5 鬼の故郷
かぐや姫は寒い中、綿衣を着て牛車でもなく、輿でもなく、馬に乗って坂東まで行くことになった。かぐや姫の前と後ろにはさぬきのみんなが守っていた。
「姫、寒くはありませんか?」
「大丈夫です。義武様やほかの者は?」
出発の時、屋敷で姫の身を案じた義武が尋ねた。姫は垂衣の中で青い甲冑姿の義武の腰に帯びていた太刀にふと目がいった。
「寒くありません」
「本当に?」
「・・・寒い」
義武が本音を漏らすと、かぐや姫は垂衣の中で笑いながらあることを思い出した。
「ねぇ、おうめちゃんは義武さんは怖い?」
「ううん、怖くないよ!怖い顔してるけど、榛子持ってきてくれたもん!」
「そうね、義武さんが持ってきてくれた榛子と楊梅子を2人で仲良く食べたわね・・・」
そしてかぐや姫は義武の事で田兵衛と幻助の2人に尋ねた。
「義武様の強さですか?そりゃ~あの人に弓で狙われたらもうそいつは、みなさんそようなら~!義武様の弓で死ななかった奴はいなかったですからね・・・」
「2町(220㍍)先の大鎧つけた奴を殺しやがったからなぁ・・・恐ろしいわ」
「弓のせいでもあるが・・・だが、あの強弓を引けるのは義武様だけだろうなぁ~」
「鬼には勝てんわ」
「うん、あの人はもやは人ではない」
2人は武士としての義武のすごさを語ったのだった。しかしかぐや姫は別の思いで聞いていた。
「おうめちゃん、うちは・・・武士の世界を見てこようと思うの。うち知りたいの・・・義武さんは優しい人なのにどうして鬼なんて言われてるのかを」
板東までかぐや姫を護衛する者は義武を含め20人いた。義武は坂東に行くに当たって皆に武具を着けるよう命じ、義武、幻助、田兵衛、はきの4人が馬で姫を囲みながら守る形となっていた。
「しかし、あんたが坂東の人間とは・・・ん~」
幻助がはきの見事な乗馬に首をかしげながら、信じられないような顔をしていた。
「馬の扱いを見て信じてもらえませんか?・・・義武殿には負けますがね」
「でっ、てめえが連れてきたあの2人も坂東にいたんだろ?信用できんのか?」
はきが隊の先頭を見た。先頭には2人の体格の良い屈強な男がいた。はきが今回のために連れてきた猟師仲間だった。
「彼らが信用できないのであれば、私も信用できないと言うことですが?」
はきが幻助、田兵衛と話をしていると姫との会話を終えた義武が近づき、自分の馬に乗った。
「此度の件ですが・・・興世王なる者と源基経の2人が土地の問題で郡司の武芝を襲った。それを将門公が自分が静めるから朝廷にも協力して欲しい・・・それで姫が坂東に行くことになった・・・非常識だ」
「父から聞いた話だ。むかし世に騒乱が起き、男の王ではそれを静める事が出来なかった。一人の女が女王となったとき、世は治まったという言い伝えを聞いたことがある」
「それならば姫はずっと坂東にいることになる・・・。だが事が済めば、姫は都へ帰らなければならない・・・これで姫が都に戻ればどうなるか・・・」
摂政が何を考えているのかわからぬ中、姫を守る義武達は坂東目指して出発した。
※ ※ ※
坂東までの道中、かぐや姫が襲われる危険は十分あった。義武達は常に警戒を怠らず、そして何事もなく坂東の地に着いた・・・。
「待っていたぞ義武!ふむ、あれが噂の姫か・・・」
「将門様、お出迎え忝のうございます。姫は長旅で疲れております」
あれが、将門さん?義武さんを武士に育てた人。立派な人、正義感を強く感じる・・・。 すごい燃えるような目。
「わかっておる!俺の館を姫に貸そう。義武、後で二人っきりで話をしたい!」
将門は自分の館の一室をかぐや姫の部屋として貸した。将門の館の周りは堀があり、橋を渡り、中へ入ると義武達20名の郎党は絶えず、姫の警護を怠らなかった。
「そういえば義武、天光は?」
「未だ、あの太刀は俺を悩ませます」
「そうか・・・お前、力をほしいと思ったことはあるか?」
「・・・いつだって思っております。同時にそれが怖い」
「ふむ・・・俺が検非違使の召喚で都に行った後、この地に帰ってから数日の事だ。俺が八幡にお祈りしていたとき、見なれぬ黒い頭巾のような物をかぶった男に出会った。顔は見えなかったが、そいつは力が欲しいのか?と尋ねてきおった」
「その者は此度の件と関係があるのですか?」
「無い!じゃがな、その者が言ったとおり、確かに俺は力を欲しておるわ」
「それほど、興世王と基経はひどいのですか?」
「あいつらは武芝の領地で好き勝手暴れ回っておるわ。もし俺と奴が戦をすれば、この地はまさに争いしか生まぬ土地だ・・・。興世王は俺との話し合いに応じた!明後日、武芝と興世王を和解させればこの地に平穏が訪れるだろう!」
「・・・・・・・・・・・」
将門は大きく息を吸うと、戦の時と同じように精神を集中させた。だが、今回は戦ではない。話し合いでこの地に平和をもたらすのだ。興世王を説得できればそれが実現できるとそう信じていた。
一方の義武は将門の考えには懐疑的だった。興世王は本当に素直に言うことを聞くのか信じられなかった。だが、義武も願っていた。
この地が平和になることを・・・
会話が終わると義武は一人、館の外に出るとある場所目指して歩き出した・・・。
義武が将門と話をしている時、かぐや姫は部屋にふき、まつと一緒にいた。
「あのみ、外に出たい・・・」
「おたけ、気持ちは分かるけど・・・」
まつが外に出たいというかぐや姫をなだめた。ふきもまつと同意見だった。
「おまつお姉ちゃん、勝手なのはわかるの・・・でも、うちずっとここにいても怖くて」
確かにまつもふきも今のかぐや姫の不安におびえる心をなんとかしたかった。二人はかぐや姫から目を外すと、お互いの目を見た。
ふきは戸を開け、はきと話をした。はきは幻助、田兵衛を呼んだ。
「姫、我らが護衛いたします。我らから離れないでください」
「ありがとう」
かぐや姫は垂衣で顔を隠し、馬に乗り、周りを幻助、田兵衛、はきと連れてきた2人、そしてまつとふきに守られながら、坂東の地を見ていた。
百姓の家々があり、田があり子供達が遊んでいた。
懐かしいな、うちもああやって、おまつお姉ちゃん、おうめちゃん、ろくすけくんやゆうたと一緒に遊んでたなぁ・・・。
かぐや姫がそこから視線を右にずらした。
遠くで義武が自分と同じ景色を見ていた。その姿はかぐや姫にはどこか寂しくも、誇り高き武士がはっきりと感じ取れた。
「ごめんなさい、義武さんと二人っきりになって良いですか?」
「姫、わがままが過ぎます」
「ごめんなさい、ほんとごめんなさい・・・でも」
「・・・わかりました、我々はここで待っております」
「ありがとう」
かぐや姫は馬から降りると、義武に近づいていった。
「姫!危険です!」
「ごめんなさい、義武さん。みんなはあそこにいます」
義武と遠くにいたはき達と目があった。義武は仕方がないようにかぐや姫に目を戻した。
「義武さん、この場所は?」
「昔、それがしの父が持っていた土地です」
「土地を奪われたのですか?」
その時、かぐや姫の視界が坂東の地から別の世界が見えた。それは自分ではない一人の女が一人の男と一緒に馬に乗って周りに大勢の兵士に守られながら逃げている光景だった。二人は見たこともない服装をしており、それを守る兵士の格好はさらに別世界のようだった。
視界が戻り、義武がそばにいると心が落ち着いた。
「そいつはもう死んだそうです。その後、この土地は将門様のものになりました。将門
様がそれがしがこの地に戻ってきたときに返す、と言っております」
「・・・今も奪った人を憎んでいるのですか?」
「・・・昔の事ですよ、姫」
かぐや姫はずっと義武を見ていた。
戦ってきたのね、ずっと・・・その綺麗な目で
「あのぉ、義武さん・・・死ぬのは・・・怖くないのですか?」
「不思議と死は怖くありません・・・ですが、戦の中でなぜいつも相手が死んで、自分が生きているのか、誰が自分を殺すのか・・・ふとそんな事を思ってしまうことがあります」
「そうだったんですか・・・すみません、失礼なことを聞いて」
かぐや姫は百姓がいるのどかな風景から視線を下にそらした。義武が生まれた土地を見るのが怖くなってきた。
ケーン!
左の方で動物の鳴き声がした。かぐや姫はうつむいていた顔を上げると、草むらに隠れていたキジが飛んだ。
「あっキジだ!義武さんキジ!」
かぐや姫はキジのおかげで落ち込んだ気持ちが晴れた。
「む・・・仕留めて晩飯にしてやろうか・・・」
「そんな乱暴なことしないで下さい!」
かぐや姫は晴れた気持ちから今度は怒った気持ちになった。
「・・・乱暴?」
「はい!」
「姫、今まで肉を食べたことは?」
「・・・・・・あります」
「おいしかったですか?」
「・・・・・・・・・はい」
「でしょ?」
次は怒った気持ちから、悔しい気持ちになった。
「う~、今夜うちがみんなのごはんつくります!義武さんも食べてください」
「えっ、姫がご飯つくる?」
義武のきょとんとした顔に対して強い決意の眼差しでかぐや姫はうなずいた。
「汁物に豆を入れても、大丈夫ですか?」
「はい豆はうまいから大好きです。そういや小さい頃、都で食べた桃もうまかったなぁ。あれは忘れられん」
「え・・・豆と桃が大好き???ははっ、あはははははははははは!」
最後にかぐや姫は大笑いした。義武には、なぜかぐや姫が笑ったのか理解できなかった
次の日の朝、空は透き通るような青がどこまでも続いていた。最初に将門は義武と共に私兵50名ほどを率いて武芝の営所へと向かっていた。そこで武芝と共に興世王、基経と話し合いをする約束をしていた。義武は自分たちが出発する前に幻助に一足早く偵察に向かわせていた。
その幻助が血相を変えて戻ってきた・・・。
「まずい、まずい、まずい!興世王が全軍を率いてこっちに来ます!」
「なんだと!あいつは俺とも戦をやるというのか!」
将門は怒りをあらわに馬の手綱を強く握りしめた。
「すぐに兵を集める!義武!館に戻るぞ!」
「あの将門様・・・興世王はもう間近に迫ってまして・・・はっきりいって、いまからでは兵を集めるのは手遅れです」
幻助の更なる最悪な知らせに将門の怒りは頂点に達した。
「仕方ない!この兵だけで俺の館で籠城するしかない」
将門は館にもどると戦の準備をした。館には掻楯がいくつも置かれ、櫓、館の中には郎等達が武器を持って身構えていた。義武も青い胴丸鎧を身につけいつでも戦える状態であった。だが、義武は戦う前にかぐや姫がいる部屋へ向かった。
「姫、みなと共に裏口から安全な所へ逃げてください」
「・・・・・・・・・はい」
かぐや姫は小さくうなずいた。
「幻助、田兵衛、お前達も姫を守れ!」
「義武様、俺はあんたに恩がある。共に戦うぜ・・・」
田兵衛が共に戦いたいと言ってきた。田兵衛のそばにいた幻助も同じ思いだった。
「幻助、田兵衛、俺を信じているならば、言うことを聞いてくれ。姫を守ってくれ・・・」
「・・・わかりました」
かぐや姫は裏口から幻助、田兵衛、はきら警護の者達と共に館を出た。かぐや姫がでた後、裏口は完全にふさがれ、残ったのは正面の門だけになった。
そして興世王が姿を現した。館を取り囲むと正面の門に向かって大声で吠えた。
「将門、怖いならば!俺の言うことを聞け!そうすれば助けてやろう!」
将門は門から少し離れた所から興世王を睨むと大声で言い返した。
「興世王!俺にも戦を仕掛けおって!大馬鹿野郎!」
「将門!まともに戦えば俺はお前には勝てねぇ。だがこれならば俺はお前に勝てる。戦ってのはこうやってやるんだろ。なぁ・・・将門!」
興世王の笑みを浮かべながらどす黒く濁った目で将門を見た。将門の目は怒りで燃えたぎった。
「俺の言ったことをちゃんとわからせてやろう!おい!」
興世王が後ろを振り返り叫ぶと自分が率いている郎党の後ろから矢が飛ぶと、将門の横ぎりぎりをかすめた。
興世王の後ろから身の丈1間(1、8㍍)は超える男が現れ、興世王の前に立った。
「こいつは八助という奴だ。おまえにこいつより強い弓取はいるのか、ん?将門、こいつに首を飛ばされろ!」
油がどんどん火に注がれていった。興世王側についていた2人の郎党が吠えた。だが次の瞬間右にいた男の胸に矢が突き刺さると、男は絶命した。
「!?」
興世王は突然の出来事に何が起きたかわからず、死んだ仲間を見下ろすと今度は前を見た。
義武が将門の後ろから現れると将門の前に立った。
「将門様、俺から離れてください」
将門は義武から左後ろへと距離を取った。
「あいつは間違いない!俺は瀬戸の内海で見たことがある!鬼之弓取りだ!」
興世王側の一人の郎党が叫んだ。皆、義武を見た。あれが噂に聞いた鬼之弓取りなのかと。
「将門、己は俺を殺すために鬼を連れてきおったか!きさまもその鬼の首もはねてさらし者にしてやるわー!」
興世王が大きな目をさらに大きくさせて獣のように叫んだ。
「興世王、義武と戦をしたいのか!この者は俺よりも武に優れた者だ!必ずやお前の首を取るぞ!」
「八助、殺れ!」
もはや興世王の耳に将門の声は届いていなかった。興世王が命じると八助は義武狙って矢を放った・・・。
死んだのは八助だった。八助が狙って放った場所に義武はいなかった。義武はぎりぎり八助の矢を避けるとお返しに八助に矢を放った。それは一瞬の出来事で二人の生死が分かれた。
「・・・だれかあいつの首を俺のもとまで持ってこい!」
興世王が自分の郎等達に向かって叫んだ。
「興世王、おとなしく俺と話をしろ!」
「やかましいわ!俺の兵を殺しやがって!そいつを殺してお前も殺してやるわ!」
怒りが頂点に達した興世王に将門の言葉は完全に聞こえていなかった。今や義武しか目に入らなかった。義武は自分を殺そうとしている男の目から一瞬たりとも目をそらさなかった。
「鬼之弓取り・・・俺がやる!」
一人の義武と同じくらいの背丈の男が薙刀を持って一対一の勝負を挑んだ。義武は弓を地面におき、太刀を抜くと薙刀の男に向かって歩き出した。男も薙刀を下段に構えると義武に向かって歩き出した。
橋の上で男は薙刀の間合いに入ると、義武の左足を斬りにかかった。
ガン!
義武の左足を斬りにかかった薙刀は義武の太刀に止められた。男はその瞬間背筋が凍り付いた。
ザンッ!
男の右の首筋から大量の血が義武の顔目掛けて吹き出した。義武は薙刀を止め、懐にはいると男の首筋を太刀を斬った。
男は凍り付いた表情のまま、薙刀が手から離れ、崩れ落ちていった。義武は男を睨みつけていた鬼の目をそのまま興世王に向けた。
「聞くところによると、お前は武蔵で金品を奪い、女達もひどい目にあったと聞いたぞ。そのせいで民が恐怖に震えているそうだな」
「武蔵国司の俺に偉そうなことをほざくな!武蔵にあるものは俺のものだ!武芝こそ俺に土下座をしろ!」
いつの間にか空は黒くなっていた。
「火矢を射掛けろ!屋敷ごと将門も鬼も燃やしてしまえ!」
興世王は狂ったように叫んだ。
「!?」
興世王が止まった・・・。その場にいた者達全員に寒気が走り、さっきまで怒り狂っていた興世王が腰をついてしまった。黒い空気に立っていた義武の後ろから光を感じた。義武が振り向いた。
かぐや姫が立っていた・・・。
義武は脇へとずれた。かぐや姫は進むと堀を越え震える興世王の前に立った。
「あなたはどこまで自分勝手に暴れれば気が済むのですか?」
「俺は武蔵国司・・・武蔵は・・・俺のもの・・・だ」
興世王の荒い気性が一瞬にしておとなしくなった。
興世王をただ呆然と目を先ほどの怒りの目とは違う動揺した大きな目でかぐや姫を見ていた。
この女の気迫は・・・たかが小娘が何故これほどまで俺を震えさせるのだ!?
「あなたのような人が何も理解することなく、結局暴れることしかできないのです。人を殺すのであれば、まずはあたしを殺しなさい!」
「・・・もう暴れません」
興世王はすっかり牙を抜かれ、ついにかぐや姫から目線をそらしてしまった。それを見たかぐや姫は振り返ると館に戻り、まつやふき達がいるところまで戻った・・・
「おたけ、あんた大丈夫?」
「おまつお姉ちゃん・・・ほんとは怖いの」
かぐや姫はまつの顔を見ると緊張が解けたのか涙目になった。そんな姫をまつは抱きしめてなぐさめた。
義武はかぐや姫はまつに任せると、幻助、田兵衛へ近づいた。
「どうやって戻ってきた!?裏口にも興世王の兵がいただろ!それに裏口は完全にふさいでいたはずだ」
「敵は姫にびびって素直に逃げましたわ・・・。裏口は、はきとあの2人が開けやがったが・・・不気味だったな戸口も塞いでいた物が溶けるように無くなりやがった・・・」
田兵衛と幻助は吐きそうな顔をしていた。義武は顔を右に向け、遠くで見ているはきを見た。はきは冷静にこちらを見ていた。2人は視線を合わせていたが義武は何も言わず、視線を外すと、地面に置いてある自分の弓までいくと、弓を手にした。
「!?」
そのとき、義武の戦の勘が働いた・・・。
「姫を守れー!」
いきなり大声で叫ぶとかぐや姫がいる場所まで走り出した。それを見たかぐや姫を抱きしめていたまつは、かぐや姫を館の中へ入れようとした。
バィキヤ!
あの時と同じ音がした・・・。
あの時、掻楯が割れた音と同じ音がしたと同時に、義武には姫に向かって光が真っ直ぐ飛んできたように見えた。
「おまつお姉ちゃん!」
かぐや姫が叫んだ。周りは静まりかえっていた。
「お・・・たけ・・・けがは・・・ない?」
まつが背中から血を流し、膝をついているところをかぐや姫が必死に抱きしめていた。
かぐや姫は今にも泣きそうな顔で必死にこらえ、まつを強く抱きしめていた。はきと2人のマタギ、そしてふきが近寄るとかぐや姫をまつから話し、強引に館の中へ入れた。
義武は攻撃されたであろう方法を見た。その先にある塀に三つの穴が開いていた。
そして義武はもう一つの衝撃的な光景を見た。
幻助が意識がもうろうとしながら膝をつき、口から血を垂れ流していた。その横で田兵衛は横向けに倒れていた・・・。
義武は大急ぎで2人のもとへ走った。
田兵衛は死んでいた・・・。
背中から地を流して死んでいた・・・。
「幻助、気をしっかり持て!」
義武は呼吸も満足にできない幻助に耳元で必死に叫んだ。
「お前ら!おまつ殿と幻助を運べ!」
将門が叫ぶと、周りの郎等達が幻助を皆で抱えると館の中へ幻助を運んだ。
弓矢ではない・・・何をしたんだ?
義武は興世王の方を向いた。
「おっ俺ではない!俺ではないぞ!」
確かに興世王ではない・・・。
その後、興世王は将門の提案を受け入れ、武芝と和睦した。だが、基経は和睦することなく都へと帰った・・・。
あの騒動の後、おまつと幻助はかぐや姫とは別の部屋へ運ばれたが、死ぬのは時間の問題だった。だが、そこへかぐや姫がやって来て、しばらくの間2人の身体に触れた・・・。
虫の息だった2人の呼吸は段々普通になり、そのまま普通に寝てしまった。
そして三日後にはまるで何事も無かったかのように2人は回復していた。
「あの傷を癒すとはな・・・まさに奇跡だ」
「・・・姫はただ触れただけですよ。それ以外は何もやっておりません」
将門と義武は2人で弓の稽古をしながら話していた。
「この4年ほどの間、俺はこの地を治めるために苦労した。だが、やったことと言えば戦しかしておらん・・・。姫はあの気性の荒い興世王をおとなしくさせおった」
「確かに俺達に姫のまねはできません。あの穢れ無き心で平和をもたらすなど俺達には出来ない・・・」
「姫に比べて戦をする俺達武士は非常識か?」
「・・・俺は自分を否定したりはしません。確かに姫は人の理想です。ですが、この坂東の地で俺は生まれ、武士になったのはまぎれもない現実です」
「確かに、それは否定できん現実だ」
「ところで・・・本当に興世王は信用できますか?」
「義武!俺が言ったことを覚えているか!」
「将門様が帝、俺が関白・・・将門様の夢です」
「俺はこの地を立派に治めてみせる。義武・・・いつの日かこの地に戻ってこい。かつてお前の父親が持っていた土地はちゃんとお前に返す」
「その日が来るのを願って止みません・・・」
次の日、役目を終えたかぐや姫は都へ帰ろうと馬に乗った。空は晴れていた。
「姫、お待ち下され!」
帰ろうとするかぐや姫に将門が呼び止めた。
垂れ衣での奥にあるかぐや姫の目と将門の目が合った。
「それがし、毎日八幡に祈っております。それがしは力が欲しい。それがしに力を貸していただけぬか?」
「お気持ちはわかります。ですがわたくしは藤原氏の庇護下にあります。民を平和に暮らさせてあげてください」
「・・・お元気で!」
将門はかぐや姫に一礼した。かぐや姫の一行は都へと坂東の平原を歩き出した。馬に乗った姫の前に義武、右には幻助、左には田兵衛、後ろにははきがかぐや姫を守っていた。
うち・・・義武様が武士になったのが少しだけわかった・・・。
かぐや姫の目にはいつも見ていた武具を身にまとった義武の背中がそこにあった。
無事、都へと帰る事が出来た、かぐや姫におうめが飛びついてきた。かぐや姫に笑顔が戻った。だが、此度の事でかぐや姫の屋敷に再び大勢の男達が集まってきた。
かぐや姫の噂がまた復活したのだ。
「え~やはり姫は、この世の鬼、怨霊を全て消し去り、夫となれる者は永遠の幸福が必ず約束されると、言っております」
「そいつらは噂しか耳に入れないのか・・・うるさい連中だ!」
「うるさいわねぇ!あんた、おうめはあんたよかずっと前からおたけと仲良しだったんだ!だから、おたけって呼んでも良いのよ!文句あるならあたしが相手してやるわよ!命がけでおたけを守ったあたしよ!弓でも薙刀でも持ってきなさいよ!」
義武が怒っていると更なる怒りの声が屋敷の中から聞こえてきた。その声の主はまつだった。
「おまつさんまた、女房のたえさんとけんかしてるよ・・・。ありゃ、女傑ですわ・・・」
「武士にだったらかなりの強者だな・・・」
2人は一緒に腕組みしながら、感心して声を聞いていた。
その2日後、一人の男が姫に求婚を申してきた。その男に義武は驚愕した。
「空覚様・・・そのお姿は!?」
空覚は髪を生やし、貴族の姿をしていた。
「義武、小生は決意したのだ!もう一度貴族として、世を救う!」
「姫はあなたとは契りは結びません!」
「義武、小生は父や兄たちの誰よりも世を思っていた。だが、あいつらはそんな小生を馬鹿にしていた。小生が姫の夫となり、やつらができなかったことを成し遂げるのだ!」
あなたは、それが無理だと分かったから僧になったのではないのか・・・
「義武、翁に聞いたらお前は兄たちに宝を持ってこいと言ったそうだな・・・俺は何を持ってくれば姫を手に入れることが出来るのだ?」
「燕の子安貝・・・それを持ってきてください」
「わかった!必ず持ってくる!」
空覚はそう言うと牛車に乗り、去っていった。義武は、寝殿の階に疲れたように座り込むと、縁側からまつが近づいてきた。
「おたけはあなたの事が大好きです」
突然の言葉に義武は一瞬息が止まり、自分の今までの過去を思い出した。
「それがしと姫は住む世界が違う」
「わかってるわ、でもおたけはあなたの事が大好きなのよ・・・。受領様はおたけに何を贈りますか?」
「えっ?」
「おたけから聞いたんだけど、火鼠の皮衣とか蓬莱の玉の枝とか燕の子安貝とか高い物あげて女を釣る・・・あ~いやらしい!でも好きな人から贈り物をもらうのは女は嬉しい事なんです」
「と・・・言われましても・・・何を贈れば良いのだ?」
「うん、さっきおうめがおたけの茶碗を割っちゃったから新しい茶碗を贈って下さい」
「へ・・・ちゃわん?」
「おたけに言ってくるわ」
「えっえっえ?」
困惑する義武をよそにまつはかぐや姫の部屋へ向かった。しばらくするとまつが戻ってきた。
「是非とも欲しいそうです。しかもあなたが作った茶碗を」
「・・・・・・・・・・(何なんだその要求は?)」
やがてまつは旦那のもとへと帰って行った・・・。
そして義武はその職人達がいるところで茶碗を作った・・・。
次の日、2通の文に屋敷中に緊張が走った。明日、中納言と参議が宝を持って来るというのだ。
「幻助!」
「はい、わかっております!」
読むと書くとでは天と地ほどの差を感じます・・・




