表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宵月の世紀  作者: 愛媛のふーさん
5/25

月夜5

 男がタクシーから降りて来た。小肥りでずんぐりしてペンギンを思わせる。この寒くなった季節に汗をかいている。どうやら酒を飲んだ様だ。月夜の冷気で酔いを醒ますつもりか、自宅迄未だ距離がある。

陽明大学ようめいだいがくの石川耕司准教授ですよね?」

後から濃紺のパーカーのフードを目深に被った男が尋ねた。

「そうだが、何だおまえ」

偉そうに准教授は答える。苛ついた感じでフードの男は言う。

「 こういうもんだよ」

フードを取る。それを見て石川准教授は凍り付く。

「ぎゃーっ」

悲鳴を上げて准教授は事切れた。跡には首筋を喰い千切られた死体が残される。フードを再び目深に被り男は、月明かりの中を慌てず歩いて去った。2件目の事件である。


 警察はすぐに連続殺人の調場、つまり捜査本部を立ち上げた。しかし、被害者の氏名以外は箝口令を敷いた。事件の特異性からである。被害者三名は首筋を喰い千切られていた。犬に近いが、人間の首筋を喰い千切れるかは疑問だ。一件目の被害者二人は大学生だが石川准教授と大学は違う。今のところ共通点は見つかってない。最悪、無差別殺人の線もある。捜査1課の面々は緊張の色を隠さなかった。

 捜査1課のベテラン刑事というより定年が、2年後に控えている老刑事片山甚吉かたやまじんきちは、かってコンビを組んでいた市川遼を思い出している。遼は刑事より自分の恋愛を選んで警察を辞めた。その遼から近況を聞いた時、警備犬として〈ウルフドッグ〉狼犬とパートナーを組んでいるという話があった。それを捜査会議で言う。

「狼犬という狼と犬の混血種がいるそうです。割合は様々で 99%狼もいる。顎も強力で頭蓋骨を砕く程らしいんです」

会議場はざわつく。管理官は騒ぎを静めると、

「甚さん当たってみてくれ。所轄から誰か付け」

そう命じた。

「土井美佳巡査長であります。片山巡査部長に付く様命じられました」

「 お嬢ちゃん いくつだ?」

「 28ですが」

不思議そうに美佳が答える。

「儂は歳だ。お嬢ちゃんを守りきれねぇ。自分の身は自分で守ってくれ」

それがコンビを組む相方への老刑事の挨拶だった。

「はい。で、先ずは何処へ」

生真面目に巡査長は訊く。

「ナイツ総合商社の調査部」

つまらなそうに述べると片山は背広を肩に掛けて、歩き出した。慌てて美佳は後を追う。

 都心の一等地の巨大なビルの受付で警察バッジを見せ遼を呼び出す。1階の応接室に通される。

「甚さん、ご無沙汰してます」

「景気良さそうだな。定年したら口利き頼みたいな」

本気か社交辞令かそんな事を言う。

「例の狼犬だが人の首筋喰い千切れるか?」

「可能ですが、そんな訓練してませんよ。それに狼犬はそもそも訓練に適しません。疾風は稀なケースです。それに疾風はやて並に適応力有っても、訓練師の腕と労力が半端なく必要です。疾風以外の可能な狼犬なんているとは」

美佳が口を挟む。

「その疾風ですが、昨日と先週の金曜日はどこに?」

「この2週間本社ビル出てません。散歩は専用のルームランナーでしてますから。研究室の監視カメラ見ます?」

「すまねえな。口の利き方知らねえで」

老刑事が侘びを入れる。逆に遼が訊く。

「 何があったんです」

「実は・・」

「片山さん!?」

美佳は慌てるが、老刑事は動じない。

「かまやしねえよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ