百度目の恋
最初は、ただ恋に落ちていた。
幸せな時は、馬車が轢き潰していった。
二人目は、彼が間に合わなかった。
私には知りようがなかったのだけど。
三人目は、運命だと思った。
偶然の出会いは喜びに満ちていた。
四人目は、心に影が差した。
どこかぎこちなく笑って過ごした。
五人目は、目を背けた。
影はどんどん大きくなっていた。
六人目は、はっきりと影が形になった。
怖いと思ったけれど、逃げられなくて。
七人目は、息を潜めていた。
見つからないように、気付かれないように。
八人目から十五人目は、逃げた。
各地を転々としていた。
十六人目は、諦めた。
どうあがいても彼からは逃げられなかったから。
十七人目は、最初から囲われていた。
逃げ場のないように閉じ込められた。
十八人目は、自ら囚われに行った。
諦めた笑みを彼に向けた。
十九人目から二十一人目は、赤ん坊で生を終えた。
彼も恋も、何も知ることなく消えていった。
二十二人目は、彼と対立した。
敵軍として、彼に刃を向けた。
二十三人目は、彼を殺そうとした。
暗殺者として任務を全うしようとした。
二十四人目は、生まれた時から檻の中。
彼に買われて、飼われて。
二十五人目は、記憶を失くした。
何もかも消し去ることはできなかったけれど。
二十六人目は、権力を手に入れた。
迷わず彼女は彼を排除するために使った。
二十七人目は、他の人と恋をした。
もっとも、すぐに壊されてしまったけれど。
二十八人目は、殺された。
通り魔に、彼以外の男に刺されて死んだ。
二十九人目は、酒に溺れた。
失敗を酒のせいにして逃げた。
三十人目と三十一人目は、薬に手を出した。
ボロボロになりながらやめられなかった。
三十二人目は、拒絶した。
彼の存在を言葉を行動を全て否定した。
三十三人目は、縋った。
地獄から抜け出すために利用した。
三十四人目は、母子共に。
薄い膜の中から見た淡い光だけ、覚えてた。
三十五人目は、父親に殴り殺される。
誰かに助けを求めながら。
三十六人目は、両親を殺した。
牢屋の中から月を見上げた。
三十七人目から四十一人目は、戦争に巻き込まれた。
最後に見たのは、自分を嘲笑う敵兵の姿。
四十二人目は、男性不信に陥った。
彼以外の男に触れられることを拒んだ。
四十三人目は、神を崇拝した。
この悪夢を終わらせたかった。
四十四人目は、男のフリをした。
見破られることはわかっていた。
四十五人目は、神を冒涜した。
聖書を燃やし、神なんているわけがないと叫んだ。
四十六人目は、処刑された。
悪魔憑きとして忌まれ続けた。
四十七人目は、娼婦だった。
彼に会うまで、身体を売り続けた。
四十八人目は、見世物にされた。
人と違ったその容姿を不気味がられた。
四十九人目は、歌い続けた。
声が嗄れようとも喉が裂けようとも。
五十人目は、平穏を欲した。
彼のことを忘れようとした。
五十一人目は、夢と思い込んだ。
悪夢と現実を混ぜないために必死だった。
五十二人目は、動物と過ごしていた。
彼によって毛皮にされるとも知らないまま。
五十三人目は、山の奥地で育った。
巫女として、守り人の彼と共に過ごした。
五十四人目は、鎖で繋がれていた。
栄養が足らずに、静かに眠りについた。
五十五人目と五十六人目は、彼に懇願した。
もう関わらないでくれと、ほっといてくれと泣き喚いた。
五十七人目は、引き篭もった。
幼馴染の彼が、唯一の世界との繋がりだった。
五十八人目は、自分を哀れんだ。
哀れで可哀想な自分に酔っていた。
五十九人目は、仕事に生きた。
それ以外の楽しみを見つけられなかった。
六十人目は、彼を皮肉った。
執着する彼を嘲笑い、無駄だと謗った。
六十一人目は、本に囲まれて過ごした。
静かで平穏な生活は薄氷の上を歩いているようだった。
六十二人目は、貧民街にいた。
毎日喧嘩や盗みをしていた。
六十三人目は、自殺した。
彼の目の前で、喉を掻き切った。
六十四人目は、自らを傷めつけた。
そうすることで生きていることを確かめた。
六十五人目は、髪を切らなかった。
アイデンティティが欲しかった。
六十六人目は、白い建物にいた。
四角い窓の景色だけが彼女を慰めた。
六十七人目は、心が壊れた。
六十六人の死の記憶に、耐え切れなかった。
六十八人目から七十一人目は、心が壊れたままだった。
彼はずっと寄り添っていた。
七十二人目は、心が成長しなかった。
無邪気な幼子として、生涯を過ごした。
七十三人目は、そっけなくした。
彼が気になっているのに、自分自身からも気持ちを隠した。
七十四人目は、わけがわからなかった。
唐突なサヨナラは、現実味がまったくなかった。
七十五人目と七十六人目は、訝しんだ。
罠かと思って警戒し続けた。
七十七人目は、現れないことに確信を持った。
驚きと、安堵と、ちょっとだけの心配。
七十八人目と七十九人目は、喜んだ。
もうこれで私は自由なのだと。
八十人目は、笑えなくなってきた。
時々胸が締め付けられた。
八十一人目は、不安になった。
なぜか、どうしようもなく不安だった。
八十二人目は、不安が大きくなった。
最初に感じた不安とは、また別の大きな不安感。
八十三人目は、強がった。
いなくても平気なんだと言い張った。
八十四人目は、自分の心に気づいた。
呆然として、どうしたらいいかわからなかった。
八十五人目は、自分の心に戸惑った。
自分も、おかしくなったのではないかと恐怖した。
八十六人目は、涙した。
会いたくて会いたくて、でも、今さらな気がして。
八十七人目は、探し始めた。
追いかける苦しさを味わいながら。
八十八人目から九十六人目は、探し続けた。
何度も何度も挫けそうになったけど、今までの記憶がそれを許さない。
九十七人目と九十八人目は、彼を見つけた。
けれども、すぐに見失った。
九十九人目は、見つけて触れようとした時に、衝撃。
最後に見えたのは、後悔に塗れた顔の彼。
百人目の彼女は。
彼女は、