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永遠に、尽きることなく

作者: 八田理

小説現代2014年9月号のショートショートコンテストで、「地獄鍋」が掲載されました。2005年6月号での「進化したケータイ」(文庫本のショートショートの広場20に掲載されています)以来、実に9年ぶりです。これからも頑張ります。

「これで人類は救われる!」

 念願の宇宙船が完成し、全太陽系で歓声が沸いた。その声のほとんどが女性だった。五百年ほど前から男性の出生数が急激に減り始め、今や男は二割にも満たなかった。人類は滅亡の危機に直面していた。

 原因は、Y染色体が持つ遺伝子数のコピーエラーによる激減だった。女性は二つのX染色体で構成されるため、一方の遺伝子数が減っていても、もう一方が正常なら修復できる。だが男性はXYのために修復できず、遺伝子の数は減る一方なのだ。人工精子で生まれた子供の免疫力は通常より低いままで、実験段階にとどまっていた。

 となると、残された手段は宇宙へ飛び出し、野生のホモサピエンスの探索である。人の歴史で言えば現生人類の祖先であるクロマニョン人以降の、新鮮なY染色体を入手するのだ。同時に知的生命体との接触も期待された。解決できる知恵をもらえるかも知れないからだ。しかし宇宙は余りにも広大である。空間のトンネルを抜けるワープ航行が必要であり、それが可能な宇宙船がようやく完成したのだった。


「もはや、これまでか……」

 宇宙船の隊員全員が肩を落とし、最後の有力候補だった水の惑星を後にした。宇宙船が完成して約百年。もはや軽く銀河系を飛び越え、ほとんどすべての星雲を探査し終えていた。知的生命体との接触はなかったが、有力な種族を幾つも発見した。いずれも遺伝子構造が人類とは微妙に違うため、組み替え作業が進められた。が、生まれた子供は人類そのものにはならなかった。毒性のある体液を発したり、鉄分を受け付けないなど、何かしらの問題を抱えてしまうのである。とうとう男性は一割未満となり、百年後の消滅が確実になっていた。


「あれは、人工物じゃないですか?」

 隊員の一人が小さなピラミッドを指さした。宇宙の最果てにある星雲の、更に最果てにある惑星である。ピラミッドの中に入ると、ホログラフが浮かび上がった。地球人と全く同じ姿の者が、地球の言葉で隊員に語り始めた。

「ようこそ最果ての地へ。我々は君たちから神と呼ばれている存在だ。君たちの目的は分かっている。残念ながら君たちと一番合致するY染色体は、今やこの宇宙には存在しない。我々が入手したからだ」

 衝撃的な内容だった。『神』もまた自分たちの宇宙でY染色体の消滅に悩んでいた。宇宙中を探したが発見できず、ブラックホールを抜けられる宇宙船でこの宇宙に到来し、理想的なY染色体を持つ野生のホモサピエンスを見つけ出した。その場所こそ、五万年前の太陽系第三惑星だったのだ。


「もっと早く教えてくれたら良かったのに」

「甘やかすのは良くないと考えたんだろう。『神』と我々との関係は、言ってみれば親子みたいなものだからな」

「しかし、まさかこれがブラックホールを抜ける宇宙船とはなあ」

「確か、『神』もまた、彼らの神からホログラフで教えられ、この宇宙船に乗ったんだろ。こうして今の我々と同じような会話をしていたかもな」

「そして同じように我々もまた別宇宙へ行き、『神』と同じように、理想的な野生のホモサピエンスに対し神として君臨する……」

「その野生人も進化し、やがてY染色体を求めて宇宙を巡り、最果てで我々が設置したホログラフと遭遇する……」

「逆に言えば、『神』にこの宇宙船を教えた者たちもまた、同じような形で別の『神』から教えられたかも知れない」

「延々とそれが繰り返されるわけか……。もしかすると我々の『神』は、我々の先祖であると同時に子孫、だったりして」

「つまり、時間と空間は永遠に循環しているということ?」

「それじゃあ一体、この宇宙船を作ったのは、誰なんだ?」

 しばらく沈黙が続き、一人がぽつりと言った。

「きっと、この宇宙船は、大宇宙の子宮なんだよ」

 かつては月と呼ばれ、選ばれし乗員乗客八百万人を内部で抱えた宇宙船が、別宇宙へと通ずるブラックホールに迫りつつあった。

















































































































 





























































 

 

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