3 御簾の向こうの光
「義武、姫達に怪我はないか!?」
「空覚様、姫様達に怪我はありません!」
かぐや姫達が門をくぐると門はすぐに閉められた中には大勢の人たちがいた。その中にあの僧が出てきた。
お坊さんがずっとうちを見ている。あのお坊さんは誰?義武さんと仲が良いみたい。
「お三方、早く中へ!」
義武が空覚からかぐや姫達に目を移すと、かぐや姫と義武は垂布越しに目があった。義武は気にしていなかったがかぐや姫は思わず、下を向いてしまった。
かぐや姫達は女房の案内のもと屋敷の中へ入った。
・・・守ってもらってこんな事を思うのはひどいけど、うちはあの人が怖い。あの人は人を殺すことに何の恐怖も無いのかしら?
「たけや、怪我はない?」
「おっかさん、うちは大丈夫・・・でも疲れた、もう寝たい・・・」
「それならば、わたくしが部屋へご案内いたします」
「えっあ、はい・・・え~っと、あなたは?」
かぐや姫が媼と話をしていたら出迎えてくれた女性の一人が声をかけてきた。
「わたくしはこれから姫様達のお世話をさせていただきます女房でございます」
かぐや姫は女房に案内されて自分の部屋に入った。
すごい、綺麗な白い柱。百姓の家にこんな綺麗な柱なんて無いし、すごい綺麗な絵・・・あったわ綺麗な着物。ゆうた、うちは貴族になったわ・・・やったー。
「姫さま、壺装束を脱いで、御張台で今日の疲れをとってください」
「はっはい・・・」
言われるがままにかぐや姫は壺装束を脱いで小袖と袴だけになり、まだ暗くなっていない内に御張台の中で仰向けになると、女房が姫の身体に衾をかぶせてきた。
正直、戸惑っていてこの人に色々聞きたいけど・・・うち、疲れてる・・・寝ます!
薄明かりがさす中、かぐや姫は目覚めた。部屋の外で女房達が働いている音がしている。姫はこっそり部屋を抜けだし、廊下に出ると今日から住むこの屋敷を見回した。百姓だった、たけにはこの世界は夢の場所であり、ここはどんな世界なのか不安も感じていた。
本当に大きな家、貴族達はみんなこんな大きな家に住んでるのかしら?家の中に大きな庭に池がある。何のためにあるのかしら?
でも、ゆうたが見たら大喜で泳いじゃうかも。周りは昨日の騒ぎで、郎党達が交代で警備をしている。うちは都で楽しく暮らせるかしら・・・
突然、かぐや姫は廊下の床下を見た。音がしたのだ。
えっ、床下に誰かいる!?誰なの?怖くて、動けない!
「おお、よしよし、さぁこい、お前一人か?・・・んっ!?」
えっこの人は!?あの怖かった義武という人が子猫を抱えて、あっ赤くなって・・・。
「ぷっ・・・ははっ・・あはっ・・あはははははははははは!」
かぐや姫は思わず、床に倒れ込むと床を叩きながら笑ってしまった。
「あの・・・姫・・・笑いすぎです」
「だって、だってうち・・・あなたがすごく怖かったの!」
「はぁ・・・いま笑ってるじゃないですか・・・」
「顔が、赤くなってる~!猫さわっていいですか?」
「はい・・・」
義武は困惑しながらかぐや姫に子猫を渡した。かぐや姫は今までの恐怖が無かったかのように満面の笑みで義武から子猫を受け取った。
「義武さんは武士なのですが、強いですか?」
「仲間からは鬼之弓取りなんて言われています・・・」
「はい、確かにあのときはほんと鬼みたいで、怖くて・・・どうしましょう?」
「申し訳ありません(どうしましょうって、何がどうしましょうだ?)」
なんだか不思議、この人は子猫を可愛がったりしている今は全然怖くない。
それに・・・よく見たら綺麗な目をしてる・・・。
「あの・・・それがしから尋ねてよろしいでしょうか?」
「あっ、はい!」
少し困惑している義武がおそるおそるかぐや姫に尋ねた。義武が緊張している様子なのでつられてかぐや姫も緊張して背筋を立ててしまった。
「翁殿は昔は身分のある者ではなかったのですか?」
「う~ん、昔から竹取だと思います」
「・・・竹から産まれたというのは本当ですか?」
「うち、その時は赤子でしたので覚えていません」
「ですよね・・・」
ばかな質問をしたと、思わず義武は頭をかいてしまった。そのしぐさにかぐや姫は笑ってしまったが、すぐに義武が持っている弓と太刀に目がいくと・・・
「・・・義武さんはどこから来たのですか?」
「・・・生まれは坂東の地です」
義武が坂東の人間だと分かると、かぐや姫はゆうたの夢を思い出し・・・
「あのみ・・・義武さんは子供の頃はどんなでした?」
「・・・・・・・・・・」
おそるおそる聞いた質問に義武は黙ってしまった・・・。
かぐや姫はうつむいて表情を曇らせてしまったが、すぐに明るい顔で義武を見ると
「うちの友達はろくすけくんと、ゆうたと、そしておまつお姉ちゃんと、おうめちゃん!」
と、何でもないように明るく話した。
「たしか姫の母上のお名前は、すぎ様?」
「うん!」
「まさか・・・そのおまつ殿もおうめちゃんとやらも・・・母上もみんな木から産まれてきたのですか?」
「えーっとね、中が空洞じゃないから・・・無理だと思います」
「あぁ・・・そうですか(そんなもんか?)」
また馬鹿な質問をして恥ずかしい義武に対し真面目に間の抜けた言葉を言うかぐや姫だった。
怖い人じゃないとは思うけど・・・あまり過去を話したがらないみたい。
あっそう言えば、守ってくれたお礼を言ってなかった。
「義武さん、うちを守ってくれてありがとうございます」
「それがずっと気になっている・・・あなたを襲ったやつらは何者だ?俺が落馬したほんの一瞬で3頭の馬とあなたを護衛していた四人の郎党達が殺された。かなりの弓の使い手が数人いた。・・・掻盾の奴をどうやって殺した?
やつらは郎党4人と馬すべてを殺した以外、攻撃してこなかった。飛び出した3人は普通の盗賊にしか見えなかった・・・どういうことだ?」
「・・・・・・・・・・・」
「んっ?あっ申し訳ありません!つい武士としての癖で・・・」
「いっいえ、いいんです!」
話をしている間に空がだんだん明るくなり、他に寝ていた郎等達も起き出してきた。
「まぁ、それがしがこれから姫をお守りいたします。ですがさぬきで受領の仕事もありますので今日は帰ります」
「帰っちゃうのですか?あっそうだ、うちの名前は知ってますか?」
「おたけ?」
「え~っとそっちじゃなくて、かぐや姫です」
「良い名前です」
そういうと義武は一礼して幻助、田兵衛の郎党達がいる方へとかぐや姫から離れていった。姫はその背中をずっと見ていた。
だが、義武はかぐや姫からどんどん遠ざかっていき、仲間のもとへといくと仲間と共に姫の屋敷から出ようとした。
そこへ門前に一人の使者が十人の郎党を引き連れてやってきた。
「鬼響 義武どのか?摂政様より貴殿宛の文を預かっている」
義武は文を受け取ると中を読んだ。その内容に義武は眉をひそめた。
「というわけだ、これらの郎党はそのためだ、では!」
そういうと使者は郎党を義武のもとにおいて帰っていった。義武は仲間に振り向いた。
「おまえら、貴族の団体がここに来るぞ!」
その場にいた全員が固まってしまった。遠くの方で姫が見ていた。
・・・・何があったの?
「義武様~、もう3日でっせ~この宴はいつまで続くんすか~」
「泣くな幻助、貴族の気が済むまでだ!」
「だんだん腹が立ってきやがる・・・逆に俺達が襲ってやりたいわ」
「田兵衛、俺達よりも翁殿や媼様の方が大変だ。昨日まで百姓だった者が貴族の相手をしなければならんのだぞ・・・姫だって」
突然、摂政が言った、姫のための3日間の宴に大あわてで屋敷は寝殿にその宴の準備をなんとか夜までに整わせ、朝廷の有力者達を迎えることが出来た。
そしてかぐや姫はこの3日、宴に顔を出すことなく、燈台が一つだけある部屋の中で閉じ籠もっていた。
暗い・・・
向こうではうちのことを何一つ知らない貴族達が「姫を歓迎する」とか言って騒いでるけど、おとっつあん、おっかさんが心配だわ。どうしてあの人達が好きかってやって、うちは部屋に閉じこめられてるの?
・・・えっ何?
突然、かぐや姫は燈台一つだけの薄暗い部屋で辺りを見回した。突如、得体の知れない恐怖に襲われた。たまらず薄暗い部屋から廊下へと飛び出した。
「ん・・・・・・姫!」
「えっ・・・あっ!」
かぐや姫が朝に義武と出会った廊下に飛び出したとき、偶然にもまた義武が弓を持って立っていた。
「うちは・・・3日間ずっと部屋に・・・怖い・・・この宴が早く終わって欲しい」
「しばらくここにいて、それがしでよければここで何か話をしましょうか?」
義武は姫の恐怖に怯える様子を見たとき、不意にそばにいようと思った。かぐや姫は義武がそばにいてくれると急に恐怖が消えた。
「ありがとう・・・ところで義武さんはここで何をしていたのですか?」
「休憩の中、月を見ておりました・・・いつもと同じ明るさだ」
「あ、ほんとだ綺麗なお月様!義武様・・・うちはあの月から来たの・・・」
「・・・・・・・・・・?」
かぐや姫と義武は真顔のままお互いの顔を見つめていた。
「うそです、うそです!うち、月からは来れません!」
かぐや姫は顔を真っ赤にしながら言った。
「ですよね・・・(不思議な感覚の持ち主だな・・・どう付き合えばいいのだ?)」
義武はかぐや姫を見ながら首を傾けてしまった。
「あっでも、なんで月なんか見てるんです?」
ん~月を眺める武士・・・なんか面白い。
かぐや姫は真面目な表情の裏で少し笑ってしまった。かぐや姫の笑いに気付かない義武は真面目に月を眺めながら話しだした。
「この前の戦の夜に、月がいつもより明るくなった。だが他の者達は月はいつもと同じだったといっていた」
「暗闇の敵を矢で仕留めた・・・そういえば、その弓もその反った太刀も他の人が持ってるものと全然違う・・・。どうしてですか?」
「俺は坂東の土豪のもとに生まれました。そして家には古くから伝わるこの弓があった。この5人張りの強弓はとても昔のものとは思えないほどの出来栄えだ。今の弓師にみせてもいったいどうやって作ったのかと分からないほどです」
「それほどすごい弓なら・・・とても強いですね!」
「いやまぁ、5人張りだから強いのは当たり前ですけど・・・」
笑顔で発したかぐや姫の言葉に義武は冷めた反応で対応した。
実は義武が何を言っているのか分からなかったが必死に話を合わせようとしたかぐや姫は義武の反応に苦笑した。
「え~っと、その反った刀も家に古くから伝わった物ですか?」
「・・・俺が父と母が殺され弓を持って逃げた8才の夜の時に出会った人からいただきました」
義武の瞳の色が変わった。義武はあの時の事を思いだした・・・。義武が夜、弓を持って涙を流しながら一人歩いていたときにある男に出会った日のことを・・・。
「・・・強き目をしておるな・・・俺が鍛えてやろう、強くなるのだ!」
しばらく沈黙が続いた。義武が過去を思い出していたこの時、実はかぐや姫の目にもある光景が映った。
自分が横たわり、ゆっくりと目を閉じようとしているそんな自分を傍らで涙を流しながら見ている見たこともない服を着た一人の女性がいた。
かぐや姫の視界は元に戻った。義武が月を見ながら再びしゃべりだした。
「俺はその人と一緒に都に行き、当時は左大臣、今の摂政と出会い小舎人童として藤原家に仕えるようになりました。俺を武士にしてくれた人の名は平 将門です」
「その将門という人は今、どこにいるのです?」
「今は坂東にいます。俺は13の時に藤原氏の私兵になり、空覚様とも親しくなった。しかしすぐに俺は瀬戸の内海の海賊討伐へと旅だった。」
「空覚さまって、もしかしてこの屋敷に着いたときにいたあのお坊さん?」
「その方です。摂政の三の男君だった空覚様が姫を村で見つけて都まで呼んだのです」
その人はずっとうちを見ていて、まるでうちに何かを求めていたみたい。・・・なんだろう?
「どうかしましたか、姫?」
「えっあっいやいや、えっと~でも迎えに来たのは何故、あなたなのです?」
「空覚様が姫をそれがしを推しました。その文が届けられたのは戦場で月が見たことないくらい明るくなった夜の次の日でした」
「あなたは戦っていたのですか?」
「瀬戸の海で板東の地で・・・朝廷の命により西と東で戦いました」
「あなたは・・・なぜ戦っているのです?」
この人は武士に何を望んで戦に何を欲しているのだろう?
そんな思いからか、かぐや姫はついそんなことを聞いてしまった。
「武士だからです。今の世は地方では国司、豪族が税や土地で争い、都では藤原氏が権力を握り、下級貴族はその藤原氏に賄賂を送っている。泰平ではないから戦も起きる。だからそれがしのような者が現れる」
義武はかぐや姫を一切見ていなかった。だが、かぐや姫には声から義武の今の顔が分かっていた。
うちの村のみんなはいつもみんな仲良しで・・・だけど、確かにうちの村でも受領と負名のけんかはひどかった。
この人の生きてる世界は・・・平和な世界じゃない。
「姫、それがしではどうも楽しい話ができそうにないので、何かしゃべってください」
「えっ、う、うち!?」
かぐや姫は大急ぎで気持ちを切り替えて自分の頭の中を整理した。
ちょっと待って、ちょっと待って困ったな・・・あっ。
「ろくすけくん!すごいまじめで、いろいろと手伝ってくれたり、優しくして、いい人なんです・・・けど、気が小さいからあまりしゃべらないしからやっぱり、うちは楽しく話が出来る人が好きなので・・・うちは何の話をしてるの?」
「それがしは何の話を聞いてるのですか?」
「続きましてゆうたいきます!」
「はい、どうぞ・・・」
「ゆうたは此のごろいたずら好きになったの、すぐ泣くくせにいたずらをすぐやるんです!
ゆうたも良い子なんだけど、あれはだめ!武士になりたいって言ってたけど、ゆうたには人殺しなんてして欲しくない!義武さん、お願いします!」
「はい(何をだ?)」
「ほいでもっておまつお姉ちゃん!おまつお姉ちゃんには小さい頃のうちもよく面倒を見てもらったからて、おうめちゃんだって・・・おうめちゃん・・・」
とたんに彼女は黙ってしまった。義武が心配そうに尋ねた。
「おうめちゃんがどうかしましたか?」
「おまつお姉ちゃんが隣郷にいってうちまでいなくなったら、おうめちゃんどうなるのかしら・・・」
「ちょっと待ってください、宴の様子がおかしい・・・」
義武が姫から離れ、御簾越しに宴の様子を見ると泥酔した2人の貴族がけんかしていた。
「お前はそこまで兄を愚弄したいか!」
「父の跡は兄上が継げばよいのです・・・ですが、まろ無しに兄上だけで我らの威光を保つのは無理だと言っているのです」
兄と思われる男が息を荒くしながら、笑いながら座って兄を見上げている弟を見下ろしていた。
「つまり余にお飾りの摂政、関白になれと言うのか!」
「それがいやなら!・・・まろを都から追放するか呪い殺すか・・・屋敷に火でも放ちますか?」
「・・・余と争うというのか?」
危険な空気が宴の中に漂い始めた・・・権力を握る一族に生まれた2人の男が本気で怒り始めた。全員が最悪を考えた。しかし誰も止めようとしなかった。
見かねた義武が一人、御簾を上げて宴の席に入った。
遠くでかぐや姫が義武が中に入っていくのを見ていた。自分は震えていた。あの宴の中から異様な恐怖を感じていた。
義武さんは動いている・・・あたしは?
そう思ったとき、かぐや姫の表情が変わった。
「野蛮で無用の長物がなんの用だ!」
義武が二人に近づくと、中納言がそう言い放った。中納言は義武をにらみつけ、参議も冷たい視線を義武に送った。それに構わず近づく義武の眼は太刀で二人の首を跳ね飛ばそうというような目だった。
バキィ!!!
全員が静まり返った・・・。宴の席にあった器や盆、酒杯がすべて割れた。義武が振り向き自分の後ろにある御簾を見た。
このとき、誰も気付いていなかったが、一人の貴族がその場を後にしていた。残った者達、貴族、女房その場にいた者達も皆、義武が見ている御簾を見た。
「今すぐ帰って下さい。三日も宴をすればもう十分でしょう・・・」
御簾に影が浮かんでいた。そこにかぐや姫が立っていた。怒りを超えた声を発した。その影にその声にただならぬ力を感じた兄弟の酔いはすっかりさめていた。
「すいません・・・」
「ごめんなさい・・・」
二人が謝るとかぐや姫の影は消えた。宴にいた貴族達はだまって帰り支度を始めた。女房達も宴の片付けを始めた。その中で義武はずっと御簾を見ていた。義武の目に姫が立っていた御簾が光って見えていた。
姫は宴の次の日、まる一日疲れて寝ていた。摂政は俺にさぬきの受領と共に姫の警護を命じて2ヶ月が経った。
受領と警護の二つを務めねばならぬ俺は幻助と田兵衛に馬を与えた。幻助は都で田兵衛はさぬきで馬の扱いの鍛錬を始めた。2人は弓も扱える、これで馬に乗れれば心強い。
今、俺には37人の郎党がいる。瀬戸の内海から一緒だった幻助、田兵衛、宴の時に摂政が連れてきた郎党10人、都の者たちの中から選んだ者10人。
そして、さぬきかからの者14人。この者たちは金ではなく「おたけちゃんを守りたい」と言っていた。嘘はいっていない様子だった。
姫はそうとう村の者達に好かれているようだ。
最後の1人が姫自身が俺に頼んだ奴だが、自分の村の外れで猟師をやっている夫婦を連れてきて欲しいと言ってきた。そいつに出会ったとき戦の勘が働いた。こいつは戦の経験がある。この村の生まれではない・・・。




