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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

本当は陰湿な金太郎

作者: るりひめ

昔、相模国に長者の家があったが

度重なる不運が続き没落した。

この家の一人娘の八重桐を案じた親族は

彼女に幸せになってもらいたい思いから

縁談の計画を練っていた時だった。

たまたまひとりの武士が八重桐の屋敷の前を

通った。

武士の名は坂田蔵人さかたくらんどといった。

つぎはぎだらけの着物を着て

身のまわりの整理をしていた八重桐に

蔵人は何か気になるものがあり、

彼女に話しかけた。

八重桐は没落の憂き目にあうまでのことを

すべて蔵人に話した。

蔵人はそれならば私の屋敷で一緒に暮らさないかと話した。

八重桐は没落した家の子供が

武士の屋敷に住むことは出来ない、

身分が違うと丁重に断ったが

蔵人は身分も何も気にしないといって

彼女を強引に隣国の駿河国にある

蔵人の屋敷へと連れて行ってしまった。


こうして八重桐は坂田家の屋敷で生活することになったが

蔵人は彼女を夜の生活の相手として扱われ愛してくれなかった。

この蔵人は数多の女を屋敷に住まわせ

女を快楽の道具としか扱わず、

気に入らないことがあると女に暴力をふるい

奴隷扱いをし、屋敷に追い出す手におえない男だった。

八重桐もそんな女のひとりだった。

やがて歳月が経つにつれ蔵人は八重桐に対し

暴力を振るようになり、下女扱いをするようになった。

その蔵人は高貴な身分の女性を正式な妻として迎え

八重桐のことなど相手にしなくなった。

その頃、八重桐は蔵人の子供を身籠っていたが

蔵人は喜ぶはずもなく、どうしても子供を産みたいのなら

この屋敷から出ていけと言われてしまった。

八重桐は泣く泣く蔵人の屋敷を出て相模国に戻ったが、

かつて過ごした我が家も土地は他人の手に渡り

住む場所もなかった。

八重桐は相模国の山中・足柄のあばら家で

たったひとりで男の子を出産した。

だが八重桐は自分が産んだ男の子の父親が

坂田蔵人の血を引いていると思うだけで

不愉快になり我が子に対して愛情が沸かなかった。

八重桐は我が子に乳を与えながらも

着物は着せず素っ裸、乳飲み子を石臼に縛り付け

家から出さないようにし置き去りにし、

畑仕事に出かけた。

当然、乳飲み子である我が子は親を求め大泣きし

家の中で糞尿を漏らしてしまった。

八重桐は家に帰ってくれば、

「なんてことしてくれたんだ!

家の中をこんなに汚しやがって!」

八重桐は我が子を冷たい水が入った桶に放り投げたあと

湯が入った桶に放り込み、

暴力を振るう冷酷な母になった。

おかげで赤ん坊の身体は傷だらけになってしまい

弱ってしまった。

ある日のこと、八重桐は自分の母乳を

盥いっぱいに絞りだした。

そして泣き続ける子供を盥の中の母乳に放り投げ、

家の中に置き去りにして畑仕事へ出かけてしまったが

泣き声も体力も以前より弱々しくなっていた。

しばらくして、ひとりの美しい女性が

赤ん坊のいる家の中へ入っていった。

「かわいそうに、こんなひどい暴力を受けて・・

わたしがお前の母になろう・・。

あの八重桐を懲らしめねば・・」

その女性は赤ん坊に温かい着物を着せたあと、

女性は赤ん坊を抱いてどこかへ去ってしまった。

そのあと誰もいない家の中で奇怪なことが起きた。

台所にあった薪と藁が宙に浮き、

火がくすぶる囲炉裏の中へ落ち、勢いよく燃えはじめ

家はたちまち炎に包まれた。

八重桐が帰ってくると、家が炎に包まれているのを

見て大混乱した。

家の中には子供がいる、何とか助けねばと燃え盛る

家の中へ入ったが、

子供の泣き声も姿も見当たらない。

その時、目の前に閻魔大王が現れた。

「八重桐、お前は我が子を愛さず、

暴力をふるい、家に置き去りにしたから

わたしがこのような罰を下したのだ。

お前の子供はある夫婦に託し育てることにした。

お前はこの子の母親を務める資格はない!

山奥で動物となって暮らすが良い!」

八重桐は大猪に姿を変えられ、

人間たちに命を狙われながら、あちこち逃げ回り

木の実や魚を獲って生きていくしかなかった。


さて、あの美しい女性は子供と共に

遠江国へ行き、

立派な屋敷で女性と武士であるその夫が

両親の代わりになり子供は大切に育てられた。

子供は金太郎と名付けられ賢く心優しく逞しい男に成長した。

金太郎が十五歳の時のこと。

育ての父と共に狩りへ出かけた時だった。

大猪が畑を荒らし人に怪我を負わせたと

村人がふたりに助けを求めてきた。

ふたりは急ぎ大猪のいる畑へ向かうと

大猪が芋畑を荒らしていた。

金太郎は大きな岩を持ち上げ

猪に投げつけた。

大猪は怒り、金太郎に向かって突進した。

彼は鉞を手にし、育ての父が止めるのを

無視して大猪のほうへ向かった。

金太郎は力一杯に大猪の首元を鉞で激しく切りつけた。

大猪の首元から夥しい血が吹き出し

痛みでのた打ち回っているところを

金太郎は鉞で腹を切り裂き大猪は息絶えた。

「何て悪い猪なんだ、さぁこれを持って帰って

村人たちと食べよう」と言って金太郎は

大猪を担ぎ上げて人里へ戻った。

その夜、大猪の肉は金太郎たちの

胃袋へ消えてしまった。

実はこの大猪の正体が金太郎の実母

八重桐であることを彼は知らなかった。

大猪に姿を変えられた八重桐も

金太郎いう少年が実子であることを知らず

実子に命を奪われるという惨めな一生を送ることに

なろうとは。

無論、金太郎は自分の生い立ちも知らない。

もうひとつ金太郎の育ての両親の正体が

仁王と地蔵菩薩であることも知らない。

金太郎は坂田金時となって源頼光の家来となったのち

遠江の豪族として幸福に満ちた人生を送り、

五十五歳でこの世を去る時まで

自分の本当のことはひとつも知らずに

人生を送るのである。

                         



                             おわり




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