アースガルド
「まだ私に聞きたいことはあるか?」
香月さんは真剣な顔つきで尋ねてくる。
「能力者かどうかはどうやって分かるんだ?」
「ああ、それは機械で分かるぞ。あとだいたいの能力の強さも分かる」
「じゃあなんでランク分け試験を実施するんだ?」
「良く考えてみてくれ、能力だけに頼った戦い方をするとどうなる?能力だけが強くてもそれを上手く扱えなかったら意味ないだろ?」
「なるほど。つまり、能力がAランク並みでもBランクの能力者が少なからずいるんですか」
「うむ。逆の場合も有るがな」
確かに使えなかったら意味ないよな、と納得して俺は次の質問に移る。
「あと、俺は能力者ではないよな?」
「能力者ではないよ」
「ということは、俺の誤解は解けました?」
「それについては問題ない」
どうやら誤解は簡単に解けたらしい。誤解が解けたならもう帰っても良いはずだ。
「じゃあもう俺、帰りますね」
そう言ってベッドから出て立ち上がり帰宅の準備をする。まあ、荷物らしい荷物はないんだけど……
あ、買ったもの全部公園に置いてきた。
「卵とコンビニ弁当ならこちらが回収しておいたぞ」
「お、ありがとうございます」
さらっと心を読まれたことに驚きだけど、感謝の言葉は忘れない。
「俺の卵とかはどこにあります?」
明日バイトなので早く家に帰りのんびりしたいので、素早く準備を整えた。
「まあ待ちたまえ、天川くん。急がば回れ、という言葉があるだろう?」
そして香月さんは俺の返事を待たずに言葉を続ける。
「君は私達が何者かや、ここはどこであるとか知りたくないかね?卵もこちらに有るのだぞ?」
「なん…だと」
香月さんはいたずらな笑みを浮かべ俺を脅し?てくる。
この人、超楽しそうだな。目の奥が輝いて見える。
俺としてもせっかく買った卵と弁当を見捨てる訳にはいかない。それに香月さんは何だかんだ言って俺を帰す気はないだろう。
なのでもう少し詳しく聞くことにする。別に俺は聞きそびれてたって訳ではないぞ。
「さて、どこから話そうかな?」
香月さんは少し頭を傾げること数秒、ある程度話がまとまったのか口を開いた。
「まずはここがどういう組織なのかを話そう」
俺はベッドに腰掛け、話に集中する。
「ここは魔物の討伐、及び能力者の管理、能力犯罪者を取り締まる世界組織、《アースガルド》の日本支部、《アースガルド極東第三支部》 だ。日本には第六支部まで存在し、その中では第一支部には負けるがかなり大規模な拠点だ」
どうやら《エターナルワルド》にあるギルドみたいなもの、と解釈する。
「そして、私がここの支部長だ!!」
「…」
「お、驚きで声も出ないか。そうかそうか」
俺が無言なのを肯定と捉えたのか、酔っぱらいのオッサンみたいに絡んでくる。正直なところ、少しウザい。
てかよく今まで潰れなかったなこの支部。
それはそうとここで一つの疑問が生じる。
それは何故支部長というと偉いさんが戦っていたのかだ。ともあれ聞いてみるのが一番早い。
「香月さん、支部長という人が直接戦いに行くのか?」
「それは私にも聞かせて欲しいですわ、支部長?」
突然、俺の質問の後にそんな声が聞こえた。
俺たちは声の方に視線を動かすと女性が立っていた。
「げっ、副長…」
香月さんは苦虫を噛んだような表情だ。普通は苦虫なんかは噛まないけど……
そして見るからに二人は明らか性格が真逆みたいだもんな。
俺は改めて副長と呼ばれた女性を観察する。
端正な顔に眼鏡をかけ、スーツを着ており、知的かつ美しい女性だ。そしてプロポーションも香月さんに負けず劣らずだ。
「初めまして、ですわね天川さん。私の名は柊玲奈と申します。以後お見知りおきを」
礼儀も正しいらしい。本当に二人は真逆の存在だな。
「さて支部長、いえ佳夜。理由を聞かせてくれますよね?あと…途中で放棄している書類も書いてもらいますからね?」
その言葉を残し、柊さんは支部長を連れてどこかに行ってしまった。
どうせ、理由は戦いたいとかだ、絶対。それに事務作業は嫌いそうだし、加えて戦闘狂っぽいもんなあの人。
今までよくやってこれたな、と思ったが恐らく、柊さんが支部長をしっかりサポートしているおかげで上手くやっているのだろう。
リーダーが人望、それを支える人が賢ければ大抵の集団は上手くいくというしな。