逃亡4
月は未だ出てなかった。
「まだ時間あるで。狼男に変身するまでに片つけんで」
「おお」
そう千堂に蓮は答えて駆け出す。遼は疾風に向かって追えと命じてリードを放した。疾風は矢のように走り、出口から出ていった。遼はタブレットで疾風の位置を確認できる様にして最後尾に付く。10分走ったところで遼が二人に声を掛ける。
「不味い。タクシーに乗られたみたいだ。疾風が全速力出してる。一端車取りに戻りましょう」
「ちぃ。なまじっか変身してへんから、普通の逃亡されてまう」
「しかし、それも長くは続かない。もうすぐ月の出。何時まで持つかわからないけど、狼男の姿でタクシーに乗ってはいられない」
蓮がそう締めくくる。車取りに戻るのに30分かかる。15kmは稼がれる。23区から出てもおかしくない。しかし、それでも未だ人出も多い。琢磨が餓えから無差別に人を襲うかもしれない。なりよりタクシードライバーの身の安全が気にかかる。三人はキリキリと胃の痛む緊張感につつまれる。
「多摩地区の方に向かってる。山に入られたら捕捉できたとしても厄介になる」
「人がおらんのは好都合やないか」
「一長一短だね。川にはいられたら、疾風は追えない。早くパンダに乗らないと」
焦りで落ち着いた思考が出来ない状況下で、考え付く可能性を挙げていく。パンダに乗り込み、いざ追うぞという段になると、疾風が止まった。
多摩川の河原だった。
「疾風の生体反応はあります。川を渡ったと思われます。しまった」
「振り出しか」
「くそったれ」
「とりあえずロストした地点まで行きましょう。手懸かりが有るかもしれません」
「 そやな」
三人は気持ちを切り替えた。パンダで40分走り疾風の元へと行った。疾風は川の出前で左右にうろうろと匂いを嗅いでいた。
「よーし。良くやった疾風。お前のせいじゃない」
「 とりあえず対岸を見てみましよう」
「ま、相手は人間の思考力持ちよるからな。下流か上流に二三キロ歩いてまくちゅうのも考えられるけど、時間からいって川から上がってるやろうな」
遼は疾風にリードつけて顎の下を撫ででやりながら考えた。下流は都心方向。対岸に渡るには深みも有り荷物が濡れる。
「上流を捜索しましょう。私なら上流に浅瀬歩いてまきます」
遼はそう提案した。
「そやな、そうしょう。タクシードライバーが襲われた事件ないか本部に問い合わせるわ」
「じゃあ車に戻りましょう」
「月が出ましたね。明日は満月、今日中に片つけたいですね。満月には狼男は、パワーも狂暴性もマックスですからね」
「ならバックアップ出してもらいましよう。形振り構ってられない。人手は多いに越したこと無い」
「プライド傷つくけどしゃーないか。背に腹は変えられへん」
「バックアップって何人位なんですか?」
蓮の疑問に千堂が答える。
「ルシファーの判断次第や。ナイツの総力も場合によってはありうるで」