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クラス  作者: 筑紫 献
始まりの日
7/10

第7話 もう一人の援軍

ー 8日目 ー


自宅に中川区議会議員の牧田氏を呼ぶ。

牧田氏は去年知り合ったばかりだが、すでに全幅の信頼をおいている相手だ。信頼関係は年数と比例しない。

昨年、私がブログにかいていた役所批判記事を読んで「建築の法律のこと、条例のどこが法律違反になっているのか、諸々のことを教えてくれませんか?」と。そう言って事務所に相談に来たのが知り合うきっかけだった。

私は議員にまともな人間などいないと信じていたが、牧田氏を見て考えを改めた。

日々新しいことを学び、「市民のための役所を作る為には何をすれば良いのか?」と必死に考えていた。こんな議員も存在したのだ。

ただ・・・議員として活動している牧田氏は「私一人ですよ、議会で職員達に逆らっている議員は。」という。私に偏見があったのではなく、牧田氏だけが「本物」なのだ。


区の職員が不正を働いていたり、区の施設での不祥事があると区議会には「陳情」という形で区民からの訴えが届くことがある。その陳情をもとに議員たちは職員を問い詰めるのだが、職員達は議員に対し「貸し」を作ることでその追求を止めさせるという。

貸しとは例えば、議員を後援している建設会社に公共工事を受注させたりとか、後援会に入っている家庭の子供を保育園に優先的に入れてやったりとか、そんなことである。一度不正に加担した議員は二度と正義は口にできなくなる。こうして、ほとんど全ての議員が区の職員達に取り込まれていくという。


「そのビジターとやらに引きずられているのは職員達だけじゃないです。議員もですよ。」

私から、昨日までに知った事実の説明を受けた牧田氏はそう嘆いた。

役所にいる職員のうち、ほんの10%か20%、それだけの人数が1つの意思を持って動けば、役所の職員全体の意思はその色に染まり、それだけでなく議会を形成する議員達・・・そのトップである首長も含む・・・までもが意のままに動かせてしまう。


なぜ彼らは市民の経済活動を阻害するような条例を次々と作るのだろうか?

牧田氏と私の共通見解はこれまで「自分達の仕事を確保するために、やらなくても良い仕事を増やす。そのために条例を作っているのだろう。難しいことを決めると自分達の仕事が忙しくなるから、どうでも良い、くだらない決まりをどんどん作っているのだろう。」というものだったが、今わかった情報をまとめれば、それはどうやら事実ではない。

奴らは私達をじわじわと滅ぼそうとしているのだ。

市民一人一人が少しでも仕事がしにくい様に、経済活動が少しずつ停滞していく様に。

なんて地味な嫌がらせだ!と思うが、真綿を締める様に、これはジワジワと効いてくる。


「明日、東村と会う約束をしています。牧田さんも同席していただけますか?」

牧田氏は「もちろんです。」と答えると、挨拶をして帰って行った。



ー 9日目 ー


打ち合わせ場所として指定されたビルに到着した牧田氏が一瞬絶句し、その後つぶやく。

「ええ?!ここですか?!」

「ええ、やっぱりそんな反応になりますよね・・・」

「お帰りなさいませ!ご主人様!」

前哨基地で待つマミが迎えてくれた。


私達の作戦会議は当面ここで行う事になる。

「俺、尾行の奴らに、すっかりこういう趣味を持っていると思われてるんだろうな。」

「二日おきに通ってればそうだろうな。俺も一緒に常連さんだな。」

「お前な・・・まあいいか。申し遅れました。牧田先生、初めまして、東村と申します。」

「先生は辞めてください。そう呼ばれるの苦手なんです。地元では誰も私のことを先生などと呼びません。名前でお願いします。」

「わかりました。牧田さんと呼ばせて貰います。」


官僚としてのネットワークを持つ東村と、地方自治体の一つである中川区の区議会議員である牧田、この二人を起点としてクラス98勢力による世界征服を阻止しなければならない。

都合の良いことに中川区には他の市役所などと比べて、特に多くの侵入者がいることが分かっている。その割合は総職員数3500人に対して1100人、3割を超える数である。連中の目的は支配することであることだけに、首都である都内の区部は地方都市に比べると侵入者が重点配備されているのは必然であるが、都県境に位置し、他県からの参入人口が多いという条件も、彼らにとって好都合であった。

こちらとすれば第一線で難易度の高い中川区を抑える事が出来れば次からの戦いは、相対的に楽な作業になる。


斉藤店長の話では全ての侵入者が支配を目論んでいる訳ではない、という。故郷であるクラス98が滅びたことで嫌気をさし、ただ日々を過ごせば良いと漫然と役所に通うだけの者も多いという。これらはこちらの社会の職員達と同様に、支配者たらんとする侵入者達に追随するだけの、それほど強い意志は持たない・・・そう、単なる随行員のようなものらしい。


私と東村、牧田氏、マミと斉藤店長、5人のメンバーで相談した結果、方針はだいたい決まった。マミと斉藤店長はこちらのクラスの人間ではないので、あくまでアドバイザーとしての会議参加だ。全てはこちらの社会の3人で決定することとする。方針はこうだ。

最初のうちは、クラス99から持ち帰ったテクノロジーを小出しにする。これは東村経由で行う。今回全面協力をしてくれちいるフジスペースクラフト社、その関連ベンチャー起業「フジエネルギー」の開発した新技術として世に出してもらうこととした。それらに国の認可が必要な時は・・・そもそもそれが東村の本業の範囲だ。いくらでも出せる。


それと並行して牧田氏には中川区に働き掛け、フジエネルギー社の本社を区内に誘致する活動を始めてもらう。

フジエネルギー社が手にする膨大な利益を社会と市民に還元することで、各地で議会を民主的に乗っ取り・・・というと聞こえは悪いが、圧倒的多数の市民の共感を勝ち取り、既得権益に固執した汚い議員達と役所に巣食うビジターを排除する。中川区の変革をモデルケースとし、隣接自治体にも同じ運動を広げて行き、地方議会の次には国政の場を抑える。それを政治的な最終目標とする。

宮崎グループの進める改革に乗れば、経済的に幸せになれる、そしてフェアな政治が行われると分かれば、国民も皆、支持してくれるだろうという読みだった。その最初の舞台を、ここ中川区と定めた。



アインシュタイン博士は、自らの研究が核兵器開発に繋がったことで心を痛め、テクノロジーを放棄してしまった。そのおかげでこのクラスは生き延びた。その聡明な決断を崩すわけにはいかない。今回こそ、高度にバランスを取りながらテクノロジーを少しずつ広めていくのだ。

だからこそ。慎重に慎重にことを進める必要がある。


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