殺人鬼2
遼は都心に戻り、アポロ製薬の本社に出向いた。2件目の事件の被害者、陽明大の石川耕司准教授と癒着が噂されている製薬会社である。疾風を車に残して受付に向かう。
「陽明大の石川准教授の担当の方にお会いしたいんですが。保険会社に依頼された調査員で、市川遼と申します」
受付でそう告げると、1階の応接ブースに通される。出された茶をすすって待つこと10分、如何にもキャリアウーマンという感じの 30代の黒髪をショートカットにした担当が現れる。
「お待たせしました。営業の二宮絢香です。保険の調査と伺いましたが、いったいどういうお訊ねでしょうか?」
「いえ、型通りの調査でして。事件は未解決ですので准教授の人となり、トラブルの有無、研究内容、特にこちらの会社からの治験依頼されていた薬についてなど聞かせてもらえる物なら出来る限り」
遼は絢香の反応を伺いつつ切り出した。絢香は表面上は無反応で答える。
「要求の多い先生でしたね。大学内の人間関係で敵は多かったですが、トラブルと言えるトラブルはなかったですね。うちから依頼した治験薬は癌細胞の特定遺伝子に作用して増殖を抑える薬です。未だ治験は一例しか成功してませんが」
「かなり強引に患者に治験を行ったどういう噂がありますけど?」
「うちとしては何とも。先生が治る見込みの無い患者さんに、最後の希望として説明を行ったと報告受けています」
あくまでも末期の外に有効な治療が無い患者に対してだけだ、というスタンスをとる。
「治験の効果無く亡くなられた患者さんのご家族と、トラブルは?」
「 ステージ4の末期ガンの患者さんにしか投薬してませんので特には」
「成功した患者さんは退院されたのですか?」
「はい。社会復帰されてます」
遼は潮時だと感じ礼を述べてその場を辞する。
「色々ありがとうございました。参考になりました」
その日も月夜だった。アポロ製薬の研究員、幹良介は日課のジョギングを終えて、アパート近くの公園でストレッチをしていた。濃紺のパーカーのフードを目深に被った若い男が近づく。
「アポロ製薬の幹良介さんですか?」
「そうだが、君は?」
男は答える替わりに質問する。
「VR205開発したのあんたか?」
「えっ!何でそんな事知ってる?」
男はフードをとる。その下から現れたのは映画の狼男その物の、毛に覆われた顔、牙の生えた長い口だった。その口で人語を喋る。
「その薬が俺をこんなにしたんだよ」
牙を並べた口を大きく広げ、幹の首筋に喰らい付く。一気に喰い千切った。そのまま踵を返し、男は返り血も浴びずに歩き去る。その目からは涙が溢れていた。殺したかった訳ではない。殺さずにはいられないのだ。月明かりの溢れる夜は体が、人間の肉を喰い千切る事を欲して止まない。辛うじてターゲットを前回と今回は、自分をこんな事にした新薬の関係者にした。それが出来る精一杯の抵抗だった。




