4話 理由
俺は目の前の光景に驚きを隠せなかった。なぜなら、一文字菜月がそこにいたから。確かに俺と同じくらいの歳に見えたから、高校生なんだろうとは思っていた。だけど、転校してくるとは予想外だった。それは敏也も同じだったみたいで、前の席にいる敏也が小声で話しかけてきた。
「おい、光樹。あの子って昨日お前が助けた子だよな?なんでうちに転校してんの?」
「知らねーよ。俺が聞きたいぐらいだ」
「だけど、転校生って聞いただけでクラスの皆テンション上がってるなー」
「そういうもんだろ普通。さらに、可愛い女子ときた、そりゃ男子はテンションアゲアゲだろうよ」
「ほほぅ、光樹はあんな感じの子がタイプなのかな?」
「どうしてそうなる」
「だって、光樹が恵美ちゃん以外に可愛いって言うのが珍しいから」
「そりゃ俺だって男だから可愛いと思うことぐらいあるさ」
そんな話をしていると、自己紹介が終わったのかこちらに向かってきた。どうやら、俺の隣の空いている席に座るようだ。そして、今更俺たちに気づいたようだった。
「あ・・・」
「よう、昨日ぶり」
「えぇ、昨日は助かったわ。えっと・・・」
「そういえば、まだ名前言っていなかったな。俺は高峰光樹。よろしくな」
「俺は村上敏也。ゲーム大好き人間だ。よろしくね一文字さん」
「よろしく。2人とも」
男子の視線を感じながら短めの挨拶を終え、いつもの高校生活が始まった。ただ、いつもと違うのは休憩時間になると一文字菜月の周りに女子の群勢ができたことだ。そして、放課後・・・
「ねぇ高峰君。校舎を案内してよ」
「なんで俺なんだ?クラスの女子にでも頼めばいいじゃないか」
「みんな用事があるって。それに約束の時間までの時間潰しよ」
「なあ、その話ここですればいいんじゃないか?2人とも同じ場所にいるんだから」
俺がそう提案すると、彼女は首を横に振った。
「悪いけど、あまり他の人に聞かれたくないのよ」
「そう。わかった、案内してやるよ」
別にこの後に用事があるわけではないので、要望に応えてやることにした。案内してやると、彼女は小さい子供のように目を輝かしていた。新しい高校でわくわくが止まらないのだろう。暫くして、一通り案内が終わって時計を見てみると17時40分をしめしていた。そこで、俺たちは少し早めにマグフェリアに向かった。
「今日は私の奢りだから、好きなの頼んでいいわよ」
「ゴチになります」
マグフェリアについた俺たちは、一文字菜月が店員と少し話した後、紙切れに書かれてた通りに10番席に通された。注文をすまして、商品を待っていると彼女は話し始めた。
「高峰君は私が定食屋一文字の店主の子供ってことは、知っているわよね?」
「あぁ、妹から聞いた」
「妹?」
「俺の妹は生徒会役員なんだよ」
「へぇーそうなんだ。っと、話がそれたわね。それで私はお金持ちなわけ」
「それで?それじゃあ、俺にあんな事を言った理由にならないぞ?」
一応、ほかの人に聞こえてはいけないので隠しながら話す。そこで、注文したクリームソーダとコーヒー、ケーキが届く。彼女は頼んだクリームソーダを飲みながら、話を続けた。
「お金持ちの家って、勝手に親とか祖父母たちが結婚相手を決めたりするじゃない?」
「まぁ、そうだな。策略結婚とかあるし」
「で、私は親族が決めた相手と結婚したくないの。」
「なんでだ?」
俺がそう問いかけると、彼女は鞄の中から1枚の写真をだしてきた。そこには、小さい頃一文字菜月だろう、幼い女の子とこれまた小さな男の子が写っていた。
「馬淵竜弥。私の幼馴染みで、有名な造船会社の一人息子。そして、私の結婚相手よ。」
「で?なんでこいつと結婚したくないんだ?」
「それは・・・」
彼女は俯いて話し始めた。よく見てみるとなにかに怯えているのか、手が震えていた。
「私は・・・こいつにいじめられていたの」
その言葉を聞いた俺は驚きを感じると同時にいじめに対してなんの関わりもないのに、ほんの少しだけ怒りの感情が芽生えた。
「だから、私はこいつと結婚したくないの。家族に頼んだら、お父さんは高校を卒業するまでに男を見つけて、定食屋のある千葉までくれば、この結婚を無しにしてやるって。そして、あなたを見つけたの。あなたを見た瞬間、よくわからないけど、あなたがいいって思ったの」
「だから俺にあんな事を・・・」
「ねぇ、お願い!私と結婚して!じゃないと、私はまた地獄のような日々を送らないといけないの、もういじめられたくないの!」
話し終わった彼女を見てみると、頬に光るものが流れていた。どれほど馬淵というやつと結婚するのが嫌か、一目瞭然だ。だけど俺だって安易に結婚は出来ない。けど、この子をほっとける訳がない返答を考えていると1つの考えが頭に浮かんだ。だから、それを伝えようとこう答えた。
「悪いけど、結婚はできない」
と、そして彼女は「そう・・・。」と呟いて席を立とうとした。だけど俺は彼女を呼び止めた。
「待って、俺は結婚はできないった言ったんだ」
「え?」
彼女は俺が何を言っているのかわからない様子だった。
「一文字の父さんは男を見つけてこいって、言ったんだろう?ならば、結婚しなくても、彼氏として行けばいいんじゃないか?」
「あ・・・」
そこで意味がようやくわかったようだ。しかし、彼女は驚きを隠せなかった。
「いいの?私はあなたを利用するのよ?」
「別に構わないさ、利用されても。彼氏になってやる。あくまで彼氏役を演じるだけだけど。それに・・・」
俺は震える彼女の手に自分の手をそっと重ねもう片方の手で彼女の頬に光るものを拭った。
「女の子が泣いているのにほっとける訳がないだろう?」
「・・・!」
彼女はまた俯き、泣きながらこう呟いていた。
「ありがとう・・・本当にありがとう・・・! 」
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