聖剣を直す為に
エイミ―の作ったバイクは問題なく稼働している。
「おー速い速い!」
エイミーも喜んでいるようだ。実際に稼働はしていなかったのか? そう考えるとちょっと怖かったけど、もう動いているんだし……信じるしかない。
因みに、アルは置いて来た。乗せられないからね。仕方ない。
馬車で二週間の道のりをどんどん進んでいく。
そして、驚くことに夕方には剣魔の里に着いてしまった。
「馬車で二週間の道のりが、たった半日くらいか……」
「ぶいっ! 流石、私の発明ね」
これが量産化されたら、恐ろしい程に発展しそうだな。
これはブラックボックスとして、公表しない方が良いのではないか。
とりあえず、剣魔の里の近くにバイクを止めて、村長の家に急いだ。
家の周りの訓練所には誰もいない。今は皆、訓練が終わって休んでいる頃なのかな。
久々の村長の家だ。なんだか緊張する。
「失礼します」
「しまーす」
声を掛けて、中に入る。
「誰じゃ!」
懐かしい声だ。村長の声が聴こえた。
「クリスです。クリス=オールディスです!」
「クリスだと!? 中に入れ!」
ブーツを脱いで、中に入る。
エイミーがブーツのまま入ろうとするのを止めて、脱ぐように指示した。
最初、納得していない様子だったが、とりあえず脱いでくれた。
相変わらず、デカい部屋の奥に村長はいた。
「クリスか。久しいな。元気にしていたか?」
「はい。おかげさまで」
目をじっと見つめられる。俺もその目を見返した。
「……どうやら。剣士として成長したようだな。幾度も死線を乗り越えたのだろう」
「ありがとうございます」
死線を乗り越えた、か。確かにそうかもしれない。戦争に二回も参加したし、聖剣の試練でも死にそうになった。
そう思えば、修羅場を乗り切って来たのか。
「そちらの女はなんだ?」
村長がエイミ―について聴いてきた。
「こちらはエイミー=ラバル。俺の旅の仲間です」
「エイミー=ラバルです。よろしくお願いします」
村長がエイミーの名前を聴いて驚いている。ラバルというのはそれだけ有名な発明家という事なんだろうな。
「なるほど。まずは夕飯にするぞ。食っていけ。話はそれからだ」
「ありがとうございます。村長」
そして、夕食になった。
「まさか、クリス君が戻ってきているなんてね! しかも女の子も連れて!」
カーラさんは大人びているようだ。赤茶の髪は少し伸びたのか肩口まで伸びていた。
「カーラさん……。まぁ、間違いじゃないですけど。ぐほっ」
エイミーに腹を殴られた。
「バカ。何言ってるのよ」
少し顔を赤くして殴って来た。流石に人前だと恥ずかしいか。
「それにしても、あんなに大見え切って出て行ったのに、直ぐに帰ってくるなんてな」
セシルは相変わらず、煽ってくる。
「それは少し村長さんに聴きたい事があるから来ただけだ」
「まぁまぁ、とりあえず夕食を食べましょう」
カーラさんの一言で黙々と夕食を食べた。
そして、夕食後。
「して、何用で参った。クリスよ」
村長から問われる。
「まずは、これを受け取ってください」
そう言って、布を解いて、聖剣エクスグラスを村長に渡した。
「こ、これは! 聖剣エクスグラス。クリス。どこで、手に入れた!」
「聖歴七百五十年の勇者から」
その俺の答えに皆、疑問を抱いたようだ。そりゃそうだ。過去から持ってきましたと言われても納得できるわけない。
と、いうことで村長達に全てを話す事にした。
「――。というわけなんです」
俺の長い説明に三人は唸っていた。にわかには信じられないのだろう。だけど、聖剣エクスグラスはここにある。認めるしかない。
「道理で、死線を乗り越えた目をしていると思った。そういうわけだったか」
村長が一つ溜め息を吐いた。
「聖剣エクスグラスは聖歴五百五十年にグラス=アルバーンが創ったと聴きました。もしやと思い、村長を訪ねたわけです」
「なるほどな。そう言う事か。して、クリスよ。これで何をするつもりだ?」
「世界を救う為に」
ハッキリと答えた。五年前と同じ答えだ。それは変わらない。
「ワハハッ! そうか。お前の覚悟はこの為だったのか。やっと理解できた」
「村長は聖剣エクスグラスを直す事は出来ますか?」
俺の問いに髭を人撫でする村長。
「剣士は剣を知らねばならない。我らアルバーン家は剣については誰よりも詳しい。直す事は可能だ」
「ほ、本当ですか!?」
直す事が出来る! それは願ってもない答えだ。
「ただし、必要な物がある」
「必要な物ですか?」
「星の欠片だ」
星の欠片。それは材質の事か? なんなのか。
「聖剣エクスグラスは空から降って来た鉱石。通称、星の欠片を使って創られた。それが今は無い」
「では、それがあれば聖剣エクスグラスは直せると?」
俺の問いにゆっくりと頷く村長。
「ああ、ただ星の欠片とは、聖歴元年に降った隕石の事だ。そもそも聖歴とは星が降った日からつけられた年号」
なるほど。聖と星がかかって聖歴とな。であれば、それを手に入れれば良いわけだ。
「ありがとうございます。その隕石ですが、どこに落ちたとかは分かりますか?」
「それは、ここだ」
「は?」
それは、剣魔の里に落ちたという事か? 何という好都合な。
「なんとも言えないわね」
エイミーも微妙な顔をしている。
「とりあえず、聖剣エクスグラスは村長にお渡しします」
「そうか。分かった。クリス達はどうするのだ?」
「俺達は星の欠片を取りに行ってきます」
「タイムマシン。本当にあるのだな……」
村長もタイムマシンがあるのは未だに半信半疑の様子。
仕方ないだろう。
「とりあえず、今日はもう夜だ。明日にしろ」
「分かりました。お世話になります」
「もう、お爺ちゃんは勝手に決めちゃって! まぁ、良いけどさ」
カーラさんも困り顔だ。いきなりの訪問だから迷惑かけちゃったな。
「ふん……」
そして、セシルは何故か納得したような顔をしていた。
その日は、カーラさんに用意してもらった部屋で寝た。
そして次の日。
「では、村長。カーラさん。セシル。ありがとうございました。星の欠片を取ってきます」
「うむ。待っているぞ」
「気を付けて行ってきてね」
「ふん」
俺達はそのまま村長の家を後にして、バイクの下に向かった。
バイクに乗ってタイムマシンのとこに戻る。
夕方にはエイミーの家に着いた。