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クラス  作者: 筑紫 献
始まりの日
8/10

第8話 ブレイクスルー

ー 31日目 ー


フジエネルギー社が記者会見を行う。

フジスペースクラフト社が家電制御製品を販売するのに作った子会社で、先日の会社設立の発表に続き、また何か発表があるということだ。マスコミにリークされた情報では「世紀の発明をした。」らしい。

「お集まりの皆様、本日は我が社の開発した新型ヒートポンプと新型モーターについて発表いたします!」

社長自らの挨拶で会見は始まった。


宮崎が最初に選んだテクノロジーは反重力システムであった。それをそのまま出すのではない。超小型の部品として、モーターやヒートポンプに組み込んだ。重力をなくすために使うのではなくそれぞれの機器の抵抗、エネルギー損失を減らすために用いたのだ。テクノロジーを使えば損失をゼロにすることもできる。しかしそこまではせず、あくまでそれらをこれまでの数十分の一レベルにまで低減させた。これにより冷暖房やモーターに使われる電力を激減できる。発表されたものは超省エネ技術というべきものであった。無尽蔵にエネルギーを生み出すようなものではなく、軍事利用ができるようなものでもない。あくまで経済効果、省エネ性能として画期的というものであった。


例えばこの新しいヒートポンプを使えばエアコンの電気代は半額になる。モーターをハイブリッドカーに埋め込めば電力ロスがほぼゼロになり、燃費が数割向上する。表向きはこの程度の効果だが、モーターは当然電車にも使われている。この大したことの無いように見える技術は実に多岐に渡り影響を与える製品なのであった。

大手新聞社数社は翌日の朝刊で「画期的新技術」と書いてくれたが、それほど紙面の多くを割いたわけではない。むしろ「世紀の発明というほどじゃないじゃないか」という心の声が聞こえてくるかのような記事も多かった。


しかしながら、翌日からフジエネルギー社の電話回線はパンク状態になった。

電機メーカー各社を始め、この製品を必要とする、いや、この製品が使えなくては市場から退場を余儀なくされる会社は何百社もあった。

フジエネルギー社はこの新技術についての特許を一切出願していない。各メーカーともに製品の実物が入手できたらリバースエンジニアリングを行い、自社で同じものを開発しようと目論んでいる。製作が難しいものであれば、やむをえない、パーツとして購入しようと考えていた。

そのテストのために、今回発表された各種製品に関する問い合わせの電話が殺到していたのだった。


リバースエンジニアリングの可能性は想定して、フジエネルギー社の製品も、既存の類似製品と全く同じ構造としてあった。それぞれ回転軸の部分など、運動抵抗となる部分部分に、そのケースの様に見せかけて反重力装置を埋め込んだのだ。厚さは1ミリ。こちらのクラスの人間が見ても、それは樹脂製パーツの一部としてしか見えない、全く見分けがつかない様に装着されている。


希望各社にサンプル出荷をして1週間ほど。

中身を開けてみて、何も既存製品と違いのない製品が驚くべき省エネ性能を発揮するのに気付いたメーカーは早々に独占契約を申し入れて来た。フジエネルギー社ではそれに応じることなく、しかし、既存の製品と同価格帯で希望する全社に販売を約束した。

かくしてフジエネルギー社の製品を採用したメーカーの製品はその突出した省エネ性能で市場シェアを獲得して行った。



ー 85日目 ー


あっという間にフジエネルギー社の部品が入った製品が日本中に浸透していった。

多くの家庭では電気代が半分になるエアコンを買い求めた。会社の業績は急上昇、株価も急騰。このペースで業績と株価が上がれば数年で日本最大の企業になるかという勢いであった。

まもなく、自動車メーカーが新型モーターを採用したハイブリットカー、EVを発売するだろう。この勢いは加速こそすれ、衰えることはない。

日本の電気メーカーも、世界でまた戦える武器を手に入れることが出来た。日本の経済にも多大な好影響を与えつつある。フジ社の評判は国民からも政治家、官僚からもうなぎ上りになった。


千代田区にある本社は手狭となって来ていた。本社移転を検討すると、中川区が好条件で受け入れの申し出をしてきた。報道によればフジエネルギー社社長と友人であった牧田議員が区長に働きかけ実現したとのことである。

好条件と言っても税金の免除や無償の土地利用権などではない。フジエネルギー社にはキャッシュはいくらでも積み上がる状況になっている。支出を惜しむ必要はなく、むしろ広い空間が必要であった。中川区の申し出は出来たばかりの広大な埋立地を適正価格で提供するというもので、フジエネルギー社はここに本社と工場を同じ場所に設置することができる。

通常、部品メーカーで本社と工場を併設する必要はない。しかしながら、フジエネルギー社の画期的な製品はケース自体に細工がある。このため、ケースを外注する訳にいかず、またそのケースの製造法については完全に一部の人間だけの秘密とされなくてはならなかったのである。外注としたり、人里離れた工場で作るよりは本社と併設してセキュリティを1箇所でまとめられる方が良かった。


「そろそろ政治に手を突っ込もうか。」

宮崎が言うと、皆がうなずく。

「まず、雇用だが・・・有能な人間を大企業平均の1.5倍の給与で正規採用しようと思う。」

「工場勤務も同等条件で良い。そして、中川区に住む社員には住宅扶助を月10万円出そう。」

「それで良いかな?」

皆に聞くと、牧田が答える。

「良いでしょう。選挙は任せてください。それなりの人脈はありますから。」

「俺も頼れる線があるから、ちょっと動いてみるよ。民民党のすべての議員が腐敗している訳じゃないんだ。」

「そう言えば東村は大臣の政策秘書をしていた事もあったんだよな、まともそうな人がいたら是非、僕らの仲間に迎え入れよう。」


宮崎の計画はこうだ。

まず、中川区に巨大企業を持ってくる。そこには本社と工場があり、10万人の雇用を生み出す。

その社員のほぼ全てが中川区に住むように誘導することで・・・自社の支持者を確保。中川区の選挙、議会の議席を取りに行こうというのだ。

中川区の区長と、区議会の過半数をフジエネルギーを支持する者で固めた上で、中川区にクラス99のテクノロジーを持ち込む為の条例を制定する。もちろんその時には、中央官庁との連携、また逆に、政府からの干渉を避ける必要がある。それは東村が尽力する。これらに手法により、中川区に「ありえないほどの発展」をもたらし、その成果を持って全国民の指示を得、国政選挙に打って出ようというのだ。


「ナオは民主主義が好きだよねぇ。というより、ルールが好きというか。まさかテクノロジーを持って帰ったのに、今までのルールに従って選挙に立候補するだなんて。」

マミが感心しながら続けて言う。「誰かが勝手に決めた、非効率、不誠実なルールでも守るよね。」


「何かをする時にさ、僅かでも信頼に値しないことをやってしまうと、次から正当性を主張できなくなると思うんだ。だから、既存の政治システムの上で信用を積み上げ、既存の選挙制度により、まず、国民のみんなに僕らを選んでもらいたいと思う。一度たりとも嘘をつかない。今までの政治家とは違う像を見せたいんだ。」

東村の言葉は、その場にいる全員が共有する思いだった。そんな仲間だからこそ、ここに集まったのだ。

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