聖剣の鍛冶師
なにか頬を突かれている感触がある。なんだろうか。
鬱陶しい。寝かせてくれ。昨日は疲れてへとへとだったんだ。今日くらいのんびりさせてくれても良いだろう。
だが、頬を突く感触は無くならない。
ええい、なんだよ!
俺が目を覚ました時、エイミーが俺の頬を突いていた。
「エイミーだったのか。もう少し寝かせてくれよ」
俺のうんざりした声にエイミーが答える。
「あら、もう朝も遅いわよ。そこまで起きるのを待ってたんだから感謝して欲しいわ」
そうなのか。もう、そんな時間だったのか。立ち上がり、窓を覗いて太陽を見る。
確かに、早朝とは違って太陽は結構昇っていた。
「うーん。寝たりん。もっと寝かせてくれ」
「えー、そろそろ朝ご飯食べに行きましょうよ」
朝飯か。そう言われると、腹が空いてくる。仕方ない。朝飯を食べるとするか。
「言われたら俺も腹減って来た。行くか」
「はーい」
俺達は食堂に向かって、歩いていく。
そして、食堂に着いた。
するとこちらに向けて視線が一斉に向いてくる。
「え、英雄殿だ!」
「まじか、英雄殿か!」
「俺、握手してもらおうかな」
と、大騒ぎである。いやぁ、有名人は辛いね。
とりあえず、良いから朝飯を食べさせてもらおう。
配膳を頂き、手ごろな椅子に座って朝飯を食べる。
「なんだか、今までとは雰囲気が全然違うわね」
エイミーがそう言う。確かにそうだ。周りを見ると、楽しそうに会話している兵士やカードで遊んでいる兵士もいる。
「戦争が終わったから、気が緩んだのかもな」
「そっか。そうよね」
それもそうだ。なにせ、四日間も戦争は続いていたのだ。
その時の兵士達の顔は、死んだ魚のような目をしていた。
誰もが顔に死相が出ていたしな。
それを考えれば、やっと落ち着いたと気が緩んでも仕方ない。
俺もそうだしな。大戦果を上げたという喜びよりは、寧ろやっと戦争が落ち着いたという安ど感の方が強い。
それだけ、張り詰めた糸のような四日間だった。
だって、そうだろ? 攻城塔を破壊しろ! みたいなニュアンスの命令を受けたり、ハッキリとカタパルトの的になれと言われたんだぜ。
いつ、死ぬか分からなかったよ。本当にな。
「みんな楽しそうね」
「ああ、本当にな」
これが日常。これが普通なのだ。誰もが安心している。
そして、それを終わらせる事が出来た。その実感がどんどん沸いてきた。
俺がタータルハードを倒したんだな。俺が、戦争を終わらせる決定打を打ったのだ。
「あの! 英雄殿! 握手をお願いします!」
俺と同年代がそれくらいの若い兵士が、俺を尊敬の眼差しで見つめてくる。
「はいよ。お疲れ様」
「ありがとうございます! 英雄殿!」
若い兵士は嬉しそうに去っていった。
「人気者ね」
くすくすと笑うエイミー。それに苦笑する。
「本当にな……」
皆の不安を取り除くことが出来た。希望を与えることが出来た。
そう考えると、こんなパンダみたいな扱いも悪くないかもな。そう思った。
朝食を食べ終えて部屋に戻ると、扉をノックされた。
「英雄殿! 国王陛下がお呼びです!」
胸が高鳴った。遂に来たか。俺達の本当の目的。さて、聖剣エクスグラスについてなにか知っているのだろうか。少しでも情報が手に入れば御の字だが……。
「はい! 承知しました!」
エイミー達を見て、頷く。行こうか。
扉を開けると豪華な鎧を着た騎士が立っていた。
その鎧も少し、血に濡れて黒ずんでいる。
彼も戦ったのだろう。そして、生き残った。
あの地獄を戦い抜いたのだ。何故か、親近感が沸いた。
階段を上がり、豪華で大きな扉の前に進む。また見ることが出来たな。謁見の間を。
前回同様、騎士が両脇の兵士達と軽い問答をするや、俺達の身元確認も無しに扉を開けた。またか。警備がザル過ぎ! と言いたいが、国王陛下が良いなら問題ないのだろう。前もそうだったしな。
扉の先は赤い絨毯が敷かれた床や、一段高い玉座に座る男性と女性の姿が確認できた。
王と王妃だ。
その両側には十数名の豪華な鎧を着た騎士が待機している。
謁見の間に進み出て、先導してくれた騎士が玉座から四メートル程の位置にて止まる。
そこで、護衛の騎士は脇にそれて跪いて頭を下げた。
流石に二回目なので迷わずに、直ぐに脇にそれた騎士と同じように跪いて、頭を下げた。
「面を上げよ。また会う事が出来たな。クリス=オールディスよ」
「はっ! また、お目にかかることができて光栄です!」
国王陛下は嬉しそうに笑っていた。
だが、その目には隈が出来ている。国王も王妃も兵一人一人を労っていた。
それに、情報が集まる所だ。心労も大きかっただろう。
「此度の戦もクリス=オールディスが、四魔将が一、タータルハードを討ち取ったおかげだ。感謝するぞ」
「勿体なきお言葉です」
「そう、謙遜するな。クリス=オールディスが戦争に終止符を打ったのだ。さて、ではあの時と同じで褒美を授けようと思うのだが、何か希望はあるか?」
きたか。つい、エイミーを見てしまう。エイミーも頷いている。
「では、聖剣エクスグラスについてお教え願いますでしょうか」
その声に部屋が静まり返る。
「聖剣エクスグラスは折れた。腰抜けのイアンの手によってな。それを承知で聴きたい、と。そう申すか?」
腰抜けのイアン。久しぶりに聴いたな。イアンはそんな奴じゃない。だけど、周りから見たらそうなんだろうな。
「はい。出来れば、誰が聖歴何年に創ったのか。材質はなんなのか。他にも些細な事で良いのでお教え願います」
国王は溜め息を吐いた。
「……それを聴いて、何が目的だ?」
どうする? ここは言った方が良いか? 分からない。だけど、嘘をつく程のペテン師でもないのだ。
ここは、目的を言ってしまった方が良いだろう。
「聖剣エクスグラスを鍛え直す為です」
俺の声に皆、驚きの声を漏らした。
「聖剣エクスグラスを鍛え直す、と申したか」
「はい。その通りです」
「その目的はなんだ?」
ハッキリと目を見て答える。
「魔王を倒す為に」
「魔王を倒す為か……」
国王は唸る。そして。
「あい分かった。では、聖剣エクスグラスについて教えよう」
「ありがとうございます!」
良し! ついに情報を手に入れる事が出来る。心音が高くなった。
「聖剣エクスグラスは聖歴五百五十年に創られた」
聖歴五百五十年。ということは今から二百年前ということか。
「そして、聖剣エクスグラスは材質については分からない。すまんな。それは、伝えられていないのだ」
「いえ、問題ありません」
材質は分からなかった。だけど、聖歴五百五十年に創られたのだ。それが知ることが出来ただけでも収穫は大きい。
なにせこちらにはタイムマシンがあるのだ。聖歴五百五十年なら行く事も出来る。そこで聴けば良いのだ。
「それで、誰が創った者なのですか?
国王は呟くように言った。
「……ルバーン」
「はい? もう一度お願いします」
「グラス=アルバーンだ」
グラス=アルバーン。それが創った人の名前か。
はて、なんか聴いたことがあるような名前だ。
どこかで聴いたような……。
アルバーン。アルバーン……。
セシル=アルバーン。カーラ=アルバーン。
そうだ。アルバーンは剣魔の里の村長達一家の名前じゃないか!




