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クラス  作者: 筑紫 献
始まりの日
6/10

第6話 一時帰宅

ー 7日目 ー

「おい、なんで一緒に?」

「せっかくだから私も行く。」

「二人乗れるのか?」

「二人乗りだよ、これ。」

言い合っているうちに、機械がシュン・・・という音を立てたかと思うと、それは完了した。

宮崎とマミはホームエレベータの様な箱の中にいる。クラスは100。

クラス99のクラス往還機を使って戻って来たのだ。行きは1人だったが帰りは何故か二人になってしまった。宮崎はてっきり1人で帰るものと思い込んで機械に乗り込むと、突然、マミが後から乗って来たのだった。ドアが閉まったと思うと、すぐに開き、目の前は宮崎の自宅リビングルームの、ど真ん中であった。

「ふーん。結構おしゃれな部屋だね。ここに1人で住んでいるの?」

「いや、それより、もう着いたのか?こんな簡単に?!」

「そりゃあ、こっちのテクノロジーを使えばね。」

「だったら迎えに来てくれれば良かったじゃないか!」

「幸せは自分の手で掴み取るもの、と、マゼラン星雲の女王様が言ってなかった?」

マミは変なことばかり知っている。こちらの世界のオタクとして十分に通用する知識量だ。


いや、まさにエレベータの様に簡単、かつ、おそらく安全な乗り物だった。

つい先ほどまでクラス99にいたのだ。ほんの1分前まで。

それが、この機械に乗って降りただけで、自分の世界に戻って来ている。

自宅のリビングを選んだのは人の目につかない場所にしたかったからだ。こんな乗り物を外に置く訳にはいかない。


「それで、まずどうするの?」

マミに聞かれて、少し考えた。戻って来たらまず、東村に連絡をしようと決めていた。話す内容も。しかし、なんとなく「そうじゃない」という気もしていた。

「ちょっと秋葉原に連れて行ってよ。行ってみたいな。」

「それ、優先順位高いことか?」

「うん、私にとってはとても。」

行動を決めかねるので、気分転換に秋葉原案内をすることにした。

ここは平井駅から歩いて5分の場所にあるマンションの1室。電車に乗れば秋葉原まで10分程で着く。

外に出ると、マミは嬉しそうにキョロキョロとしている。さすがクラス100マニア。

駅に着くまで色々なものを見付けては「これ何?」「あれ何?」と聞いてくる。総武線に乗ると、目を輝かせながら、「遅いね、この電車!」と言って来た。

遅いと言っても10分で秋葉原に着く。どどっと降りる人並みに飲まれそうになるマミの腕を捕まえて真っ直ぐ降りさせる。

「ふー、すごいね。私達のクラスでは進化前でも、こんな混雑する乗り物なかったよ。」

「東京が異常なんだよ。日本第二の都市、大阪でも、これほど酷くはないんだ。」「で、どこに行く?電気街か?それともオタクっぽいところか?」

まずは電気街!と答えたマミを案内して、電気街口の方へ向かう。

小さなパーツショップ何軒かに立ち寄り、ふと気付くとマミはイヤホンをしていた。相当おしゃれなデザインで、今、入った店に売っていたような品物ではない。「これ?仲間との連絡ツール。」

そういうと、勝手に先に歩き出す。向かう先は少し怪しげな盛り上がりを見せる通りだ。

「あんまり目立つアイテムを身に付けてるとまずくないか?」

マミは無視したのか、聞き流しているのか勝手に歩いて行き・・・目の前に現れた一軒のメイドカフェに迷わず入店した。元々そこに来るつもりだったかの様だ。

「おい、ここに入るのか?」

「うん。ちょっとついてきて。」

店に入るとマミは1人のメイドさんに軽く会釈をした後、私に店内でくつろいでいて、と告げると奥に行ってしまった。

メイドさんに促され、ソファに座る。

「彼女はここの関係者なのかな?」

そう聞くと、「分かりませんがオーナーが今から来るお二人のうち、お嬢様には奥まで来て戴く様にと仰せつかっております。」との返事が返ってきた。

注文の仕方もわからず、初めて入ったこの手の店でどう振る舞うべきか分からない。

戸惑うこと数分。マミが戻ってきた。


「お待たせ。」

「おい、なんだよ、その格好は。ここで働くのか?!」

「いいから。ちょっと一緒に外に出ましょう。」

「ええ、恥ずかしいだろ。俺が。」

マミに手を引っ張られて店の外に出る。耳元に囁いてきた。

「今から東村さんがこの前を通るから、声を掛けて。」

「なぜ、そんなことが?」

「もう来るよ。」

目の前を見ると本当に東村が歩いてくる。

こちらに気付かずに通り過ぎそうになるので呼び止める。

「東村!」

「え?・・・宮崎!戻ってたのか。・・・隣の女性は・・・」

「あ、いや、これはその。」

「初めまして。マミです。」

「初めまして。東村と申します。宮崎の同級生です。ええと、あなたは。」

「たぶん、お二人は大事なお話があるんじゃないかなと思うんですけど、良かったら中に入りませんか?」

「ここに?」「ここに?!」

東村と私は声を揃えて言った。


東村も呼び込んで店内に戻ると、マミが説明をしてくれた。

「実は、ここはクラス99の前哨基地みたいなものなの。」

「そういうことだったのか。さっきのイヤホンはこの店の誰かと連絡を?」

「そう。東村さんの行動もチェックさせて貰ってました。事後報告になりごめんなさい。」

「いや、構わないけど、驚いた。説明して貰っても良いかな。突然宮崎が戻って来てたのを見て、まだ何が起きたのか全く分かってない。」

「じゃあ、それは俺が話そう。」

クラス99に着いてからの出来事、マミとマイケルから聞いた事、かいつまんで重要と思う事を東村に説明した。

「二人とも、奥に行ってお話ししましょう。この店内なら盗聴などの心配がないから。」

「もしかして、私に尾行が付いていたのに気付いていた?」

「もちろんです。だから、ここで合流しました。」


「ああ、だから秋葉原まで来て、お店の人みたいな格好をして客引きを装ったのか!」

私が叫ぶとマミは「まあ、これは私の趣味だけどね・・・」

洋服をヒラヒラさせながらそう答えた。

尾行してた人間は、東村がてっきり趣味でこの店に入ったと思っただろう。

それに気付いたのか、本人は少し納得しかねるという表情をしている。


店の奥は事務室になっていた。

建物は間口は狭いが、奥行きが長いらしく結構広い部屋だ。

この店のオーナーという人物が待っていた。見たところ日本人の様な風貌で50歳代というところか。

「初めまして。私の事は斉藤と呼んでください。」

「そんな」「そんな普通の名前?」

また、東村と声が合ってしまった。

「こちらのクラスで自然な名前を名乗らせてもらっています。」

斉藤さんと名乗るそのオーナーから現状の説明をしてもらえることになった。

私が得た情報だけでなく、クラス99とクラス100の関係、今何が起きているのかについて1時間程度、詳しい話を聞く。

「そうすると・・・地方公務員がクラス98の人間に入れ替わっているということですね?」

東村が質問した。

「いえ、全員ではありません。こちらに来ているのはおそらく20万人から30万人。彼らはほとんどがこちらの人間になりすまして、地方公務員として活動しています。」

「全体の10%くらいか・・・それでこちらの世界を支配できますか?」

「彼らは各地方自治体の中に1割か2割くらいずつしかいません。彼らが全く入り込んでいない自治体もあります。人口が多い都市などを選んで、彼らは集中して侵入しました。」

「採用試験などはどうしたのでしょう?」

「クラス98はテクノロジーを手にした後、こちらのクラスに進出して来ました。私達や彼らからすれば、こちらの社会の採用システムを操作することなど訳ないことです。もちろん、本当に小さな町の、縁故関係が重視される役所に入り込むのは難しいでしょうが、データで処理される大都市の役所には難なく入り込んでしまいました。」

斉藤さんの話によれば、

クラス98の為政者は自らのクラスで独裁をふるった後、他のクラスをも支配しようとし、こちらの世界に人員を派遣したという。私たちの感覚であれば、そうするのならば、総理大臣や各国の大統領をすげ替えれば済むように思うが、違うのだという。実際に街で生きている私たちに一番近い場所で行っている行政、そこを抑えることこそがその社会を支配する一番簡単な方法だという。

彼らはまず日本に侵入した。そのあと、世界各国でも同じことをする計画であったらしいのだが、ちょうどその時、クラス98でクーデターが起こり地球の全面紛争に発展。ほんの数日でクラスごと滅びてしまったのであった。

「じゃあ、クラス98の生き残りはこの世界の、それも日本の地方公務員達に化けた者たちだけということですね。それなら、数として大変なことは・・・」

「いや、そうでもない。私は国家公務員だが・・・公務員というのはお前も知っているように、事なかれ主義だ。その中で少しでも強く意見を言う者がいれば、他の同僚達は追随してしまう。全体の1割、2割、先導者となる者がいれば、役所全体はそいつらの思惑通りに動いてしまうだろうな。」

私の疑問に対して東村の解説が入った。

だから彼らは私達の邪魔ばかりして来ていたのか。

いつも設計の仕事をしていて役所で痛感する感想。その理由がハッキリと見えてきた。

「やはりあいつらはビジターだったのか。」

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