邂逅(かいこう) ─(1)
第一部 → 第一章 迷宮編 に変更しました。
少しストーリーが判りづらくなっていたかも知れません(汗)。なので、今回は説明回みたいになっております。ご了承下さい。
「「ガルルル!!! 」」
右から二体のウイングウルフが襲い掛かってくる。ウイングウルフはその名の通り狼の姿をした魔物だ。
俺は右手に持つ鉄剣に黒いオーラを纏わせ、ウイングウルフを切り払う。地面に倒れて、弱々しく、唸った。
俺はトドメとして喉元を切り裂く。そして一体のウイングウルフの命は、潰えた。
……もう何も感じないか……。
その直後、仲間の仇をとるかのように、もう一匹が背後から飛び掛かってきた。が、コイツらはもう何度も戦った相手だ。
攻撃パターンは既に見切っている。今更飛んで来ようが、大した脅威にはならないのだ。
俺は左足を軸にし、その場でくるっと右回転して、躱す。
その回転の遠心力を剣に乗せて、飛びかかる最中だったオオカミに剣先を走らせる。
「これで最期だ」
オオカミの首がスパンッという音と共に地に落ちた。
殺さないという選択肢はない。魔物だって、俺を殺さんと襲ってくる。ここで仕留めなければ、いつどんな火種が飛んで来るか分かったものじゃないからな。
初めて魔物を殺した後、俺は今に至るまで何度も魔物と遭遇した。
最初の頃はビビって逃げた事もあったけど、今は冷静に相手を見て倒せるレベルまでに達している。
この辺の魔物は大体戦闘を経験したし、最早手こずる事など有り得ないだろう。
この辺りの魔物の平均レベルは50相当。
初めに倒した角の生えたウサギ── ラビットホーンという魔物はレベル25くらいの魔物だ。大分成長したと改めて思う。
……そうそう、それから俺は「黒魔粒子操作」をちょくちょく練習していたのだ。
すんなりと感覚を掴む事が出来て、割と早めに黒魔粒子を操作出来るようになったのだ。ブレスレットのお陰かも知れない。
そんな感じで結構操作はうまくなったと思う。
あの剣に纏わせた『黒いオーラ』というのも、実はこの黒魔粒子の事だったのだ。
だが、剣を奮うというのは案外難しい。
俺は事実、平和な日本で生まれ育ったから、今まで剣なんて握った事すら無かった。そんな人間が黒魔粒子をちょっと操れるというだけで、ウイングウルフなんていうLv.50 の魔物を一方的に狩る事なんて出来る訳が無い。じゃあどうしたかって?
俺のステータス画面にはある数値が記載されていた。それは『SP』。
本来スキルという物は、そのスキルを実際に使用する事でレベルが徐々に上がっていく。
が、一つのレベルを上げるのに相当な時間を要する。
時には、「今すぐレベルを上げて実戦で使えるようにしたい!」そう思う事もあるだろう。
そんな時に使うのがこのSP。
これをある一定量割り振れば、即座にスキルレベル上がるという、何ともゲームチックな代物なのだ。
この一定量は段階的に決まっていて、今のレベルの数値に1を足した分が次のレベルアップまでに必要な量となる。例えば今、【鑑定】スキルがLv.3だとすると、次に上げるのにSP が3+1で4必要となるのだ。
因みにレベルの最大値はLv.10となっている。
俺はそのスキルポイントを使って、最初のラビットホーンを倒した直後に手に入れたスキル【剣術】を半分のレベルまで割り振っておいたのだ。
そのため、剣の持ち方すら碌に知らなかった俺が、自在に操れるようにまでなったという訳だ。
また、【剣術】のレベルを最大まで上げなかったのは、単に身体が能力に追い付いていけずに感覚がズレてしまうから。
闇雲にレベルだけを上げようとしても、使いこなせるかは別。世の中そう甘くはない。
……【鑑定】だけは最大まで上げさせてもらったけどね。鑑定スキルはとても便利だ。
レベルを上げた事によって説明文がより詳細となった。
まだまだ俺には知らない事が有り過ぎる。
もっと色んな物を調べて、もっともっと知識を蓄えなければならない。
今は【鑑定】という方法で物を解析する事しか出来無いが、地上に出たら色んな人と出会って新しい事を沢山発見してみたいなあ。
俺はふとそんな事を考えたのだ。
さて、気を取り直そう。
もうこの辺りは狩り尽くしたはず。
そろそろ移動した方がいいか……。
俺は魔物の死骸が大量に散乱した部屋を後にし、先へと進んだ。
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俺が転移してきたこの洞窟のような場所は『アイレーン大迷宮』というらしい。何故分かったのかと言うと、単純に壁を【鑑定】してみた所、「アイレーン地下迷宮の壁」と表示されたからで、たったそれだけ。
何だか拍子抜けである。
『アイレーン地下迷宮』を鑑定した情報によれば、この迷宮は下層階と上層階の二つに分かれているらしく、今俺のいるのは下層階。迷宮に棲む魔物は基本的に、下層から上層に進むに連れて強さが増すらしい。
この場所が地下にある迷宮だと言う事は分かった。だとすれば、このまま上へ進んで行けばいずれは地上へ出られるって事か……?
そう思うとちょっと嬉しくなって、途端にやる気が出てきた気がする。
早く日の光を浴びたい。
いつまでもこんなじめじめした洞窟に居るのは御免だ。
この迷宮に転移して来てから、もう何時間経ったのだろうか。ひょっとして一日過ぎたかも知れないなあ……。四六時中魔物が襲って来るので気を休める事も出来ないのだ。
少々疲労は溜まってきたが、アドレナリンが常に分泌されているっぽいので心を落ち着かせる事すらままなら無らず、仕方ないのでどんどん歩を進めてしまっている。
先程からちょくちょく休めそうな小部屋は見つかるのだが……そうするためには、片方が休んでいる間、周りを警戒してくれる『仲間』が必要になるだろう。
だが今に至るまで人らしき陰は未だ発見出来ていない。
俺が教室から転移した時、その転移にはクラスメイトも巻き込まれているはずだ。だからこの迷宮に同じクラスの人が居てもおかしくは無いと思うのだが……。
ちょっと心寂しさを感じるな。
他の皆は大丈夫なのだろうか。
多分、異世界転移に巻き込まれたからにはお約束である転移者特典が、漏れなく付いていると思う。よくあるチートスキルってヤツだな。それらを駆使していけば多分この迷宮でも生き残れるはずだ。
別にクラスメイトは嫌いって訳じゃないから、変な所で死んで欲しく無い。
……いのりは大丈夫かな……?あいつは少しビビリなとこがあるから、もしかしたら何処かでパニックに陥っているかも知れない。物凄く不安だ……。
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この迷宮の通路はかなり広く、途中にある部屋なんて学校の校庭がすっぽり埋まるレベルの広さだ。壁も茶色っぽいしまさに洞窟って感じがする。え?壁は赤黒かったんじゃ無いのかって?
それについては、赤黒かったのはゾンビの蔓延っていたあの階だけで、それ以降は一度も赤黒い壁は疎かゾンビすら見ていない。
通路を少し進むと小川が壁にそって静かに流れていた。水はとても透き通っていて飲めそうだと考える。
川自体は来る途中にも幾つかあったが、濁っていて飲む気にはなれなかった。
実の所、俺には【悪食】というスキルがある。
簡単に言うと、何食べても腹を壊さなかったり、ある程度の毒性であれば体内で勝手に分解してしまうという効果を持ったシロモノだ。
だからまあ、濁っていても飲めなくは無いんだか……なんと言うか、気分的にな。
俺は喉を潤すべく、小川に近づき、しゃがんだ。
ゆったりと流れる水を手で掬い、口元へと運ぶ。吸いきれなかった水が掌から溢れ落ちた。
「んっ……ん……ぷはぁ……生き返る〜」
……ちょっと飲み過ぎたかも知れないな。お腹がたぷたぷ鳴っているぜ……。
俺はこの時分かっていなかった。
水を求めているのはなにも俺だけでは無いと言う事を。水場は迷宮内で休憩の出来る数少ない場所の一つであるが、しかし同時に、魔物達とも遭遇し得る、危険な場所だと言うことを……。
久々の水を存分に楽しみ、そろそろ引き上げようかと腰を上げた、その直後、そいつは唐突に現れた。
「ギャオオオオオオオオオオオオ!!! 」
ドスッドスッと、そいつが歩く度に地面が、いや迷宮全体が揺れた。
異様に膨れ上がった太ももで二足歩行をし、こちらに近付いて来る。前脚は後ろ脚より半分以上も短く、二本の鉤爪をギラリと光らせて、獰猛な牙をカチカチと鳴らしている、かつて地球上に存在した白亜紀を統べる恐竜の王者──“ティラノサウルス” を思わせる風貌をした、そいつの名は……
『アイレーン地下迷宮』下層階のボスの一角であり、レベル80を優に超える、圧倒的な力を持った孤高の主──『グレートコアレックス』だった。
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如月稔
Lv.61 男 人間
S P:残り 277pt
装備:鉄剣
スキル:【鑑定 MAX】【剣術 Lv.5】【悪食 Lv.4】【腐乱耐性 Lv.5】【腐乱属性:付与 Lv.5】【痛覚弱化 Lv.4】【成長強化 Lv.5】
【unknown → 託された希望】
特殊能力:【黒き支配者】
……『魔粒子誘導』『黒魔粒子操作』『黒い触手作成』
称号:『死肉を喰らいし者』『蘇りし者』『狩る者』
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そろそろ主人公以外の人が欲しいなあ……なんて思ったりしています。
次かその次辺りで他の登場人物を出す予定です。
戦闘描写が上手く書けているかちょっと不安ですが、楽しんで頂けたら幸いです!