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前編

連載にするのも微妙な分量なのですが、1回では文字数制限に引っかかりそうなので連載にしました。タイトルの通り、小説ではなく戯曲です。

【 登場人物 】

ルドルフ …… 代々サンタクロースの橇を引くトナカイ。この物語での設定はメスだが、演じる際には男優を起用のこと。


サンタ …… 当代のサンタクロース。先代が早死にしたため異例の若さでサンタクロースとなったが、相棒のルドルフには 「 サンタ 」 としか呼ばれない。


・・・・・・★・・・・・・


クリスマス・イヴの夜、吹雪。風と雪の吹きつけが激しすぎて、さっきから何か叫んでいるらしきその生物の姿は不明瞭(舞台上では暗転のまま叫んでいる、もしくはミラーボールが使える会場ならばそれだけ光らせて回し吹雪を演出)。


ルドルフ : 次。アフガニスタンB地区。

サンタ  : ……。

ルドルフ : アフガニスタンB地区!着陸体勢用意!!


ルドルフが呼びかけるも、応答なし。


ルドルフ :(舌打ち)いい加減腹くくれ!降りるぞ!5,4,3,2、・・・


突然サーチライトがバツッ、とついて二人が照らし出される(サンタの方はこの時点ではルドルフにほとんど隠されていて衣装の一部とかしか見えない)。一人は立派な角を生やしたトナカイ。名はルドルフ。代々サンタクロースのそりを牽き続ける由緒正しき赤鼻のトナカイだ。もう一人は、ルドルフにより「サンタ」としか呼ばれないがサンタクロース。世界各地にプレゼントを配る、聖夜。


ルドルフ :  やべっ …… (あまりの眩しさに顔を庇いかけるが踏みとどまる、小声で)大丈夫だこんな上空でこんな格好してんだ幻覚だと思われるに決まってる。ハイここで必殺!「より確実に幻覚だと思わせる胡散臭いスマーイル」!


ルドルフ、精一杯の笑顔。


ルドルフ : め、メリークリスマース …… ♪


一瞬の間の後、タタタタタ、と機銃掃射らしき音。そしてまた一瞬の間の後に二人の左後方から軽めのボン、という爆発音。ルドルフ、笑顔固めたまま後ろ振り返る。


ルドルフ : あ、ちょ、マジか。


二人、落下。


ルドルフ : うわあぁぁぁぁ――――――――-――――!!


撃墜される。暗転。


・・・・・・★・・・・・・


まずは仰向けに倒れているルドルフ、意識を取り戻しがば、と起きる。


ルドルフ : さっむ!どこココ、山?サンタ、サンタしっかりしろ!


ルドルフの後ろに隠れるようにうつ伏せに倒れていたサンタ、ここで初めてのお目見え。


サンタ  : うるせーなぁ …… 今せっかくおふくろが花畑の向こうから手を差し招いて ……

ルドルフ : いきなり死にかけるな展開早いよ …… ていうか細っ!サンタ細っ!サンタクロースなのに幸薄そう!小枝チョコかおまえは! …… あー、どっか打ったりしてない?怪我は?

サンタ  : 雪一杯積もってたから怪我はへーき。けど ……

ルドルフ : 何だよ。

サンタ  : 今日のための準備が忙し過ぎて昨日の朝からウィダーインゼリー一個しか食ってない。

ルドルフ : あー、その状況で撃墜されたら見えるねお花畑。

サンタ  : だろ?だからもー寝かせてくれ。


サンタ、もう一度寝る。ルドルフがそれをひょいと抱えて起こす。


ルドルフ : 待て待て待て死ぬから寝たら。そーだ、一つ、目の覚める話をしてやろう。

サンタ  : 何。

ルドルフ : 実は私メスでしたー。

サンタ  : …… ええええええ!?えええええ!?

ルドルフ : この角も、飾り。ホラ。 メスはこんな立派な角生えないし。


そう言うと、頭からあっさり角を外して放ってしまう。サンタはそれを見てガックリうなだれる。。


ルドルフ : …… 何だよ。がっくりする所かここ?


サンタ、懐から巻いた紙を取り出し、客には見えないようちょっと広げてため息。


サンタ   : クリスマス、トナカイ …… メス。夢が音を立てて崩れていく ……

ルドルフ : 何だよその紙は。(しまおうとしたところを取り上げて広げる。客にも見えるよう自分と並べる感じで)


広げるとポスターサイズのその紙には、萌え絵でルドルフと全く同じトナカイのコスプレをして、目を潤ませてこっちを見上げる少女。ルドルフどんびき。


ルドルフ : うわっ ……

サンタ : メスのトナカイ …… 聖なる夜の夢が ……

ルドルフ : 聖なるの「セイ」が違うセイかもよー!?ってか?馬鹿かおまえサンタクロースなのに。夢見る内容最悪だな。

サンタ   : はぁ ……。

ルドルフ : ていうか落ち込みすぎだよ!クリスマスに意外中の意外な身近な所にこんな水も滴るようないいオンナがいるんだからさあ、もっとこうすべき反応があるんじゃないの!?

サンタ   : おまえから滴ってるのは水じゃなくて脂だろ。

ルドルフ : お、うまいこと言う。いやいやたしかに大量に汗かいてるけれども!ひどいよそれ!ちきしょー暑いんだよこの体にこの衣装!! ……ったく、落ち込んでる割に鋭いじゃんか。眠気覚めただろちょっとは。

サンタ  : 眠気も夢もすっ飛んだよ。

ルドルフ : …… 微妙に腹立つが、うん。まあいいや。

サンタ  : ていうかおまえメスなのによく、サンタクロース御用達トナカイ「ルドルフ」の名前、襲名できたな。

ルドルフ : あー、仕方ないんじゃん?子供あたししか生まれなかったし。昔はオスじゃないとだめだったみたいだけど、ウーマンリブってやつ?

サンタ   : はー。ウーマンリブよりも今はスペアリブがほしいよ。

ルドルフ : ……(変な顔)

サンタ   : 何だよ。

ルドルフ : ウーマンリブ。スペアリブ。・・・たはっ、びみょー(サンタを指差す)。

サンタ  : おーう任せろ。無意識に言ったことは案外うまくて満を持して言ったことは大抵すべるんだ俺は。

ルドルフ・サンタ : ははははは。ははははは。はははは。(乾いたシュールな笑い)。

サンタ  : バカ(ルドルフをひっぱたく)

ルドルフ : なんだよー。まーさ、スペアリブはないけどこの中に何か食べ物あるかも。探してみよーぜー♪

サンタ  : プレゼントに手付けるのか?(と言いつつも自分も動く)

ルドルフ : 非常事態なんだから文句は言われないだろーよ。つーか話は戻るけどな、ウィダーインゼリー一個って何その夢のない食生活。

サンタ  : この時期のサンタなんてみんなそんなもんだよ。準備から配達まで、忙しくてメシ食う暇なんかねえの。一説じゃサンタがことごとくメタボなのはこの時期のために蓄えてるかららしいぜ?

ルドルフ : でもおまえひょろひょろじゃん。…… 小枝チョコじゃん!(イキイキしてる。小枝チョコネタが個人的に好きらしい)

サンタ   : あー小枝チョコネタ自分で気に入ってるのはわかったから。俺はお袋似なんだろたぶん。 蓄えようと思って食ってみてもさあ、太らないんだよね。

ルドルフ : ハイハイうらやましーことで。 ま、おまえはまだ若いからな。

サンタ  : つーかおまえはなんで …… なんで、そんなに ……

ルドルフ : デブって言っていいからもう!私はトナカイだからさぁ、食ってんのよサンタが子供達の家に入ったりしてる最中にその辺の木の皮とか …… 鉢植えとか?

サンタ  : あぁ!?だからかよ去年セコム作動しちゃったの!おかしいと思ったんだよ俺だけだったら反応しないはずなのに!てめ、このやろー ……

ルドルフ : 悪かったって。腹減るんだよ。あーしかし期待はしてなかったけどホントないな食べ物とか。お、WiiUじゃん。こっちはPSVita。やっと入手かぁ、遠かったなー。あん?高そうなコートだなおいナマイキに。あとコレ、モリ。…… モリ?なんでクリスマスにモリ?

サンタ  : あーそれ。確かトンガのチャックウィルソン・ガルボンダヌフ君のリクエスト。

ルドルフ : ううーん、強そうな名前。モリとかなくても素手でクマいけそうなんだけど。なんでモリ?

サンタ  : なんでも父親のような立派な漁師になりたいんだとさ。

ルドルフ : えー話やー。

サンタ  : なぁ。近年珍しいいい子だわ …… は。またなんかクラクラしてきた ……(ソリに手をつく)あーちくしょ。寒い ……

ルドルフ : 大丈夫か?しっかりしろって。

サンタ  : しっかりしたところでどーすんだよこの状況 ……

ルドルフ : 今頃、派遣会社でも仕事終わりのコールがないから異変に気づいてるって。

サンタ  : 派遣社員だったの俺ら!?うわー、お前がメスだった以上に驚きだぁ。

ルドルフ : もー ……しょーがねーなー、だったら私をスペアリブにするか?

サンタ  : は?

ルドルフ : ま、遠慮なく食えよ。

サンタ  : 気軽だぁ。食えるかバカ。

ルドルフ : なんで?私しゃべってるけどトナカイだよ?牛とかに近い偶蹄目よ?ほら。


ルドルフ、中指と人差し指と親指、薬指と小指をくっつけて手を開く。


サンタ  : 今更手を牛っぽくしても遅いよ!ていうかよくできるなそれ。…… おまえみたいにぺらぺら喋る人間くさいトナカイ食えねーよ。

ルドルフ : ……そんなもんかねぇ。あ、じゃあソリ調べようソリ、直せたら飛べるかも。


ルドルフ、ソリを調べる。


ルドルフ : あー …… やっぱり取れちゃってるわ。

サンタ  : 何が。

ルドルフ : ソラトベール。

サンタ  : …… 何??

ルドルフ : ソラトベールだよ。

サンタ  : 何だそれ・・・。

ルドルフ : このソリが空を飛べるようにしてる不思議な不思議~~~な石。

サンタ  : 安易な名前だなー。

ルドルフ : 名前はアレだけどすごいんだぞ。水素爆弾の一万倍のエネルギー持ってんだから。

サンタ  : 何その無駄なハイパワー!?

ルドルフ : そうなんだよ、だからさっき撃墜されたときも弾の当たり所悪かったらふっとんでたね、地球。

サンタ  : サンタクロースってみんなそんなもんつけて世界各国飛び回ってんの?とんだ危険人物じゃねーか。

ルドルフ : そ、一歩間違えたらクリスマスプレゼントはあの世行きチケット!

サンタ  : 笑えねーよ(ぺち、とルドルフに突っ込む)

ルドルフ : つうか知らなかったの、ソラトベールのこと。

サンタ  : 仕方ねーだろ親父が早死にしたんだから。そのせいで俺20代でサンタよ?

ルドルフ : …… ごめん。

サンタ  : いーよ、気にすんな …… 俺こそ悪かったな、親父から何も教わらないうちに、サンタクロースにならざるをえなかったからさ …… 苦労、かけちゃっただろオマエにも …… すまんな ……

ルドルフ : …… そんなこと ……

サンタ  : ……

ルドルフ : ……

サンタ  : ……

ルドルフ : サンタ?


サンタ、返事をせずぐったりしている。


≪ 後編に続く ≫

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