剣魔の里へ
まさか、ここで村長一家の名前を聴くとは思わなかった。
余りの動揺に返事が遅れてしまう。
「ありがとうございます!」
ただ、アルバーンとはいえ村長一家とは限らない。一応場所も聴いておいた方が良いか。
「その方の所在などは分かりますでしょうか?」
「ここから、二、三週間程度の場所に村がある。そこにアルバーンを名乗る子孫がいるだろう」
二、三週間。現代の聖歴九百五年だと、馬車で二週間だ。これは、紛れもなく剣魔の里の事だろう。
と、言う事は村長一家が子孫である可能性はかなり高くなった。
「他に、望む物はあるか?」
「いえ! 特には御座いません!」
俺の答えに、国王は満足気だ。
「前と同じく殊勝だな。では、前と同じく金貨十枚を受け取れ」
貰える者は貰っておく。ありがたいね。
騎士が小袋を持って、歩いてくる。
俺はそれを両手で受け取った。
「ありがとうございます!」
「うむ。良い働きであった。……ああ、それと我らはこの砦を放棄する事に決定した」
砦を放棄? ここを捨てるってことか。なんでだろうか。
「それは、何故で御座いますか?」
「次の戦が起こった時には壁は脆く、門は急造した者になるだろう。守るには難しい。なので、戦線を後退して、王都で防衛することにしたのだ」
なるほど。確かに、ぼろぼろの砦を大事に守る必要もない。魔王軍がここを拠点にするなら、逆に脆い部分を突いて落とせば良いだけ。
そう考えると、勿体ないとはいえないな。戦略的撤退という奴だ。
「承知しました!」
「此度の戦は、良くぞ活躍してくれた。次の戦も期待しているぞ」
「はっ! お任せください」
退出を促されたので、一礼してから部屋を出た。
扉が閉まる音を聴いてから、皆に伝える。
「とりあえず、部屋に戻ろう。話したい事もある」
「ええ、わかったわ」
「了承」
部屋に戻って、椅子に座る。エイミーはベッドの上に座っていた。アルは部屋の真ん中で立っている。
エイミーが仕切って、今回の情報を整理する。
「今回、国王から手に入れた情報は――」
一つ、聖歴五百五十年に創られた。
二つ、創った者はグラス=アルバーン。
三つ、材質は分からない。
「という感じね」
分かりやすい。三つ目の材質が分からないのは、残念だがそれは仕方ない事。
「聖剣エクスグラスを守っていた試練の白い狼。あれも名前はグラスだったわね」
「確かにそうだな」
そういえばそうだ。自分の事をグラスと呼んでいた。一体どういう理屈か分からないが、関係が無いわけではないだろう。
「あー……。それで言いたい事があるんだが、二つ目のアルバーンについては、知っているかもしれない」
「え!? そうなの? 誰なの!」
エイミーは驚きながら問い掛けてくる。
「俺が剣魔の里で修行していたのは知っているだろ?」
「うん。知っているわ」
「そこの村長一家の名前がアルバーンというんだ」
余りの驚きに口が塞がらないエイミー。
「うわぁ……。なんて偶然」
「そうなんだよなぁ。子孫なのか。それとも、ただの別人か分からない。でも、国王が言っていたアルバーンの子孫の所在地は、剣魔の里とかなり近い」
「と、なると子孫の可能性は高いってわけね」
「そういう事だ。さて、ここでどうするか。という選択肢が出てくる。まず――」
一つ、 聖歴五百五十年のグラス=アルバーンに会う。
二つ、 現代の剣魔の里に行ってみる。
大体こんな感じだ。
「うーん。聖歴五百五十年のグラス=アルバーンに会えれば、確実なんだけど……。二、三週間かかるって話だしね」
「そこが問題なんだよな。恐らく、道も舗装されてない集落の可能性が高い。時間がかかるのは確実だろう」
さて、どうするか。そもそも、グラス=アルバーンに会えるかも分からないしな。
「現代の剣魔の里に行ってみましょう! 幸いにもクリスが知り合いなんだしさ。ここは思い切って聴いた方が良いわ。現代なら時間を短縮する手もあるのよ」
時間を短縮する方法? なんだろうか。でも、短縮できるなら現代から聴いて見るのも良いかもしれないな。
「そうか。なら、現代に戻って聴いて見よう」
「そうそう。そうしましょう」
現代で駄目なら、聖歴五百五十年のグラス=アルバーンに会えば良いのだ。
時間は掛かるけど、それは仕方ない。
「じゃあ、今から現代に戻るか」
「賛成! もう、ここには用はないしね」
「了承」
となれば、荷物をまとめて出発だ。
昼食を取ってから、タイムマシンの下に着いた。
「じゃ、現代に戻るわよ」
エイミーがタイマーを九百五に合わす。
そして、ボタンを押した。
タイムマシンが激しい音を出しながら起動。
歪みが生じて、空間が現れた。
「よし、戻ろうか」
「ええ!」
俺達はその空間に入って行った。
光の先に着くと、そこはエイミーの部屋。
汚い、いつも通りの部屋だ。うむ、懐かしい。
「ふう。なんか落ち着くな」
「あははっ、そうね」
エイミーも自宅に着いたので、幾分か顔が明るく見えた。
「それで、時間を短縮する手というのはどんなものなんだ?」
エイミーが何故か誇らしげに言う。
「それはねー外にあるのよ」
という事で、家の外に。そして、家の裏側に着いた。
「じゃーん! これです!」
エイミーが見せつけてくるそれは、二輪のバイクに見えた。
「ま、まさか! バイク!?」
「バイク? まだ、名前は決めてないわ。簡易魔導車よ」
凄いな。バイクまで作っていたとは。これなら、馬車で行くよりかなりスムーズに行く事が出来るだろう。
「ここの魔石に魔力を充填すると、後輪が動き出す仕掛けなのよ」
「エイミーはやっぱり天才だなぁ」
この世界にバイクを作ってしまうなんてな。
「え? そう? まぁ、知ってるわ」
何故か当然と胸を張っている。でも、確かに天才なのだ。構造を知りもせずに、これを作れるのだからな。
五十年後の魔導車を見てこれを開発したのか? 物凄いぞ。
「ま、今から行ってもあれだし。今日は家で一泊しない?」
「そうだな。これなら、かなり早く着けそうだしな」
俺達はエイミーの家に戻って、寝ることにした。
そして、次の日。
バイクを稼働する。そして、エイミーが後ろに乗って俺の腰に抱き着いてくる。
「ぶー……。私が運転したかったのに」
「お前が運転したら、死ぬかもしれないだろ! 未来の魔導車の事。忘れたわけじゃないだろうな!」
「別に問題なかったから良いじゃない!」
ムキになって言うエイミー。確かに問題は無かった。事故は起きなかった。だけど、それだけだ。問題大ありです。あのままだと大事故になるだろう。なので、エイミーには任せられません。
「良いから、行くぞ。しっかり掴まってろよ」
「はーい!」
アクセルを回して動かす。さて、剣魔の里に行こう!