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3 マリアンヌ・ヴァイザー 11歳 ②

 次の日、「ここが、私の部屋でしょうか?」と案内された部屋を見て私は言った。今日からお前が住み込みで働く部屋だ、と言われて案内されたのだから、そうに決まっているのだけれど、確認しなければ私には分からなかった。屋敷の隅の屋根裏部屋。12歳の私の身長でも、立ち上がると頭が天井に当たってしまう。足を伸ばして寝ることも出来ない小さなスペース。真昼だというのに暗く、かび臭い。屋敷の私の衣装部屋の10分の1もない。ここに人が住むというのだろうか。私が馬車で持って来た荷物がとても入りそうにない。

 

「逆賊の娘には、過ぎた部屋です。雨風がしのげるのですから。蝋燭? そんなあなたが使えると思っていらっしゃるの? 図々しさは国を乗っ取ろうとした親譲りね」とメイド長が言った。


 私の父は逆賊なんかじゃない——国の為にいつも尽力されていました——と言いたかったが、ぐっとこらえた。


「この服にお着替えください」と私に投げ渡された服を見る。ドレスではなかった。召使いが着る服だった。殿下の召使いとなったからこの服を着るのだろう。


「持ってこられた荷物は、こちらで処分させていただきます」とメイド長が言った。


「しかし……」


「召使いがドレスを着て、社交場に行くことなどありえませんから、ご安心ください。ここに置いておいても、ネズミに囓られるだけですから。宝石も、この部屋で輝くことなどございません」と私の言葉を遮って、メイド長が言った。


<どうして私の荷物の中身を知っているの?>


「メイド長として、荷物は処分致します。この部屋に置くことができません

し。それでよろしいですね?」


 私は、黙って頷くことしかできなかった。




 服を着替えて、直ぐに呼び出された。呼び出された場所は、フェルの部屋だった。


「お茶を」と冷たい視線で、シルヴィア・ロイトリンが私に言う。誰が用意したのか、すでにカートの上にはティーセットが容易されていた。ティーカップは2つだ。私はお茶など淹れたことがなかった。見よう見まねで、私はお茶を淹れる。


「こんな不味いお茶が飲めますか」と、シルヴィアは紅茶を一口飲むと、カップに残っていたお茶を私に向かってかけた。服に染みこんでも紅茶の熱さは残っており、火傷しそうだった。


「新しい召使いは、お茶の入れ方も分からないようね」と、シルヴィアはフェルに優しい笑みを向ける。


 <あなただって、紅茶を淹れることなんてできないじゃない。>


「愛しい私のフェル。いままで酷い婚約者で可愛そうだったわね。なんたって、逆賊の娘が婚約者だったなんて」


「私じゃなくて、あの逆賊の娘があなたの婚約者に選ばれたなんて、酷い間違いよね? 私の愛しいフェル。あなたもそう思わない?」


 私の愛しいフェル。先日までは私が言っていた言葉だ。紅茶のかかった場所ではない何処かに、強い痛みが走る。


「また、こんな不味い紅茶を入れて」今度は床に紅茶を溢していく。そして、「飲めたものじゃないわ。ねぇ、あなた、なにをぼさっとしているの? 早く床を拭きなさいな」


 どうして私は生かされているのだろう? 日記を書こうにも、悲しいことばかりが頭に浮かんできて、日記を書くことが出来なかった。代わりに、日記の栞を眺める時間が長くなった。


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