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決闘



オレ、神代香美かみしろかみはこのだだっ広い修練場の真ん中で目の前にいる、いけ好かない外国人お嬢様風の女と対峙している。実際、この女はハーフで家は金持ちなので外国人お嬢様というのは間違ってはいない。


オレの手には先ほどまで訓練で使っていた木刀。それに対して相手は丸腰である。


一見するとこちらが有利と思われるが、これは能力者同士の戦いだ。手にする武器だけで優劣は決まらない。

それにこの金髪縦ロールはこう見えてもBランクの風使いの能力者、オレはCランク『未来予知』の能力者である。



しかし、オレの能力『未来予知』はかなり名前負けしており、実際には思い通りに発動することができないので当てにならない。

ゆえに能力自体のランクはDランクと弱いのだ。


先ほどCランクといったのはオレには剣があるからだ。

そう、オレは剣の腕でさすがにBランクの壁は越えられなかったがCランクまで登り詰めたのだ。


自分で言うのもなんだが能力無しなら大抵の者には勝てる自信がある。

もちろん今の能力者同士の戦いには何の意味もなさないが。



BランクとCランク、これがここ《アースガルド》でいうエリートと落ちこぼれを隔てる大きな壁であり、これを越えるにはそれ相応の能力者としての才能、つまり能力自体の強さが関係してくるというのが一般的だ。



いや今はそんなことはどうでもいい。

まずは目の前に立ついけ好かない女を倒すことだけを考える。



(相手はああ見えてもBランク、認めたくはないが実力は本物。それに加えて能力自体の差も圧倒的にあちらに軍配が上がる…)



まるで勝ち目が無いように思われるが負けるわけにはいかない。



(だがあの女はオレを格下と見て油断しているし、なにより接近戦では負けるとは思わない。なら勝機はそこにある!!)



圧倒的に不利な状況でオレはゆっくりと息を吐き心を落ち着かせ、視界の中心に相手を捉えて木刀を正眼に構える。


相手もこちらの動きに警戒しているためか動きはない。


沈黙の時間が流れる。




――それから幾らかの時が過ぎた。



先に動いたのはオレだ。


自分が出せる最大のスピードで相手との距離を詰めて横に一閃。

しかし手応えを感じられなかった。どうやら風でも使って後ろに下がり避けたようだ。



「貴女、思ったよりも腕が立つのですわね。正直、驚きましたわ」


「そうか…よッ!!―――」



オレは再び距離を詰めて木刀を縦に降り下ろす。が今度も避けられた。



「ええ、でも私には届きませんわ!!」


相手は掌を前に突き出しオレに向ける。

無風状態のはずの室内に風ができ、その手に集まっていくのが感覚的にわかる。


「くらいなさい!!――」



ゴオッ!!――


という音と共に見えない攻撃によってオレは吹き飛ばされる。そしてオレは勢いよく修練場の壁に叩き付けられる。



「カハッ!!―――」


肺の中にあった空気が外へ押し出される。壁から落ちその場でうずくまる。


(ダメだ…呼吸が、上手くできない――)



「あら、少し強すぎかしら……これではいたぶることなく勝敗がついてしまいますわ」


ため息と一緒に敵の女の声が聞こえる。



(嘗めやがって!!こんな程度でやられてたまるかよ!!)


呼吸が整い始めたので痛む身体に鞭を打ち無理やり立ち上がり、そばに落とした木刀を拾い上げ再度相手を見据える。



「見た目よりタフですわね、貴女。てっきり一撃で沈んでしまったかと思いましたわ」


「オレはあんな程度でやられるほど柔な鍛え方してねぇからな!!」



声を出し自分を鼓舞してもう一度距離を詰めるために動く。

だがさっきまでと異なるのは相手は避ける様子を見せず、こちらを迎え撃つつもりのようだ。

掌に空気が集まっていき、その手をオレに向ける。


(二度もくらうかよ!!)



空気が放たれるタイミングを見計らい右横に身体ひとつ分動く。そしてオレの左横を空気の塊が通りすぎる。どうやら風は手の動きに連動するらしい。



(止まったら捉えられ確実に攻撃が当てられる。なら動き続けるのが今一番有効か……)


相手の手に注意しながら修練場という大きなフィールドを走り、避けていくが一向に相手との距離が縮まらない。



「あらあら、尻尾巻いて逃げ回ることしかできないんですの?これでも手加減してあげてますのよ」


「はんっ、そんな余裕ぶっこいていたら足元がすくわれるぞ」


「かもしれません。ですが貴女に足元をすくわれる気はしませんわよ」


「ちっ!!――」


思わず舌打ちしたがオレが避け続けている状況は変わることはない。


(くそッ!!このままじゃジリ貧でこちらのスタミナが尽きて負ける。どうする……まず状況把握か?)



状況把握が大事だと考えたオレはこれまでで相手の分かったことを整理していく。



掌に空気を集め放たれる攻撃が一番の脅威だ。

だがこの攻撃は連続では放てず、両手を使ったとしても一秒くらいのインターバルがある。

これ以外の攻撃については態勢を崩されるもののそこまで威力があるわけではない。

しかしそれでも態勢を崩される、というのはある意味では危険かもしれない。

信じたくないが、これでも相手は手加減しているというのだ。



(やっぱりBランクの壁は大きいな……でも勝てるとしたら今、あの女が油断している時しかない!!それに気持ちで負けていたら勝てるものも勝てなくなるしな!!)



オレはこの勝負に勝つために戦略を考える。一瞬辺りを見渡す刃引きされた小さめの剣、所謂ダガーが落ちていた。

おそらくこの戦闘で散乱したのだろう。



そのダガーを左手に取り、相手が放った空気を避けると同時に投げる。刃引きはされているが、もちろん当たったら痛い。



飛んでくるダガーを防ぐにはその場から動くか能力を使って防ぐかの二択だ。



だかオレは知っている。


こういう時、こういう状況でこの女のような性格なら、能力に頼った戦いをする者がとる行動は決まって同じなのだ。


よって次のステップに進むためのオレの足取りに一寸の迷いはない。




相手は当然のごとく能力でダガーを吹き飛ばす。

そしてその一秒にも満たない、僅かな時間でオレは相手に肉薄する。



「この勝負、もらった!!」



オレは勝利を確信し、手に持つ木刀を降り下ろす。



だがその木刀は相手には届かなかった。


「良いところ悪いが、一旦ストップだ」


そんな言葉と共にオレたち二人の間に青年は現れ、木刀を止めた。








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