決戦4
やはりリーダー格は別格の化け物揃いだと琢磨は思った。視力は戻ったが右肩をやられて右腕は使おうにも使えない。5分有れば回復するがその間に更に削られてしまう。一か八か包囲網を強行突破するしかなさそうだ。琢磨は狼男の半端ない脚力に賭ける。
アリスは自分がとことん狼男のスタミナ削り取って潰れても、蓮達遊撃部隊か他の小隊で捕獲可能と踏んで、自分の隊を更に後ろに下げた。琢磨は20メートルは跳ぶ必要がある。フェイントに左前蹴りからの右後ろ回し蹴りをアリスに放ち、大きく屈むと跳んだ。12メートル地点では未だ空中にあった。大きく息を吸い込むと一気に吐く、同時に全身の筋力を使い身体を跳ね上げた。信じられない二段跳びで20メートルを跳び越える。
「良し。やった」
その想いはすぐに断ち切られた。
無精髭に小太刀を両手に構えた男、聖清十郎〈業炎〉が回り込み控えて居たのである。
「遣るな」
清十郎が呟き、爆龍波を目眩ましに逆手に持った〈月牙〉と〈風牙〉で切り立てた。清十郎の剣の腕は蓮や緑川とは段違いだ。正確に身体中の腱を断つ。腱を切られたら筋肉は使い物に為らない。狼男は立っているのがやっと、ふたたび跳ぶことはできない。しかし、再生は早い。スタミナは削られても治癒力はアリス並のスピードを保つようだ。清十郎は繰返し刀を振るう。そうしないと再生した腱が筋肉に力を与えてしまうからだ。
アリスの小隊は180度反転し狼男を挟撃する形である。アリスは清十郎と狼男を挟む位置で声をかけた。
「私が手出すと邪魔?」
「いや。足の骨を折っといてくれ」
清十郎は無慈悲に言う。残酷でも生け捕りにするには仕方がない処置である。
「ソーリー、ウルフボーイ」
アリスは軽薄に謝ると両足の大腿骨をメイスで叩き折った。堪らず琢磨は崩れ堕ちた。其処へ蓮達三人と一匹が合流する。蓮が訊く
「遣ったんですか?」
「見りゃ判るやろ。御苦労さんでした」
千堂の労いの言葉に頷き清十郎が言う
「こいつスタミナは未だ有り余ってる。筋力増強者用手錠足錠に拘束着五重に掛けろ」
機動隊員達がてきぱきと指示に従う。そうしてる内に全小隊が集結した。
琢磨は頑丈な手錠足錠を掛けられ拘束着を着させられた状態で〈かまいたち〉宮藤哲人に担がれてトラックに乗せられた。〈棋士〉林秀文も一緒に乗り込む。重力を操る哲人が高重力で身動きを封じ、未来が読める林が不測の事態に備える。万全の体勢が執られ車列はナイツ本部に向かった。こうして満月を迎える事なく狼男、添島琢磨の身柄は確保された。