【番外】流れ事務員・宝条美咲と製菓会社の陰謀の日
バレンタインデー。
それは全てのオフィスワーカー女子の敵。
やれ、部署の人間関係の円滑化だの、男性社員の心の癒しなどと言われ、なけなしの所得から意味の無い嗜好品への出費を強いられる日。
そんな日に生を受けた私もまた、何故か本来であれば「もらう側」でいられるはずの日に「あげる側」にならざるを得ない。納得がいかないわ。
どうも皆様、御機嫌よう。宝条美咲、本日とうとう25歳になってしまいました。某国民的アニメのヒロインの女性の年齢をとうとう追い越してしまって軽く絶望しているところだけど、これ、毎年なんらかの作品で怒る現象よね。
ところで、誕生日なのに何故あげる側もとい搾取される側にならなければいけないのか全く持って意味不明だから、私は学生時代からこの日は一切菓子の類を他人に上げないことにしているのだけど。先ほど一部の男性社員から非難がましい目で見られたのが理解できないわ。
そもそも、正社員のいっぱしの男が、安月給どころか時給で細々と食いつないでいる貧困女子から、これ以上何を搾取したいのよ。巫山戯るのも大概にしなさいよ。チョコなんかねだっていないで、仕事を部下に回しなさいよ。
大体、皆さんバレンタインデーに何故チョコレートを配るだなんてことになっているのかしら。宗教行事であるこの日に目を付けた菓子会社の陰謀が最も有力だけれど、そもそもこの日は男性が女性に愛を込めたプレゼントを贈る日だったと記憶しているのだけれど……何がどう歪むと「女子がチョコレートを配る日」なんかになってしまうって言うの? おまけにチョコをもらえるだけでもありがたいと思えと言うのに、やれ「甘いものは苦手」だの「高級ブランドのもの」がどうのだの「手作りってただ溶かして固めただけだろ」だの……文句が多すぎるのよ。
まぁ、結局のところ、菓子会社が一番悪いわよね。何が「義理チョコ」よ。その辺の駄菓子屋の5円チョコでも貪ってなさいよってハナシだわ。
そして一番カワイソウなのは、こんな日に生れ落ちてしまった憐れな女子。男はイイのよ別に。問題は、何故生誕を祝われ、祝賀と共に贈り物をされる権利があるはずの日に、「義理チョコ」だの「友チョコ」だのってたかられなければならないのか、よ。そんなのだたの「義務チョコ」じゃないの。心のこもっていない菓子をもらって何が嬉しいのかしら。え、男の矜持? 知らないわよそんなもん。
そういえば、よく二次元の恋愛モノでは、この時期にやたらと「バレンタインネタ」の物語が紡がれるわね。創作にしても法律グレーゾーンギリギリセウトってカンジのアレにしても、この時期はやたらと目にするネタだわ。
甘く儚い夢物語としてその日を利用するのは大いに結構なのだけれど、それにしてもオチというか、全体的なストーリーが単純にパターン化されていると言うのは否めないわよね。なんていうか、ハッピーエンドばかりなのよ。私の趣味には合わないわね。……もっとも、ヒトの趣味はそれぞれだから、別にハッピーエンド至上主義のヒトも大いに結構なのだけれど。
大体のパターンとしては、片思い系ならチョコをきっかけにハッピーエンド、両想い系ならチョコを巡ってあれやこれやでハッピーエンド、ってのが王道かしら? この日にバッドエンドモノってほとんど見ないわ……。他にもハーレムやらべーこんれたすやらいろいろあるけれど、だいたいはこのパターンで説明が付くと思うわ。
何だかんだ言って、ハッピーエンド万々歳の日なのよね、バレンタインデーって。
ところで、私は誰かのハッピーエンドは他の誰かの犠牲が無ければ成り立たないと思っているのだけれど。
だって、全てが上手くいくだけの物語なんて面白くもなんともないじゃない?世の中には何ものにも犠牲がつきものなのよね。例えば、バレンタインデーに無意味に搾取される女子たちのチョコレートの様に。
さて、何の話しをしようとしていたんだったかしら。あぁ、そうだわ、なぜバレンタインがチョコレートをたかる日になったのか、だったかしら? え、違う?
……そうだったわね。
確か、何故私は誕生日なのにチョコをたかられなければならないのか、だったわね。
あら、まだ話は終わっていなくてよ? どこに行くのかしら? ちょっと、そこのアナタ!?