治療
そこは窓も一見ドアもない部屋だった。天井は発光パネルになっており、壁は刃物を通さない緩衝材で覆われている。部屋は八角形で天井付近の角には監視カメラと収音マイクが埋め込まれていた。
琢磨は猿ぐつわ噛まされ手錠足錠に拘束着で、その八角形の部屋に放り込まれていた。発光パネルは付きっぱなしだから時間は判らない。餓えから解放されているから昼なのは確かだろう。一体こいつ等は何者だ?これから俺をどうするつもりか?疑問符が次々浮かぶ。体は昨夜のダメージを残してはいない。折られた大腿骨も切られた腱も運ばれている間に回復していた。しかし、手錠足錠、拘束着は狼男のパワーをもってしてもびくともしなかったのだ。やがて人の姿に戻って力が人並になってはいかんともしょうがない。逃亡する術はなかった。食事や排泄を考慮してない対応からすると人道主義とは無縁な集団のようだ。人体実験なんかにかけられるかもしれない。恐怖はないが不安はある。それは、狩られる恐怖と殺人を止めて貰える安堵がない交ぜ、だった昨日迄より安定した心持ちではあった。なりより人を襲う事はこの部屋ではない。満月の今夜をここで過ごすのは悪くないかもとも思う。漠然とした不安以外は意外に今日だけは捕らえられてても良いって気になる。
壁が音を発てて引っ込みスライドした。高校生位の中性的な少年と日焼けしたがっしりた青年が入ってきた。猿ぐつわを外され口から吸えるパウチ入りのハイカロリーゼリーを与えられる。
「ナイツのオーナーのルシファーと言います。ナイツと言うのは、昨夜貴方の相手した異能者の秘密結社です。貴方の治療をしたい」
少年の方が言う
「治療?」
琢磨は床に転がったまま訊き返す
「主に殺人衝動を抑える治療です」
「治せるって本気で思っているんですか?」
「今晩一晩検査させて頂きます。その結果次第ですね」
そう言って青年、山口平馬に琢磨へふたたび猿ぐつわをはめさせた。平馬は蓮の教官役を勤めた事もあるベテランだ。どうやらルシファー直属らしい。二人が出てしまうと壁は閉まり他の壁と区別出来なくなった。
治療。もしかしたらあの体の奥から沸き上がる攻撃的な衝動に悩まされずに済むかもしれない。光が射し込む思いだ。しかし、もう四人殺した。その責任は取らねばならない。ナイツと言ったかこの組織の目的が做へんにあるか判らないが、殺人犯をそのままにはしないだろう。治療するのは自分を裁判にかけられる状態にするためかもしれない。餓えが今夜最大になる。果たして検査なんてどうやっておこなうんだろう。そう琢磨は考えながら眠りに就いた。




