転移は現国の授業にて。
初投稿の作品です!
拙い文章ではありますが、見て頂けたら嬉しいです
「……私は君に全ての希望を託した……」
白い空間の中にいた。
まるで自分の意識の中を彷徨っているようだ。
「この混沌とした世界で……一体君はどこまで行けるのかな……?」
意地悪そうな笑みを浮かべ、彼女は問う。
俺はそれに答えることはせず、ただ彼女の言葉に耳を傾けた。
……何だか瞼が重い。
彼女は先程までの笑みを一転させ、悲しみのこもった表情を向ける。
「私は大きな過ちを侵した」
「私はとても愚かだった」
彼女の哀愁漂う姿はとても美しく、仄かな艶めかさを感じさせた。
あまりの美しさに思わず見蕩れてしまっていたと思う。
……何故だろう?
彼女の顔は白いベールの様なものに隠れてよくわからないが、それでも美しいと感じた。
だから彼女にはそう思わせる何かがあるんだと思う。
彼女がこちらに視線を向けたように思えた。俺はそれを見つめ返す。
彼女は少し表情を鋭くして──顔が隠れているのに何故鋭くしたと分かったのかかは分からないけど──言葉を続けた。
「私はやはり愚かだった。私は私を優先してしまったばかりに……てしまった。
だがきみは違う。君には ……がある」
……?何故か上手く聞き取れない。
頭の中に霧が掛かっていき……思考が侵されていく。
「……君ならば私には出来なかったこともいずれは……」
……意識が朦朧としてきた。
「世界を変えて……せろ……のチカラで………」
……ダメだ。彼女の言葉が聞き取れない。
「他ならぬ君は……………………」
そして俺は深い闇へと落ちていった。
──────
まだ冬らしさの残る春、今日は天気が荒れていた。
少し肌寒い朝、窓に叩きつけるような雨の音に起こされ機嫌を悪くしながら身体を起こす。
寝惚け眼で時計の針を見つめる。今の時刻は6時だ。
目覚ましをセットしている時間よりも幾分か早いな。
二度寝したいところだが、どうせしたらまた母親に叩き起されるまで爆睡してしまうに違いない。
俺はきちんと学習する生き物なのだ。
同じ過ちなど繰り返すもんか。
まだ重い身体を引き摺り、不機嫌なままリビングへ向かった。
父は平日の朝は家には居ない。サラリーマンで朝は出掛けるのが早いのだ。1度出勤前の父の格好を見たことがあるけれど、髪は7:3分けでビシッときまっており、スーツもシャキッとしていて少し格好いいと思った。
母は近所のスーパーで週3日のパートをしている。髪型は明るい茶髪で肩までストレートに下ろしている。ご近所さんと仲が良く、たまにお裾分けを貰ってきてたりする。「貰える物は貰う」がモットーのちゃっかりとした性格の母だ。
兄弟は、妹が1人、クソ生意気なJCがいる。最近、女子力向上中らしく、出来もしない料理に挑戦しまくっているっぽい。失敗してるみたいだけどね。勿論、それで溜まったストレスは全部俺にぶつけて来る。
……もっといい発散方法見つけて?
黙ってりゃかわいい妹のはずなのに、少し残念だ。
顔を洗おうと洗面所へ向かうと、先に顔を洗っていた妹に出くわした。
生意気のクセに朝は強いんだよなあコイツ。そんなバカなことを考えていると目が合った。……そんな不快そうにしないで欲しい。
「おはよう」
「……キモい死ね」
酷くね?朝の挨拶ぐらい交わしてくれたって良いじゃないか!
いやでも、友達は声すら交わしてもらえずガン無視されてるって嘆いてたからな……。俺はまだ恵まれてる方なのかな?
俺の通う高校は自転車で30分くらいの所に位置していて、途中コンビニやファミレスなどがある。利便性が高くて嬉しい限りだ。中々いい高校を選んだなあと自分に感心しつつ、自転車で校舎の正門を潜った。
「おはよー」「おはよう!みのる君!」
彼女は鮎川いのり。鮎の川と書いて「あいかわ」と読むらしい。彼女とは中学の時に席が隣になってから仲良くなり偶然同じ高校に通う事になった、俺の女友達である。
髪はさらさらとした黒髪ロングで肩甲骨辺りまで伸ばしている。睫毛は丁度いい感じに長く、目はくりっとしていて、会う人に明るい印象を与えるだろう。
身長は164くらいかな?不本意な事に俺は彼女より背が少し低い。
え?どうせ150センチちょいなんだろ?(笑)って?ぶっ飛ばすぞこの野郎!160ぐらいはあるわ!
……どうせ160ぴったりだと?うるさいわ。
そんな訳で彼女は顔も悪くない。ぶっちゃけ俺は好みな方だし、いのりの事を狙ってる奴も少なくない。
そして彼女を「いのり」と呼び捨て出来るくらいには仲はいい方だ。俺は君付けされてるけどね。
もし彼女が俺に「付き合って……」とでも言ってきたら余裕でOKするわ。言ってくれないかな?
そういやこの前友達が得意気に「待ってるだけじゃ彼女は一生出来ない」って言ってたわ。ムカつく。
教室に入って皆と挨拶を交わし席に付く。俺の通う高校は一応進学校の部類に入るんじゃないか?曖昧な理由は進学率も悪くないが、いいと呼べる程の学校でも無いから。そんな学校だ。
1時限目、2時限目……時間が少しずつ過ぎてゆく。勉強は面倒だ。放課後は友達とゲーセンへ行く予定だ。本当はいのりを喫茶店に誘ったんだけど部活の集まりがあるから来れ無いんだと。あいつ何部だっけ?
今は現国の時間だ。だが先生の言っていることが全く理解できない。先生本当に日本語喋ってる?
黒板に当たるチョークの音がカツカツと響く。俺はその静寂に何とも言えない心地良さを感じながら、授業中にも関わらずそんな風にぼーっとしていた。
だから俺は異変に気付けなかった。
もしこの時気が付いていたのなら、俺はまた平凡な日常を繰り返すことが出来たのだろうか……。
コンコン。ガラガラッ。
「先生……ちょっと宜しいですか?」
ハゲ頭がやって来た。学年主任だけど。
「はい、なんでしょう」
そう言って現国の先生は廊下に出ていく。
教室に少しざわめきが生じる。
そしてあの心地よい静けさが崩れていく。
俺は少し機嫌が下がりもう少し静かにして欲しいなあ、そう思った時、
パリンッ!何かが割れた音がした。
皆の動きが固まる。
そしてお互いがお互いの顔を見渡す。
誰も答えない。
一体なんの音だ?
そう疑問に思った直後──
突如、教室の中心から青白い光が漏れ出す。
いきなり現れたその光は教室中を青白く染め上げていく。
やがて光はサークル状に伸び、この教室の大きさまで広がった。
「…………」
……え??
……まじかよ……こんな光景想像なんて出来やしない。
光がいきなり教室の地面に現れて……魔法陣(?)のようなものへと広がっていくとか……
想像出来た奴は相当中二をこじらせてると思う。
かつて無い異様な光景に誰もが目を奪われ、声を失った。
だから誰もその場を動くことが出来なかった。最早それは仕方の無い事だったと思う。
広がり終えた光はさらに輝きを強くさせ、視界の全てを覆い尽くす。
その眩しさに思わず目を瞑った。時間にして僅か数秒の時が経ち、だがその何倍もの時が過ぎたような錯覚に囚われた後、恐る恐る、眼を開ける。
白い……。
そこは白い世界。いや、正確には白いモヤの様なものが辺り一面に広がっている世界。
……そこに俺は一人で浮かんでいた。
辺りには誰もいない。
「……」
……俺は声が出せなかった。
……ここは何処だ?
「……」
だが不思議と驚きはなく、また焦燥もなかった。
なんでだろ?
……次第に俺は思考そのものを刈り取られていくかのように、考える事を放棄していく。
ただ白い意識の中をふわふわと彷徨っていた。
……何も考えずにただ、彷徨う。
「………」
……?何か声が聞こえる。
「……………」
誰の声だろう?
意識が朧気になってくる。
「……を……せろ……」
……?
「……世界を変えてみせろ……」
そう聞こえた。
確かにそう聞こえた。
だがその言葉の真意を確かめる事も出来ずに……
意識が暗転した。
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如月稔 (きさらぎ みのる)
スキル【unknown】
ゆっくり書こうと思っているので更新速度は遅いかも知れません。
指摘等あれば修正いたします!