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クラス  作者: 筑紫 献
始まりの日
1/10

第1話 海も山も星も全て同じ。でも違う、いくつもの世界。

ー当日ー


目が醒めると、見覚えのないベッドの上にいた。

脇には女性が座って読書をしている。見ると

「起きた?私たちの世界、クラス99へようこそ。」


年の頃は25歳くらい。可愛らしい女性が話し掛けてきた。

「君がマミか?」

「ええ。初めまして。って感じでもないけどね。」

そういうと女性は笑った。

どうやら無事に到着できたらしい。

ふうー、と息を吐き出すと、マミも笑った。


「クラス往還機に乗って、海面直前で気を失ったことは覚えてる。そのあと、どうなったんだろう?」

「ちゃんとこちらの誘導装置で引き継いでゆっくり着地したから大丈夫。スタッフに運んで貰って、ここは、すぐ隣にある宿舎だよ。」


「そうか・・・しかし・・・本当に日本語が上手だなあ。ここは日本だろうけど、クラスが違っていてもみんなが日本語を話している、なんてことは無いよね?」

「私はクラス100マニアだって書いたでしょ。色々と知ってるし、その中でも同じ場所にある日本が大好きだから、日本語を覚えたの。

でも、今、日本ブームだから、私の友達でも日本語が使える人は結構多いよ。だから、友達との会話でも普段から使ってるの。

「そうか。いろいろと・・・分からないことだらけだ。当たり前だけど。」

「1つ1つ案内するよ。」「まずは・・・お腹空いたでしょう?食事に行きましょうか。」



起き上がるとマミの案内で食堂に向かった。


廊下に出ると、そこは普通のオフィスのような作りだった。

ただ、少し古臭い。

そこはかとなく昭和の匂いがする、むしろ地味な廊下。

「進化した社会ってのは廊下の全面がディスプレイになっていたりするもんかと思ってた。」

「そういう建物もあるよ。でもここは、こんな感じ。」

歩きながらマミの説明を聞く。


この建物は、私たちの世界ーーー彼らがクラス100と呼ぶーーーを好きな人たちが集まるビルだという。居住区だけでなく商業施設からオフィスまで全て、この建物の中に一揃いあるらしい。

廊下の突き当たりを右に曲がると、いつも通っているファミレスに着いた。


「おいおい、ここまで再現してるのか?」

「異世界に来たようには思えないでしょ。メニューもほとんど同じだよ。」

変なものを食べる習慣のある世界じゃなくて半分安心したような、残念な様な・・・

一昨日も食べた、ハンバーグ無臭にんにくの野菜ソースを注文すると、マミも同じものを頼んだ。


食事が済み、やっと少し一息。コーヒーを片手に色々と聞いてみる。

「連絡方法がまどろっこしくて、聞きたいことをあまり聞けていなかったんだ。僕より前にこちらの世界に来た人がいると言っていたよね。どんな人が来たの?」

「あなたも知っている人よ。有名な人。本当に変わった人よね。クラス100に持ち帰れば神様かと思われる様な技術を持ち帰っておきながら、いちいち自分で計算し直して、自分の世界のテクノロジーで説明できる様に理論を作ってから実現して・・・そんな悠長なことをやってたら、時間がかかって当然よね。」

「その有名人てのは・・・もしかしてアインシュタイン博士?」

「そう。相対性理論を書いた人。彼は、本当は全てを持ち帰ったのに、あなた達にはそのほんの一部しか教えなかった。」

「だから、後世に証明される現象がいくつもあるのか。」

「核兵器の件は、とくにあなたの国、日本には気の毒だったけど、それでも彼の持ち帰ったテクノロジーを考えれば、あの爆発は極めて小さな規模のものなの。実はね・・・他のクラスは、より強力な武器を作り出して、ほとんど滅びてしまったのよ。だからアインシュタイン博士でない人がこちらの世界に来ていれば、あなたの世界も危なかったと思う。」

「僕はこちらのクラスから来た二人目ということか。クラス99も、元のテクノロジーはクラス1から供与を受けたものなんだろう?クラス2からクラス98はどんな状況なの?」

「残ってるクラスは無いの。クラス1の他、進化を遂げたクラスは私たちだけ。だけどテクノロジーをまだ手にしていないあなたのクラス、それからクラス102から先のクラスは無限に続いてるよ。」

「クラス101は?」

「そこも、滅びた。クラス101は、こちらのクラスに来ることなく、核兵器を自分達の能力の範囲で製造するようになったの。核兵器を製造できるようになって、滅びなかったクラスは、今までのところあなたのクラスだけ。」

「僕が生きてここにたどり着いたのも、偶然みたいなもんか。」

「そうね。そして、あなたがクラス100をどうするか、これから決める責任があるんだよ。」

「だから・・・まずは健康診断しないとね!」

「は?!」

「クラス100では治らない病気がたくさんあるでしょ?クラス99ではそんな病気は存在しないの。こちらでは予防技術も完璧だから、一度健康診断&予防措置を施せば、もう病気では死ねなくなる、安心して世界を作りなさい。」

「世界を作るって・・・」

「実際、そうなるのだから、覚悟を決めなよ。」


レストランで食事をした直後に突然健康診断を受けさせられることになるとは。前日の夜ご飯から先は食べちゃいけないとか、そんなルールはないのだろうか。


それより・・・マミはかなり過激なことを言っている様に思えた。



医務室と呼ぶべきだろうか。健康診断を受けるという場所は、美術館の1室のような部屋だった。天井の高い50畳くらいの広間。中央部に円形のステージがある。このステージだけが「未来世界」を思わせるようなシルバーに光り輝いてる。


「先進的な装備はやっぱりこういう色がそれっぽいよね。」

「これもヤラセか。君達のテクノロジーなら形状とか色は自由になりそうだもんな。」

「そう。かっこいいよね、こういうSFチックなのの方が。」

「私は部屋から出るから、そのステージの上に立っていてね。1分くらいで終わるから。機械の音声案内に従って。」

「おい、洋服とか、普通にこのままで良いのか?!」


ステージの上に立つと、マミは手でOKサインを作りながら、部屋を出て行った。

スピーカーから音声が流れる。本当に着の身着のままで良いらしい。

「全身スキャンを行います。激しい動きはせず、安静にしてください。少し動くのは問題ありません。リラックスして直立してください。1分で終わります。」

部屋の照度が落とされ、目の前の壁に掛かっている絵画に数字が浮かび上がる。60、59、58。

「目をつぶっても構いません。スキャン開始します。」

柔らかい明かりが、体を包み込むように天井から床に向かってゆっくりと流れていく、その間、10秒。48、47、46。

「軽微な不具合発見。3箇所のリペアを行います。」

今度は先ほどの無色の明かりとは違い、青い色のついた光が床から天井へと登りながら身体の周囲を通過して行く。12、11、10。

「リペア完了。」

最後の5秒くらいをかけて、部屋の明かりが元の明るさに戻る。目の前の絵画の数字はゼロを表示したあと、消えていた。


ガチャ

ドアを開ける音がして、マミが入ってきた。

「大したことなくて良かったね。まあ、何かあっても、この機械に入れば治せたけどね。」

「これで長生きできるのか。ありがたいな、テクノロジーって。」

「そうでしょ。うまく使えばみんなが幸せになれるんだよ。・・・緊張したでしょ、少し休憩しましょうか。この部屋の隣はライブラリになっているから、好奇心も満たせると思うよ。」

「なんか治されたけど、どこが悪かったのかな」

「調べてみる?」

「いや、いいや。治ったんだろ?なら気にするのはやめる。」

「それが良いね。」


私達は、隣室のライブラリに移動した。

数百冊の本は置いてあるが、ダミーだろう。おそらく雰囲気作りのために。古書みたいな表紙の本が並んでいるのが、ふざけている。

飛行機のビジネスクラスシートのような1人掛けソファに座ると、目の前の空間に映像が映し出された。「おお、やっと凄いところに来た感じがする。」

「好きなこと検索して良いよ。飲み物を取ってきてあげる。飲んだばかりだけど、また、コーヒーで良い?」

マミが自動コーヒーメーカーを使いコーヒーを淹れてくれた。


目の前の画面にはクラス1の世界が映し出されている。

どうやら、何を調べたいか勝手に判断して、内容を探してくれるらしい。30インチ程度の大きさの、少し半透明の板が浮かび上がって、そこに文字や絵が表示にされている。

右下には注意書き。「クラス1の情報は一部、開示されないものもあります。」


「クラス1の情報っていうのは、どの程度開示されているんだ?」

「それは私達にも分からないの。生活する上で何の不便もないけど、供与されていないものも多分たくさんあるわ。クラス1の人達は、続く他の私たちのクラス全てに同じテクノロジーを開放するけど、安全対策で、最高レベルのものは自分達で独占しているのよ。他のクラスがクラス1を滅ぼしに行ったりしたら大変だし、クラス2からクラス98が消滅してしまったことで、そのリスクは証明されてるからね。」

マミの話を聞きながら考えていると、目の前の画面に瞬時に答えが出てくる。

クラス2が滅びた理由。クラス98が滅びた理由。そしてクラス101が滅びた理由。

「人間て愚かだな。」

「そうだね・・・」


ライブラリで知ったのは大体、次のようなことだった。

クラス2からクラス98までの世界は、ほとんどが過分なテクノロジーを持て余し、自滅した。クラス101はテクノロジーを手にしなかったものの、正常進化の過程で核分裂反応を発見し、地球規模の全面戦争により全ての生物が消え去ってしまった。

他のクラスがどうなっているのか?気になっていたし、テクノロジーの概要も知りたかった。

私たちの世界でダークエネルギーと呼ばれているもの。それは、他のクラス、つまり、クラス1とクラス99の社会で有効利用している構築物だった。太陽光エネルギーの捕捉システムだったり、宇宙基地(もちろん平和利用のための)だったり。

それらの「質量は存在するが、他のクラスから見えないもの」こそが、私たちがダークエネルギーと呼んでいるものなのだ。


宇宙旅行はあるのだろうか?ワープ航法の概念を調べてみたが、光の速度を超えることが可能ということは分かったが、その原理は難しい説明が並びよくわからない。

ただ、宇宙旅行に出かけることは、こちらの社会では気楽なことである様だった。クラス99は完成された共産体制の様なもので、十二分に供給されるエネルギー源を背景に、市民は何らの義務を負うことなく、好きなことをしていてよい。

都市間だけでなく、宇宙に出て惑星間を移動したとしても、それに掛かる費用は無料。食事もさっきの様なレストランは無料だった。面白いことに、宇宙に出る際、少し良いシートに座りたければお金が掛かる。食事も高級レストランで食べたければお金が掛かる。

何の努力もせず、ただ遊んでいても生きてはいけるが、贅沢をしたければ、その分だけ創造的な仕事をする。それがクラス99の流儀であるようだった。


「宇宙のこと、結構調べてたね。あなたはお客様だから、お金の心配はしなくて大丈夫だよ。全て良い席、良い食事でも大丈夫。他のクラスからの旅行者は、テクノロジーの伝承者になるから当然、篤くもてなされるの。でも、高級なのよりも普通なのの方が気楽で良いけどね。移動する時のシートだけは1ランクアップして行きましょう。まず、どこか外に行ってみる?」


心を読まれてるのか?と思ったが、検索内容を横で見ていたのだから、私が何をしたいかなんて誰にでも分かるだろう。

「そうだな、月はクラス100の人間も行ったことがある場所だし、火星にしようかな。」

「了解。じゃあ、ポートに向かいましょう。」

「今から?!そんな気楽に行くのか?火星までって、どのくらいの時間かかるんだ?」

「変な三段質問だね。火星だと14時間くらいかな。寝て起きたら着いてるよ。夜行列車に乗るつもりで行きましょう。」

夜、東京駅から博多行きに乗るみたいに言われてもな、と言い掛けたが、さすがに通じそうにないので辞めておいた。



ポートと呼ばれる宇宙港は、私たちの世界にもある普通の空港のような場所であった。ただし、そこには円柱状の宇宙船らしきものが何百と並んでいる。この宇宙船が無料であちこちの惑星や月に飛んでいくのだ。

火星行きのゲートに並び、タッチパネルを操作してマミが席を取る。

「個室を二つ取ったけど、眠くなるまではラウンジでお話ししながら行きましょう。」

そう言われて、二人で舟に乗り込んだ。

中に入ってみると、なんとなく懐かしい。そう、これはカーフェリーのエントランスにそっくりだ。

目の前に現れた大きな階段を2階に上ると、大きなラウンジがあり、そこでくつろいでいる人達が数グループ。その奥にはレストランらしきエリア。

机を介して対面しているソファを選び座る。


「このラウンジはね、あまり乗り慣れていない人が多い場所だから、館内放送で親切に解説してくれるよ。」

船が今、どのような状態か、説明しながら飛んでくれるらしい。

SFアニメの男性声優のような渋い声で、先ほどから音声が流れている。なかなか良い趣向だ。


「当艦はまもなく発進します。」

アナウンスが流れて数秒後、気球のように船はふわっと浮かんだ。

「反重力装置作動中。出力100%、110%、120%」

出力100%で重力を無視出来るようになるらしい。

出力120%を維持したまま、等加速度で船は上昇していく。前に進むのではなく、上に、というのが少し怖い。ここに来た時の落ちる恐怖と比べれば、なんてことはないのだが。


マミの方を見ると鼻歌を歌いながら、こっちを見ている。

こちらが緊張しているのを面白がっている様だ。少し堂々としなくては。

「ところで・・・今、気づいたんだが、マミはこんな遠出に付き合ってくれて、自分の用事・・・仕事はこっちでは無理にしなくても良いのか、何か・・・いや・・・付き合わせちゃって大丈夫だったのか?」

「平気。私はあなたのアテンドが仕事だからね。そもそも、クラス100マニアだから、今も楽しんでるよ。」

「何を楽しんでたんだか・・・。ちょっと緊張しすぎたよ。今日は。」

「そうみたいね。でも、気楽に構えていれば良いよ。こちらでは危険なことは何もないし、のんびりして大丈夫。ただ、時間は誰の身にも等しく通り過ぎていくけどね。」

「どの世界でも一番大事なのは結局時間だよなあ。」

そんなたわいもない事を話し合っているうちに、窓の外はすっかり宇宙になっていた。

みるみるうちに月の姿が大きくなり、今度は小さくなっていく。


「ここから先、放射線防護のため、窓にシールドを下ろします。火星到着まで直接の景色は見えなくなります。前方スクリーンには外部カメラ映像が表示されますのでそちらをご覧ください。また、館内の照度を少し落とします。明日の朝7時まで館内放送も停止いたします。それではみなさま、おやすみなさい。」

なんか懐かしいセリフだ。昔、夜行列車の車掌も同じようなアナウンスをしていた。

マミと私は各自の個室に行き、就寝することとした。



長い1日だった。

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