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鬼は誰からかぐや姫を守ったのか   作者: マイペース狼
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1 動き出す運命

「おぉ、川にでっけぇ蛙!捕まえてやる!」

「えっ、ゆうた・・・蛙よりも、おうめちゃんに・・・うんつく~」

 蝉が鳴く8月、さぬきの土地で、少女の面影を残しながら大人の世界へ行こうとしている一人の美しい百姓の娘がいた。竹取をしている老夫婦を親にもつこの娘は村人曰く、竹から生まれた・・・らしい。

 子を望んで願い叶わず、翁と呼ばれるほどの歳になるまで竹を取って生きてきた父親がある日、一本の光る竹の中に赤子を見たとき「天が願いを叶えてくれた」と涙を流しながら喜んだ。

 竹から生まれたと、翁が言うものだから、村人達からはその子は”たけ姫”とからかわれ、それがいつしか”たけ”となった。

 今、たけはあることを思いながら8才の男の子と一緒に歩いていた。


 ん~もうちょっと男達が魅了するような素敵な名前で、そして背の高い優しいまなざしをして素敵な名前を持った人が・・・はぁ~。

 ・・・また変なこと考えちゃってる。


「おたけちゃん!ゆうたと一緒にやすけのところに行くのかい?」

「あっろくべえさん!」

 たけがゆうたの蛙取りを土手で座って待っていると、ろくべえという中年の男が通りかかった。

「はい、おうめちゃんのところに行ってあげないと・・・おうめちゃん病気が治ってからますます、うちに懐くもので」

「あれはほんまに奇跡じゃ~、やっぱりおたけちゃんは神様の子じゃ!・・・ついでにわしに金をくれ」

「ろくべえさん・・・無理です!うちは神様の子じゃありません!」

 うちの大好きな子に7歳になるおうめちゃんがいる。おうめちゃんが生まれる前にやすけさんの家には2人の男の子がいたけど、おうめちゃんがまだ2歳の時に2人は病気で亡くなった。

 そしてついこの前、おうめちゃんが病気にかかった。やすけさんも村の人たちも助からないと言っていた。うちは病気で苦しんでいる。おうめちゃんを一晩中抱いていた。

 次の日おうめちゃんの熱が下がった。やすけさんは泣きながらうちにお礼を言った。その話はすぐに村中の話題になってうちが奇跡の力でおうめちゃんを治したと言われた。

 今、川で蛙をとってるゆうたにもあるわ。ある日ゆうたとおうめちゃんが2人で森の中に入ったとき、ゆうたが山犬の群れに襲われて瀕死の重傷を負ってしまったことがあった。

 ゆうたはおうめちゃんを守ろうとして山犬に身体中を噛まれてしまった。そのときもうちはゆうたの体に触れた。そしたらゆうたは瀕死の重傷から3日で元気になった。おうめちゃんとゆうたの出来事でみんなは、うちは神様が竹取のじいさんのところに授けたと本当に思うようになってしまった。


 うちはただ触れただけ・・・。

 うちはただ抱いただけ・・・。


「おたけ姉ちゃん、とうに来て!」

「えっ、えっ、なに!?」

 たけが物思いにふけっていると、ゆうたが大声でたけを呼んだ。びっくりした、たけが慌てて立ち上がり土手で、まるでお手本のように見事に滑った。

「さすが、おたけ姉ちゃん!」

「う・・・うるさい!」

 たけは川に入り、ゆうたに近づいた。ゆうたは前屈みで両手を川の中につけて焦った顔でたけを必死に呼んだ。川の中でゆうたの両手が何をしているのかたけには分からなかった。ただ、ゆうたの表情から何か大変な事が起きたのかと心配になっていた。

「おたけ姉ちゃん捕まえろ!」

「キャー!」

 ゆうたが突然、川につけていた両手を上げると、たけに向かって蛙を投げつけた。蛙は見事、たけの襟から胸の中へ入るという奇跡を起こした。たけは川の中で尻餅をついた。

「やっぱ、おたけ姉ちゃんはすごい!」

「わっわっ、何するの!?ギャー」

 ゆうたは何のためらいもなく、たけの胸の中へと手を突っ込むと蛙を捕りだした。

「へっへっへ~今度は蛇を股の中へ入れてやる~」

 左手に蛙を握ったゆうたがいたずら成功を喜ぶように、品のない笑いをした。

「ゆうた、それをやったら本気で怒るわよ」

「え・・・もしかして、本気で怒ってる?」

 たけの無表情から発するただならぬ声にゆうたの笑いが止まった。たけは本気になってゆうたをにらみつけた。するとゆうたの顔色ががだんだん悪くなり涙ぐんできて。

「う~ん、あのみい、あの・・・ごめんなさい、ごめんなさい!」

「いいから、おうめちゃんのところに行くわよ。おまつお姉ちゃんがいなくなってからうちがおまつお姉ちゃんのかわりになってんだから」

 もぅ、ゆうたは本当にいたずらが好きなんだから・・・でもおうめちゃんを必死に守る強い心もあるのよね。


 たけは、涙ぐむゆうたを見て微笑んだ。たけにとっていたずら好きで、正義感の強いゆうたは憎らしくも愛らしかった。


 でも、いたずらはやめれ!


 2人はまた、太陽がまぶしく照らす田舎道を歩き出した。すぐさま、ゆうたが大きな声でたけに尋ねた。

「おたけ姉ちゃんの好きな人ってだれ?」

「えっ・・・なっなにを・・・言うのよ、とつぜん」

 なぜ、そんなところに興味を持つの?あっちなみにあんたじゃないからね!

 ゆうたのすきを突いたような言葉に、たけの背中に少々冷や汗が出てきた。


 この村には、同い年のろくすけくんは優しいけどぼんやりしすぎているから・・・

 一つ上のきゅうすけさんは身体も大きくて力もあって頼もしいけど、性格が乱暴・・・


 悩むたけを笑いながら見ているゆうたが、更にでかい声で聞いてきた。

「だって、おまつ姉ちゃんがお嫁に行ってさぁ、今度はおたけ姉ちゃんの番だよ!ねぇ誰が好きなの?」

「う、うん、おまつお姉ちゃん・・・」

 たけの脳裏に2年前の記憶がよみがえった・・・。


「おうめ、いつまでも泣かないでよ!仕方ないじゃない・・・」

「だってぇ・・・おまつお姉ちゃん隣郷へ嫁いじゃだめぇ!」

「これからは、おたけがあんたのお姉ちゃん!おたけ、おうめの面倒を・・・ってあんたもなに暗くなってるの?」

「ねぇおまつお姉ちゃん、あの人のどこが気に入ったの?」

「ん?・・・あの人の面倒は私が見るわ!」

「ん~そんなんじゃなくていつも楽しくて毎日一緒に幸せで暮らせる人と・・・」

「おたけ・・・そんな男、現実にいないから・・・」


 何の迷いもなく、その人のところに行っちゃった。おまつお姉ちゃん、あの人が好きだったのかなぁ?


「おたけ姉ちゃん?」


 うちはやっぱり、優しくてうちを守ってくれて・・・これって贅沢?贅沢よね・・・でもやっぱり、素敵な人がうちのもとへ来て・・・


 姫、あなたを愛しています・・・


 なんて言われたら、あ~駄目!・・・え~っとうちを守ってくれて・・・あぁ~誰かうちの心をなんとかして!。

「おたけ姉ちゃん、さっきからなに言ってだよ?」

「えっ・・・えっえっ!」

「おいらが静かになったら今度はおたけ姉ちゃんが何かつぶやいてるよ?」

「うっうっ、うっさい!!!」

「で・・・おたけ姉ちゃんはどんな人が好きなの?とうに教えろー!」

「う、うち、うちは・・・」

 ゆうた、またそれでてんごしようとしてるのね!うんつく・・・




 ちょうどそのころ一人の僧がこの地の田舎道の大きな大木の側にある大きな石に腰掛けて日陰の中、ため息をついていた。


 父上は力を持っている・・・。幼いときから父上は怖かった。小生だけでなく、優秀な兄上達も父上を怖れていた。・・・何なのだあの怖さは?

 我ら一族は貴族の世界で頂点に立ち、世を支配している。先祖たちはいったいどうやってあの力を手に入れたのだろうか?我が一族の運命なのであろうか?それゆえ、父や兄たちは小生は無能だと愚弄して・・・悔しい!

 1人の心通うよき友は瀬戸の内海へと小生から去り、今は板東にいる。それにくらべて、小生は?あぁ・・・。


 道ばたで野犬に食われる病気で亡くなった屍。

 国中はおろか都でも盗賊が好き勝手荒らし回っている。

 それらを父上、兄上達は、無くすことが出来ず民はずっと苦しんでいる。

 それを小生が嘆いても・・・太政大臣、左大臣、右大臣、内大臣、大納言、中納言でもなければ参議でもない、ただの摂政の三男坊では何にもならんよ。


 そこに鍬を持った村人が一人、近づいてくると用もないのに僧の前で足を止めた。僧は気付いていなかった。いつの間にか自分が大木に顔を埋めながら、小言をつぶやいていることを。

「小生にだって何かできる!」

 突然、振り返ると村人に向かって叫んだ。村人は吹き飛ばされたように後ろに下がると、思わず鍬を構えた。

「・・・こんにちは」

「へっへえ、こんにちは」

 お互い苦笑いで挨拶すると村人は去り、僧はせきを一つした。


 僧は世を儚む貴族がよくやる事・・・。

 違う、違う、ちがーう!小生は僧侶として世の人々を救う!そう思って修行に励んでやってることと言えば、この土地の何の変哲もない風景の中をただ歩いているだけ。

 ・・・力が欲しいよ。




「ゆうた、はよい来て!おうめちゃんが待ちくたびれちゃう・・・」

 また、ゆうたが足を止めた。だが今度は生き物ではなく、道に落ちていた手頃な長さの木の棒の端を胸の前で両手で持つと、高らかに言った。

「おたけ姉ちゃん、おいら武士になる!」

「・・・ゆうたにはぜったい似合わない」

 たけも足を止め、笑顔でいるゆうたの顔を真顔で見た。ゆうたの顔はまさに、夢を見ている子供の顔だった。

「でもおたけ姉ちゃんだって貴族の女になって綺麗な着物きて強くてかっこいい男が現れてほしいとかって思ってるんだろ?」

「う、うん、それは・・・はい」

 ゆうた・・・なかなか鋭いわね

 図星を突かれたかのような、ゆうたの言葉にたけはまたまた、冷や汗をかきながら素直に頷いてしまった。

「だろぅ!強い男は武士になったらなれるんだ。おいらは本物の武士になって刀で鬼や怨霊だって叩き斬ってやる!」

「か、かたななんて、武器はだめ!そんなの持ったら戦っちゃう!」

「だから武士になるんだよ・・・おたけ姉ちゃん何言ってんだ?」

 ゆうたが鋭い目でたけを見ながら言うと、たけは半笑いになって・・・。

「えぇ、え~っと武器よりくわを持って・・・う、う~ん」

 

 はぁ~・・・

 武士って、やっぱり男の子の夢なのかしら?夢・・・綺麗な着物きて優雅な暮らしをして強い男の人がうちのもとに・・・人を殺す武士は強いの?


 そう思ったとき、突然たけに恐怖が襲ってきた。たけが暮らしているこのさぬきの地は戦とは無縁の土地だ。遠い、板東と呼ばれる土地、瀬戸の内海では僦馬(しゅうば)の党や海賊や豪族や受領や負名が争いを繰り返しているという話は聞いたことはある。確かに、この土地でも実は受領と負名の仲は悪かった。板東や瀬戸に比べれば、ここは平和だった。

 しかし、たけは恐怖を感じた。


「おたけ姉ちゃーん!」

 えっ?あっおうめちゃんが・・・えっ、泣きながらこっちへ走ってくる?


 たけが前を向くと、前方から一人の7歳の小さな女の子が泣きながらたけのもとへ走ってきた。 

「おっとうが殺される!」

 うめはたけにしがみつくと、必死になってたけに助けを求めた。

「おうめちゃん・・・何があったの?」

 


※         ※         ※



 小生も何か・・・んっ、見えてきたのはどうやら受領の館のようだが、村人達が集まって・・・世も末だ、ここでも負名と受領が衝突している。父上は何をしているのだ?苦しめむのは百姓なんだぞ。国司、負名の汚職を何とかしろ!海賊や盗賊を取り締まれ!

 小生は・・・まずは様子を見よう。

 ちょっとまて受領と負名の間に立っているのは、まさか!?


「それで・・・うちを殺すのですか?」

「小娘に何がわかる・・・話し合いなど意味はないわ!殺してやるわ!」

 たけは声を震わせながら一人の男と対峙していた。男は右手に持っている直刀をたけの頭上にいつでも振り下ろせる状態だった。

 大勢の男達が武器を持ち、すでにうめの父親が肩を切られ倒れ込んでいる前にたけは立っていた。目の前の男はこの地の受領であった。負名が郎党を引き連れて、受領の館へ押し寄せた。受領は自分の郎党と共に対峙していた。


 信じられない、あんな美しい娘・・・嫁にほしい・・・が止めるのか!?だがまずい、受領はあの娘に対して刀を振り上げて、殺すつもりか!?


 そう思っても、僧は足を一歩踏み出せなかった。

 あの娘は殺される・・・。そう思いながらあの娘の勇気を羨ましいと思った。

 だが僧はさらに信じられない光景を見た。

 ありえない・・・娘よりあそこまで凶器になった受領の方が震えている。止めるというのか・・・あの娘が!?


「人を殺したければ、最初にうちを殺しなさい!」

 たけが叫んだ!負名との度重なる衝突で平常心を失っていた受領がたけの頭上に直刀を全力で振り下ろした時、衝撃の光景が起きた!


 バキィァ!


 直刀がたけの頭頂部に当たることなく根本から折れ、宙に舞い、受領の後ろの地面に刺さった!

「・・・・・・・・っ!!!」

 言葉を無くした受領は逃げるように館に入っていった。負名達も肝をつぶしたのか、黙ってその場を立ち去った。たけは肩を切られた男のそばまでくると地面に座り込んだ。後ろから、うめが駆け寄ってきた。

「おたけ姉ちゃん、おっとうを助けてもらってありがとう・・・おたけ姉ちゃん、大丈夫?」

「うん、少し疲れたけど大丈夫よ」

 たけは弱々しい声を出しながら、うめに笑顔で答えた。周りで見ていた百姓達も集まってきた。その光景を迷える僧は喜びの涙を流しながら見ていた。


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