マッチ売りの魔女と肉好きの黒猫
冬童話2018の提出作品です。
よろしくお願いします。
雪が粛々と降る寒空の下、一人の少女が体を縮こませながら、通りかかる人達に声をかけていました。
「マッチ、いかがですか。どなたか、マッチを買って頂けませんか」
しかし、誰一人として少女の前で足を止める人は居ませんでした。
「お願いします、お願いします。どうかマッチを……」
通り過ぎて行く人の背中に訴えるように、少女は懇願しますが、それでも振り向いてくれる人はいませんでした。
夜も更け、街灯の温もりだけを残したこの街では、外で立ち止まる人なんてどこにも居ません。みな、暖かい家へ足早に帰ってしまいます。
そんな時、足取りのおぼつかない、顔を赤らめた紳士が少女の前で立ち止まりました。
「やぁ、おじょーすあん。良い年うぉ」
「そこの方、マッチはいかがですか? 1本だけでも構いません。どうか買って頂けませんか?」
「うぃっく。あんだってぇ?」
赤顔の紳士はどうやら酔っているようでした。随分呑んでいる様子で、お酒の臭いが漂って来ました。
「紳士様、一本いかがですか?」
「んんっ?」
赤顔の紳士はふらふらと、微笑んだ少女へと歩み寄って行きました。
「ほっ。こんら年の瀬に、大変じゃらいか、よしっ、買ってやる」
「ありがとうございます、素敵な紳士様」
赤顔の紳士はニヤニヤしながら少女の腰に手を回し、顔を近づけました。
「ういっく。おじょーすあん、よくみるろ色っぽいじゃらいか」
少女は細身の割に胸が大きく、胸の谷間を惜しげもなく晒してスカートも短めと、この季節には不釣り合いな格好をしていました。
「ういっく。なるほろ。おじょーすあん、ちょうろ俺もたまってらんら」
少女は辺りを見渡し、目の前の酔っぱらい以外、人は見られない事を確認すると、
「紳士様、こちらへどうぞ」
少女は赤顔の紳士の手を取り、早々と閉めてしまったパン屋の横へ案内しました。
「ういっく。おや、こんらところにろじうらら……」
赤顔の紳士は少女に引っ張られるまま、路地裏の中へと入って行きました。建物の隙間を縫うように、奥へ奥へと……。
「ここなら、誰もいません」
「ういっく」
赤顔の紳士はふらふらとしながら、少女に体を寄せて、短めのそのスカートをたくし上げ──
──路地裏で、赤顔の紳士は日々の鬱憤を少女にぶつけていました。
「俺のなーにがわかるっていうんら! デブ上司めがぁっ」
「紳士様の頑張りをわからないなんて、無能な上司ですね」
「大体、ぬぁーんでこんな大晦日の夜中まれ仕事させるんだおっ。チクショウっ」
「紳士様、遅くまでお疲れ様でした」
「はへぇ〜、ニャるほど〜」
「あんのデブ上司、覚えてろお! あのデブっ腹にチーズを挟んでやるろっ!」
「紳士様、トマトも挟んでしまいましょう」
「ミアはトマトは嫌いだニャ。サーモンがいいニャ」
「んぁっ!? サーモン!?」
目の前の少女とは違う声に気付いた赤顔の紳士は、辺りを見回しました。が、他に人気は見当たりません。
「どうされました? 紳士様」
少女が後ろを振り向き赤顔の紳士に声をかけました。
「……いや、なんでもない。気のせ……」
「暖かいミルクもほしいニャ、そして暖炉の前ですやすやお眠りするニャ」
「誰だ!?」
赤顔の紳士は叫びました。何処からともなく聞こえる声の主を求め、左、右を見て、上も見ましたが誰もいません。
「そこかっ!」
赤顔の紳士は自分の足元に視線を落とすと、声の主を見つけました。それは、尻尾をぴんと立てた真っ黒な猫でした。
「ね、猫!? 猫がしゃべった!?」
「アニー! ターゲットだニャ!」
黒猫が声を上げると、空から雪色の髪の少女が降ってきました。
「おじさん! ちょっとどいて!」
「え? ええっ!?」
赤顔の紳士は何事かさっぱり理解ができず狼狽えました。空から少女が自分目掛けて飛んで来るのです。紳士は慌ててその場から転がるように離れました。
「よっと」
雪色の髪の少女は、赤顔の紳士が元いた場所に軽やかに着地、すかさず身につけていたポーチを開けました。
「アニー、黄色のマッチニャ」
「わかってるって!」
雪色の髪の少女は、ポーチの中から取り出したマッチに火を付けました。すると、そのマッチは燃える代わりに眩い光を放ち、弾けてしまいました。
「うあっ、眩しい! なんだこれはっ!?」
程なく閃光は静まり、月と建物の窓から漏れる光だけで照らされた路地裏に少しずつ戻り──
『ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!』
突然、マッチ売りの少女が悶え、苦しそうに叫びました。その獣の様な叫び声に、赤顔の紳士は驚きました。
「ひゃあっ!? ば、バケモノっ!?」
なんとマッチ売りの少女の可愛らしい姿はどこかへ消えてしまい、代わりに顔の肉がただれた老婆がそこにいました。
「ナニモノだオマエは! よくもワタシの邪魔をシテクレタナ!!」
老婆の化け物は体液を撒き散らしながら怒りを露わにして雪色の髪の少女を睨みました。
「私はアニー。本名は『雪下 アンナ』元コンビニアルバイトで、今はマッチ売りのアルバイトよ! 覚悟しなさい!!」
赤いポンチョコートを羽織り、肩がけのポーチを下げたショートボブの少女。雪のように真っ白な髪色の少女が、化け物の前に立ちはだかる。
睨んでくる老婆の化け物に、アニーはマッチの先を向けて不敵に微笑み返します。
「ねぇアニー。その決め台詞、意味分からないニャ」
「しょうがないでしょ! 役職も戦歴も無いんだから!」
アニーは足元にいる黒猫を睨みました。
「どうせ予定の無い私は、異世界に来てまでアルバイトの日々ですよ……ふんっ」
「もしかして一人? かニャ?」
黒猫のミアは、白い靴下を履いたような毛色の前足を口に当てて、下衆な顔でアニーを見上げました。
「うるさい」
「……目が怖いニャ」
「……凍て付く寒さの中、クリスマスケーキを通り過ぎのカップルや家族連れに寂しく売る私。そんな時、喪服のおばあさんが現れ私にこう言った──」
『魔女になっちゃいなよ』
「とか言ってきたもんだからつい私もノリで『時給が良ければ』とか笑いながら答えた瞬間、この世界よ!? 私の方が意味分からないんだから!」
「そのやり取りはともかく、すべてはモテ無いのが原因だった、ということかニャ?」
「うるさい、だまれ」
「……ニャハ」
アニーは歯をギリギリとさせながら、ミアを憎たらしく睨んだ。
「魔女の力を与えられ、こんな仕事まで強要してくるあの喪服のおばあさんは何者なの!?」
「マスターの考えてる事はミアにもわからないニャ」
「もうっ!」
アニーは地団駄を踏んで不満を露わにしました。そこへ、赤顔の紳士が駆け寄り声をかけてきました。
「お、おいっ! あんたら! こ、これはいったい……」
赤顔の紳士の質問をよそに、アニーとミアは動き出した老婆の化け物に瞬時に反応して動きます。
「アニー! 来るニャ!」
「わかってますって!!」
『ウオォォォォォォー!!』
老婆の化け物がアニー目掛けて襲いかかってきましたが、アニーは軽やかなジャンプで避けました。着地と同時にポーチに手を入れ、赤顔の紳士に声をかけます。
「さて、そこのおじさん」
「な、なんだ!?」
「おじさんの疑問にお答え致します。あの老婆の化け物は、夢の世界の住人。夢の世界で彷徨う人間を引きずり込んで喰らう化け物『夢魔』っていうの」
「むま? はん、名前なんてどうでもいい! あの化け物を何とかしてくれ!」
そこへミアが赤顔紳士の足元まで来て言いました。
「そこの変態で男の癖に女の子に頼る駄目紳士様。夢の世界で彷徨う人間、つまりはあなた様のことニャ」
「は? 何が言いたいんだ?」
アニーがポーチから赤色のマッチを取り出して着火。すると真っ赤に燃える火の玉が現れ、アニーはその火の玉を化け物めがけて思いっきり投げました。
「そぉぉぉれっ!!」
火の玉は化け物に見事命中し、その場でさらに威力を増して火柱を上げていました。化け物はその業火に焼かれ絶叫を上げ、うねうねと悶ました。
『ギィィィィィヤアァァァッッ!!』
アニーは赤顔の紳士の横に降り立ち、話しの続きをしました。
「つまり。ここはおじさんの夢の世界。私は、この世界に紛れ込んでしまった人達を、この『魔法のマッチ』で助ける仕事をして、お代を頂いて生活しているんです。あ、使えるのは魔女の私だけですよ?」
「は? ……はぁぁっ!? 何を言っているんだお前は!?」
赤顔の紳士はあまりの事に驚き、とても信じることが出来ないといった様子でした。
「まぁ、そうなりますよねぇ。言ってる私ですら未だイミフですし……」
苦笑いをしているアニーに、ミアが声をかけながら走ってきました。
「アニー、あの方法に切り替えるニャ!」
「はーい。……悪く思わないでね、おじさん」
そう言うとアニーはミアを抱いて、化け物と赤顔の紳士から離れるように何処かへ走っていきました。
「え? ちょ、おいっ!」
赤顔の紳士は遠ざかるアニー達に手を伸ばし困惑しました。そんな赤顔の紳士に危機が迫ります。
『グッグッグググ』
老婆の化け物は炎に焼かれながらも、赤顔の紳士を狙っていたのです。上半身の肉はただれ、骨を剥き出しにしたその腕で、赤顔の紳士の体を掴みました。
「ひぃぃぃぃっ!?」
赤顔の紳士はそのおぞましい姿に恐怖しました。
「ずるむけニャ」
ミアはアニーの肩に乗って丸くなり、赤顔の紳士と化け物を見ています。
「おじさーん。どうしますー? マッチ、買ってくれます?」
化け物に抱きつかれ、今は真っ青な紳士に向けて、アニーは交渉をしました。
「だずげっ!! あああっっ!!」
「えーっ? なんですかーっ?」
「わがっだ! がうっ! がうぅっ!!」
「えへへ、毎度ありがとうございます」
アニーは腰を曲げてお辞儀をし、ポーチを開けて緑色のマッチ箱を取り出しました。ミアはお辞儀をしたアニーの肩から降りて紳士の元へと走り、アニーに声をかけました。
「アニー、術式は忘れて無いかニャ?」
「大丈夫! レジの精算より簡単っ」
アニーはその緑色のマッチ箱を胸に抱いて詠唱を始めました。
『女神ゲフィオンの名において!』
アニーのその言葉に反応し、マッチの封が線状に眩い光を放つ。
「変態紳士様、ちょっと失礼するニャ」
そう言ったミアは赤顔の紳士めがけて飛び掛かり──
「猫キーーーークッッ!!」
「ブッッホォアッ!?」
赤顔の紳士はミアの蹴りに顔をめり込ませながら勢いよく吹き飛んでそのまま数回転がって行きました。綺麗に着地したミアはアニーへと声をかけます。
「こっちはオッケーニャ!」
その合図で、アニーは大きく目を開け、唱えました。
『悪しき者を払う炎よ! ここに召喚せよ!』
アニーはマッチ箱を持った腕を前に伸ばし、老婆の化け物を狙うようにその醜い顔を正面に捉え術式を発動したのです。
【Rain of fire!】
アニーの叫び声と共にマッチ箱から無数の光が飛び出し、乱雑に、それでいて一点を集中するように飛んでいく。
そしてそれは無数の矢となり、無数の炎となって老婆の化け物に注がれていった。
『ギィヤァァァァァァッッッ!!!』
老婆の化け物はそのどしゃぶりの炎を浴びて焼かれ、体が焦げて朽ちるまでその炎の雨は続きました。
──そしてついには化け物も朽ち果て、さすがにもう動く気配はありませんでした。
赤顔の紳士はミアに蹴られた頬に手を当てたまま口を開け、呆然とその様子を見つめ固まっていました。
「お仕事完了!」
アニーは腰に手をあて、誰にあてたわけでもないVサインで満面の笑顔で、無邪気に勝利を喜びました。
ミアは腰を抜かして座り込んでいる紳士の前に出て、呆然としている顔を見上げました。
「さて、紳士様、お代を頂戴するニャ」
「あ……あぁ。いくらだ」
「1万クロネニャ」
その金額を聞いた途端、紳士の目がカッと開きました。
「はぁっ!? 俺の一月分の給料じゃねぇか!」
「死ぬよりいいと思うニャ」
「高すぎるっ! 大体、そんな大金財布に入っているわけないだろう!!」
アニーが怒鳴る紳士に近寄り、顔を覗き込むように言いました。
「分割払いも承っていますよ?」
「そういう問題じゃない! インチキだこんなの!」
「おじさん! 私、ローストポーク食べたいの!」
「ミアもサーモン食べたいニャ」
「だからなんだ! 俺の知ったこっちゃないだろ!」
アニーとミアは顔を見合わせて困った顔をしました。
「わかったぞ、これは詐欺だろう? 今までのはすべて演出で、人を脅してお金を取る寸法だな。馬鹿め、俺はだまされんぞ! 警察を呼んでやる! お前らなんか寒い牢獄で」
『パク』
「あ」
アニーの目の前で、黒い塊が紳士にかじりつきました。ドロドロの体に歯だけが残った、先程の老婆の化け物の果てが執念だけで動いているのです。
「いだぁぁぁぁぁっ!?」
黒い塊は紳士の頭をゆっくりと飲み込んでいきました。
「ミア! あの化け物まだ生きてるよ! 倒さないと!」
「アニー。それはいいニャ。あの紳士様は命よりお金が大事らしいのでうちらの出る幕は無いのニャ」
「ぎゃぁっ、うぁっ!? あああっ! 血!? 血が出てるっ!!」
黒い塊は黙々と紳士の頭を飲み込んでいきます。腰が抜けた紳士は、もがきながら叫ぶだけで逃げるのもままならない様子でした。
「たすけっ! たすけてっ!!」
ミアは紳士に言いました。
「紳士様。うちらが詐欺かどうかはどうでもいいニャ。紳士様が死にたいのかどうなのかで判断するといいニャ」
凄みのある黒猫でした。
「ミア、恐ろしい子」
アニーはミアの腹黒さに震えました。
「悪かった! 俺が悪かった!! 払うから! 約束だっ!」
その言葉を聞いたミアは、少しだけ考えた後にアニーを見ます。
「……こんな所かニャ。アニー、紫色のマッチ箱をお願いニャ」
ミアの指示通り、アニーはポーチから紫色のマッチ箱を取り出します。
「はいはーい」
そして、アニーはミアが頷くのを見て術式を開始しました。
『グラン・マの名において!』
紫色のマッチ箱が光り輝き、一本のマッチが出てきました。
【おばあさんの温かい抱擁】
マッチに火が灯り、その中に優しく微笑むおばあさんの顔が浮かび上がりました。それは、とても暖かく懐かしい気持ちにさせてくれる姿でした。体は小さく、顔も手もしわしわで、そんな手で撫でてくれていた、優しい存在。
黒い塊をそのしわしわの手で包むように優しく。そして──
『にこり』
突然、微笑んだおばあさんの体が膨れ上がり、それに耐えきれずに服がパンと弾けました。すると中からは鍛え上げられた見事な体が姿を現したのです。
「見事な大胸筋と僧帽筋ですニャ」
「え? 今までとなんか違う……」
「ちょっとマッスルなおばあさんニャ」
「……ちょっと」
破けた服の中からはテカテカの大胸筋が剥き出し、スポーツブラはミチミチ、手はゴツゴツとして、その鍛え上げられた腕で、紳士の上半身を飲み込んだ黒い塊を引き剥がそうとします。
「上腕二頭筋も素晴らしいですニャ」
「ミア、さっきから何言ってるのかわからないんだけど」
「仕上がってるニャ! 素敵ニャ!」
「なんなのっ!?」
(仕上がってる、とは筋肉全体に対してのコンディションの良さを褒める言葉である)
おばあさんは紳士の体ごと黒い塊をひょいと軽く持ち上げました。
「おばあさん、筋肉ありすぎじゃない? あ、おばあさんのブラ可愛い。鹿柄だ」
「上腕三頭筋と肋間筋のあの割れ方、たまらないニャ」
「うーん。その感覚、私にはわからない」
「いいよ! キレてるニャ! キレてるニャー!」
(キレてる、とは良い筋の入った筋肉への褒め言葉である)
おばあさんの大木のような両腕が、紳士と黒い塊を分離させようとします。
「うわっ。すごい! すごい歯茎!」
アニーは筋肉とは別の所に反応しました。
おばあさんは体の筋肉全体を使って、黒い塊を頭上に掲げました。するとそのまま半回転して背を向け決めのポーズ。
「うわ、背中の筋肉もすごっ。気持ちわるっ」
アニーはドン引きです。
【バックダブルバイセップス】
(両腕の力こぶを後ろからアピールするポーズである)
「ナイスバルクニャ!」
(ナイスバルク、とは大きさや厚みのある筋肉への褒め言葉である)
おばあさんの暖かみのある筋肉は、どこか優しく懐かしい。
「銀河ニャ! 銀河のような背中ニャ!」
(銀河のように広く幅がある、という意味である)
「あ、おばあさん振り向いた」
【モストマスキュラー】
(やや前傾気味に、僧帽筋と肩と腕の筋肉を全面にアピールするポーズである)
それは、久し振りに田舎に帰ると玄関で暖かく迎えてくれたおばあさんのような、心が安らぐポーズでした。
「うわ、血管すごっ」
アニーは、おばあさんの額と首と腕に一度に浮き出た血管に驚きました。
「ゴリラー! にしても紳士邪魔でよく見えないニャ」
「え? おじさん助けるんじゃなかったのあれって?」
「あ。おばあさん、ラストニャーー!」
「なに、今の『あ』って」
おばあさんはキュートな腕で黒い塊を抱き締めました。そして蒸気を上げつつ黒い塊を溶かし始めました。
「うっわ、すごい血管とすごい歯茎に何か蒸気出過ぎて、なんて言ったらいいのアレ」
「ファイナルバン、ニャ」
「……ファイナルバン」
みるみると黒い塊はおばあさんの蒸気で溶かされ、ついにはその姿は霧散していきました。そしておばあさんもまた蒸気と共に消えていったのでした──
「あぁ、酷い光景だった」
「神々しい光景だったニャ」
アニーとミアが気を失って倒れている紳士の元に駆け寄り、無事を確認。頭に少し怪我をしている程度で命に別状は無さそうでした。
「……さ、今度こそ終わりニャ」
「なんか変に疲れたぁ。帰ってシャワー浴びてテレビ見たい〜」
「そんなものは無いニャ」
「あぁ〜そうだった〜ここ異世界だぁ〜」
「アニー、急激に老けたニャ……」
「ねぇミア。私いつになったら元の世界に戻れるのかしら?」
「それはマスターに聞いてみないとわからないニャ」
「あの喪服のおばあさん『あの子を助けてほしい』そんな事言ってたけど、あの子って誰?」
「ん〜、ミアにはわからないニャ〜」
そう言いうとミアは何処かへ走っていき、アニーも追いかけるように走っていきました。
「ミア〜待ってよ〜」
雪色の髪の少女アニーと黒猫は、寒空の下、積もりかけた雪にその足跡を残してどこかへ去っていきました──
──そして、その足跡もまた、降り続く雪で消えてしまった頃
「ぶぇっくしょいっ」
くしゃみと共に目が覚めた赤顔の紳士は、自分がパン屋の前の街灯を抱き締めながら寝ている事に気付きました。
「あれ? なんでこんな所で寝てるんだ……」
赤顔の紳士は怪訝に思いながらも、こんな雪が積もってきた所に居続けるわけにもいかず、家に帰る事にしました。
「そういや変な夢見たなぁ。うーん、思い出せない」
赤顔の紳士は少しふらついたりはしたものの、無事に家に着くことが出来ました。
その頃には外は随分と吹雪いてきて、もしあのまま起きる事が無かったら雪だるまになっていたかもしれない、そんな事を赤顔の紳士は考えていました。
「顔でも洗って今日はもう寝よう」
しかし、鏡を見て紳士は驚愕。
「な、なんじゃこりゃああぁぁぁぁっ!!!」
紳士が見たのは──
頭にぐるぐる巻きにされた請求書と、
鹿柄のスポーツブラでした。
「鹿ぁぁぁぁぁぁっっ!!!」
大晦日の深夜、とある家からそんな叫び声が聞こえて近隣を困惑させたとさ。
【お し ま い】
3タイトル書いているので、お時間ございましたら読んでみてください、ほぼギャグです!
『燃実の華』
〜裸のモモタロウのお話し
『王妃と魔法の鏡と』
〜王妃をこらしめる白雪姫のお話し