。だがハチは彼のことを妙に気に入らなかった。
そう思っていた矢先、名雲は物騒なことを言い出す。「死んでいただく」などと言われて穏やかでいられるわけがない。
「いきなりこんなところに連れてきておいて、あんたらは俺を殺す気か?」
「いえいえ、そんなつもりでは」
「じゃあ何だって―――」
「落ち着いてください。これにはまずあなたが『異人症』を発症しているということを理解してもらわなければなりません」
「異人症って何だ? その言いぶり、もしかして俺が病気かなにかだとでも言いたいのか」
「はっきり言ってそうです。あなた……自覚症状があるでしょう?」
「何のこ―――」
ハチは言いかけたがふとあることに気づき口をつぐんだ。
「どうやら気付いたようですね。あなたの中東での行いは、普通の人間にはほぼ不可能な芸当なのですよ。我々の組織にはいくつかの部署があるのですが、私が任されている第四班の仕事はあなたのような異人症患者の管理です。なので異人症であるあなたには我々の管理下に入ってもらいたいのです」
「それが、一員になるって事か」
「ええ。ですが、自衛隊の仕事のほうを続けたいというならば無理強いをする気はありません。あそこにはツテがありますので、あなたさえよければ急な仕事ができたときだけ、あなたのことを貸してもらう事だってできますので」
「じゃあ『死んでもらう』というのは?」
「あなたが周囲に危険を及ぼす前に死んでいただければ、我々も管理する必要がなくなるということです。我々もむやみに人殺しがしたいわけでもありません。まあ最後の手段ですよ」
「それってつまり、使えるものは仲間にして、使えないものは殺すってことか」
「別に殺す気があるわけではないのですが、やむおえない場合は―――」
「俺はそんな奴らのためにこの力を使う気はない」
激昂したハチは名雲の左手側―――彼から見て右手側の男の襟元をつかみ、その男を反対側の男に叩きつけた。
中東での一件以来、異常なまでに筋力が増大していたハチの怒りに任せた攻撃は一般人が受けようものなら一撃で死んでもおかしくはない攻撃である。
組織の荒事専門として鍛えられた二人ではあったが攻撃の勢いで壁に打ちつけられた二人は瀕死の重傷を負った。
「交渉決裂……いや、この行動はもはや手遅れのようですね」
「手遅れ? なんのことだ」
「つまりあなたは回復の見込みなし、このまま死んでもらうということですよ」
立ち上がった名雲はおもむろに手刀を繰り出した。正面の彼には到底届きようがない距離があったが、ハチの体は切り裂かれていた。ハチは動物的なカンでとっさに防御したが攻撃を受けた左腕はざっくりと裂けて深手を負った。
「このままでは……俺はこんなところで死んでなんかいられないんだよ!」
このままでは殺されると悟ったハチは大声をあげると部屋のドアを蹴破り全速力で逃走した。
それから三日が過ぎた。
逃走しながらの三日間、所々で休憩を取りつつも走り続けたハチはこの町にたどり着いた。
別にハチは行き先を意識してはいなかったが故郷にたどり着いたのは帰巣本能であろうか。
しかし、組織は先手を打っていた。
実家の弟には迷惑をかけたくないと思ったハチは夜は人気がないダンナ沼を目指した。
だがその途中で組織に見つかった。そしてあわてて逃げ込んだ休息小屋でハチはあけのと出会った。
ハチは軽はずみな判断であけのを巻き込んでしまったことを後悔した。
たとえ彼女自身が言い出したことであれ、偶然出会った少女が組織に狙われるような存在であろうとは思わなかった。
無責任にいえばハチにとって、あけのはまさに赤の他人であろう。彼女をおとりにすれば逃げられる可能性も充分ある。だがハチにはあけのを見捨てることはできなかった。三人の職員が小屋を調べに近づいてくる中、ハチは全力で小屋から飛び出した。
「そいつを放せ」
ハチはあけのの近くにいた隊員を突き飛ばし、あけのを抱えたまま林の中に消えていった。
別の隊員は手に持っていた麻酔銃で一斉にハチを攻撃しそのうちの何発かはハチに命中していた。
走り去る中、あけのはしきりに「なぜ自分をおいて逃げなかったのか」と問い詰めたがハチは終始無言を保つ。
林を抜けたあとハチがたどり着いたのは市立中学の旧校舎だった。
この学校はあけのも卒業した学校であり馴染みがある。旧校舎は中学校の敷地内にあり新校舎ができて以降も二十年近く予備の教室として使われていた。築五十年の建物と歴史が古いが普段は寄り付く人はいない。
「巻き込んでしまってすまない」
旧校舎の中に入り一呼吸ついたところでようやくハチは沈黙を解いた。
「そんなの別にいいって言ったでしょ。それよりなんでわたしを置いてさっさと逃げなかったのよ」
「俺の責任だからな」
「責任って何のことよ。ハチに協力したのは自分の意思よ」
ほぼ初対面であるにもかかわらず、あけのはハチのことを心配している。彼女は怒りをあらわにしているがそれはハチに巻き込まれたからではなくハチを心配してのものである。
「落ち着いてくれないか、まず聞いてもらいたい話がある」
ハチは自身の持つ力となぜ組織に追われているかの経緯をあけのに説明した。だが突飛な話にあけのはあまり理解できてはいないようであった。
「それとわたしを助けたことに、どういう関係があるの? 追われているのはハチの方でしょ」
「あいつらが言うにお前はホルダーとかいうものらしい」
「どうしてそんなことをあんたが? そもそもわたしはハチみたいな力なんか持っていないよ」
「さっきあいつらが言ってたんだ。どうやら俺の『異人症』と関係があるそうだが……たとえ何かの間違いでもあんな奴らに関わらせたら何をされるかわからなすぎる」
「もしかして、それってハチはわたしを心配してくれているってこと?」
「それはもちろんだが……それ以前にこれは俺の信念だ。この力を手に入れたときからのな」
「信念ね……って、突然どうしたのよ」
信念
そう告げたハチは眠りだした。
突然ぐったり倒れたことに驚いたあけのであったが眠っただけとわかるとあけのはその場を立ち去った。