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[〜 ようこそ、カオスあふれる異世界へ 〜]  作者: 十番目の元素
第一章 迷宮編
6/9

邂逅(かいこう) ─(2)

更新遅くなり申し訳ありません!

今回はいつもより長めになっていますので、ゆっくり読んで下さい。

主人公のレベルを少し変更しました。


ブックマークしてくれた方ありがとうございます。

 

『グレートコアレックス』

 Lv.84 恐竜種

 スキル:【威圧 Lv.5】【王者の咆哮(レイジングブレス) Lv.1】【状態異常耐性 Lv.5】【爪撃 Lv.6】【薙ぎ払い Lv.6】【熱光線 Lv.3】



 ……ちょっと待てよ。

 こいつは確か『アイレーン地下迷宮』下層階のボス級モンスターだったはず。

『アイレーン地下迷宮』の単語を鑑定した時に、下層階のボスとして名前が載っていたのだ。


 非常にまずい。

 レベル差がでかいし、何より俺のレベルの高さはスキル【成長補正】による恩恵が大きいのだ。だから実際の戦闘経験は、低い訳じゃないけどレベルに見合うほど高い訳でもない。


 何度も戦った事のあるウイングウルフや、ラビットホーンのような魔物ならまだ余裕で勝てるが、レベル80を越す相手に勝つのは、余程の事が無ければ無理だろう。


 グレートコアレックスが牙をカチカチと鳴らしてこちらを睨み付けてきた。その双眸が鋭く、紅く光る。

 え……?

 その瞬間、俺は意図せず身体が硬直してしまった。

 一瞬、身体を乗っ取られたかのように動け無くなる。


 目の前に三本の爪が迫りくる。


 ……クソッ!動けよ!俺のカラダ!


 刹那の過ぎ去った後に突如、身体の制御が帰ってきたような感覚がした。

 俺は咄嗟に左へ身体を捻って緊急回避を行う。が、交わし切れずに、鋭い爪に脇腹辺りを軽く抉られた。


 ……ってえ……!


 少し抉られただけなのに結構な量の鮮血が腹から飛び散る。


 さっきのは一体何だったんだ?何で動かなくなったんだよ?


 俺はそう疑問に思いつつ、後ろに跳んでコアレックスから距離を取る。

 すると地面に着地した瞬間、ヤツがまたその瞳を紅く光らせた。

 一瞬、ゾクッとした悪寒が身体中を駆け巡った。

 ……もしかして、【威圧】ってスキルの効果か?


【威圧】

 相手に威圧感による精神的な負荷を与えるスキル。負荷の大きさは状況により多少変化するが、相手とのレベル差によって大きく変動し、抵抗(レジスト)に失敗すると一定時間身体の制御を奪われる。


 ビンゴだ。

俺のレベルが61なのに対して、あっちのレベルは84。

 レベル差が影響するのはかなり致命的だな。

 ちなみに抵抗(レジスト)というのは、精神に直接効果を与えてくるような攻撃に対抗する事だ。


 ヤツと距離を取ったお陰か、威圧感が薄まって身体が硬直するまでには至らなかった。

 距離が遠い事を悟ったのか、ヤツは走って距離を縮めようとしてくる。それに合わせて俺も後退した。

 するとやがて焦れったくなったのか、ぎっしりと牙の並んだ口を大きく開いて、何かを吸い込み始めた。

 スキルの予備動作なのか?


 コアレックスの口元に沢山の紅い粒々のようなものが集まりだした。それらは徐々に球体を成してゆく。

その光景を見て俺はふと気が付いた。


 ……もしかしてあれは赤の魔粒子じゃないのか……?


 やがてそれらは一つの炎と化し、最大まで膨張し終わったのか魔粒子の集束を突然止めた。

……まずい。

 俺は危機を感じてその場から離脱したその直後、俺のいた場所へと紅い一本の太い線が突き刺さった。

轟々と音を立てて地面を焦がしてゆく。


 ……これは多分スキル【熱光線】だよな。なんて恐ろしいスキルだよ。


 熱線は地面を抉り、文字通り表面を蒸発(・・)させていた。地面が蒸発って半端じゃないだろ!


 ……危ねー。あんなの当たったら確実に死ぬな。


 早くヤツから逃げ出したい所だが、生憎(あいにく)先へ続く通路はグレートコアレックスの後ろに隠れている。

最悪だ。

 俺にはもうこいつと戦う以外に道はないだろう。


 ……こうなったらやるしか無い……!


 俺は腰に提げていた鉄剣を抜き、【黒魔粒子操作】で黒いオーラを纏わせる。まるで漆を塗ったかのように刀身が黒く染まり、艶やかに光った。


 地面を蹴り、コアレックスへと接近を試みる。


 コアレックスは俺をターゲットに定め、三度目の【威圧】を放ってきた。

 ……馬鹿め。そんな攻撃二度と効くかよ!

 俺はお前と戦うって腹括ったんだ。今更怖じ気づく訳ないだろうが!


 俺は威圧が空振りしてキョトンとするコアレックスの、足元への接近に成功し左(すね)に目掛けて斬撃を放った。

 ヤツの脛に剣先が食い込む。が、手に伝わる肉を断つ感触がなにやら鈍い。

 どうやら厚い皮膚に守られて、切っ先が肉まで届かなかったようだ。

 

 ……くそっ、大したダメージになって無いみたいだな。

 その証拠に、ヤツの体勢はほとんど崩れていない。


 コアレックスのお返しとばかりに放った右脚の蹴りが近付いてくる。

 俺は横にステップして蹴りを躱した。

 危なかった、そう思った時、背後から高速で尻尾が飛来してきた。多分直撃は免れないだろう。どうやら蹴りはただのフェイクでこっちの【薙ぎ払い】が本命だったっぽいな。


 仕方が無いので俺は尻尾が当たるのと同時に前方へ跳び、薙ぎ払いの勢いを出来るだけ相殺する。


「ぐはぁっ!」


 身体が宙に投げ飛ばされる。

 流石はボス級。なるだけ威力を削いでも、身体中にトラックに轢かれたような衝撃が走った。

 こんなのもろに受けたら呼吸出来ないだろうし、最悪死ぬだろうな。


 肩から落ちて地面と接触して一瞬息が詰まったものの、すぐに起き上がり体勢を立て直す。

 身体のあちこちに痛みが走るけど、堪えられない程じゃない。

 俺はこの迷宮に転移してからこの恐竜に出会うまで、伊達に魔物を狩っていた訳では無い。


レベルアップに伴って筋力やら耐久力やらのステータス(・・・・・)という物が確実に上昇しているはずだ。

 鑑定結果には表示されていないが、レベルアップの度にどんどんチカラが湧く感覚がするので、間違いないと思う。

 これぐらいに耐えられない程、俺の身体(ステータス)は甘くないんだよ……!


 俺は諦めずにもう一度接近を試みる。

 身体は鱗のような皮膚で硬く守られているので傷を付けにくいことはよく判った。しかし、


 ……ならその裏側はどうだろうか……?



「ギャオオオオオオ!! 」

 大きな唸り声を上げて、接近してくる俺を近づけさせまいと尻尾で薙ぎ払おうとするコアレックス。

 スピードはかなり速い。油断したら一瞬で吹っ飛ばされるだろう。


 俺はタイミングを見計らって、上にジャンプし薙ぎ払いをやり過ごす。上出来だな。

そして左脚の裏側──アキレス腱に回り込み、思い切り切り裂いた。

 柔らかい、筋肉の筋を断つような感触がした。


「ガアアアアッッ!!!」


 コアレックスが痛みで身体のバランスを崩し、倒れかける。

 ……チャンスだ!!

 そう思って油断した俺は無防備となったヤツの腹を裂こうと動き出した、その時、



 ……空気の流れが変わった。



 ───────────────────



「ギャアアアアオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!」



 唐突に放たれた凄まじい程の雄叫びによって、物凄い勢いで吹き飛ばされ、壁に衝突する。


「がはあッ!!!」


 肺が潰れかけて一瞬呼吸が止まり、口から大量の血を吐き出した。

 身体の内側から「ゴキゴキッ」という音が鳴る。肋骨や背骨が何本かやられたのかも知れない。


 身体の平衡感覚を(つかさど)るらしい三半規管もダメージを食らったようで、頭がくらくらして気持ち悪い。


 朦朧とする意識の中、俺は何が起きたのかと辺りをゆっくりと見回して…………見てしまった。



 脚を傷つけられて怒り狂ったかのように、身体中を黒っぽく変質させ、シューシューと煙を上げながら、血走った眼で俺を睨みつけるその、 “恐暴竜” の姿を。


 俺は思った。そいつの纏った殺気は、スキル【威圧】では比べ物にならない程鋭利で、強烈で、まさに “王者” の名に相応しいと。


俺は恐怖を抱いた。

怖い、そんな幼稚な表現では説明出来ない感情が渦巻く。

 その時俺は気付かされた。

 ……俺は自惚れていたかも知れない、と。



 俺は水辺でヤツと会った時、表面上(・・・)では「勝てない」と感じていた。だけど内心では今まで狩ってきた魔物と同じように、“『狩る者(ハンター)』の称号を手にした俺” によって狩られるのだろう、そうやって見下していたのかも知れないと。


 もし本当に勝てないと思ったなら、来た道へ引き返していたはずだろう。そうすれば、あの恐暴竜を撒いて先へ進むのが出来た、という事が判らない程俺は馬鹿じゃ無かったはずだ。


 だが結果こうなった。

 俺は王者を馬鹿にして、喧嘩を吹っ掛け、見下して、そして逆鱗に触れた。


 たかがレベル50程度の魔物を無双出来るようになっただけで、魔物の中の頂点に君臨する “絶対王者” に、勝てると思って挑んでしまった、愚かな俺。



 相応しい名を持つスキル、【王者の咆哮(レイジング・ブレス)】によって圧倒的な チカラを見せ付けて、同時に俺の愚かさを露わにさせた “王者” が、俺のすぐ傍までやって来る。



 ……これは天罰なのか……?


 ……迷宮に住む魔物たちが命懸けで明日を迎える為に殺し合い、勝者は敗者の肉を糧にしてチカラを蓄え、いずれこの迷宮の食物連鎖の頂点を獲得して生き延びようと足掻くといった、「生への渇望」の蔓延る迷宮内で魔物たちのその必死さを嘲笑うかのように剣を振るい、あまつさえその頂点を馬鹿にしてしまった……俺に下された制裁なのだろうか……?


 ……そんなのひど過ぎる……


 ……俺はここで……


 ……死んでしまうのか……?


 その時脳裏に、鋭い牙で身体が二つに張り裂ける俺の姿が浮かんだ。

 思わず顔を酷く歪ませてしまった。


 ……そんなの絶対に嫌だッッ……!!!



 だがそんな俺の心の叫びを打ち砕くかのように、ヤツは高らかに吼える。


「ガア"ア"ア"ア"ッ!!! 」


 ブシュッ!!

グレートコアレックスの牙が俺の脇腹を貫通した。

 そのまま高く持ち上げられる。

 腹に焼けるような激痛が走った。

 最早声など出はしなかった。

 近づく死に抗うことさえ出来ない。



 くそう……何でだよ……。


ちょっとくらい強いかもって思ったって良いじゃないか。何で俺なんだ?何で俺は殺されなきゃいけないんだ?


俺は所詮死にすら抗えない程度のチカラしか無かったのか……?

誰か……誰か答えを教えてくれ……!




 ──本当にそうなのでしょう?


……!!?

 突然頭に声が響いてきた。誰の声だ!?


 ──貴方は本当にそう思いますか?


 いや、何処かで聞いたことがあるようなな……


 ──私の事が思い出せませんか?


 ……そうだ!俺がこの迷宮に転移させられる直前に、あの真っ白な空間の中で出会った彼女(・・)……!


 ──その通り。あの時私は貴方に何と言ったか覚えていますか?


 え?えっと確か……「……全ての希望を託した」とか何とか言ってたような……


 ──そうです。

 私はとある重大な過ちを犯し、この世界に悪夢をばら撒いてしまいました。そんな時に貴方を見付けたのです。

 願わくば、私から貴方に一つお願いをさせてくれませんか?


 お願い?そんな事言われても、俺もうすぐ死ぬよ?


 ──いいえ。貴方はまだ死にません。自分のチカラを発揮しなさい。私がその手助けをして差し上げましょう。

 その代わりに私の願いを聞き届けてはくれませんか?


 ……とんだ詐欺師だな、アンタ。

 ひょっとしてその願いとやらを約束させる為に俺が死にかけるまで待ってただろ……?


 ──ふふっ滅相もありません。


 ……いや褒めてないんですけど!?まあいいや、どうせ断ったらこのまま死ぬんだろうし……いいよ。どんな願いだ?


 ──受け入れて下さり感謝します。私の願いとはただ一つ。


  この世界を救って下さい。



 ……へ?どゆこと?


 ──……それでは貴方のチカラを発揮するサポートを致しましょう。

『黒』の王よ。

 何故私は貴方に希望を託したのか。

 貴方に眠るチカラとは一体何なのか。

 いつかその意味を理解する時、

 貴方は真なる王へと覚醒するでしょう。

 健闘を祈ります───


 は!?え?ちょ、ちょっと待てよ!!どうゆうことだよ!!




 そこで俺は意識を引き戻された。


「ガルヴヴヴゥ……」

 腹に牙が食い込んだままだった。

 どうする?どうすれば良いんだよ……!!


 その次の瞬間、俺は誰かに操られるような感覚がした。

 頭の中に見たことの無い文字が大量に羅列し始める。

 謎の文字が頭の中をぐるぐるする中、最後に書かれた文字だけは何故か読めた。

俺は無意識のうちに声に出していた。


『熾天使の名において黒の解放を行う』


 次の瞬間、俺の身体から凄まじい何かが溢れ出る。

 それは触手──あのゾンビの部屋で俺の見た「ダークテンタークル」と全く同じ姿形をした触手だった。

 それが身体から無数に生えてきて、喰い殺そうとしていたグレートコアレックスに巻き付き、逆に喰い殺そうとしたのだ(・・・・・・・・・・)


「ギャオオンッッ!!」


 王者は必死に足掻くがその触手に抗う事は叶わない。

 やがて抵抗も虚しく、黒い中に吸い込まれて消えてしまった。

 触手は、食い終わった後俺の風穴の開いた腹に巻き付いて、溶けていった。


 いつの間にか俺の傷口が塞がっている……。



 そうして俺はこの戦いに終止符を打ったのだった。




次回でやっと登場人物を増やす予定です!


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