つまりイケメンは敵
俺が異世界から帰って来て一ヶ月くらい経ち、四月も終わりに近づいてきた。
就職に関してだが、まったく進展していない。まず書類で落ちる、そして運良く面接まで行ってもやっぱり落ちる。
就職、魔王より強し。という名言が俺の中で作られたくらいだ。
一応、今はバイトして貧乏だが安定した暮らしを手にすることができている。
この一ヶ月の間に俺の中で、かなり良い事が起こった。
そう、俺は今住んでいるアパートを2万円程度で借りることができたのだ。
少しボロいが実際に住んでみると、異世界で野宿とか普通だった俺にはちょうど良かった。
日が落ちて来てふと時計を見ると、もう時計の針が六時を指していた。
晩飯を食べるため、このアパートに引っ越して最初に買った冷蔵庫を開ける。
「なにもない……買い物行くか」
今日の晩飯は作るの面倒なのでコンビニ弁当に決定。とは言うものの冷蔵庫に食材がなかったら不便なのでコンビニに行くついでにスーパーに寄るとする。
確か卵が安かったっけ?などと考えながら出掛ける準備を着々と進め、家を出る。
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コンビニは帰りでいいかな、と考えて先にスーパーに向かう。
すると急に前方が騒がしくなった。
『誰かその男を捕まえてくれ!!』
コンビニの店員らしき人が叫んでおり、状況を察するにこちらに物凄い勢いで走ってくる男が強盗らしい。
男はマスクに黒っぽいパーカー、灰色のズボンという、いかにも犯人だろうなーと、一目見てわかる服装である。
来たら捕まえてやるかー、などと軽く考えながらもいつでも身体を動かせるようにして迎え討つ算段を立てる。
(やっぱりここは腕を固めて取り押さえるのがセオリーかな?)
俺と強盗までの距離は5m弱。
だが、強盗はこれ以上俺に近付くことはなかった。
それは俺の少し前方に金髪、蒼眼の超イケメンな男とそのハーレム要員であろう女の子3人(どの子も結構な美少女で、俺の観察眼では左から幼なじみ、ツンデレ、お嬢様系といったところ)がいるのだが、そのイケメン男が強盗の顔面にグーパンチを決めたからだ。
強盗はそんな攻撃が来ても避けられるはずもなく、顔面にクリーンヒットし、気を失った。
イケメン男は周りから歓声を浴びて、ドヤ顔。
てか通りすがりの人(強盗だけど)にいきなり殴りかかるのは余りにも酷すぎるだろ。それともそれがこのイケメンの挨拶なのか?なにそれ怖い。
俺が未だにドヤ顔のイケメンにいきなり殴りかかる挨拶を実践しようと計画を立てていると、先程まで気絶していた強盗が起き上がって近くにいた20歳くらいの大学生?と思われる女性を人質をとった。
「その人は関係ないだろ!離せ!」
それに気付いたイケメンが慌てた声を上げた。
いや、関係があるとかないとか今の強盗にはそれこそ関係ないだろ。と言いたいところだが今はやめておく。
しかし、強盗も強盗で人質をとった、ということはこれが最後の手段といったところだろう。
まあ、人質の女性からしたらたまったものではないが。
そしてこの状況を作った大半はイケメン君が強盗そっちのけでハーレムを作り、イチャイチャしていたからだろう。
さて、この互いを警戒し動けないような均衡状態を崩すにはどうすれば良いか?簡単だ。第三者の介入があれば極々簡単に崩れる。
そして野次馬していた俺も全く責任がないわけではない。まあ俺が動く理由はこれで十分か。理由がなくても動くときは動くけどな。
(それにしたって、警察は来ないのな……)
まあまだ人質をとって少ししか時間が経ってないので仕方ないかーと考え、強盗の背後に足音、気配を消して回り込む。
このような気配を断つ技術は俺が中学生時代、ぼっちだった頃に修得し、異世界でさらに磨きをかけたものだ。
だいたい、ぼっちには存在を薄くするなどお手のものである。
俺が背後に回り込むと同時にイケメン君も動き出す。俺は強盗に手刀で意識を完全に刈り取り、人質の女性をイケメンが受け止める。
おお、イケメン君、たまには良いことするじゃないか。少し見直したぞ。敵だと内心で思ってたことを謝ろう。
「もう助かったから、安心していいですよ」
超が付くほど爽やかな笑顔でイケメン君が女性にそう言うと、女性は顔を真っ赤にしながらも、お礼を言っている。
俺は手柄を全て持っていかれたことに気付いた。
だが周囲は既にイケメン君をこの事件を解決した立役者となっているので、本当の立役者は俺ですよーとは言えず諦めた。
人生、諦めることも大切なのだ。
それと先程見直したなどと血迷って口にしたが撤回する。やっぱりあいつは敵。
などと考えながらその場から立ち去り、スーパーに向かうため歩みを進める。
警察への事情説明は全部イケメンに任せる。もちろん他意はない。